春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

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「シーオン殿下、えとね、先王の二番目の王子、えっと、今の王さまの弟。そのシーオンさまが、なんと! 黒髪黒目の非人を探しているんだって」

「えっ!」

 ドキっとして全身に鳥肌がたつ。

「はっはっんん。ひっひっひ、リーナもまさか自分だとビックリした? 私も最初そんなふうに聞いてドキッとしたわ。
 でもね、違ったの。
 黒髪黒目の非人の『ミイシャ』と言う名前の女性を探しているんだって!
 もう私と同じ名前で笑えるでしょ?」

 里奈はミイシャのように笑えなかった。

「シーオン殿下?」

「うんうん。兄弟殿下の中で一番綺麗なんだって。なんでもシーオン殿下のお母さまは踊り子だったのに、先王が彼女をすごく気に入って、攫うように自分の側室にしたんだって。

 一応、先王には伯爵出身の令嬢との間に息子がいたけれど。これは今の陛下のことね。
 でも、踊り子に夢中で他の女性を抱かなくなって大変だったらしいわ。それで、重役たちがレイーシャさまのお母さまのカルディア公爵令嬢を宛てがわせたの。
 
 もちろん先王は彼女に見向きもしなかったけれど、それがシーオンさまのお母さまが妊娠した時にカルディアの令嬢を抱くようになったらしいわ。
 噂によると、先王は踊り子と息子を守るために、カルディア公爵の令嬢を抱いたらしいの」

 ミイシャの噂話はリーナの耳には全然入って来なかった。

(レオンがシーオン殿下……まさか……だった、レオンと言う名前って言ったでしょ……)

 目の前にいないレオンに愚痴を言おうとするけれど、里奈も『ミイシャ』と言う偽名を使った。

(レオンは、レイーシャさまのお兄さん……)

「っ!! ……ぁぁ……はあ、はあ、はあぁぁぁぁ」

 きゅうに息ができなくなった。

「リーナ! どうしたの! リーナ! 誰か! 誰か来てーー」

 床に倒れた里奈を抱いて、ミイシャが大声で叫んでいる。ガヤガヤとドタドタと聞こえた人の足音が、里奈の周りで止まった。次々に「どうしたの?」と言葉をかけられるが、里奈は意識を保つのが精一杯で返事ができない。

「どうしたんだ!」

 いつも聞きなれた洗濯仲間の心配した声の中に、ずっと聞きたかった声が混じっていた。

「どけ!」

 クラクラ回る目を無理やり開けると、恋い焦がれていたコバルトブルーに心配を装った彼の瞳が目に入った。

「リーナーー。大丈夫か? 今すぐにタラードの元へ連れて行くからな!」

「レイーシャさま、私が彼女を連れて行きます」」

「邪魔だ、コーディー、どけ!」

 里奈の体はレイーシャさまの腕の中にいた。

「いぃ……」

 前は安心感があったのに、今はこの腕の中から早く出たかった。

「大丈夫か? リーナ、会いに来れなくてすまない。
 会いに来れなくて怒っているのか? いや、それは後でいい。今はタラードのところへ行くぞ」

「いぃ、もう大丈夫だから……ほっといて」

 声も出すのが鬱陶しかった。

「すまん、いろいろ立て込んでいて、リーナに会いに行こうとする度に用事ができたんだ。
 まるで誰かが私たちを会わせないようにしているかのようだった。
 なあ、コーディー。不思議だな」

 レイーシャさまが地響きをする声だったから、里奈はますます恐ろしくて身震いがした。

「リーナ、すぐにタラードのところへ行くからな。コーディー、それに他の者も付いて来るな! さっさと訓練に戻れ」

 揺れ動く体のせいで、里奈が必死に保っていた意識が落ちていった。



「彼女は妊娠している。まだ小さいが……レイーシャさまも集中なされたら魔力が見えるだろう」

「ま、まさか……!!」

「ほっほっほ。おめでとうございます。きちんと王家の魔力を持つ子どもですぞ」

 長い眠りから目がさめた時のように、すべての感覚が少しづつ体に蘇る。
 でも隣で会話をしている二人と、どんな顔をして会えばいいか分からずに目を閉じたままだった。

(妊娠……私が、にんしんしているの……?)

 まだ一週間しか経っていないじゃない。それに一回しかしていないじゃない。
 グルグルとできるはずがないと言う論理を考えても、どうしようもなかった。

「わ、私は非人だから、妊娠できない!」

 口の中がカラカラ乾いていたから、きちんと言葉が出てほっとする。
 誰を責めるわけでもないけれど、最初に出た言葉がこれだった。

「ほっほっほ。レイーシャさまの妃殿下のお目覚めだ」

 レイーシャさまの顔を見るのが怖かった。でもなにも言わないでいることもできずに、思い切って彼を見上げた。

「レイーシャ、さま……」

 彼がなにを考えているのか分からない顔をしている。怒りなのか悲しみなのか……ただ見ていて里奈の胸が潰されそうだった。

「殿下、レイーシャ殿下、驚いているのは分かるが、あなたは父親になるんだ。まだ実感が分からないのは無理じゃがなあ。
 でもなあ、あまり彼女を不安にさせるのはよくないぞ」

 タラードさまはニヤニヤ顔でレイーシャさまに言った。

「……リーナと二人だけで話がしたい」

「ほいほい。その前に、お腹の中の子どもはたしかに王族の魔力を持っている。彼女は非人で魔力ゼロだ。胎児が魔力をもらおうとしており、その影響で彼女は体調不慮だ。
 王族の魔力の補給はできないが、一応魔力補助の薬を飲んでからだ」

 胎児が魔力を欲しがっている? 異世界だった。地球の常識を覆す内容で、里奈は今後どうなるのか予期できずに不安になった。

「安心するがいい。レイーシャさまに定期的に魔力を補給してもらえばいい。ほっほっほっほ」

「じじー! リーナの前で変なことを言うな!」

 レイーシャさまが慌てて、タラードさまに責め寄った。

「ほっほっほ、初いカップルはからかいがいがあって楽しいのお。
 まだ胎児は小さいからどれくらいの魔力が必要か分からないが、多めに魔力補助の薬を多めに渡しとくとしyとうかのお。それでも彼女は非人で自分の力で魔力を作れない。
 だからリーナの面倒をよく見るのじゃぞ。そして定期的にここに連れてくるように」

 タラードさまの助手が魔力補助の薬を持ってきてくれた。青汁のようで、最初はイジメられているのではと疑った。
 でも薬を飲んでしばらく経たないうちに体の怠さが消えた。
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