春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

文字の大きさ
37 / 49

4ー5

しおりを挟む


 ハンナお母さんと別れてから、里奈はずっとふさぎこんでいた。コーディーさまもミイシャやハンナお母さんのことのことを知っているからなにも言わなかった。
 部屋に戻っていつものように椅子に座ってボーっと外を見ていた。その後もここに来てから変わらない夕食を一人で食べて、お風呂に一人で入ってベットの中に入って眠くなるまで窓から夜空を見上げた。

 里奈がベットに入るともう誰も部屋に入って来ない。廊下に立っている護衛兵もそろそろ交換の時間になる。里奈は月明かりを頼りに、クローゼットの奥に汚れ物のように丸まって置かれている下女の服を取り出した。

 侍女たちが取り上げられようとしたのを、必死に抵抗して守った服だった。
 
 ハンナお母さんによると夜の護衛兵が交代する時に迎えが来ると言っていた。本当は『とある方』と言う人のことを本当に信用できる人なのか分からない。

 でもどっちにしても里奈は、精神が狂いそうでもうこの部屋にいることができなかった。それよりももっと今度里奈が王族に囲われたら、洗濯場の非人たちがどんな暴力を受けるかと思うと怖かった。

 もし『とある人』が悪い人だったら、ハンナお母さんと逃げよう。
 里奈はハンナお母さんに春画を売ったお金の隠し場所を別れ際に教えた。この国では生きていけないけれど、他の国で暮らせばいい。
 ジョンリー陛下も他国は非人差別は、この国ほどないと言っていたし。

 廊下から護衛兵士たちが交換する会話が聞こえた。もちろん小声で話しているから、よく耳をすまさないと聞きにくい。

「リーナ殿、廊下に出て来てください」

 里奈の部屋のドアが少し開いて小声がした。

「はい」

 ハンナお母さんの言っていた通りに、護衛兵士の一人が『とあるお方』の手下だった。部屋から出て来た里奈を確認してから、護衛騎士は廊下をゆっくり歩いた。途中誰とも会わずに建物の外に出れた。

「ここからは他の者が案内する。あそこにいる男の人の後を付いて行ってください」

 里奈は急いで男の人のところへ近づいた。
 男の人はマントを着ていた。彼は「付いて来い」としか言葉を発しなかった。この世界の人はみんな背が高い。だから彼が若いのか年よりなのか、顔が見えないから分からなかった。
 そしてズンズンと暗闇の中は慣れた歩調で歩いて行く。里奈は小走りになりながら彼の後を付いて行った。

「リーナ」

 いつもつかう裏門の小門の前にハンナお母さんがいた。里奈を見つけると駆け寄って抱きしめてくれた。

「時間がない。行くぞ」

 ハンナお母さんと手を繋いでマントの男の人の後ろに続き、小門を潜った。

「乗れ」

 黒塗りの地味な馬車があった。中は乗り心地のよいベンチで、毛布と枕もあった。里奈なたちのために飲料水と果物も備え付けられていた。

 それを見て、里奈はやっとほっとした。こんな小さな心使いをしてくる人が悪い人じゃないと思えた。

 里奈とハンナお母さんは、お互いに手を握りながら無言だった。別に馬車の中だから声が漏れて危ないとかないけれど、ただお互いに寄り添っていた。



 ハンナお母さんの生まれた村は、王都から馬車で一日かかる場所にある。必要な休憩以外に馬車は止まることなくハンナお母さんの村に走った。

 ハンナお母さんの村に着くと、ハンナお母さんのお兄さん家族が村長の家にいた。マーシャさんが大げさにハンナお母さんに歓迎の言葉をかけている。

 里奈とハンナお母さんは森の近くの無人の家に住むことになった。村長とハンナお母さんのお兄さんが家に案内してくれた。
 小屋は部屋が二つあって、キッチンとダイニングルームがあった。そして水道もあった。

 村長によれば、昨日たくさんの職人が来て小屋を改造してくれたらしい。そして魔石もたくさん備え付けがあった。小屋の中には皿などの雑貨用品もあった。
 村長が後で必要な食料品を届けると言った。
 数日前に偉い人が来て、ハンナお母さんと里奈が村に戻ることを伝えてたくさんの資金を村長に預けたらしい。とある貴族との間に里奈が妊娠して、子どもを育てることができないから村で育て欲しいと説明したらしい。

 だからマーシャさまがあんなに大げさに歓迎したんだ。
 村長が帰った後に、ハンナお母さんがお兄さんを紹介してくれた。
「ハンナに可愛い娘ができて、よかった」

 と言って笑っていた。どうしてこんないい人の奥さんが、マーシャさんのような人なんだろう。お兄さんはハンナお母さんがこの村で戻って来てくれたことをすごく喜んでいた。そして、娘のマレーナに結婚の持参金を贈ってくれたことを感謝していた。

 本当はマーシャさんが無理やりハンナお母さんからぶん取ったお金だったのに。ハンナお母さんが「いいのよ」と言っていたから里奈もなにも言わなかった。

 お兄さんが出て行った後に、ハンナお母さんがハーブティーを入れてくれた。

 とりあえず田舎暮らしに慣れましょう、とハンナお母さんが笑いながら言った。ハンナお母さんの顔の痣は、『とあるお方』が派遣してくれた医者にヒールをかけてもらって綺麗になっていた。
 ハンナお母さんは非人だけど、魔力が少しあるからヒールが効く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...