自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

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お兄ちゃんのアドバイス

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ーへぇ……運命の相手、ねぇ。

ーお兄ちゃんはどう思う?

ーそう悩んでいる時点で、もう千鶴の気持ちは決まってそうな気もするけどね。

ーえっ、そんなことは……

ーふふっ。あるんだろう? まぁ、でも運命っていうのはあると思うよ。

ーお兄ちゃんはそんなのあまり信じない方だと思ったけど……

ーまぁな。でも、俺もその運命っていうやつに出会ったから信じないわけにはいかないんだよ。

ーえっ、それってもしかして……お兄ちゃんにも運命の相手が見つかったってこと?

ー今度千鶴がL.Aに来ることがあったら、話そうと思ってたんだけど……まぁ、そういうことかな。

ーお父さんには紹介しないの?

ーそれはまぁ、おいおい考えとくよ。それより今は千鶴のことだろう。今は気持ちも舞い上がってしまっているかもしれないけど一晩ゆっくり寝て、もう一度会いに行ったら、今の気持ちが本物かどうか自分でもわかるんじゃないか?

ーうん、そうかも……。ありがとう、お兄ちゃん。夜遅くにごめんね。

ーいいよ、こんな話ができるようになっただけで俺は嬉しいと思ってるから。時間は気にしないでいつでも連絡してくれ。待ってるから。

ーお兄ちゃん……ありがとう。

そう言って電話を切った。

お兄ちゃんに、運命の人との出会いが……。

多分、相手は男の人なんだろう。

お兄ちゃんはずっと隠していたけれど、お兄ちゃんが女の人よりも男の人が好きなんだろうということには気づいていた。
多分、おばあちゃんも。
でも、それをわざわざこちらから言うことでもないと思ったし、人を好きになるのに周りがとやかく言うことじゃないと思ったから何も言わなかった。

むしろ必死で隠そうとしているのを見ている方が辛かった。
家族なんだからなんでも話してくれていいんだよって言えたらお兄ちゃんももっと生きやすかったのかもしれない。

あっちで出会えたってことは、日本を離れてやっと自分を素直に曝け出すことができたってことなのかな……。

その上、紹介してくれようと思ってくれていたってことは、お兄ちゃんが本気だってことだろうし。
そこまで好きになれる人に出会えたことを私は妹として喜ぶところなんだろう。

小田切先生と北原さんもすごく幸せそうだったものね。
私があまり周りに目を向けていなかったから気づかなかったけれど、性別なんて関係なく愛し合っているカップルなんて多いのかも。

お兄ちゃんが幸せを手にしているのなら、私は心から賛成しよう。

もう少し気持ちが落ち着いて、自由に外に出られるようになったらお兄ちゃんと恋人さんに会いにL.Aに行ってみようかな。

一人はまだ怖いけど、長瀬さんが一緒なら行けるかも……。

って、どうして長瀬さん?

ここで長瀬さんが出てくるなんて……。

――もう千鶴の気持ちは決まってそうな気もするけどね。

お兄ちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。

やっぱり双子だな。
私のことを私以上にわかってくれている気がする。

私は覚悟を決めて、長瀬さんにメッセージを送ることにした。

<明日もコーヒーを飲みに伺いたいのですが、午後はお時間ありますか?>

いろいろと書こうとしては消して、結局こんなにも簡潔なメッセージになってしまったけれど、大事なことはメッセージより直接話すべきだもんね。

何度も読みかえして、ドキドキしながらメッセージを送信すると、

「わぁっ!」

すぐに既読がついたと思ったら、

<もちろんです。今日と同じ時間にお迎えにあがりますね。明日お会いできるのを楽しみにしています>

というメッセージと共に可愛いウサギがコーヒーを飲んでいるスタンプが送られてきて思わずクスリと笑ってしまった。

長瀬さん、こんな可愛いスタンプ使うんだ。
ふふっ、意外だな。

明日会えるのをもうすでに楽しみにしている自分がいる。
うん、やっぱりお兄ちゃんの言った通りだったな。


「今日も長瀬さんのお店に行ってくるね」

「ふふっ。よほど気に入ったのね。のんびり過ごしていらっしゃい」

「ありがとう」

「今日もお迎えに来てくださるの?」

「ああ、うん。そうみたい……」

「そう。それなら安心だわ」

「ねぇ、おばあちゃんは昨日の車がタクシーじゃないって気づいていた?」

もしかしたらおばあちゃんもタクシーだと思っていたかも……なんて期待したけど、

「ええ。そうね。でも小田切先生が紹介してくださったって千鶴が言っていたから安心はしてたわよ。千鶴を車に乗せる時も私に会釈してくださったし」

どうやら普通に気づいていたみたいだ。
それでも私には何も言わずに見送ってくれたんだな。

「心配じゃなかったんだ」

「ええ。千鶴を怖がらせないようにっていう気配りもすごく感じられたし、それに……」

「それに?」

「あの方が纏っている雰囲気が統さんによく似ているから、いい人なんだろうなと思ってたわ」

「ふふっ。おばあちゃん、惚気てる」

「ええ。おばあちゃんはいつだって、統さんを愛してるからね」

優しく微笑むおばあちゃんを見て純粋に羨ましいと思った。
五十年以上もずっとお互いに愛し合って、離れ離れになってもなおも愛してると言えるなんて……。

私もそんな関係になれるだろうか……。

そんなことを考えているうちに、長瀬さんがお迎えに来てくれる時間になっていた。
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