自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

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ドキドキが止まらない

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ピンポンと玄関チャイムが鳴り、急いで出てみると昨日のスーツ姿とは違う、カジュアルなジャケットを羽織った長瀬さんが目の前に現れた。

「あっ……あの、こんにちは」

「ふふっ。こんにちは、千鶴さん。少し早く着きすぎましたか?」

「あ、いえ。大丈夫です。もう準備は、できてます……」

「それならよかった」

優しい微笑みを浮かべる長瀬さんが格好良すぎて直視できない。
普段着なのに格好いいって、どういうこと?

「あの、私……おばあちゃんに声かけてきます」

ドキドキが止まらなくて、慌てて踵を返してリビングにいるおばあちゃんを呼びに行こうとすると、

「長瀬さん、お迎えありがとう」

とおばあちゃんの方からこちらにやってきてしまった。

「あなたが来てくださるから安心して千鶴を送り出せるわ」

「いえ、私が少しでも早く千鶴さんにお会いしたくてしていることですから」

「えっ……」

「まぁ、ふふっ。千鶴、よかったわね」

「――っ!」

なんだかもうすでにおばあちゃんには私の気持ちがバレてるような気がする。
お兄ちゃんといい、おばあちゃんといい、もしかして私ってわかりやすい?

うわ、なんだかすごく恥ずかしい。

「千鶴?」

「あ、はい。あの、行ってきます」

「ふふっ。行ってらっしゃい。ああ、そうだわ。夕食はどうする?」

「えっ? えっと……」

そこまで全然考えてなかったんだけど、どうするんだろう……。
そっと長瀬さんに視線を送ると、にっこりと笑いながら

「今日は夕食まで千鶴さんとご一緒させていただきたいと思っていますが、よろしいでしょうか?」

とおばあちゃんに答えていた。

「あら、それならちょうどよかったわ。実は、お友達の佳奈恵かなえさんに夕食に誘われていたのよ。千鶴には帰ってから自分で作ってもらおうと思っていたんだけど、食べて帰ってくるなら安心ね」

「それでは夜の九時までにはこちらにお送りしますのでご安心ください」

「ええ、私もその頃には帰ってきているから大丈夫よ。千鶴、行ってらっしゃい」

「は、はい。行ってきます」

なんだか私を抜きに話がまとまってしまった気がする。
戸惑いつつも、そのまま長瀬さんに案内されて玄関を出ると、丸が四つ並んだエンブレムが素敵なブルーグレーの高級車がそこにあった。

「これ……長瀬さんの、お車ですか?」

「ええ。二人で乗るにはちょうどいいかと思って今日はこれにしました。さぁ、どうぞ」

「は、はい……」

さっと助手席の扉を開けられ、中が見える。
中も凄そう……。
汚したりしないように気をつけないとな。

恐る恐る席に座らせて貰うとあまりの座り心地の良さに驚いてしまう。
すごい!
昨日のも座り心地いいなと思っていたけど、今日のはもっと好きかも。

私が座り心地に感動している間に、長瀬さんはさっとシートベルトをつけてくれてそのまま颯爽と運転席に乗り込んだ。

「行きましょうか」

「はい」

ああ、もう格好良くて長瀬さんの方を見ていられない。

ドキドキして少し挙動不審になってしまっているのは自分でも良くわかっているけれど、どうしようもない。
もう自分で感情が抑えられなくなってる。
こんなの初めてだ。

「千鶴さん」

「は、はい」

「ふふっ。緊張なさってますか?」

「え、はい。だって、こんなすごい車……それに、長瀬さんも」

「私、ですか? 何か緊張させていますか?」

「あ、いえ。そうじゃなくて……その、長瀬さんが……格好良すぎて、緊張してしまって……」

「えっ……それは……」

急にこんなことを言われて長瀬さんが驚くのも無理はない。
でも、今言わないといえない気がする。

「あ、すみません。でも、本当なんです」

「千鶴さん……それは、私のことを少しは意識してくださっているということでよろしいですか?」

「違います」

「えっ?」

「少しじゃないです、ものすごく意識してます」

「――っ!!!」

「わっ!!」

思いを伝えた途端、長瀬さんが路肩に急に車を止めてしまったので、思わず声が出てしまった。

「あ、すみません。おどろかせてしまって……でも、千鶴さんからそんなことを言われてそのまま平常運転できるほど、人間ができていないんです」

「長瀬さん……」

「本当に、意識してくださってるんですか?」

「はい、多分……好き、なんだと思います」

「多分?」

「あ、ごめんなさい。私……今まで、こんな気持ちになったことがなくて……」

「――っ、それは初恋、ということですか?」

「えっ――あっ、そう、なのかな……うわ、この年で初恋なんて恥ずかしいですね」

もう30も過ぎているのに、初恋なんて……。
長瀬さんにも呆れられているかも……。

そう思ったけれど、

「恥ずかしがることなんてないですよ。私は、千鶴さんの初恋で嬉しいとしか感じないです」

と心の底から嬉しそうな表情を見せてくれた。
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