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気になって仕方がない <後編>
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相手は保育園からのようだ。
りんくんの様子が気になって連絡を入れてきたのか。
遥くんは私に断りを入れて電話をとった。
スピーカーではないし、運転中だからうっすらとしか聞こえないのがもどかしい。
だが、
ー琳が休むことになったのがそんなによかったですか?
遥くんが少し怒りを滲ませていた言葉が出てきたことに驚いた。
保育園から何を言われたのか、気になって仕方がない。
運転に集中しつつも、彼の様子に気を配っていると突然顔色が悪くなった。
何があったんだ?
名前や人数を聞いているあたり、誰かが遥くんを訪ねてきたということか?
はしばという名前か? それがうっすら聞こえる。
相手の会話が聞こえないのがなんとももどかしい。
しばらく会話をした後、遥くんは電話を終えたが、茫然と画面を見続けていた。
どうしようもないほど気になって、何があったかと尋ねれば謝罪の言葉が返ってきた。
謝罪など何もいらない。私は遥くんの顔色が悪くなった理由が知りたいだけだ。
私なら力になれる、そう告げて彼の言葉を引き出そうとしたが、どうやら深い理由があるようだ。
モニターを見れば後部座席で碧斗とりんくんが眠っているのが見える。
本当なら起こして食事をさせるべきだが、少しの間だけ寝かせておこう。
自宅で話を聞くことにして、急いで駐車場に入った。
りんくんの荷物を肩にかけ、碧斗を抱きかかえていると、遥くんの視線を感じた。
どうしたのだろう?
声をかけると慌ててついてきた。
自宅に戻り、碧斗の布団に二人を寝かせてコーヒーを淹れた。
私はいつものようにブラックで。
遥くんには砂糖とミルクを淹れて渡した。
心が疲弊している時には甘いものを摂るのがいい。
コーヒーを一口飲んだ遥くんは、少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開いた。
「僕の両親は早くに亡くなって、妹と二人で生きてきました。その妹が数年前に嫁いだ先で生まれたのが……琳です。琳は妹夫婦の子どもでした」
そうか……妹さんの……。
だから遥くんに似ていたんだ。
妹さんが義実家で虐げられ、最終的には身一つで追い出されたと知り、腹立たしさしかない。
辛い思いをした妹さんは、りんくんのことを考えられないくらいに心がボロボロになっていたのだろう。
自ら命を絶ったと聞いて、胸が痛くなった。
そっと碧斗に目をやる。
あの子も同じ。碧斗は私の双子の弟の子どもだった。
碧斗が一歳の頃、自分で事業を起こし、海外で生活をしていた弟が病気で亡くなり、弟を愛していた義妹は弟がいない世界に生きる希望を持てずに後を追ってしまった。一人残された碧斗は、葬儀にやってきた私を父だと認識した。ぱっと見似ているが柔らかな印象を与える弟と違って、強そうな私を普段なら間違えないだろう。だが、子ども心にそうしないと生きていけないことを理解していたのかもしれない。
必死に泣き縋ってくる碧斗を見て、私は自分の子として引き取ることにしたのだった。
妹さんが亡くなってから、私と同様にりんくんを引きとったものの、独身である彼は養子縁組でしか引き取ることができない。それは私も同じだからよく知っている。
私の場合は碧斗の実の両親がすでに亡くなっているから心配はいらないが、りんくんの場合は、実父は生きているのか。
普通の養子縁組では実の両親との縁は切れない。だからりんくんのために引越しをして保育園まで転園させたのか……。
それなのに、義実家家族がりんくんの保育園と遥くんの家を見つけてやってきた、ということらしい。
保育園でりんくんに会うことが叶わなかったから、自宅で見張っていると聞けば、もう二人を家に帰すつもりは毛頭ない。
ここに居ればいいと告げたが、遥くんは私の提案にすぐには乗らなかった。
いじらしく私に迷惑をかけたくないと言う。そんなところも好感が持てるが、ここ以外に二人が安心して過ごせる場所はない。
必死に理由を並べて、ここにいてほしいと頼むと遥くんはようやく了承してくれた。
よし、これでいい。
彼をここに匿っている間に、私が全てのカタをつけてやる。
「それじゃあ、僕……昼食の支度をしますね。琳と碧斗くんも目を覚ましたらお腹を空かせていると思うので。西条さん、何か食べたいものはありますか?」
「りんくんの好物を出してやるといい。怪我をして気分が落ち込んでいるだろうから遥くんの美味しい食事を食べたら安心するだろう」
そう返すと遥くんは嬉しそうな笑顔を見せた。
その花が綻ぶような可愛らしい笑顔に、なぜか胸がざわつくのを感じた。
彼が食事を作っている間に、私は自室で久瀬くんに連絡を入れ、遥くんから聞いた情報と電話口から聞こえてきた『はしば』という名前を手がかりに調査を入れるように指示を出した。
担当弁護士が亡くなってしまっていたのは正直痛かったが、これで数日中には情報が手に入るだろう。
全てを終えるまで、ここで安心して過ごしてもらうとしよう。
りんくんの様子が気になって連絡を入れてきたのか。
遥くんは私に断りを入れて電話をとった。
スピーカーではないし、運転中だからうっすらとしか聞こえないのがもどかしい。
だが、
ー琳が休むことになったのがそんなによかったですか?
遥くんが少し怒りを滲ませていた言葉が出てきたことに驚いた。
保育園から何を言われたのか、気になって仕方がない。
運転に集中しつつも、彼の様子に気を配っていると突然顔色が悪くなった。
何があったんだ?
名前や人数を聞いているあたり、誰かが遥くんを訪ねてきたということか?
はしばという名前か? それがうっすら聞こえる。
相手の会話が聞こえないのがなんとももどかしい。
しばらく会話をした後、遥くんは電話を終えたが、茫然と画面を見続けていた。
どうしようもないほど気になって、何があったかと尋ねれば謝罪の言葉が返ってきた。
謝罪など何もいらない。私は遥くんの顔色が悪くなった理由が知りたいだけだ。
私なら力になれる、そう告げて彼の言葉を引き出そうとしたが、どうやら深い理由があるようだ。
モニターを見れば後部座席で碧斗とりんくんが眠っているのが見える。
本当なら起こして食事をさせるべきだが、少しの間だけ寝かせておこう。
自宅で話を聞くことにして、急いで駐車場に入った。
りんくんの荷物を肩にかけ、碧斗を抱きかかえていると、遥くんの視線を感じた。
どうしたのだろう?
声をかけると慌ててついてきた。
自宅に戻り、碧斗の布団に二人を寝かせてコーヒーを淹れた。
私はいつものようにブラックで。
遥くんには砂糖とミルクを淹れて渡した。
心が疲弊している時には甘いものを摂るのがいい。
コーヒーを一口飲んだ遥くんは、少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開いた。
「僕の両親は早くに亡くなって、妹と二人で生きてきました。その妹が数年前に嫁いだ先で生まれたのが……琳です。琳は妹夫婦の子どもでした」
そうか……妹さんの……。
だから遥くんに似ていたんだ。
妹さんが義実家で虐げられ、最終的には身一つで追い出されたと知り、腹立たしさしかない。
辛い思いをした妹さんは、りんくんのことを考えられないくらいに心がボロボロになっていたのだろう。
自ら命を絶ったと聞いて、胸が痛くなった。
そっと碧斗に目をやる。
あの子も同じ。碧斗は私の双子の弟の子どもだった。
碧斗が一歳の頃、自分で事業を起こし、海外で生活をしていた弟が病気で亡くなり、弟を愛していた義妹は弟がいない世界に生きる希望を持てずに後を追ってしまった。一人残された碧斗は、葬儀にやってきた私を父だと認識した。ぱっと見似ているが柔らかな印象を与える弟と違って、強そうな私を普段なら間違えないだろう。だが、子ども心にそうしないと生きていけないことを理解していたのかもしれない。
必死に泣き縋ってくる碧斗を見て、私は自分の子として引き取ることにしたのだった。
妹さんが亡くなってから、私と同様にりんくんを引きとったものの、独身である彼は養子縁組でしか引き取ることができない。それは私も同じだからよく知っている。
私の場合は碧斗の実の両親がすでに亡くなっているから心配はいらないが、りんくんの場合は、実父は生きているのか。
普通の養子縁組では実の両親との縁は切れない。だからりんくんのために引越しをして保育園まで転園させたのか……。
それなのに、義実家家族がりんくんの保育園と遥くんの家を見つけてやってきた、ということらしい。
保育園でりんくんに会うことが叶わなかったから、自宅で見張っていると聞けば、もう二人を家に帰すつもりは毛頭ない。
ここに居ればいいと告げたが、遥くんは私の提案にすぐには乗らなかった。
いじらしく私に迷惑をかけたくないと言う。そんなところも好感が持てるが、ここ以外に二人が安心して過ごせる場所はない。
必死に理由を並べて、ここにいてほしいと頼むと遥くんはようやく了承してくれた。
よし、これでいい。
彼をここに匿っている間に、私が全てのカタをつけてやる。
「それじゃあ、僕……昼食の支度をしますね。琳と碧斗くんも目を覚ましたらお腹を空かせていると思うので。西条さん、何か食べたいものはありますか?」
「りんくんの好物を出してやるといい。怪我をして気分が落ち込んでいるだろうから遥くんの美味しい食事を食べたら安心するだろう」
そう返すと遥くんは嬉しそうな笑顔を見せた。
その花が綻ぶような可愛らしい笑顔に、なぜか胸がざわつくのを感じた。
彼が食事を作っている間に、私は自室で久瀬くんに連絡を入れ、遥くんから聞いた情報と電話口から聞こえてきた『はしば』という名前を手がかりに調査を入れるように指示を出した。
担当弁護士が亡くなってしまっていたのは正直痛かったが、これで数日中には情報が手に入るだろう。
全てを終えるまで、ここで安心して過ごしてもらうとしよう。
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