ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

文字の大きさ
66 / 208

まさか……

しおりを挟む
なんだろう。この感覚。
ドキドキと早い鼓動が西条さんに聞こえてしまいそう。

「遥くん……」

西条さんの優しい声に顔をあげようとしたその時、

「はるかちゃーんっ」
「おきたーっ」

とサークルの向こうから碧斗くんと琳の声が聞こえた。

「あ、はーい!」

条件反射のように声を上げると、西条さんはそっと僕から手を離した。

「二人が呼んでる。行ってやって」

「は、はい」

笑顔で見送られたけれど、まだ胸がドキドキしている。
今のなんだったんだろう……。

わからないまま、サークルのカーテンを開けると寝起きのいい二人に迎えられた。

「はるかちゃん! おはよー」

体格も身長も違うけれど、色違いのお揃いのパジャマを着て布団に隣同士に座っている碧斗くんと琳は、やっぱり双子みたいに仲がいい。

「おはよう。二人ともよく眠れたみたいだね」

サークルの周りを覆っていたカーテンを開けながら声をかける。薄暗い部屋が一気に明るくなって気持ちがいい。
すると、二人とも立ち上がって僕の元に駆け寄ってきた。

「うん! よくねむれたー! でもはるかちゃんもよくねたでしょー?」

「うん。よく眠れたよ。みんながマッサージしてくれたおかげだね」

昨夜のことを思い出すと、自分の失態に恥ずかしくなるがマッサージはすごく気持ちが良くて最高の時間だった。
マッサージをされたことも初めてだったし、しかもそのまま寝落ちだなんて今までの自分の生活には決してあり得なかった時間だ。

「あおと、みたよー! ぱぱがはるかちゃんをおひめさましてたー!!」

「りんもみたー!!」

「えっ?」

お姫さましてた?
それって……あ、寝ちゃった僕をベッドに連れて行ってくれた時か。
歩いて行った記憶はもちろんないし、西条さんは自分が運んだなんて明確には言ってなかったけれど、この家には大人が僕と西条さんしかいないのだから間違いない。
ベッドまで運んでもらったと漠然に思っていたけれど、碧斗くんと琳にそれがお姫さまだったと言われると一気に恥ずかしくなる。

西条さんに迷惑をかけてしまったことを改めて申し訳なく思っていると、碧斗くんが棚から絵本を持ってきて広げて見せてくれた。

「ぱぱ、これしてたのー!!」

見せられたのは王子さまが美しい姫を抱きかかえてキスをしているところ。

えっ……。
まさか……うそっ、それはないよね?
だって、西条さんが僕なんかにキスするわけない。

「だっこしてたー!」

「だっこしてたー!!」

二人が大はしゃぎする横で、僕は頭の中がぐるぐる回って考えがまとまらない。
これってどっちだ?
碧斗くんも琳も抱っこしてたってことしか言ってないし、抱きかかえられただけだよね?
あの絵本は、その場面が写っているのがそこしかなかったから見せてくれただけだよね?

でも本当にキスされていたら……?
ないと思いつつも、ついつい想像してしまう。

さっき間近でみてしまった西条さんの唇が頭の中に甦る。
幅の広い少し厚めのしっとりした唇。

その唇と、キス……?

想像するだけで顔が赤くなる。

「遥くん? どうした?」

突然後ろから西条さんの声が聞こえて、僕は慌てて絵本を閉じた。

「い、いえ。何でもないです。すみません、昨日は運んでもらってしまって……」

その間も、碧斗くんと琳が抱っこ、抱っこと嬉しそうにはしゃいでいたので、西条さんもなんの話か察したようだ。

「そのことか。ゆっくり休んでもらうつもりでマッサージをしたんだから気にしないでいい」

「は、はい」

西条さんが話をしている間もついつい唇に目がいってしまう。

あの唇と、キス……?

「遥くん?」

「あ、すみません。碧斗くん、琳。トイレに行ってお着替えしよう」

こんなことじゃ西条さんに不審がられそう。
余計なことを考えないようにしないと!!

碧斗くんと琳をサークルから出すと、西条さんがさっと近くにやってきた。

「いいよ。私がトイレに連れて行くから、遥くんはお弁当を仕上げてもらえないか?」

そういえば、ご飯とおかずを冷ましたままになっていた。

「でも仕事前の西条さんに子どもの世話をお願いするわけには……」

「言っただろう? 契約時間外は二人で子育てするって。碧斗、琳くん。トイレに行こう」

そういうが早いか西条さんは二人と手を繋いでさっさとトイレに行ってしまった。
それをありがたく思いながら、僕はキッチンに向かい、お弁当を仕上げる。
西条さんはその間に手際よく、碧斗くんと琳のトイレと着替えまで済ませてくれた。

そして、西条さんの出勤の時間。

「ぱぱー、いってらっしゃいするー!!」

「りんも、ぱぱにいってらっしゃいするー!! はるかちゃんもはやくー!!」

「ははっ。みんなで見送りとは豪華だな」

やっぱり子どもたちに見送られて仕事に向かうのが嬉しいんだろう。
西条さんは笑顔でいっぱいだ。それにしても琳はすっかり西条さんをパパと呼ぶのに慣れている。

僕はジャケットとブラシ、そしてランチバックを持って三人の後をついていった。

「遥くん」

「はい。どうぞ」

玄関で西条さんにジャケットを着せて、ブラシをさっとかける。
それからお弁当を手渡した。

「ありがとう。美味しくいただくよ」

「ぱぱー、これなぁに?」

碧斗くんが興味津々な様子で尋ねると、西条さんはなぜか得意げにランチバッグを掲げた。

「遥くんがパパのためにお弁当を作ってくれたんだよ」

「わぁー! いいなぁ。はるかちゃん、あおとも!」

「うん、じゃあお昼にまたお弁当つくろうね」

「やったぁー!! りんくん、いこー!!」

その言葉に碧斗くんと琳は大喜びで手を繋いでリビングに戻って行ってしまった。

一気に静かになった玄関で、西条さんは笑っていた。

「見送りも遥くんのお弁当には負けるな」

「そんなことは……」

「いいんだよ、それで。じゃあ、行ってくるよ」

笑顔で挨拶をしてくれる西条さんに、僕は手を振って応えた。

「行ってらっしゃい。気をつけて」

「ああ、ありがとう」

パタンと扉が閉まる音に、僕はなぜか少し寂しさを覚えていた。
しおりを挟む
感想 538

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...