ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

文字の大きさ
82 / 202

似ている

しおりを挟む
「はい。ぜひ」

僕の返事に西条さんはすぐに立ち上がってリビングに置かれたワインセラーに向かった。

「何か好きな銘柄とかある? 大体のものは揃っているよ」

てっきり冷蔵庫に入っているビールを飲むんだとばかり思っていたけれど、わざわざワインを開けてくれるみたいだ。

「いえ、特に。というかあまりワインは飲んだことがなくて……」

一人で住んでいた頃は、そこまで多くはないけれど仕事終わりに飲みに行くこともあってビールやカクテルを口にすることがあった。もともとそこまで強くはないから帰宅するとすぐ眠ってしまうこともあったから、琳と暮らし始めてからは家では飲まないようにしていた。だって琳がいるのに一人で熟睡するわけにはいかない。そうでなくても琳が体調を崩して夜中に救急に行ったりすることもあるかもしれない。そう思うとお酒を飲む気にはなれなかった。

でも、お酒自体は嫌いじゃない。楽しいお酒は好きだったんだ。

「それじゃあ飲みやすいワインにしておくよ」

西条さんはワインに詳しいんだろう。
そんな人と一緒に飲むと、新しい自分を知れるようでなんだか嬉しくなる。

ワインを片手にキッチンに行き、ソムリエナイフとワイングラスを二個持ってソファーに戻ってきた。

「遥くん、こっちにおいで」

優しい笑顔で誘われてドキドキしながら、僕もソファーに座った。
西条さんが手際よくワインを開けていく。
その手つきはワインを開け慣れている人そのものだ。

あっという間にワインを開けると、僕の前にあるワイングラスに注いでくれる。
ふわっと香るこれは……

「さくらんぼ?」

「遥くん。鼻がいいね。これはチェリーの香りがすると言われているんだよ」

感心したように褒められて嬉しくなる。

「じゃあ、乾杯しようか」

「乾杯?」

「ああ、二人の夜に……」

甘く囁くような声でそんなことを言われてなんだかドキドキが止まらない。
それを打ち消すようにワインを傾けた。

ワインは香りを味わうように飲むと聞いたことがある。
それを思い出しながら喉に流すと、鼻から抜ける香りに驚いた。

「美味しい!」

「だろう? これは初心者にも飲みやすいんだ」

銘柄を見ても、フランス語なんだろうか。
よくわからない。

でもすごく美味しいワインだってことはよくわかった。

西条さんは僕が気に入ったとわかったんだろう。
そっとグラスにワインを注いでくれる。
弱いとわかっていても、そのおいしさを知ってしまった僕はもう一度ワインを口にした。

「琳くんのおかげで、碧斗がすっかり子どもらしくなった。やっぱり子どもには友達が必要なんだと改めて思ったよ」

ワイングラスを傾けながら、しみじみとした口調で西条さんが話し始めた。
確かに一人でいた時の碧斗くんと琳とここで一緒に生活するようになってからの碧斗くんは全然違う。
なんだかイキイキしているというか、毎日がすごく楽しそう。

迷惑をかけているんじゃないかと思ったけれど、碧斗くんのためになっているのならこの居候生活も悪いものではないのかもしれない。

「琳くんは妹さんの子どもだけど、遥くんによく似ているな」

「それはよく言われます。顔立ちも似ているので、本当の親子みたいだって」

「私も話を聞いて驚いたくらいだ。本当によく似ているよ」

琳とよく似ている。そう言われるのがどれだけ嬉しいか。
本当に琳の親だったらいつまでも奪われる恐怖に怯えることもないのに。
自分の子どもでないことが辛いくらいだ。

「私と碧斗はあまり似ていないんじゃないか?」

「えっ? いえ、そんなことは……。碧斗くん、悠臣さんに似てますよ。顔も性格も」

凛々しい顔立ちの西条さんに比べると、碧斗くんは穏やかで柔らかな顔立ちだけど纏う雰囲気はよく似ている気がする。

「そうか、似ているか。それは嬉しいな」

その表情がなんとも言えない憂いに満ちていて、不思議な感覚を覚えた。
なんとなく、僕と同じような……。

「あの、碧斗くんって……」

「碧斗は私の双子の弟の子どもなんだ」

その言葉に驚きつつも、今までの西条さんと碧斗くんの関係が全て腑に落ちた気がした。

「あの、じゃあ……碧斗くんのお母さんは?」

西条さんが碧斗くんを引き取った以上、何か理由があるんだろう。
そこまでプライベートなことを聞いていいかわからなかったけれど、聞かずにはいられなかった。

「弟が病気で亡くなって……義妹は、弟のことを心から愛していたんだろう。弟のいない世界を悲観して、弟の元に行く選択をしてしまった」

「えっ? それって……」

美春と同じ……。
そう思ったのが表情にでたんだろう。
西条さんは小さく頷いた。

「義妹にとっては弟が一番だったんだろうな。碧斗という大切な存在を残してしまうことも忘れて、弟の元に行ってしまった。両親を一度に失った碧斗をこれ以上一人にしておきたくなくて、私は碧斗を自分の子として育てることにしたんだよ」

なんて悲しいことだろう。
でもそれだけ、弟さんのことを愛していたんだろう。
だけど……。

「碧斗くんは、悠臣さんに引き取られて良かったと思います。ずっと辛い表情をして自分を育てる母親と過ごすよりは……」

本当は、母親が碧斗くんの気持ちに寄り添えていたら良かったんだろう。
でも、それが叶わなかった。

「だから私は碧斗のことを第一に考えてくれる人に来て欲しかったんだ」

最初に碧斗くんの世話が疎かになるくらいなら家事をしなくていいって言ったのはそういうことだったんだ。
西条さんはずっと碧斗くんのことだけを考えていたんだな。

「遥くんに来てもらえて本当に良かったよ。碧斗にとっても、私にとっても……」

西条さんに熱のこもった目で見つめられて、なぜか身体の奥が熱くなる。

鼓動が早くなるのを感じながら、僕はそのまま心地よい温もりのソファーに倒れ込んでしまった。
しおりを挟む
感想 524

あなたにおすすめの小説

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

[完結]気付いたらザマァしてました(お姉ちゃんと遊んでた日常報告してただけなのに)

みちこ
恋愛
お姉ちゃんの婚約者と知らないお姉さんに、大好きなお姉ちゃんとの日常を報告してただけなのにザマァしてたらしいです 顔文字があるけどウザかったらすみません

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...