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美しい髪
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「おはよう、一花」
「んっ……せい、やさん……」
「ふふっ。まだ寝ぼけているな」
まだ半分眠った状態で私に擦り寄ってくる一花の甘い匂いに、朝から昂りを増してしまいそうだがさすがに我慢しないとな。
せっかくの休日が寝るだけで終わってしまう。
それでも、もうしばらくは一花の温もりと匂いを堪能していようと思い、一花を腕の中に抱きしめた。
ああ、朝からのんびりと一花を堪能できるこの幸せ。
何にも変え難い時間だ。
「せいやさん……」
「ああ、今度は私が寝ていたのか。おはよう、一花」
「おはようございます」
今日は一花の方からキスをねだるように目を瞑ってくれた。
そんな可愛い顔を見られるのも私だけだと優越感に浸りながら、私は一花の甘い唇を味わった。
「一花、今日は何をして過ごそうか」
「あの、今日は未知子お母さんの知り合いの方が来て、僕の髪を切ってくれるそうなんです」
「一花の髪を? ああ、そういえば前に母さんが言っていたな。一花の髪が伸び過ぎてるから、一度手入れをしたいって。てっきり母さんの行きつけの美容院にでも連れて行くつもりなのかと思って、日程が決まったら教えてくれと言っていたんだが……」
「ごめんなさい……」
「いや、一花が謝ることはない。母さんが外に連れて行くより、家にきてもらったほうが安心だからな。一花の髪もだいぶ伸びたから私もそろそろだと思っていたんだ。どんな髪型になるか、楽しみだな」
「よかった……」
ホッとしたように抱きついてくる一花にもう一度キスを贈り、艶々の髪を撫でた。
我が家に来たばかりの一花は、風呂も満足に入らせてもらっておらず、栄養状態も悪かったせいで、髪は絡まって最悪のコンディションだった。
怪我をしていたため、すぐに風呂にも入れてやれなかったから、寝たままでも髪を洗えるように部屋の中にサロン並みの設備を整えた。
そのおかげで、一花の髪はみるみるうちに綺麗になっていった。
今では来た当初の姿は微塵もなく、天使の輪が輝くほど艶々で美しい。
朝食を済ませると、
「征哉、客間に準備を整えているから一花くんを連れてきて」
と母から声をかけられた。
「わかった。一花、行こうか」
抱きかかえて客間に連れて行くと、そこには美容室さながらの様子が広がっていた。
「わぁ、すごい!」
「これなら、一花もリラックスして髪を切ってもらえそうだな」
「はい」
一花を椅子に座らせていると、母が一人の女性を伴ってやってきた。
「征哉、一花くんの髪を切ってくれる美容師さんよ。私の髪をもう二十年以上担当してくれている人なの」
「そうですか。今日は一花をよろしくお願いします」
「はい。未知子さまからずっと一花さまのお話を伺っておりました。今日は髪を切らせていただくことになってとても嬉しく思っております。本日はカットということで伺っておりますが、そのほか一花さまのメニューに何かご注文はございますか?」
「髪色は絶対に変えないことと、短か過ぎないようにしていただければ、あとはお任せで構いませんよ」
「承知いたしました」
さすが母の担当だけあって、上品で優しそうだ。
これなら一花も緊張せずにいられるだろう。
「征哉。一花くんのカットが終わるまで一時間ほどだから、あなたは部屋から出ていてちょうだい。その間は私が一花くんのそばにいるわ」
「だが……」
「ねぇ、一花くんも征哉を驚かせたいでしょう?」
「征哉さんを、驚かせる? はい! 驚かせたいです!!」
「ふふっ。決まりね」
一花に言われては仕方がない。
心配だったが、母もいるし大丈夫だろう。
「一花がどんな髪型になるか、楽しみにしているよ」
そう言って、客間を出た私は一人で自室に戻った。
この間に、櫻葉会長に連絡を入れてみようか。
直純くんのことはもちろん、彼の父、保が今どうしているのかも気になる。
数回のコール音の後に、電話が繋がった。
ーもしもし。
ー貴船です。今、お時間よろしいですか?
ーああ、大丈夫だ。先日は一花との時間をありがとう。
ーいえ。一花も喜んでいました。
ーあの子は本当に素直で愛らしく育ったものだな。
ーはい。離れて過ごしていても、やはり櫻葉会長と麻友子さんの血を受け継ぐ子だと改めて感じましたよ。
ーははっ。嬉しいことを言ってくれるな。
ーまた、近いうちに一花を連れて伺います。今度は宿泊も兼ねて……。
ーああ、楽しみにしているよ。それで、何か話があったんじゃないのか? 君がこれだけで連絡してくるわけはないだろう?
ーさすがですね。実は、母から気になる話を聞きまして、ご連絡差し上げました。
ー母君から気になる話?
ーはい。先日、母が磯山先生のお宅にお邪魔したそうなんです。
ーそれは……
ーはい。直純くんのことについて絢斗さんと話をしたそうで、その様子を見に伺ったそうです。彼は母親からひどい虐待を受けていました。
ーそうか、未知子さんも気づいたのか……。
ーえっ、櫻葉会長はご存知だったのですか?
ーいや、少し前に磯山くんから連絡が来た。彼が精神的にも肉体的にも虐待を受けていたようだとね。
ーそう、でしたか……。私はあの時、彼を見たはずなのにその異常には全く気づいていませんでした。
ーそれは私も同じだ。あの女への怒りに周りが見えていなかったのだろうと思っている。
ーはい。正直言って今でもあの子を許せるかと聞かれたら、即答はできないでしょう。ですが、あの時よりは少しは冷静に彼と話はできると思います。
ーそうだな……。一花が幸せで元気な姿を見た今なら、彼の置かれた状況を鑑みることもできるかもしれないな。
ー母は一花と直純くんを会わせたいと話していました。それが可能かどうか、私は近いうちに直純くんに会いに行こうと思います。
ーそうか。だが、その前に必ず磯山くんに連絡をしてくれ。今、直純くんはかなり厳しい状況にある。
ー何かあったのですか?
ー彼の父親が、直純くんに別れの手紙を送ったんだ。自分がいない方が直純くんが幸せになれると書いていたらしい。
ーそんな……っ。
ー磯山くんは彼を養子にすると話していたよ。今は直純くんからの返事待ちの状態だそうだよ。
ー磯山先生が彼を養子に?
まさかの展開に驚きが隠せないが、磯山先生に何か思うところがあったのだろうか。
彼と過ごした日々の中で、養子にまでしたいと考えるほどの何かが……。
磯山先生の思いが知りたい。
彼との生活で何を感じたのか……。
それがわかれば私も彼に対して、前に進めるかもしれないな。
「んっ……せい、やさん……」
「ふふっ。まだ寝ぼけているな」
まだ半分眠った状態で私に擦り寄ってくる一花の甘い匂いに、朝から昂りを増してしまいそうだがさすがに我慢しないとな。
せっかくの休日が寝るだけで終わってしまう。
それでも、もうしばらくは一花の温もりと匂いを堪能していようと思い、一花を腕の中に抱きしめた。
ああ、朝からのんびりと一花を堪能できるこの幸せ。
何にも変え難い時間だ。
「せいやさん……」
「ああ、今度は私が寝ていたのか。おはよう、一花」
「おはようございます」
今日は一花の方からキスをねだるように目を瞑ってくれた。
そんな可愛い顔を見られるのも私だけだと優越感に浸りながら、私は一花の甘い唇を味わった。
「一花、今日は何をして過ごそうか」
「あの、今日は未知子お母さんの知り合いの方が来て、僕の髪を切ってくれるそうなんです」
「一花の髪を? ああ、そういえば前に母さんが言っていたな。一花の髪が伸び過ぎてるから、一度手入れをしたいって。てっきり母さんの行きつけの美容院にでも連れて行くつもりなのかと思って、日程が決まったら教えてくれと言っていたんだが……」
「ごめんなさい……」
「いや、一花が謝ることはない。母さんが外に連れて行くより、家にきてもらったほうが安心だからな。一花の髪もだいぶ伸びたから私もそろそろだと思っていたんだ。どんな髪型になるか、楽しみだな」
「よかった……」
ホッとしたように抱きついてくる一花にもう一度キスを贈り、艶々の髪を撫でた。
我が家に来たばかりの一花は、風呂も満足に入らせてもらっておらず、栄養状態も悪かったせいで、髪は絡まって最悪のコンディションだった。
怪我をしていたため、すぐに風呂にも入れてやれなかったから、寝たままでも髪を洗えるように部屋の中にサロン並みの設備を整えた。
そのおかげで、一花の髪はみるみるうちに綺麗になっていった。
今では来た当初の姿は微塵もなく、天使の輪が輝くほど艶々で美しい。
朝食を済ませると、
「征哉、客間に準備を整えているから一花くんを連れてきて」
と母から声をかけられた。
「わかった。一花、行こうか」
抱きかかえて客間に連れて行くと、そこには美容室さながらの様子が広がっていた。
「わぁ、すごい!」
「これなら、一花もリラックスして髪を切ってもらえそうだな」
「はい」
一花を椅子に座らせていると、母が一人の女性を伴ってやってきた。
「征哉、一花くんの髪を切ってくれる美容師さんよ。私の髪をもう二十年以上担当してくれている人なの」
「そうですか。今日は一花をよろしくお願いします」
「はい。未知子さまからずっと一花さまのお話を伺っておりました。今日は髪を切らせていただくことになってとても嬉しく思っております。本日はカットということで伺っておりますが、そのほか一花さまのメニューに何かご注文はございますか?」
「髪色は絶対に変えないことと、短か過ぎないようにしていただければ、あとはお任せで構いませんよ」
「承知いたしました」
さすが母の担当だけあって、上品で優しそうだ。
これなら一花も緊張せずにいられるだろう。
「征哉。一花くんのカットが終わるまで一時間ほどだから、あなたは部屋から出ていてちょうだい。その間は私が一花くんのそばにいるわ」
「だが……」
「ねぇ、一花くんも征哉を驚かせたいでしょう?」
「征哉さんを、驚かせる? はい! 驚かせたいです!!」
「ふふっ。決まりね」
一花に言われては仕方がない。
心配だったが、母もいるし大丈夫だろう。
「一花がどんな髪型になるか、楽しみにしているよ」
そう言って、客間を出た私は一人で自室に戻った。
この間に、櫻葉会長に連絡を入れてみようか。
直純くんのことはもちろん、彼の父、保が今どうしているのかも気になる。
数回のコール音の後に、電話が繋がった。
ーもしもし。
ー貴船です。今、お時間よろしいですか?
ーああ、大丈夫だ。先日は一花との時間をありがとう。
ーいえ。一花も喜んでいました。
ーあの子は本当に素直で愛らしく育ったものだな。
ーはい。離れて過ごしていても、やはり櫻葉会長と麻友子さんの血を受け継ぐ子だと改めて感じましたよ。
ーははっ。嬉しいことを言ってくれるな。
ーまた、近いうちに一花を連れて伺います。今度は宿泊も兼ねて……。
ーああ、楽しみにしているよ。それで、何か話があったんじゃないのか? 君がこれだけで連絡してくるわけはないだろう?
ーさすがですね。実は、母から気になる話を聞きまして、ご連絡差し上げました。
ー母君から気になる話?
ーはい。先日、母が磯山先生のお宅にお邪魔したそうなんです。
ーそれは……
ーはい。直純くんのことについて絢斗さんと話をしたそうで、その様子を見に伺ったそうです。彼は母親からひどい虐待を受けていました。
ーそうか、未知子さんも気づいたのか……。
ーえっ、櫻葉会長はご存知だったのですか?
ーいや、少し前に磯山くんから連絡が来た。彼が精神的にも肉体的にも虐待を受けていたようだとね。
ーそう、でしたか……。私はあの時、彼を見たはずなのにその異常には全く気づいていませんでした。
ーそれは私も同じだ。あの女への怒りに周りが見えていなかったのだろうと思っている。
ーはい。正直言って今でもあの子を許せるかと聞かれたら、即答はできないでしょう。ですが、あの時よりは少しは冷静に彼と話はできると思います。
ーそうだな……。一花が幸せで元気な姿を見た今なら、彼の置かれた状況を鑑みることもできるかもしれないな。
ー母は一花と直純くんを会わせたいと話していました。それが可能かどうか、私は近いうちに直純くんに会いに行こうと思います。
ーそうか。だが、その前に必ず磯山くんに連絡をしてくれ。今、直純くんはかなり厳しい状況にある。
ー何かあったのですか?
ー彼の父親が、直純くんに別れの手紙を送ったんだ。自分がいない方が直純くんが幸せになれると書いていたらしい。
ーそんな……っ。
ー磯山くんは彼を養子にすると話していたよ。今は直純くんからの返事待ちの状態だそうだよ。
ー磯山先生が彼を養子に?
まさかの展開に驚きが隠せないが、磯山先生に何か思うところがあったのだろうか。
彼と過ごした日々の中で、養子にまでしたいと考えるほどの何かが……。
磯山先生の思いが知りたい。
彼との生活で何を感じたのか……。
それがわかれば私も彼に対して、前に進めるかもしれないな。
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