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三人でのお茶の時間
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<side志摩>
会長の後についていった尚孝さんを見送りながら、私はイヤホンのスイッチをONにした。
片側から会長と尚孝さんの会話が聞こえても、目の前の一花さんとの会話は問題なくできる。
それくらいできなければ会長秘書などやってられないからな。
「一花さん、何かお飲みになりますか?」
「あ、じゃあお水をお願いします」
額にまだ少し汗が残っていたのに気づいて、すぐに水とタオルを用意して手渡した。
「ありがとうございます」
コクコクと一気に半分ほど飲み干して、満足そうにタオルで額の汗を拭う一花さんが微笑ましく思えた。
「リハビリ、頑張っていらっしゃるのですね」
「あの、尚孝さんから何か聞いてますか?」
「いいえ、尚孝さんは一花さんのリハビリの内容に関して私に報告はしませんよ。お医者さんと同じで守秘義務……担当患者さんのことを勝手に第三者に話さないということを守っていますから。それがわかっていますので、私も聞いたりはしません。ご安心ください」
「そう、なんですね……」
「ただ、尚孝さんが一花さんとのリハビリを楽しんでいるというのは伝わっていますよ。毎晩翌日のリハビリについて嬉しそうに準備をしていますから」
「そうなんですか? よかった。僕……尚孝さんにお願いばっかりしてるので、面倒だと思われてないかなってちょっと心配だったんです」
「ふふっ。そんな心配はなさらないで結構ですよ。尚孝さんのような理学療法士にとって、担当した患者さんが自分から意見を言って頑張ってくれる姿を見るのは嬉しいことですからね」
「志摩さん……はい、ありがとうございます」
私の言葉にホッとしたように笑顔を浮かべる一花さんは本当に素直で可愛らしい。
もちろん尚孝さんへの思いとは別だけれど。
そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
イヤホンからは会長と尚孝さんの会話が聞こえるから、おそらく未知子さんだろう。
声をかけ扉を開けると、未知子さんが小さなトレイを片手に入ってくるのが見えた。
「おもちします」
「ありがとう、志摩くん」
「今、会長は自室で尚孝さんとお話中です」
「ええ、知っているわ。だから今のうちに三人でお茶でもしようかと思ってきたの」
いたずらっ子のような笑みを浮かべながら部屋に入ってくる未知子さんに思わず笑みが溢れる。
ああ。さすがだな、未知子さんは。
会長がいなくても一花さんを不安にさせない術をわかっておられる。
「未知子お母さん、これはなんですか?」
「ふふっ。生チョコよ」
「なま、チョコ?」
「ええ、食べてみたらわかるわ。食事前だから小さいものにしておいたの」
一花さんは初めての生チョコに目を輝かせながら、生チョコ用の小さなフォークで刺して口に運んだ。
「んーっ」
入れた瞬間から溶けていくその滑らかな食感が気に入ったようだ。
表情を見ただけでよくわかる。
「ふふっ。このお茶も飲んでみて。この生チョコとものすごく合うのよ。志摩くんもどうぞ」
緑茶と生チョコの組み合わせに驚きつつも、未知子さんに勧められるままに口にすると
「んっ! これは美味しいですね!」
と思わず大きな声が出た。
それくらい美味しかったんだ。
「緑茶とチョコレートって合うんですね」
「そうなのよ。これ、お土産に持って行って。尚孝くんにも食べて欲しいの」
「ありがとうございます。今日の夕食後にでもいただきますね」
「ああ、そうだわ。頂き物のお肉がたくさんあるの。それも一緒に持って帰って」
未知子さんの言葉に、初めて尚孝さんの家に行った時に大量のお肉があったのを思い出した。
ふふっ。こんなふうに勧められていたんだろうな。
自炊もしない尚孝さんだけれど、こう勧められたら断れないのはよくわかる。
「はい。喜んでいただきます」
今は余らせることなく、私が料理できるから安心だ。
――私に彼と会うことを勧めたのは、志摩さんですか?
イヤホンから、確信を持ったような尚孝さんの声が聞こえる。
その言葉に会長がそうだと答えると、尚孝さんは
――そうですか、わかりました
とだけ答えて話は終わった。
尚孝さんの表情は見えないが、きっと私を信頼してくれているのだということは声からわかる。
いや、そう思いたいだけなのかもしれないが。
それからすぐに会長と尚孝さんが我々がいる部屋に戻ってきた。
私と目が合った瞬間、笑顔を見せてくれたからきっと間違いではないはずだ。
生チョコはもちろん、お肉や果物をなどを大量にいただき、私は尚孝さんと共に帰宅の途についた。
夕食を食べてゆっくり先ほどの話をした方がいいかと思っていたが、車に乗り込んで早々に尚孝さんの方から口を開いた。
「あの、先ほど会長から打診された内容なんですが、彼にどのような裏事情があろうとも受けようと思っています」
「尚孝さん、話を聞いてからでもいいんですよ」
「いえ、唯人さんが提案してくださったことなら、僕も同じ意見ですから。だから、話を聞いてそれを止めるつもりはありませんから彼の話を全て聞かせてください」
尚孝さんの言葉には、強い意志が感じられた。
会長の後についていった尚孝さんを見送りながら、私はイヤホンのスイッチをONにした。
片側から会長と尚孝さんの会話が聞こえても、目の前の一花さんとの会話は問題なくできる。
それくらいできなければ会長秘書などやってられないからな。
「一花さん、何かお飲みになりますか?」
「あ、じゃあお水をお願いします」
額にまだ少し汗が残っていたのに気づいて、すぐに水とタオルを用意して手渡した。
「ありがとうございます」
コクコクと一気に半分ほど飲み干して、満足そうにタオルで額の汗を拭う一花さんが微笑ましく思えた。
「リハビリ、頑張っていらっしゃるのですね」
「あの、尚孝さんから何か聞いてますか?」
「いいえ、尚孝さんは一花さんのリハビリの内容に関して私に報告はしませんよ。お医者さんと同じで守秘義務……担当患者さんのことを勝手に第三者に話さないということを守っていますから。それがわかっていますので、私も聞いたりはしません。ご安心ください」
「そう、なんですね……」
「ただ、尚孝さんが一花さんとのリハビリを楽しんでいるというのは伝わっていますよ。毎晩翌日のリハビリについて嬉しそうに準備をしていますから」
「そうなんですか? よかった。僕……尚孝さんにお願いばっかりしてるので、面倒だと思われてないかなってちょっと心配だったんです」
「ふふっ。そんな心配はなさらないで結構ですよ。尚孝さんのような理学療法士にとって、担当した患者さんが自分から意見を言って頑張ってくれる姿を見るのは嬉しいことですからね」
「志摩さん……はい、ありがとうございます」
私の言葉にホッとしたように笑顔を浮かべる一花さんは本当に素直で可愛らしい。
もちろん尚孝さんへの思いとは別だけれど。
そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
イヤホンからは会長と尚孝さんの会話が聞こえるから、おそらく未知子さんだろう。
声をかけ扉を開けると、未知子さんが小さなトレイを片手に入ってくるのが見えた。
「おもちします」
「ありがとう、志摩くん」
「今、会長は自室で尚孝さんとお話中です」
「ええ、知っているわ。だから今のうちに三人でお茶でもしようかと思ってきたの」
いたずらっ子のような笑みを浮かべながら部屋に入ってくる未知子さんに思わず笑みが溢れる。
ああ。さすがだな、未知子さんは。
会長がいなくても一花さんを不安にさせない術をわかっておられる。
「未知子お母さん、これはなんですか?」
「ふふっ。生チョコよ」
「なま、チョコ?」
「ええ、食べてみたらわかるわ。食事前だから小さいものにしておいたの」
一花さんは初めての生チョコに目を輝かせながら、生チョコ用の小さなフォークで刺して口に運んだ。
「んーっ」
入れた瞬間から溶けていくその滑らかな食感が気に入ったようだ。
表情を見ただけでよくわかる。
「ふふっ。このお茶も飲んでみて。この生チョコとものすごく合うのよ。志摩くんもどうぞ」
緑茶と生チョコの組み合わせに驚きつつも、未知子さんに勧められるままに口にすると
「んっ! これは美味しいですね!」
と思わず大きな声が出た。
それくらい美味しかったんだ。
「緑茶とチョコレートって合うんですね」
「そうなのよ。これ、お土産に持って行って。尚孝くんにも食べて欲しいの」
「ありがとうございます。今日の夕食後にでもいただきますね」
「ああ、そうだわ。頂き物のお肉がたくさんあるの。それも一緒に持って帰って」
未知子さんの言葉に、初めて尚孝さんの家に行った時に大量のお肉があったのを思い出した。
ふふっ。こんなふうに勧められていたんだろうな。
自炊もしない尚孝さんだけれど、こう勧められたら断れないのはよくわかる。
「はい。喜んでいただきます」
今は余らせることなく、私が料理できるから安心だ。
――私に彼と会うことを勧めたのは、志摩さんですか?
イヤホンから、確信を持ったような尚孝さんの声が聞こえる。
その言葉に会長がそうだと答えると、尚孝さんは
――そうですか、わかりました
とだけ答えて話は終わった。
尚孝さんの表情は見えないが、きっと私を信頼してくれているのだということは声からわかる。
いや、そう思いたいだけなのかもしれないが。
それからすぐに会長と尚孝さんが我々がいる部屋に戻ってきた。
私と目が合った瞬間、笑顔を見せてくれたからきっと間違いではないはずだ。
生チョコはもちろん、お肉や果物をなどを大量にいただき、私は尚孝さんと共に帰宅の途についた。
夕食を食べてゆっくり先ほどの話をした方がいいかと思っていたが、車に乗り込んで早々に尚孝さんの方から口を開いた。
「あの、先ほど会長から打診された内容なんですが、彼にどのような裏事情があろうとも受けようと思っています」
「尚孝さん、話を聞いてからでもいいんですよ」
「いえ、唯人さんが提案してくださったことなら、僕も同じ意見ですから。だから、話を聞いてそれを止めるつもりはありませんから彼の話を全て聞かせてください」
尚孝さんの言葉には、強い意志が感じられた。
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