歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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前を向いて行こう

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<side征哉>

「櫻葉会長、素晴らしい部屋でしたね」

「君にそう言ってもらえると嬉しいよ。そういえば、いい加減櫻葉会長は辞めてくれないか? 君はもう私の義息子むすこなんだよ」

「はい。ではお義父とうさんと呼ばせていただきます」

「ああ、嬉しいよ」

私が義理とはいえ、櫻葉会長の息子になる……そんな未来が来るとは、思っても見なかったな。
だがそれ以上に、父が生きていたら一花のような可愛い息子ができたことを大喜びしたことだろう。

「征哉くん、あのぬいぐるみたちを私と麻友子にくれてありがとう」

「いえ、あれは一花が言い出したことですから。本当に一花自身が望んだことですよ」

「そうか……本当に優しい子だな、あの子は。麻友子も寂しくないだろう。自分が作ったベビー服を着た可愛い一花がいつもそばにいてくれるのだからな」

一花が仏壇にあのぬいぐるみを並べて手を合わせている間、お義父さんは涙ぐんでおられた。
あの涙を見た時に、あのぬいぐるみは我が家に置いておくよりここにいるべきだと思った。
一花の言う通りにぬいぐるみを連れてきて良かったと思えたんだ。
私のぬいぐるみまで一緒に連れてきたのは、私のエゴだったかもしれないと思ったが、私たちが夫夫だとお義母さんにもわかってもらえて良かっただろう。

「ぬいぐるみだけでなく、お義父さんはお義母さんの分まで実物の一花に会ってやって下さい。これから月に一度はこちらに泊まりに来たいと思っていますから。もちろん、我が家にもいつでも遊びに来て下さい」

「ああ、ありがとう。この家でも外でも一花と、そして君と過ごせる時間が増えるのは嬉しいよ」

「それで、一花がここに泊まるための注意点ですが……特に難しいことはありませんよ」

「ああ、わかっている。先日君が送ってくれたシャンプーやボディーソープの類も全て準備しているし、布団も一花が寝やすいものを注文してすでに用意してある。一花にはここで快適に過ごしてもらう手筈は整っているはずだ」

「えっ、それならどうして……」

わざわざ私だけをこの部屋に呼んだのだろう?

「一花があの部屋で一人で過ごす時間が必要だと思ったんだ。あの子自身にも思うところはあるだろうからな。私たちがいれば、どうしても遠慮してしまうだろう?」

「お義父さん……」

「私はあの部屋に一花が入ってくれる日を夢見て、この18年、麻友子と一緒に作り上げたあの部屋を無くそうとは考えなかった。一花の誕生日には部屋を飾り、ケーキを用意して、その年齢に合ったプレゼントを贈り、一花がいつかあれらを手にしてくれる日を待ち望んでいたんだ。あの部屋には私と麻友子の、一花への愛と希望が詰まっているんだよ」

「よく、わかります……あの部屋に入った時から、お義父さんとお義母さんの思いはひしひしと感じましたから。今頃一花もお義父さんたちの愛に包まれてることでしょう」

「征哉くん、私は先日君と電話で話した時から考えていたんだ。一花はこの家に戻ってきてくれた。元気な姿で戻ってきてくれただけで私は喜ぶべきなんじゃないかとね。一花にも私にも辛かった時が長かったけれど、これから一生をかけて一花を幸せにしてあげたらいいって思えるようになったんだ。一花は私たちが人を恨むことを望む子ではないだろう? 私たちもいい加減前を向かないとな」

お義父さんの言葉はあの直純くんに向けられていることはよくわかった。
今度会う時は一人の子どもとして会おうと言ったあの言葉を、お義父さんはしっかりと受け入れてくれていると言うことだろう。

「はい。そうですね」

「今日は、彼らがあの子に会いに行ってくれているのだろう?」

「はい。午後からと言っていましたからもう少し後でしょうか。谷垣くんならきっと、彼とじっくり話してくれると思いますよ」

「そうだな、そろそろ一花のところに戻るか」

「はい」

一花はあの部屋で何を感じ取っただろう。
そんな思いを胸にお義父さんと一花の部屋に向かうと、私たちの目に飛び込んできたのは、真っ新なランドセルを胸に抱き、大粒の涙を流す一花の姿だった。

「――っ、一花っ!」

「せい、やさん……っ」

一花の真っ赤な目に我を忘れて、部屋に飛び込みランドセルごと抱きしめる。

「どうした?」

「ぼく、の、らんどせる……」

そう言ったまま止まってしまった一花を見て、お義父さんも近づき一花に寄り添った。

「悪い、悲しませてしまったか? 一花を泣かせようと思っていたわけではないんだ」

「ちが――っ、ぼく……らんどせるが、うれしくて……」

「えっ?」

「ぼくの、らんどせるが、あったんだって……わかったから……」

「――つ!!!」

使えなかったことを恨むこともしない。
自分のがあったとわかっただけで喜んでくれる。
本当に一花は、心が綺麗な子だ。

この一花が、あの女の息子だからといって、彼を恨んだりはしないだろう。
私は自分の思いよりも、最初から一花の気持ちを優先させるべきだったのだな。
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