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小さな生命
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私たちはアイコンタクトでその場を離れ、差し出がましいこととは思ったが、声をかけてみた。
「磯山先生。もし、先生がお許しになるなら、彼にウサギか犬を贈ることはできますよ」
「そうだな……。できることなら、願いは叶えてあげたいが……」
「何か、気になることでもおありですか?」
「今は彼のために絢斗が授業をリモートにして対応しているが、彼を私の息子にするすべての手続きが終わったら、彼を学校に行かせようと思っているんだ。彼が学校に行き出せば、絢斗も大学での対面授業に戻る。そうなると、ウサギも犬も昼間の世話をしてあげられるものがいなくなる。事務所で中谷くんにみてもらうこともできないわけではないが、彼はそのためにいるわけではないし、依頼人がアレルギー等を持っていたら困る。夢を叶えてあげたいという気持ちだけで、大切な生命を疎かに扱ってはいけないからな。その辺は慎重に考えなければいけない」
「ああ、それは確かにそうですね……」
我が家には牧田がいるし、母も一花もいる。
たとえ一花がこれから先外に出ることが出てきたとしても、世話をする人間が完全にいなくなるわけではない。
お義父さんの家も同じだ。
あちらの家には二階堂さんも他の使用人たちもいる。
だが、昼間忙しい磯山先生のお宅ではペットを飼うのは難しいのが現状だろう。
「あの、ちょっと宜しいですか?」
「志摩くん、どうした?」
「以前浅香さんからお伺いしたのですが、ウサギは基本的に留守番ができるんだそうです。ですから昼間、お世話する方がいらっしゃらなくても飼うことは大丈夫かと……まぁ、その子の性格もあるでしょうが、現に今もグリは車の中で……」
「あっ、そのことで征哉くんを呼びにきたんだった!」
「そのこと、ですか?」
「うん。志摩くん、ごめんね。その話は少しおいておいて、先に征哉くんを一花ちゃんのところに連れて行ってもいいかな?」
「は、はい」
志摩くんは絢斗さんの勢いに押されるように頷いた。
どうやら私を呼びにきた理由がグリにあるようだと思いながら、絢斗さんと一緒に一花たちのいる部屋に向かった。
志摩くんと磯山先生、そして昇くんは入り口でこちらの様子を伺っているようだ。
「一花ちゃん、征哉くんを連れてきたよ」
「あっ、征哉さん」
「一花、何かあったか?」
「あの、グリの写真を見せたらあやちゃんがグリに会いたいというので、車からグリを連れてきてもいいですか?」
「ああ、そういうことか。それは構わないが、この家にウサギを入れても構いませんか?」
入り口にいる磯山先生に了承をとると、
「もちろん構わないが、その子はずっと車の中にいたのか?」
とグリの心配をしてくれているようだ。
「大丈夫です。グリが体調を崩さないように、キャンピングカーの空調は一定に保たれていますから。悪い、志摩くん。グリを連れてきてもらえるか?」
志摩くんはすぐに了承し、急いでグリを迎えに行ってくれた。
それからすぐに移動用の小さなケージに入れられたグリが部屋にやってきた。
「どちらに置きましょうか?」
「あ、志摩くん。このテーブルの上にお願い」
広々としたテーブルの端にはリースを作るための材料が置かれていたが、グリが到着するまでに違う場所に移されていた。
志摩くんがそのテーブルの真ん中にケージを置くと、正面にグリが顔を見せた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
てっきり直純くんがグリと遊びたいと言い出したのかと思っていたが、一番興奮しているのは絢斗さんだ。
そのテンションの高さに少し驚いていると、
「絢斗は昔からウサギが大好きなんだ。子どもの時にウサギを飼っていたこともあるんだが、看取る悲しみが忘れられなくてそれからはウサギを飼うのはやめたそうだよ」
と磯山先生が教えてくれた。
「あの、直くんのパパ ……」
「――っ、そ、それは、私のことかな?」
「あ、ダメでしたか?」
「い、いや。私は直くんのパパだからそう言ってもらえると嬉しいよ」
「よかったぁ」
一花はホッとしたように直純くんと笑顔で顔を見合わせてから、もう一度磯山先生に話しかけた。
「あの、グリを外に出してもいいですか?」
「ああ、うちは構わないがウサギの方は大丈夫か?」
「大丈夫です。直くんのことは気に入っていたし、きっとあやちゃんのことも気にいると思います。じゃあ、開けますね」
大丈夫だとは思うがグリが驚いて部屋の外に出てしまっては大変だ。
私がそっと扉を閉めるのと、一花がケージの入り口を開けるのはほぼ同時だった。
しかし、開けても中からなかなか出てこない。
やはり慣れない部屋では不安なのだろうと思っていると、
「グリ、おいでー」
と絢斗さんと一花、それに直純くんまで一緒に声をかけると、グリはまるでそれを待っていたかのように嬉しそうにケージから飛び出してきた。
一番最初は一花の胸に、そして直純くんの胸に飛び込んで、最後に絢斗さんの胸に飛び込んでいった。
「わぁー、もふもふ。ふふっ、可愛いー。懐かしいな、この感触」
嬉しそうに慣れた手つきでグリの頭を撫でる絢斗さんをみていると、本当にウサギが好きなのだとわかる。
「我が家にもウサギを迎えることを検討してもいいかもしれんな」
そう呟いた磯山先生の小さな声が、私の耳には聞こえていた。
「磯山先生。もし、先生がお許しになるなら、彼にウサギか犬を贈ることはできますよ」
「そうだな……。できることなら、願いは叶えてあげたいが……」
「何か、気になることでもおありですか?」
「今は彼のために絢斗が授業をリモートにして対応しているが、彼を私の息子にするすべての手続きが終わったら、彼を学校に行かせようと思っているんだ。彼が学校に行き出せば、絢斗も大学での対面授業に戻る。そうなると、ウサギも犬も昼間の世話をしてあげられるものがいなくなる。事務所で中谷くんにみてもらうこともできないわけではないが、彼はそのためにいるわけではないし、依頼人がアレルギー等を持っていたら困る。夢を叶えてあげたいという気持ちだけで、大切な生命を疎かに扱ってはいけないからな。その辺は慎重に考えなければいけない」
「ああ、それは確かにそうですね……」
我が家には牧田がいるし、母も一花もいる。
たとえ一花がこれから先外に出ることが出てきたとしても、世話をする人間が完全にいなくなるわけではない。
お義父さんの家も同じだ。
あちらの家には二階堂さんも他の使用人たちもいる。
だが、昼間忙しい磯山先生のお宅ではペットを飼うのは難しいのが現状だろう。
「あの、ちょっと宜しいですか?」
「志摩くん、どうした?」
「以前浅香さんからお伺いしたのですが、ウサギは基本的に留守番ができるんだそうです。ですから昼間、お世話する方がいらっしゃらなくても飼うことは大丈夫かと……まぁ、その子の性格もあるでしょうが、現に今もグリは車の中で……」
「あっ、そのことで征哉くんを呼びにきたんだった!」
「そのこと、ですか?」
「うん。志摩くん、ごめんね。その話は少しおいておいて、先に征哉くんを一花ちゃんのところに連れて行ってもいいかな?」
「は、はい」
志摩くんは絢斗さんの勢いに押されるように頷いた。
どうやら私を呼びにきた理由がグリにあるようだと思いながら、絢斗さんと一緒に一花たちのいる部屋に向かった。
志摩くんと磯山先生、そして昇くんは入り口でこちらの様子を伺っているようだ。
「一花ちゃん、征哉くんを連れてきたよ」
「あっ、征哉さん」
「一花、何かあったか?」
「あの、グリの写真を見せたらあやちゃんがグリに会いたいというので、車からグリを連れてきてもいいですか?」
「ああ、そういうことか。それは構わないが、この家にウサギを入れても構いませんか?」
入り口にいる磯山先生に了承をとると、
「もちろん構わないが、その子はずっと車の中にいたのか?」
とグリの心配をしてくれているようだ。
「大丈夫です。グリが体調を崩さないように、キャンピングカーの空調は一定に保たれていますから。悪い、志摩くん。グリを連れてきてもらえるか?」
志摩くんはすぐに了承し、急いでグリを迎えに行ってくれた。
それからすぐに移動用の小さなケージに入れられたグリが部屋にやってきた。
「どちらに置きましょうか?」
「あ、志摩くん。このテーブルの上にお願い」
広々としたテーブルの端にはリースを作るための材料が置かれていたが、グリが到着するまでに違う場所に移されていた。
志摩くんがそのテーブルの真ん中にケージを置くと、正面にグリが顔を見せた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
てっきり直純くんがグリと遊びたいと言い出したのかと思っていたが、一番興奮しているのは絢斗さんだ。
そのテンションの高さに少し驚いていると、
「絢斗は昔からウサギが大好きなんだ。子どもの時にウサギを飼っていたこともあるんだが、看取る悲しみが忘れられなくてそれからはウサギを飼うのはやめたそうだよ」
と磯山先生が教えてくれた。
「あの、直くんのパパ ……」
「――っ、そ、それは、私のことかな?」
「あ、ダメでしたか?」
「い、いや。私は直くんのパパだからそう言ってもらえると嬉しいよ」
「よかったぁ」
一花はホッとしたように直純くんと笑顔で顔を見合わせてから、もう一度磯山先生に話しかけた。
「あの、グリを外に出してもいいですか?」
「ああ、うちは構わないがウサギの方は大丈夫か?」
「大丈夫です。直くんのことは気に入っていたし、きっとあやちゃんのことも気にいると思います。じゃあ、開けますね」
大丈夫だとは思うがグリが驚いて部屋の外に出てしまっては大変だ。
私がそっと扉を閉めるのと、一花がケージの入り口を開けるのはほぼ同時だった。
しかし、開けても中からなかなか出てこない。
やはり慣れない部屋では不安なのだろうと思っていると、
「グリ、おいでー」
と絢斗さんと一花、それに直純くんまで一緒に声をかけると、グリはまるでそれを待っていたかのように嬉しそうにケージから飛び出してきた。
一番最初は一花の胸に、そして直純くんの胸に飛び込んで、最後に絢斗さんの胸に飛び込んでいった。
「わぁー、もふもふ。ふふっ、可愛いー。懐かしいな、この感触」
嬉しそうに慣れた手つきでグリの頭を撫でる絢斗さんをみていると、本当にウサギが好きなのだとわかる。
「我が家にもウサギを迎えることを検討してもいいかもしれんな」
そう呟いた磯山先生の小さな声が、私の耳には聞こえていた。
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