イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

文字の大きさ
47 / 63
番外編

みんなとの約束

しおりを挟む
「空良、何があったのか俺に教えてくれるか?」

初夜を迎えた朝にこんなふうに空良の涙を、しかも悲しい涙を見ることになるとは思ってもみなかった。

「大丈夫だから、俺を信じて話してくれ」

小さな身体を俺の腕の中に閉じ込めて、頭を優しく撫でてやれば空良は涙に濡れた声で、

「あのね……みんなと、ぐすっ、やくそくしたの……」

と教えてくれた。

「約束?」

「うん。でも……うっ、ぐすっ……それを、わすれちゃって……ぼく、うっ……きらわれちゃう……ぐすっ」

「大丈夫だよ。みんなが空良を嫌うわけないだろう?」

「でも……」

「どんな約束だったんだ?」

「うーん、いっちゃ、だめだって……ぐすっ、ないしょだって……」

みんなで約束……俺には内緒……。

あっ!!!
もしかしたら!!!

その時、俺の脳裏にあのクリスマスパーティーでの光景が思い浮かんだ。

佳都くんからのクリスマスプレゼントだ!
あの艶かしいベビードール。

あれはただのプレゼントじゃなく、初夜に着るためにと佳都くんが用意してくれたんだろう。
だから、約束を守れずに朝を迎えてしまった空良が……。

なるほど、そういうことか。

だが、そんな約束……観月も、ロレーヌさんも守れているとは到底思えない。
なんせ、結婚式で美しいドレス姿を見続けて我慢しているのだから。

あの時中庭から自室へ駆け戻ったのは俺だけじゃないはず。
伴侶のために似合う世界にひとつだけのドレスを作ったのは、それを着たまま愛し合うためでもある。

まぁ、もしかしたらあの観月なら、ことに及ぶ前に理央くんの話を聞いてドレスから着替えさせて約束を守ってあげるなんてこともあるかもしれない。
そうだな、あれだけ理央くんのドレスを大切にしていたんだ。
汚す前に脱がせて、その時に着替えさせることもないとは言えないが、ロレーヌさんはどうだろう?

いかにも紳士でがっつきもしないタイプに限って、限界を迎えたら理性が飛ぶなんてことも十分にあり得る。
俺たち同様にずっと煽られてきているんだ。
絶対にドレスのまま、ことに及んでいるはずだ。

そもそもみんな忘れているんじゃないか?
理央くんにも弓弦くんにもそんな余裕があるとは思えないし。

とはいえ、空良が約束を守れなかったと涙を見せるなら、俺はそれを守るだけだ。

「空良……泣かないでいいよ」

「ひろと、さぁん……っ、ぼく、どうしたらいい……?」

「みんなと会う前までに約束を守ればいいんだ。時間までは決まってなかったんだろう?」

「えっ……でも、しょやにって、やくそくしたんです……」

「ふふっ。なら、大丈夫だ。まだ初夜は終わってないよ」

「ほんと?」

「ああ、だからその約束がどういうものか教えてくれないか?」

そういうと、ようやく空良の表情に安堵の色が見えた。

目にいっぱい溜まった涙を乱暴に拭おうとするのを制して、唇を当てて優しく吸い取ってやる。
少ししょっぱいが空良だと思うだけで極上の味になるのだから不思議だ。

「ふふっ。ひろとさん……くすぐったいです……」

「手で拭ったりしたら空良の可愛い目が腫れてしまうからな。涙はいつでも俺が吸い取ってやる。だが、もう泣かせる気はないがな」

「ひろとさん……だいすき」

「ほら、そんなに煽ったら約束を守れなくなるぞ。それで何をどうしたらいいんだ?」

「あ、あのくろねこさんのシールがついたはこ……」

「すぐに取ってくるよ」

ぱちっと電気をつけベッドから立ち上がると、

「わっ!」

と空良の驚く声がする。

その声に驚いて振り返ると真っ赤な顔をして俺を見ていた。

「どうした?」

「あ、あの……ひろとさん……は、だか……」

そういえば、服を着ずに空良と抱き合っていたんだったな。
だが、今までもう何度も愛し合っているし、裸以上のものだって見まくっているのに……本当に空良はいつになっても初心で可愛い。

「もう夫夫なんだから恥ずかしがることはないだろう?」

「で、でも……かっこよすぎて、ドキドキします」

「ふふっ。空良にドキドキしてもらえるならずっと裸でもいいな」

「えっ、そんな……っ」

「ふふっ。冗談だよ」

近くに置いてあったガウンを纏い、

「これでいいか?」

と尋ねれば、

「うわぁ、かっこいい……」

とさらに頬を染める。
俺は自分が思っていた以上に空良に愛されているようだ。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...