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美味しすぎて困る
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「うわっ、本当にサイズぴったりだ」
これが先生の服だったのかわからないほど、袖の長さも身幅も、ズボンのウエストや腰の幅、それに裾の長さまで全てが俺のサイズと同じで驚いてしまう。
これ、先生が?
意外と洋裁が得意なんだろうか?
それにしたって玄人はだしの代物だと思う。
俺は裁縫は全然ダメだからよくわからないけれど、売り物だと言われたら信じてしまいそうなくらいのものであることはわかる。
そしてそれ以上に驚きなのが、この服の着心地の良さ。
俺が着ている一枚二千円やそこらのシャツやズボンとは質が違うのは明らかだ。
こんなの着てしまったら、自分が持っている服なんて着られなくなりそうで怖い。
でももう脱ぐ気にはならないんだよな……
それに俺のサイズにしてくれた服だから、俺が遠慮して着ないと言っても、もう先生には着られない。
結局無用の長物になるのなら、ここはありがたく着させてもらおう。
でも……姿見に映る自分の姿を見ていると、なんだか先生に抱きしめられているような感覚に陥ってしまう。
バカだな、俺。
何考えてるんだろう。
余計なことを考えないでいよう。
着替えを済ませて、部屋を出ると少し離れた場所で白い大きな影が伏せていた。
アレックスだ。
俺と目が合うと、尻尾の先が床をゆっくり掃くように動いている。でも俺を見つめたまま飛びかかってきたりはしない。
「アレックス、おはよう」
声をかけると耳がピクッと動き、そのまま俺の元にやってきた。
「俺が出てくるのを待っててくれたのか?」
「わふっ!」
俺に顔を擦り寄せてくるアレックスは尻尾をブンブン振っていてすごく可愛い。
でもさっきの姿は悪者が侵入しないように俺の部屋を見守っていてくれているみたいだったな。
「アレックス、ありがとう」
お礼を言うと、言葉を理解しているかのように「ばうっ」と声を出してくれた。
アレックスと一緒にリビングに向かうと、良い匂いが漂ってきた。
その匂いを嗅いだだけで「ぐぅぅ……」とお腹の虫が鳴る。
キッチンにいる先生には聞こえていないだろうと思いつつも、咄嗟にお腹を抑えてしまった。
ちょうどそこにトレイで料理を運んでいる先生の姿が見えた。
「ああ、ちょうど良いタイミングだったな。隼人くん、そこに座って」
「は、はい」
手伝わなくて良いのかなと心配になったが、アレックスにも促されて椅子に座った。
「今日は和食にしておいたけど、いつもはパン?」
「はい。一人暮らしなんで食パン齧って終わりなのが多いです。でも本当は朝はご飯が好きなんです」
実家では和食好きな父親の意向もあって、朝食はご飯だった。
と言っても今、俺の目の前にあるようなこんな豪華な朝食は見たことはない。
ご飯と納豆、それに味噌汁くらいだ。
それでも食パン一枚齧るよりはずっと豪華だと思っていた。
でも先生が作ってくれた朝食はまるで高級旅館の朝食のような豪華さ。
焼き海苔を巻いた大きめおにぎりが二個。シャケと昆布がのっている。
具沢山の味噌汁に卵焼き、焼き魚、湯豆腐に煮物。それに果物まで用意されている。
「めちゃくちゃ美味しそう」
「ははっ。そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。身体が資本だから朝食は和食でも洋食でもしっかり食べることにしているんだ」
「先生って、すごいですね。俺、何もできてないから尊敬します」
朝からこんなにすごい食事を作って仕事もして……
俺なんて学校の課題をこなすのに精一杯で自分の生活なんて二の次なのに。
「私も学生の頃はそんなものだったよ。さぁ、食べよう」
「はい。いただきます」
「ほら、アレックス。お前の食事はこっちだ」
先生は少し離れたアレックスの食事場所にご飯をおく。
アレックスは嬉しそうに駆けていった。
「いただきます」
手を合わせて頭を下げると、先生が笑顔でこっちを見ていた。
「先生?」
「ああ、いや。昨日も思ったが隼人くん、行儀がいいね。ちゃんと挨拶できる子、少なくなってるから。親御さんの教育がいいんだね」
俺にとっては普通のことだったけれど、親を褒められると嬉しくなる。
「あ、ほら。食べて」
「はい。いただきます」
やっぱり最初は味噌汁に手が伸びる。
汁を飲むと驚くほど美味しくて声が出た。
「すごく美味しいです。こんな美味しい味噌汁、初めてかも」
「そんなに喜んでもらえたら、食事の作りがいがあるな」
そう言って先生は自分の食事を食べはじめた。
でもこれはお世辞なんかじゃない。
全部本心だ。
そのあとはあまりの美味しさにパクパク食べてしまって、気づいたら目の前の食器は全て空になっていた。
「あーっ、お腹いっぱい。どれもすごく美味しかったです」
「ありがとう。今夜も隼人くんが気に入ってくれるものを作るから楽しみにしてて」
そう言われて思い出す。そういえば数日ここに住むんだった。
うわ、まじで楽しみになってきた。
やばいな、俺。
先生の食事が美味しすぎて一人の家に帰れなくなりそうだ。
これが先生の服だったのかわからないほど、袖の長さも身幅も、ズボンのウエストや腰の幅、それに裾の長さまで全てが俺のサイズと同じで驚いてしまう。
これ、先生が?
意外と洋裁が得意なんだろうか?
それにしたって玄人はだしの代物だと思う。
俺は裁縫は全然ダメだからよくわからないけれど、売り物だと言われたら信じてしまいそうなくらいのものであることはわかる。
そしてそれ以上に驚きなのが、この服の着心地の良さ。
俺が着ている一枚二千円やそこらのシャツやズボンとは質が違うのは明らかだ。
こんなの着てしまったら、自分が持っている服なんて着られなくなりそうで怖い。
でももう脱ぐ気にはならないんだよな……
それに俺のサイズにしてくれた服だから、俺が遠慮して着ないと言っても、もう先生には着られない。
結局無用の長物になるのなら、ここはありがたく着させてもらおう。
でも……姿見に映る自分の姿を見ていると、なんだか先生に抱きしめられているような感覚に陥ってしまう。
バカだな、俺。
何考えてるんだろう。
余計なことを考えないでいよう。
着替えを済ませて、部屋を出ると少し離れた場所で白い大きな影が伏せていた。
アレックスだ。
俺と目が合うと、尻尾の先が床をゆっくり掃くように動いている。でも俺を見つめたまま飛びかかってきたりはしない。
「アレックス、おはよう」
声をかけると耳がピクッと動き、そのまま俺の元にやってきた。
「俺が出てくるのを待っててくれたのか?」
「わふっ!」
俺に顔を擦り寄せてくるアレックスは尻尾をブンブン振っていてすごく可愛い。
でもさっきの姿は悪者が侵入しないように俺の部屋を見守っていてくれているみたいだったな。
「アレックス、ありがとう」
お礼を言うと、言葉を理解しているかのように「ばうっ」と声を出してくれた。
アレックスと一緒にリビングに向かうと、良い匂いが漂ってきた。
その匂いを嗅いだだけで「ぐぅぅ……」とお腹の虫が鳴る。
キッチンにいる先生には聞こえていないだろうと思いつつも、咄嗟にお腹を抑えてしまった。
ちょうどそこにトレイで料理を運んでいる先生の姿が見えた。
「ああ、ちょうど良いタイミングだったな。隼人くん、そこに座って」
「は、はい」
手伝わなくて良いのかなと心配になったが、アレックスにも促されて椅子に座った。
「今日は和食にしておいたけど、いつもはパン?」
「はい。一人暮らしなんで食パン齧って終わりなのが多いです。でも本当は朝はご飯が好きなんです」
実家では和食好きな父親の意向もあって、朝食はご飯だった。
と言っても今、俺の目の前にあるようなこんな豪華な朝食は見たことはない。
ご飯と納豆、それに味噌汁くらいだ。
それでも食パン一枚齧るよりはずっと豪華だと思っていた。
でも先生が作ってくれた朝食はまるで高級旅館の朝食のような豪華さ。
焼き海苔を巻いた大きめおにぎりが二個。シャケと昆布がのっている。
具沢山の味噌汁に卵焼き、焼き魚、湯豆腐に煮物。それに果物まで用意されている。
「めちゃくちゃ美味しそう」
「ははっ。そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。身体が資本だから朝食は和食でも洋食でもしっかり食べることにしているんだ」
「先生って、すごいですね。俺、何もできてないから尊敬します」
朝からこんなにすごい食事を作って仕事もして……
俺なんて学校の課題をこなすのに精一杯で自分の生活なんて二の次なのに。
「私も学生の頃はそんなものだったよ。さぁ、食べよう」
「はい。いただきます」
「ほら、アレックス。お前の食事はこっちだ」
先生は少し離れたアレックスの食事場所にご飯をおく。
アレックスは嬉しそうに駆けていった。
「いただきます」
手を合わせて頭を下げると、先生が笑顔でこっちを見ていた。
「先生?」
「ああ、いや。昨日も思ったが隼人くん、行儀がいいね。ちゃんと挨拶できる子、少なくなってるから。親御さんの教育がいいんだね」
俺にとっては普通のことだったけれど、親を褒められると嬉しくなる。
「あ、ほら。食べて」
「はい。いただきます」
やっぱり最初は味噌汁に手が伸びる。
汁を飲むと驚くほど美味しくて声が出た。
「すごく美味しいです。こんな美味しい味噌汁、初めてかも」
「そんなに喜んでもらえたら、食事の作りがいがあるな」
そう言って先生は自分の食事を食べはじめた。
でもこれはお世辞なんかじゃない。
全部本心だ。
そのあとはあまりの美味しさにパクパク食べてしまって、気づいたら目の前の食器は全て空になっていた。
「あーっ、お腹いっぱい。どれもすごく美味しかったです」
「ありがとう。今夜も隼人くんが気に入ってくれるものを作るから楽しみにしてて」
そう言われて思い出す。そういえば数日ここに住むんだった。
うわ、まじで楽しみになってきた。
やばいな、俺。
先生の食事が美味しすぎて一人の家に帰れなくなりそうだ。
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