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番外編
朝陽の家出
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ちょっと面白いリクエストをいただいたので、かなり前の作品の番外編を書いてみました。
時間軸的には『運命の人は親友の××でした』という作品の番外編『素晴らしいお宝』のすぐ後くらいのお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
* * *
「あれ? これ……涼平、さん……?」
先日お義母さんから貰った、涼平さんの昔の写真を整理していると箱の側面に沿うようにピッタリ張り付いていた写真を見つけた。
どれかのアルバムから落ちちゃって気づかないままだったんだろうな。
そう思い、その写真を破らないように丁寧に取ってみると、タキシード姿の涼平さんの隣には綺麗なウェディングドレスを着た綺麗な女性が写っていた。
これ……どういうこと?
写真の感じからすると、今より随分と若そう。
高校生……はないか。
大学生とか、それより少し上くらい?
あ――っ!
も、もしかして……俺と出会う前に、一度結婚してたとか?
いやいや、それは流石にないよね。
だって、それなら俺と結婚式を挙げるときに絶対にわかるはず。
涼平さんに婚姻歴はなかった。
でも……なら、この写真は?
いろんな考えが頭をよぎる。
涼平さんが俺を裏切るわけがない。
心の奥底で信じているのに、どうしてもこの写真をみると不安でたまらなくなる。
涼平さんのこの表情……少し緊張しているのが本気っぽいんだよね。
それにこの人も緊張してるけど嬉しそうなのは伝わってくる。
涼平さんがこんな写真を撮ろうとするくらいだから本気だったことに間違い無いのかも……。
もしかして……結婚しようとしたけど、写真を撮ってから別れることになっちゃったとか?
一生の相手だと思っていた彼女が結婚式目前で亡くなって、それを忘れられずに生きていく……そんな舞台に出演したことがあったけど、もしかして涼平さんも彼女とそんなふうに引き裂かれてたりして……。
俺のことを好きだといってくれる気持ちに嘘はないだろうけど……心の奥底にはもしかしたら彼女がまだ存在しているのかもしれない。
何も知らなければよかった……。
涼平さんにそんな人がいたなんて知って、今まで通りには一緒にいられない。
今は少し涼平さんから離れてこれからのことを考えたい。
そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、俺は急いでボストンバッグに荷物を詰めた。
これで数日は過ごせるだろう。
メールするのはどうしてもできなくて、俺は書き置きを残すことにした。
なんて書こう……。
というか、こういう時ってドラマとかだと……
<実家に帰らせていただきます!>
とかって書くんだよね……。
でも……うちは両親はとっくに亡くなってて実家と言える場所もないしな……。
かといって、涼平さんの実家を頼るのもおかしいよね。
それに今は海外に行ってるし……。
周平さんには迷惑かけたくないしな……。
敬介さんも今日は石垣に行ってるかもしれないし……。
どうしよう……。
考えたら俺……行くとこないのかも……。
そう思ったら無性に寂しくなって、俺はある人に電話をかけていた。
ーもしもし、南條さん? どうしたんですか?
ー砂川さぁーんっ! 俺……もう、どうしていいかわからなくて……。
ーちょ――っ、落ち着いてください。どうしたんですか? 何があったんですか?
すごく優しい声で話しかけられて、少し落ち着いた俺はこれまでのことを砂川さんに全て話した。
ー涼平さんが俺以外の人と結婚式の写真を撮っていたのもショックだったんですけど、それ以上に隠し事をされていたことがショックで……。
ー涼平さんが……? 南條さん以外の人と結婚を考えていたなんて……俄かには信じ難い話ですね……。
ー俺だって信じたくないけど……でもっ! 今、確かにこの写真が俺の目の前にあるんです。俺……もうどうしていいか……。
ー南條さん、気持ちよくわかりますよ。私がもし伊織さんのそんな写真を見つけたら、過去のことだからなんて思えないですから。
ー砂川さぁーんっ! ありがとうございます。
ー南條さん、どこか行くあてがないんでしたら、私の……というか、伊織さんの実家に行かれませんか?
ーえっ……安慶名さんのご実家に? でも……俺、よく知らないですよ。ご迷惑じゃ?
ーふふっ。大丈夫です。私がよく南條さんたちのことをお話ししているので、皐月さんも南條さんと一度ゆっくりお話ししてみたいって仰ってたんです。だから、喜んでくださると思いますよ。確か、今日はご自宅にいらっしゃるはずなので、私から連絡を入れておきます。南條さんは安心して向かってください。
ーいい、のかな……?
ー大丈夫です。この電話の後、すぐに伊織さんの実家の住所送っておきますね。
そういうと、電話は切れた。
本当にいいんだろうかと思っている間に、砂川さんからは安慶名さんのご実家の住所が送られていて、すでにご実家には連絡済みで了承を得ていると書かれていた。
ここまでしてもらったなら、もう行くしかない。
俺は詰め込んだ自分の荷物を持って、タクシーを呼んだ。
途中でケーキ屋さんに寄ってもらい、いくつかのケーキを買って、安慶名さんのご実家に向かった。
「わぁっ、ここ……」
安慶名さんのご実家はすごく雰囲気のいい一軒家。
こんなところに住んでみたいなと思うほど素敵な佇まいだった。
緊張しながら、玄関の呼び鈴を鳴らすとすぐに門が開いた。
わぁ、かっこいい。
素敵な庭だな……なんてキョロキョロしながら中に進んでいくと、玄関から誰かが出てくるのが見えた。
「いらっしゃいっ!!」
俺の方に駆けてきたのは綺麗な男性。
この人が皐月さん、だろうか?
「は、はい。あの、今日は突然お邪魔してしまって……」
「そんな他人行儀な挨拶はいらないよ。南條くんのことはテレビでずっとみているから初めてっていう気がしないし、それに悠真くんからもいっぱい話を聞いてて、勝手に息子みたいに思ってるの。だから遠慮しないで」
優しくそう言われてなんだかすごく安心する。
なんだか本当の実家に帰ってきたみたいだ。
「ありがとうございます。あの、これ……俺が好きなところのケーキなんですけど……よかったら、一緒に食べたいなと思って……」
「わぁ! 私、ケーキ好きなんだ! ありがとう。じゃあ、一緒に食べよう。さぁ、中に入って」
グイグイと引っ張られるように中に連れて行かれる。
だけど全然嫌な気がしない。
こういう強引な感じ、すごく楽でいいな。
リビングも落ち着いた家具で揃えられていて、ホッとする。
ここが安慶名さんのご実家か……。
なんか雰囲気があってるかも。
「今ね、宗一郎さん……大学に行っているんだ。帰ってきたら紹介するね」
「あっ、はい。お二人とも大学で教授されてたんでしたね」
「ふふっ。宗一郎さんは退官したんだけど、でも時々呼ばれて特別講義をしに行っているんだよ」
「わぁ、すごいですね」
「宗一郎さんの講義は本当に面白くて、すぐに引き込まれるから学生人気がすごくって、聴講もものすごく多くてね」
「一度聞きに行ってみたいですね」
「ふふっ。その中でも特に涼平くんは宗一郎さんの講義が大好きでね、やっぱり夫夫は似るのかな」
「そんな……っ」
カバンの中に入れたあの写真を思い出して胸がズキンと痛む。
あの彼女も一緒に授業を聞いたりしていたんだろうか……。
「南條さん? ごめんね、何か気に障ることを言ったかな?」
「いいえ、そんなんじゃないんです。俺……ちょっと自信がなくなって……」
「悠真くんから少し話を聞いたけど、何か昔の写真を見つけたって……」
「はい。そうなんです……」
「もし、よかったらそれ……見せてもらってもいいかな?」
「はい」
俺はカバンからその写真を取り出し、皐月さんの目の前に差し出した。
「涼平さんの表情が本気っぽいのが不安でたまらなくて……」
「あらあら……本当に綺麗ね。それに涼平くんも素敵」
そう、二人ともとってもお似合いだからそれが余計に辛いんだ。
「それで……南條くんはこれをみてどう思ったの?」
「すごく……お似合いだなって……」
「じゃあ、彼女に涼平くんを返そうと思ってる?」
「えっ? そ、れは……」
そんなこと……考えてなかった。
ただ、その写真がショックで……。
「この写真の子がまだいるとして、南條くんが離れたら涼平くんのところに戻ってきちゃうかもしれないけど、それでもいい?」
「――っ!!! そんなのっ! 絶対嫌ですっ!!! だってっ!! 涼平さんは俺のだから!!!」
「ふふっ。それならよかった。ねっ、涼平くん!」
「えっ?」
皐月さんの言葉にびっくりして顔を上げると、キッチンの向こうから涼平さんがやってきた。
「朝陽……」
「えっ、な――っ、えっ? ど、うして……ここ、に?」
「お前が砂川さんに電話した時、一緒にいたんだ。今日は砂川さんは浅香のホテルで打ち合わせしてたからな。そこで全部話を聞いてた」
「――っ!!!」
「朝陽……俺のこと、信じられないか?」
「そんなことっ……でも、怖くて……」
「お前の気持ちもわかるよ、俺だって朝陽のそんな写真を見たら驚くし、不安にもなると思う。でも一人で考え込まないで一番に俺に聞いてほしい。俺は朝陽に嘘はつかないから……」
「涼平さん……」
「信じてくれるか?」
「はい。ごめんなさい……」
「朝陽……よかった。正直言って、お前が砂川さんに電話してくれて安心したよ。何も言わずにどこかに行っていたかと思ったら怖すぎる」
「涼平さん……」
ギュッと抱きしめられるその強さが心地いい。
「涼平くん、久しぶりで私の存在忘れてない?」
「あっ、すみません。鳴宮教授。今日は朝陽がお世話になって……」
「ふふっ。それは気にしないでいいよ。南條くんにはずっと会いたかったし。それで、あの写真のこと、南條くんにちゃんと話をしておいたほうがいいんじゃないの?」
「う――っ、はい……」
どうしたんだろう?
涼平さん、なんだかすっごく嫌そう……。
「朝陽……あの写真、よく見たか?」
「えっ? みた、けど……あんまりお似合いだったから、そこまでじっくりは見て、ないけど……」
「あれは、浅香だよ」
「えっ???? はっ? 敬介、さん? うそっ、だってあんなに美人で……っ」
「大学の学祭で無理やりタキシード着させられたんだよ。相手を女子にすると面倒だから嫌だって言ったら、じゃあ浅香をってことに決まって……だから、俺も浅香も嫌そうな顔してるだろ?」
そう言われてもう一度じっくりと写真を見れば、敬介さんに見えてきた。
「俺たちにとって黒歴史だったから、もう全部捨てたはずだったんだけど……。今頃お前が見つけるなんて思っても見なかったから何も言わなかったんだ」
「そう、だったんですね……俺、勝手に大騒ぎして……」
「ふふっ。それだけ涼平くんを愛してるってことだから、いいんじゃない?」
皐月さんにそうあっけらかんと言われて一気に顔が赤くなる。
「涼平くんも幸せね。こんなに愛してくれる人が見つかるなんて……」
「はい。教授たちに負けないくらい幸せですから」
「ふふっ。宗一郎さんにも涼平くんがそう言ってたって言っておくよ」
「うわーっ、それはちょっと……っ」
「ふふっ」
「ははっ」
一気に和やかな雰囲気の中で、ケーキを食べながら楽しい時を過ごした。
「南條くん、朝陽くんって呼んでもいいかな?」
「はい。ぜひ」
「またいつでも遊びに来て。朝陽くんにとっての実家だと思ってくれていいから」
「皐月さん……ありがとうございます」
優しい皐月さんに見送られながら、俺のプチ家出はあっという間に終わりを告げた。
でも素敵な実家ができたから、まぁよかったのかな。
時間軸的には『運命の人は親友の××でした』という作品の番外編『素晴らしいお宝』のすぐ後くらいのお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
* * *
「あれ? これ……涼平、さん……?」
先日お義母さんから貰った、涼平さんの昔の写真を整理していると箱の側面に沿うようにピッタリ張り付いていた写真を見つけた。
どれかのアルバムから落ちちゃって気づかないままだったんだろうな。
そう思い、その写真を破らないように丁寧に取ってみると、タキシード姿の涼平さんの隣には綺麗なウェディングドレスを着た綺麗な女性が写っていた。
これ……どういうこと?
写真の感じからすると、今より随分と若そう。
高校生……はないか。
大学生とか、それより少し上くらい?
あ――っ!
も、もしかして……俺と出会う前に、一度結婚してたとか?
いやいや、それは流石にないよね。
だって、それなら俺と結婚式を挙げるときに絶対にわかるはず。
涼平さんに婚姻歴はなかった。
でも……なら、この写真は?
いろんな考えが頭をよぎる。
涼平さんが俺を裏切るわけがない。
心の奥底で信じているのに、どうしてもこの写真をみると不安でたまらなくなる。
涼平さんのこの表情……少し緊張しているのが本気っぽいんだよね。
それにこの人も緊張してるけど嬉しそうなのは伝わってくる。
涼平さんがこんな写真を撮ろうとするくらいだから本気だったことに間違い無いのかも……。
もしかして……結婚しようとしたけど、写真を撮ってから別れることになっちゃったとか?
一生の相手だと思っていた彼女が結婚式目前で亡くなって、それを忘れられずに生きていく……そんな舞台に出演したことがあったけど、もしかして涼平さんも彼女とそんなふうに引き裂かれてたりして……。
俺のことを好きだといってくれる気持ちに嘘はないだろうけど……心の奥底にはもしかしたら彼女がまだ存在しているのかもしれない。
何も知らなければよかった……。
涼平さんにそんな人がいたなんて知って、今まで通りには一緒にいられない。
今は少し涼平さんから離れてこれからのことを考えたい。
そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、俺は急いでボストンバッグに荷物を詰めた。
これで数日は過ごせるだろう。
メールするのはどうしてもできなくて、俺は書き置きを残すことにした。
なんて書こう……。
というか、こういう時ってドラマとかだと……
<実家に帰らせていただきます!>
とかって書くんだよね……。
でも……うちは両親はとっくに亡くなってて実家と言える場所もないしな……。
かといって、涼平さんの実家を頼るのもおかしいよね。
それに今は海外に行ってるし……。
周平さんには迷惑かけたくないしな……。
敬介さんも今日は石垣に行ってるかもしれないし……。
どうしよう……。
考えたら俺……行くとこないのかも……。
そう思ったら無性に寂しくなって、俺はある人に電話をかけていた。
ーもしもし、南條さん? どうしたんですか?
ー砂川さぁーんっ! 俺……もう、どうしていいかわからなくて……。
ーちょ――っ、落ち着いてください。どうしたんですか? 何があったんですか?
すごく優しい声で話しかけられて、少し落ち着いた俺はこれまでのことを砂川さんに全て話した。
ー涼平さんが俺以外の人と結婚式の写真を撮っていたのもショックだったんですけど、それ以上に隠し事をされていたことがショックで……。
ー涼平さんが……? 南條さん以外の人と結婚を考えていたなんて……俄かには信じ難い話ですね……。
ー俺だって信じたくないけど……でもっ! 今、確かにこの写真が俺の目の前にあるんです。俺……もうどうしていいか……。
ー南條さん、気持ちよくわかりますよ。私がもし伊織さんのそんな写真を見つけたら、過去のことだからなんて思えないですから。
ー砂川さぁーんっ! ありがとうございます。
ー南條さん、どこか行くあてがないんでしたら、私の……というか、伊織さんの実家に行かれませんか?
ーえっ……安慶名さんのご実家に? でも……俺、よく知らないですよ。ご迷惑じゃ?
ーふふっ。大丈夫です。私がよく南條さんたちのことをお話ししているので、皐月さんも南條さんと一度ゆっくりお話ししてみたいって仰ってたんです。だから、喜んでくださると思いますよ。確か、今日はご自宅にいらっしゃるはずなので、私から連絡を入れておきます。南條さんは安心して向かってください。
ーいい、のかな……?
ー大丈夫です。この電話の後、すぐに伊織さんの実家の住所送っておきますね。
そういうと、電話は切れた。
本当にいいんだろうかと思っている間に、砂川さんからは安慶名さんのご実家の住所が送られていて、すでにご実家には連絡済みで了承を得ていると書かれていた。
ここまでしてもらったなら、もう行くしかない。
俺は詰め込んだ自分の荷物を持って、タクシーを呼んだ。
途中でケーキ屋さんに寄ってもらい、いくつかのケーキを買って、安慶名さんのご実家に向かった。
「わぁっ、ここ……」
安慶名さんのご実家はすごく雰囲気のいい一軒家。
こんなところに住んでみたいなと思うほど素敵な佇まいだった。
緊張しながら、玄関の呼び鈴を鳴らすとすぐに門が開いた。
わぁ、かっこいい。
素敵な庭だな……なんてキョロキョロしながら中に進んでいくと、玄関から誰かが出てくるのが見えた。
「いらっしゃいっ!!」
俺の方に駆けてきたのは綺麗な男性。
この人が皐月さん、だろうか?
「は、はい。あの、今日は突然お邪魔してしまって……」
「そんな他人行儀な挨拶はいらないよ。南條くんのことはテレビでずっとみているから初めてっていう気がしないし、それに悠真くんからもいっぱい話を聞いてて、勝手に息子みたいに思ってるの。だから遠慮しないで」
優しくそう言われてなんだかすごく安心する。
なんだか本当の実家に帰ってきたみたいだ。
「ありがとうございます。あの、これ……俺が好きなところのケーキなんですけど……よかったら、一緒に食べたいなと思って……」
「わぁ! 私、ケーキ好きなんだ! ありがとう。じゃあ、一緒に食べよう。さぁ、中に入って」
グイグイと引っ張られるように中に連れて行かれる。
だけど全然嫌な気がしない。
こういう強引な感じ、すごく楽でいいな。
リビングも落ち着いた家具で揃えられていて、ホッとする。
ここが安慶名さんのご実家か……。
なんか雰囲気があってるかも。
「今ね、宗一郎さん……大学に行っているんだ。帰ってきたら紹介するね」
「あっ、はい。お二人とも大学で教授されてたんでしたね」
「ふふっ。宗一郎さんは退官したんだけど、でも時々呼ばれて特別講義をしに行っているんだよ」
「わぁ、すごいですね」
「宗一郎さんの講義は本当に面白くて、すぐに引き込まれるから学生人気がすごくって、聴講もものすごく多くてね」
「一度聞きに行ってみたいですね」
「ふふっ。その中でも特に涼平くんは宗一郎さんの講義が大好きでね、やっぱり夫夫は似るのかな」
「そんな……っ」
カバンの中に入れたあの写真を思い出して胸がズキンと痛む。
あの彼女も一緒に授業を聞いたりしていたんだろうか……。
「南條さん? ごめんね、何か気に障ることを言ったかな?」
「いいえ、そんなんじゃないんです。俺……ちょっと自信がなくなって……」
「悠真くんから少し話を聞いたけど、何か昔の写真を見つけたって……」
「はい。そうなんです……」
「もし、よかったらそれ……見せてもらってもいいかな?」
「はい」
俺はカバンからその写真を取り出し、皐月さんの目の前に差し出した。
「涼平さんの表情が本気っぽいのが不安でたまらなくて……」
「あらあら……本当に綺麗ね。それに涼平くんも素敵」
そう、二人ともとってもお似合いだからそれが余計に辛いんだ。
「それで……南條くんはこれをみてどう思ったの?」
「すごく……お似合いだなって……」
「じゃあ、彼女に涼平くんを返そうと思ってる?」
「えっ? そ、れは……」
そんなこと……考えてなかった。
ただ、その写真がショックで……。
「この写真の子がまだいるとして、南條くんが離れたら涼平くんのところに戻ってきちゃうかもしれないけど、それでもいい?」
「――っ!!! そんなのっ! 絶対嫌ですっ!!! だってっ!! 涼平さんは俺のだから!!!」
「ふふっ。それならよかった。ねっ、涼平くん!」
「えっ?」
皐月さんの言葉にびっくりして顔を上げると、キッチンの向こうから涼平さんがやってきた。
「朝陽……」
「えっ、な――っ、えっ? ど、うして……ここ、に?」
「お前が砂川さんに電話した時、一緒にいたんだ。今日は砂川さんは浅香のホテルで打ち合わせしてたからな。そこで全部話を聞いてた」
「――っ!!!」
「朝陽……俺のこと、信じられないか?」
「そんなことっ……でも、怖くて……」
「お前の気持ちもわかるよ、俺だって朝陽のそんな写真を見たら驚くし、不安にもなると思う。でも一人で考え込まないで一番に俺に聞いてほしい。俺は朝陽に嘘はつかないから……」
「涼平さん……」
「信じてくれるか?」
「はい。ごめんなさい……」
「朝陽……よかった。正直言って、お前が砂川さんに電話してくれて安心したよ。何も言わずにどこかに行っていたかと思ったら怖すぎる」
「涼平さん……」
ギュッと抱きしめられるその強さが心地いい。
「涼平くん、久しぶりで私の存在忘れてない?」
「あっ、すみません。鳴宮教授。今日は朝陽がお世話になって……」
「ふふっ。それは気にしないでいいよ。南條くんにはずっと会いたかったし。それで、あの写真のこと、南條くんにちゃんと話をしておいたほうがいいんじゃないの?」
「う――っ、はい……」
どうしたんだろう?
涼平さん、なんだかすっごく嫌そう……。
「朝陽……あの写真、よく見たか?」
「えっ? みた、けど……あんまりお似合いだったから、そこまでじっくりは見て、ないけど……」
「あれは、浅香だよ」
「えっ???? はっ? 敬介、さん? うそっ、だってあんなに美人で……っ」
「大学の学祭で無理やりタキシード着させられたんだよ。相手を女子にすると面倒だから嫌だって言ったら、じゃあ浅香をってことに決まって……だから、俺も浅香も嫌そうな顔してるだろ?」
そう言われてもう一度じっくりと写真を見れば、敬介さんに見えてきた。
「俺たちにとって黒歴史だったから、もう全部捨てたはずだったんだけど……。今頃お前が見つけるなんて思っても見なかったから何も言わなかったんだ」
「そう、だったんですね……俺、勝手に大騒ぎして……」
「ふふっ。それだけ涼平くんを愛してるってことだから、いいんじゃない?」
皐月さんにそうあっけらかんと言われて一気に顔が赤くなる。
「涼平くんも幸せね。こんなに愛してくれる人が見つかるなんて……」
「はい。教授たちに負けないくらい幸せですから」
「ふふっ。宗一郎さんにも涼平くんがそう言ってたって言っておくよ」
「うわーっ、それはちょっと……っ」
「ふふっ」
「ははっ」
一気に和やかな雰囲気の中で、ケーキを食べながら楽しい時を過ごした。
「南條くん、朝陽くんって呼んでもいいかな?」
「はい。ぜひ」
「またいつでも遊びに来て。朝陽くんにとっての実家だと思ってくれていいから」
「皐月さん……ありがとうございます」
優しい皐月さんに見送られながら、俺のプチ家出はあっという間に終わりを告げた。
でも素敵な実家ができたから、まぁよかったのかな。
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