13 / 45
噂の……
しおりを挟む
最後のリハビリの日。河北さんは約束通りいつもよりもずっと早く来てくれた。
もう不自由なく歩くことはできるけれど、河北さんは念のためだといって僕を車椅子に乗せてリハビリルームまで連れて行ってくれた。いつもの看護師さんも優しいけれど、河北さんはそれ以上に気遣ってくれて何も心配するところもなかった。
リハビリルームに入るとすぐに尚孝くんが駆け寄ってきてくれる。これはいつものことだけど、これももう終わりだと思うと少し寂しくなる。
退院してからもしばらくはリハビリに通うけれど、尚孝くんの実習も今日で終わりだから、次に来た時にはもう会えないから。そう思うと泣きそうになってしまうけれど、
「伊月くん! 今日でリハビリも一旦終了だよ! 本当によく頑張ったね!!」
と笑顔で尚孝くんが言ってくれるから、その気持ちに水を差したくない。僕は精一杯の笑顔を見せてお礼をいった。
そして、いつものようにすぐにリハビリに入ろうとする尚孝くんに、河北さんを紹介した。
尚孝くんは河北さんを見るなりすぐに笑顔になって、
「わぁ、この人が噂の……」
と言い始めて慌ててそれを遮った。
河北さんは少し気になっているようだったけど、なんとか誤魔化せたみたいでよかった。
僕がリハビリを始めると、河北さんは少し離れた場所で山野辺先生とお話をしているみたい。
そもそもこの病院は河北さんの知り合いに勧められたところだって話していたし、初めてのリハビリの時にも山野辺先生と話をしているからいろいろ僕のことを聞いているのかもしれない。
何を話されているのか、ちょっと気になっちゃうな。
「伊月くん、集中だよー」
「あ、ごめん」
「いやいや、授業参観みたいで気になっちゃうよね。気持ちわかるよ。でも噂の河北さん、すっごく優しそうでイケメンだね」
「うん。実際にすごく優しいよ。でもさっき尚孝くんが噂のとか言うからびっくりしちゃったよ」
「ははっ。ごめんごめん。でも毎日伊月くんから話を聞いてたから」
サラッと尚孝くんから言われて驚いてしまう。
「えっ? 僕、毎日話してた?」
「うん。毎日。もしかして自覚なかった?」
「いや、話してた、かも……」
考えてみれば、入院生活で話をする相手といえば、尚孝くんと山野辺先生。それに主治医の先生と看護師さん。病院関係者を外せば河北さんしかいない。だから、必然的に河北さんの話ばかりになっても不思議はないよね?
「僕、いつも伊月くんから河北さんの話聞くの楽しかったんだ。明日からそれがなくなると思うと寂しいね」
「尚孝くん……」
「あ、でも伊月くんが元気になって退院するのはすごく嬉しいんだよ。僕たち医療従事者は患者さんが笑顔で退院していく姿を見るのが嬉しいんだ。むしろ、その姿が見たくて頑張っているようなものだよ」
尚孝くんの目が少し潤んでいるのが見える。
嬉しいけど別れは悲しい。そういってくれているようで、僕も涙が出そうになる。
それを必死に抑えてなんとかリハビリを終えた。
「伊月くん、今日のお茶の時間は……」
「あ、河北さんが美味しいお菓子を持ってきてくれたから食べよう」
「わぁ、よかった。僕も伊月くんが気に入っていたロイヤルミルクティ持ってきたんだ」
僕は尚孝くんとテラスに向かう時に、河北さんに視線を向けると、笑顔で見送ってくれた。
尚孝くんとの最後の時間を楽しめるなんてほんと嬉しいな。
「明日は十時退院だった?」
「うん。今日のうちに片付けておかないとね」
「そっか」
「尚孝くんは、いつから学校?」
「うちは十月から。それまでに実習のまとめレポート仕上げないといけないんだ」
「わぁ、それは大変だね」
「うん。でも伊月くんが元気になってくれたからレポート書くの楽しいよ」
尚孝くんのレポートに僕が載る。なんだかそれがすごく嬉しく感じた。
河北さんと部屋に戻り、リハビリの感想を聞くと、すごく頑張ったねと手放しで褒めてくれた。
でも無理は禁物だって注意されちゃったけど。
尚孝くんにも無理しないように言われちゃったし……僕って無理しそうに見えるのかな。
「尚孝くんに河北さんの家にご厄介になることになったって話したんです。そうしたら河北さんが一緒なら安心だねって言ってもらえました」
安心してもらえるかなって思ったけれど、
「田淵くん、もしかしてこれまでも俺の話を谷垣さんにしてた?」
と尋ねられて一気に顔が赤くなるのがわかる。どうやら誤魔化せてたと思ったのは勘違いだったみたいだ。
知らないところで勝手に話題にされてたら嫌な気持ちがするだろうとおもったけれど河北さんは優しい言葉をかけてくれてホッとした。それどころか、明日は家で退院のお祝いをしようといってくれて涙が出そうになる。
大学入学が決まった日から僕は一人になったから、お祝いなんてもうとっくに忘れていたのに。
河北さんって本当に優しすぎる。
もう不自由なく歩くことはできるけれど、河北さんは念のためだといって僕を車椅子に乗せてリハビリルームまで連れて行ってくれた。いつもの看護師さんも優しいけれど、河北さんはそれ以上に気遣ってくれて何も心配するところもなかった。
リハビリルームに入るとすぐに尚孝くんが駆け寄ってきてくれる。これはいつものことだけど、これももう終わりだと思うと少し寂しくなる。
退院してからもしばらくはリハビリに通うけれど、尚孝くんの実習も今日で終わりだから、次に来た時にはもう会えないから。そう思うと泣きそうになってしまうけれど、
「伊月くん! 今日でリハビリも一旦終了だよ! 本当によく頑張ったね!!」
と笑顔で尚孝くんが言ってくれるから、その気持ちに水を差したくない。僕は精一杯の笑顔を見せてお礼をいった。
そして、いつものようにすぐにリハビリに入ろうとする尚孝くんに、河北さんを紹介した。
尚孝くんは河北さんを見るなりすぐに笑顔になって、
「わぁ、この人が噂の……」
と言い始めて慌ててそれを遮った。
河北さんは少し気になっているようだったけど、なんとか誤魔化せたみたいでよかった。
僕がリハビリを始めると、河北さんは少し離れた場所で山野辺先生とお話をしているみたい。
そもそもこの病院は河北さんの知り合いに勧められたところだって話していたし、初めてのリハビリの時にも山野辺先生と話をしているからいろいろ僕のことを聞いているのかもしれない。
何を話されているのか、ちょっと気になっちゃうな。
「伊月くん、集中だよー」
「あ、ごめん」
「いやいや、授業参観みたいで気になっちゃうよね。気持ちわかるよ。でも噂の河北さん、すっごく優しそうでイケメンだね」
「うん。実際にすごく優しいよ。でもさっき尚孝くんが噂のとか言うからびっくりしちゃったよ」
「ははっ。ごめんごめん。でも毎日伊月くんから話を聞いてたから」
サラッと尚孝くんから言われて驚いてしまう。
「えっ? 僕、毎日話してた?」
「うん。毎日。もしかして自覚なかった?」
「いや、話してた、かも……」
考えてみれば、入院生活で話をする相手といえば、尚孝くんと山野辺先生。それに主治医の先生と看護師さん。病院関係者を外せば河北さんしかいない。だから、必然的に河北さんの話ばかりになっても不思議はないよね?
「僕、いつも伊月くんから河北さんの話聞くの楽しかったんだ。明日からそれがなくなると思うと寂しいね」
「尚孝くん……」
「あ、でも伊月くんが元気になって退院するのはすごく嬉しいんだよ。僕たち医療従事者は患者さんが笑顔で退院していく姿を見るのが嬉しいんだ。むしろ、その姿が見たくて頑張っているようなものだよ」
尚孝くんの目が少し潤んでいるのが見える。
嬉しいけど別れは悲しい。そういってくれているようで、僕も涙が出そうになる。
それを必死に抑えてなんとかリハビリを終えた。
「伊月くん、今日のお茶の時間は……」
「あ、河北さんが美味しいお菓子を持ってきてくれたから食べよう」
「わぁ、よかった。僕も伊月くんが気に入っていたロイヤルミルクティ持ってきたんだ」
僕は尚孝くんとテラスに向かう時に、河北さんに視線を向けると、笑顔で見送ってくれた。
尚孝くんとの最後の時間を楽しめるなんてほんと嬉しいな。
「明日は十時退院だった?」
「うん。今日のうちに片付けておかないとね」
「そっか」
「尚孝くんは、いつから学校?」
「うちは十月から。それまでに実習のまとめレポート仕上げないといけないんだ」
「わぁ、それは大変だね」
「うん。でも伊月くんが元気になってくれたからレポート書くの楽しいよ」
尚孝くんのレポートに僕が載る。なんだかそれがすごく嬉しく感じた。
河北さんと部屋に戻り、リハビリの感想を聞くと、すごく頑張ったねと手放しで褒めてくれた。
でも無理は禁物だって注意されちゃったけど。
尚孝くんにも無理しないように言われちゃったし……僕って無理しそうに見えるのかな。
「尚孝くんに河北さんの家にご厄介になることになったって話したんです。そうしたら河北さんが一緒なら安心だねって言ってもらえました」
安心してもらえるかなって思ったけれど、
「田淵くん、もしかしてこれまでも俺の話を谷垣さんにしてた?」
と尋ねられて一気に顔が赤くなるのがわかる。どうやら誤魔化せてたと思ったのは勘違いだったみたいだ。
知らないところで勝手に話題にされてたら嫌な気持ちがするだろうとおもったけれど河北さんは優しい言葉をかけてくれてホッとした。それどころか、明日は家で退院のお祝いをしようといってくれて涙が出そうになる。
大学入学が決まった日から僕は一人になったから、お祝いなんてもうとっくに忘れていたのに。
河北さんって本当に優しすぎる。
663
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる