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内緒にしていたこと
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とりあえず中に入ろうと言われ、混乱しながら中に入るとそこはリビング。
明るい光と大きな窓に迎え入れられてもう驚きしかなかった。
窓の外には東京の景色が一望でき、初めて見る光景に感動してしまう。
好きに過ごしておいてと声をかけられたけれど、僕はその場から離れることができなかった。それほどまでにここからの景色は僕を惹きつけた。
「景色、気に入った?」
いつの間にか戻ってきた河北さんに尋ねられても尚、そこから離れられずに見入っていると、
「砂川くんちに行ったことはなかったの?」
と尋ねられる。
砂川くんち?
確かにこれまで何度か家で勉強しようと誘われたことはあったけれど、砂川くんが住んでいるお家がお兄さんが勤めている会社の社長さんから借りているお家だと聞いていたから、迷惑をかけてしまったら申し訳なくて今までお邪魔することはなかった。
僕のアパートには狭くて気疲れさせちゃうだろうと思って呼ぶこともできなかったし、こちらが呼べないのに砂川くんの家に行くなんてことはできなかった。
だから二人で勉強するときはもっぱら図書館。図書館には個室の勉強ルームがあるからそこだと気兼ねなくレポートを書けるし、必要な資料もすぐに図書館で探せるし、ものすごく都合がよかった。
だから、今でもお互いどんな家に住んでいるのかは知らないな。
でも河北さんが今、砂川くんの話題を出したっていうことは、結構高さがある部屋に住んでいるんだろう。
この景色を見た後だから、ちょっと行ってみたいなと思ってしまうな。
河北さんには砂川くんが誘ってくれたけど、迷惑かけちゃいけないと思って自分から断っていたと話した。だって、本当にその通りだもんね。
「さぁ、おいで。ジュースとお菓子があるよ」
僕のために用意してくれたんだと思うと、待たせちゃいけないと思って慌てて河北さんのところに行こうとすると、足がもつれて転びそうになってしまった。今までならこんなことはなかったけれど、やっぱり治っていると思ってもまだまだなんだろう。
――伊月くんはすぐに無理するから、気をつけてね。
尚孝くんのそんな声が聞こえるような気がする。
このまま転んでしまうと思ったのに、優しい腕に抱きしめられて思わず「ひゃっ!」と声が出た。
「ダメだよ。まだ足がしっかり治ったわけじゃないんだから。ここでは焦らなくていいからね」
尚孝くんと同じように河北さんにも優しく注意されて、僕は頷くしかなかった。
そのままソファーまで連れて行かれて優しく下ろされ、河北さんは僕の隣にそっと腰を下ろした。
まだ河北さんに抱きかかえられた感触が残っててドキドキする。
目の前のお菓子を食べてと勧められても喉を通らないかもと思って、ジュースが入ったグラスを手に取った。
わっ! 何これ、美味しい!!
まるで桃を食べているような味に驚きしかない。
「――っ、おいしいっ!」
もっとちゃんと味を言えたらいいのに、あまりにも美味しくて美味しいとしか言えない。
それでも河北さんは笑顔を見せてくれた。しかも僕のためにたくさん用意したとまで言ってくれて申し訳なさでいっぱいになるけれど、
「田淵くんが喜ぶのが見たくて買ったんだ。だから美味しいって言ってくれるだけで嬉しいよ」
と優しい言葉をかけてくれる。僕はどれだけ河北さんに恩返しをしたらいいのかもわからなくなっていた。
「河北さん……」
そう名前を呼ぶと、少し河北さんの顔が強張るのを感じた。何か変なことを言っただろうか? と不安になっていると、
「あのね、今日からここで田淵くんに住んでもらうから、いろいろ話をしておきたいことがあるんだけど」
と言われた。
確かに一緒に住むとなったらルールも必要だし、河北さんが過ごしやすいように僕も守らないとな。
「はい。なんでも言ってください。僕、頑張ります」
「そんな気を張らなくていいよ。実は……田淵くんに内緒にしていたことがあるんだ」
気合を入れた僕に、河北さんからそんな言葉が返ってきた。
僕に内緒にしてたこと? 一体なんだろう?
「河北さんが、僕に? なんですか?」
気になって尋ねると少し言いにくそうにしながら
「その名前だよ。本当は俺……河北じゃないんだ」
と想像していなかった答えが返ってきた。
河北じゃない? どういうこと?
頭の中がハテナでいっぱいだったけど、説明をしてくれたらすぐに納得できた。
内偵調査のために本名を使えなくて、事件が解決しても訂正するチャンスがなかなかなかったらしい。
確かに一度自己紹介をしたら、実は……というのは、いくら理由があったとしても話しにくいだろう。
「騙すようなことになってごめん」
そう謝られたけれど、僕は騙されたなんて何も思ってない。
河北さんが僕に優しくしてくれたのは変わらないのだから。
「あの……じゃ、お名前はなんて言うんですか?」
「俺は甲斐慎一だよ」
甲斐慎一……かっこよくて、河北さんより甲斐さんの方が似合ってるな。
明るい光と大きな窓に迎え入れられてもう驚きしかなかった。
窓の外には東京の景色が一望でき、初めて見る光景に感動してしまう。
好きに過ごしておいてと声をかけられたけれど、僕はその場から離れることができなかった。それほどまでにここからの景色は僕を惹きつけた。
「景色、気に入った?」
いつの間にか戻ってきた河北さんに尋ねられても尚、そこから離れられずに見入っていると、
「砂川くんちに行ったことはなかったの?」
と尋ねられる。
砂川くんち?
確かにこれまで何度か家で勉強しようと誘われたことはあったけれど、砂川くんが住んでいるお家がお兄さんが勤めている会社の社長さんから借りているお家だと聞いていたから、迷惑をかけてしまったら申し訳なくて今までお邪魔することはなかった。
僕のアパートには狭くて気疲れさせちゃうだろうと思って呼ぶこともできなかったし、こちらが呼べないのに砂川くんの家に行くなんてことはできなかった。
だから二人で勉強するときはもっぱら図書館。図書館には個室の勉強ルームがあるからそこだと気兼ねなくレポートを書けるし、必要な資料もすぐに図書館で探せるし、ものすごく都合がよかった。
だから、今でもお互いどんな家に住んでいるのかは知らないな。
でも河北さんが今、砂川くんの話題を出したっていうことは、結構高さがある部屋に住んでいるんだろう。
この景色を見た後だから、ちょっと行ってみたいなと思ってしまうな。
河北さんには砂川くんが誘ってくれたけど、迷惑かけちゃいけないと思って自分から断っていたと話した。だって、本当にその通りだもんね。
「さぁ、おいで。ジュースとお菓子があるよ」
僕のために用意してくれたんだと思うと、待たせちゃいけないと思って慌てて河北さんのところに行こうとすると、足がもつれて転びそうになってしまった。今までならこんなことはなかったけれど、やっぱり治っていると思ってもまだまだなんだろう。
――伊月くんはすぐに無理するから、気をつけてね。
尚孝くんのそんな声が聞こえるような気がする。
このまま転んでしまうと思ったのに、優しい腕に抱きしめられて思わず「ひゃっ!」と声が出た。
「ダメだよ。まだ足がしっかり治ったわけじゃないんだから。ここでは焦らなくていいからね」
尚孝くんと同じように河北さんにも優しく注意されて、僕は頷くしかなかった。
そのままソファーまで連れて行かれて優しく下ろされ、河北さんは僕の隣にそっと腰を下ろした。
まだ河北さんに抱きかかえられた感触が残っててドキドキする。
目の前のお菓子を食べてと勧められても喉を通らないかもと思って、ジュースが入ったグラスを手に取った。
わっ! 何これ、美味しい!!
まるで桃を食べているような味に驚きしかない。
「――っ、おいしいっ!」
もっとちゃんと味を言えたらいいのに、あまりにも美味しくて美味しいとしか言えない。
それでも河北さんは笑顔を見せてくれた。しかも僕のためにたくさん用意したとまで言ってくれて申し訳なさでいっぱいになるけれど、
「田淵くんが喜ぶのが見たくて買ったんだ。だから美味しいって言ってくれるだけで嬉しいよ」
と優しい言葉をかけてくれる。僕はどれだけ河北さんに恩返しをしたらいいのかもわからなくなっていた。
「河北さん……」
そう名前を呼ぶと、少し河北さんの顔が強張るのを感じた。何か変なことを言っただろうか? と不安になっていると、
「あのね、今日からここで田淵くんに住んでもらうから、いろいろ話をしておきたいことがあるんだけど」
と言われた。
確かに一緒に住むとなったらルールも必要だし、河北さんが過ごしやすいように僕も守らないとな。
「はい。なんでも言ってください。僕、頑張ります」
「そんな気を張らなくていいよ。実は……田淵くんに内緒にしていたことがあるんだ」
気合を入れた僕に、河北さんからそんな言葉が返ってきた。
僕に内緒にしてたこと? 一体なんだろう?
「河北さんが、僕に? なんですか?」
気になって尋ねると少し言いにくそうにしながら
「その名前だよ。本当は俺……河北じゃないんだ」
と想像していなかった答えが返ってきた。
河北じゃない? どういうこと?
頭の中がハテナでいっぱいだったけど、説明をしてくれたらすぐに納得できた。
内偵調査のために本名を使えなくて、事件が解決しても訂正するチャンスがなかなかなかったらしい。
確かに一度自己紹介をしたら、実は……というのは、いくら理由があったとしても話しにくいだろう。
「騙すようなことになってごめん」
そう謝られたけれど、僕は騙されたなんて何も思ってない。
河北さんが僕に優しくしてくれたのは変わらないのだから。
「あの……じゃ、お名前はなんて言うんですか?」
「俺は甲斐慎一だよ」
甲斐慎一……かっこよくて、河北さんより甲斐さんの方が似合ってるな。
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