18 / 45
名前で呼んでほしい
しおりを挟む
「甲斐さん」
そう呼びかけると、名前で呼んでもらいたいと言われてどきっとする。
僕が名前で呼んだりなんてそんなこといいのかな? と戸惑っていると、
「これからまた仕事で偽名を使うこともあるし、下の名前は変わらないから」
と言われて納得する。
確かにそうだ。偽名を使っているときに僕が何かのタイミングで甲斐さんと呼んでしまっておかしなことになったりすることもあるかもしれない。
それは甲斐さんの仕事にも影響を与えかねないし、邪魔するわけにはいかないもんね。
ドキドキしながら「慎一さん」と呼びかけると、ものすごい笑顔を見せてくれて、それがすごく可愛いと思ってしまった。
「あの、じゃあ僕のことも名前で呼んでください」
慎一さんのことを名前で呼ぶなら僕のことも名前で呼んでもらいたくてお願いすると、びっくりした表情をされてしまった。もしかして迷惑なお願いだったかな?
慎一さんには嫌われたくなくて、苗字でも……と言いかけたけれど、
「嫌なわけないよ。嬉しいよ、伊月くん」
と言われて嬉しくなる。
尚孝くんから伊月くんと呼ばれた時も嬉しかったけれど、慎一さんから呼ばれるのはまた違う気がする。
なんか、少し距離が縮まったような気がするからかもしれない。
「それで、伊月くんのこれからのことだけど……」
そう言われて、ここで暮らすことになった理由を思い出す。
そうだ。僕は遊びでここにいるんじゃない。慎一さんの役に立つためにきたんだ。しっかりと話を聞かなきゃ!
けれど、慎一さんの話は、僕が後ひと月は無理をしてはいけないことと、その間は学校にも通わずにオンラインで講義を受けることの説明だった。
ずっとお世話になりっぱなしだったから、退院したらすぐにでも慎一さんの役に立つつもりだったのに、まだひと月も慎一さんに迷惑をかけることになってしまうのが申し訳なくて仕方がない。
しかも、僕のためにオンラインでも講義を受けられるように話をしにいってくれて……何から何までお世話になりっぱなしだ。
だけど、慎一さんは優しいから僕が何もできなくても治るまで無理しないでいいよと言ってくれる。
それがさらに申し訳なさが募るけれど、ここで無理をして余計な手間をかけさせるわけにもいかないから、ここは大人しくしておくほうがいいだろう。
「あの、じゃあ家事はしっかりしますから」
家の中だけでも慎一さんの役に立ちたいという気持ちをぶつけたけれど、今はそこまで忙しい時期じゃないから無理しなくていいよと優しい言葉を返される。
本当に慎一さんって、優しすぎるくらい優しい人だな……。
僕は慎一さんに恩返しできるまで頑張るしかないな。
「とりあえず、大事な話は終わったからお菓子食べて。このクッキーすごく美味しいって評判だよ」
「あ、はい。いただきます」
目の前に出されたクッキーに手を伸ばす。顔に近づけただけでバターの香りが漂ってきて口に入れるとほろほろと崩れた。
慎一さんが食べさせてくれるお菓子は、全部僕が知っているものとは全く違う食べ物みたいだ。
一枚で我慢しようと思ったけれど、あまりの美味しさに我慢できずに三枚も食べてしまったけれど、慎一さんはそれを笑顔で見つめてくれた。
びっくりするくらいに美味しい桃ジュースを飲み干してしまったところで、部屋を案内すると言って連れて行かれる。
そうだ。僕はまだ玄関とこの広いリビングしか知らないんだ。
玄関とリビングだけでも今まで僕が住んでいたアパートの玄関からお風呂やトイレまでを足したよりも広いからちょっと緊張してしまう。
リビングを出てすぐ隣の扉の前で、
「ここが伊月くんの部屋だよ」
といいながら、慎一さんが扉を開ける。
「えっ、わっ! すごいっ!」
明るい光が差し込む広い部屋には、勉強しやすそうな机と、たくさんの本が並んだ本棚、そして座り心地が良さそうなソファーまで置いてあって、床にはふわふわの絨毯まで敷いてある。
一度でいいからこんな部屋で勉強してみたいとみんなが夢見るような空間がそこに広がっていて、僕はすごいとしか言えなかった。
ここで講義を受けられる……本当に夢みたいだ。
「この部屋が僕の部屋だなんて信じられない」
ついついほっぺたをつねってこれが現実で起こっていることなのかを確かめてみたくなるほど素敵な部屋に僕はすっかり浮かれてしまっていた。
そう呼びかけると、名前で呼んでもらいたいと言われてどきっとする。
僕が名前で呼んだりなんてそんなこといいのかな? と戸惑っていると、
「これからまた仕事で偽名を使うこともあるし、下の名前は変わらないから」
と言われて納得する。
確かにそうだ。偽名を使っているときに僕が何かのタイミングで甲斐さんと呼んでしまっておかしなことになったりすることもあるかもしれない。
それは甲斐さんの仕事にも影響を与えかねないし、邪魔するわけにはいかないもんね。
ドキドキしながら「慎一さん」と呼びかけると、ものすごい笑顔を見せてくれて、それがすごく可愛いと思ってしまった。
「あの、じゃあ僕のことも名前で呼んでください」
慎一さんのことを名前で呼ぶなら僕のことも名前で呼んでもらいたくてお願いすると、びっくりした表情をされてしまった。もしかして迷惑なお願いだったかな?
慎一さんには嫌われたくなくて、苗字でも……と言いかけたけれど、
「嫌なわけないよ。嬉しいよ、伊月くん」
と言われて嬉しくなる。
尚孝くんから伊月くんと呼ばれた時も嬉しかったけれど、慎一さんから呼ばれるのはまた違う気がする。
なんか、少し距離が縮まったような気がするからかもしれない。
「それで、伊月くんのこれからのことだけど……」
そう言われて、ここで暮らすことになった理由を思い出す。
そうだ。僕は遊びでここにいるんじゃない。慎一さんの役に立つためにきたんだ。しっかりと話を聞かなきゃ!
けれど、慎一さんの話は、僕が後ひと月は無理をしてはいけないことと、その間は学校にも通わずにオンラインで講義を受けることの説明だった。
ずっとお世話になりっぱなしだったから、退院したらすぐにでも慎一さんの役に立つつもりだったのに、まだひと月も慎一さんに迷惑をかけることになってしまうのが申し訳なくて仕方がない。
しかも、僕のためにオンラインでも講義を受けられるように話をしにいってくれて……何から何までお世話になりっぱなしだ。
だけど、慎一さんは優しいから僕が何もできなくても治るまで無理しないでいいよと言ってくれる。
それがさらに申し訳なさが募るけれど、ここで無理をして余計な手間をかけさせるわけにもいかないから、ここは大人しくしておくほうがいいだろう。
「あの、じゃあ家事はしっかりしますから」
家の中だけでも慎一さんの役に立ちたいという気持ちをぶつけたけれど、今はそこまで忙しい時期じゃないから無理しなくていいよと優しい言葉を返される。
本当に慎一さんって、優しすぎるくらい優しい人だな……。
僕は慎一さんに恩返しできるまで頑張るしかないな。
「とりあえず、大事な話は終わったからお菓子食べて。このクッキーすごく美味しいって評判だよ」
「あ、はい。いただきます」
目の前に出されたクッキーに手を伸ばす。顔に近づけただけでバターの香りが漂ってきて口に入れるとほろほろと崩れた。
慎一さんが食べさせてくれるお菓子は、全部僕が知っているものとは全く違う食べ物みたいだ。
一枚で我慢しようと思ったけれど、あまりの美味しさに我慢できずに三枚も食べてしまったけれど、慎一さんはそれを笑顔で見つめてくれた。
びっくりするくらいに美味しい桃ジュースを飲み干してしまったところで、部屋を案内すると言って連れて行かれる。
そうだ。僕はまだ玄関とこの広いリビングしか知らないんだ。
玄関とリビングだけでも今まで僕が住んでいたアパートの玄関からお風呂やトイレまでを足したよりも広いからちょっと緊張してしまう。
リビングを出てすぐ隣の扉の前で、
「ここが伊月くんの部屋だよ」
といいながら、慎一さんが扉を開ける。
「えっ、わっ! すごいっ!」
明るい光が差し込む広い部屋には、勉強しやすそうな机と、たくさんの本が並んだ本棚、そして座り心地が良さそうなソファーまで置いてあって、床にはふわふわの絨毯まで敷いてある。
一度でいいからこんな部屋で勉強してみたいとみんなが夢見るような空間がそこに広がっていて、僕はすごいとしか言えなかった。
ここで講義を受けられる……本当に夢みたいだ。
「この部屋が僕の部屋だなんて信じられない」
ついついほっぺたをつねってこれが現実で起こっていることなのかを確かめてみたくなるほど素敵な部屋に僕はすっかり浮かれてしまっていた。
625
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる