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気楽に旅を……
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『あ、あの……』
『ああ。ごめん、ついナツキが可愛すぎて抱きしめてしまった。もうすぐ離陸だから仕方がない。少しの間だけ下ろすよ』
そう言って僕を膝から下ろして隣の席に座らせてくれた。
隣の席と言ってもシートベルトをしているだけで椅子と椅子の間は独立していないし、ソファーのようになっているからピッタリと腰に手を回されているし、正直膝に乗っている時とあんまり変わらない気がするんだけど……。
『あの、ヴィル……』
『んっ? どうした? 怖い? 大丈夫だよ、私がついてるから』
『あ、いや……そうじゃなくて、あの、プライベートジェットの中は恋人のふりをしなくても、いいのかなって……』
『えっ?』
『あの、だって……ヴィルも大変でしょう? 僕なんかにそんなに気を遣って……だから飛行機の中くらいゆっくりしてほしいなって……』
また現地に着いたら、僕なんかと恋人のふりなんて大変なのに……。
せめて人の目がないところくらい、自由に過ごしてくれていいのになって思ったんだけど、ヴィルは僕の話を黙って聞いてたかと思ったら、突然
『くっ、ははっ……っ』
と大声で笑い出した。
『えっ? ヴィル……どう、したんですか?』
『ああ、ごめん。ごめん。ナツキが真剣に私のことを考えてくれてるのが可愛くって、つい』
『あの、さっきから可愛いとか、その……て、天使とか……恥ずかしい、んですけど……』
『どうして? ナツキはこんなに可愛いのに』
『わっ!』
腰に回された腕でさらにギュッと抱きしめられる。
もう鼓動も伝わりそうなくらい近いんだけど……。
『もう離陸するからこのままでいて』
離れようと身動いだらそんなふうに言われて、結局安定飛行に入るまでずっと抱きしめられ続けてしまった。
『ほら、ナツキ。見てごらん。景色が綺麗に見えているよ』
そう言われて外に目を向ければ、雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。
『わぁー、本当だ。今日は旅行日和になりましたね』
あまりの綺麗な景色に感動して、ヴィルに笑顔を向けると、ヴィルは僕のベルトを外し、僕はさっと膝の上に乗せられてしまった。
『あ、あのちょっと……』
『さっきのナツキの質問だけど、誰の目が無くても、ちゃんと恋人として振る舞っておかないといざという時にボロが出るものだよ。だから、ナツキはこの旅行中、本当に私が恋人だと思って接してほしいんだ。ここでは恋人だとか、ここでは違うとか変えるよりずっと楽になると思わないか? 大体そういう雰囲気でバレるものだから、バレたらマーカスとサトルにも迷惑かけてしまうだろう?』
うーん、確かにそう言われればそうかも……だけど、ヴィルを本当の恋人だと思うなんて……僕にできるかな?
『あの……恋人として振る舞う、って……どうしたら、いいですか?』
『どうしたらって?』
『あの……お恥ずかしい話なんですけど……僕、今までに誰とも、その……お付き合いしたことがなくて……どういうふうにしたら恋人に見えるのかなって、あんまりわからなくて……』
『くっ――! ナツキ。それは本当かい?』
『えっ?』
『誰とも付き合ったことがないって……』
『あ、はい。そうです。だから何もわからなくて……』
そういうと、ヴィルはなぜか嬉しそうに笑って僕を強く抱きしめた。
『そうか、なら心配はいらないよ。全て私のする通りにしたらいい。それに、私たちの見本はマーカスとサトルだから、あの2人と同じことをしていたら、恋人に見えるよ』
『でも……ヴィルは嫌じゃないですか? 僕みたいな子どもと恋人のように振る舞うなんて……』
『ふふっ。愚問だな。嫌なら最初からマーカスについてきたりしないよ。ナツキと恋人になれるなんて嬉しいしかないな』
本当にフランス人ってお世辞が上手なんだな。
いや、ヴィルが優しいのか。
『ナツキ、せっかくの旅行だ。気を遣わずに楽しまないか? ナツキが恥ずかしがらずに楽しんでくれたら、自ずと恋人に見えると思うんだよ。ナツキはどう思う?』
確かに大分なんて、こんな機会でもないと僕みたいな貧乏学生には一生行けないだろうし。
就職したらしたでそんな時間も余裕もないだろうし、何もかも奢りで、しかもプライベートジェットで気も遣わずに旅行だなんて……考えてみれば、一生分使い果たしちゃったくらいの幸運だよね。
それなのにいちいち考えるなんて時間が勿体無いかも。
そっか、そうだよね。
『僕も……そう、思います』
『だろう? じゃあ、これからは気楽に旅を楽しもう!』
ヴィルは嬉しそうにそういうと、僕を抱き上げたまま立ち上がった。
『えっ? どこいくんですか?』
『部屋だよ。ずっと座っているのは疲れるだろう? 部屋の方がゆっくりできるからな。マーカスとサトルも部屋に行ってるし、私たちも行こう』
飛行機の中に部屋?
もう想像もつかないけど、今回の旅は全てイレギュラーというか、スペシャルだから、もう気にするのはやめよう。
そう思っていたけど、途轍もない大きな部屋にやっぱり僕は驚いてしまった。
てっきり教授とマーカスさんも一緒の部屋だと思ったけれど、2人は別の部屋があるらしい。
さすがプライベートジェット……。
驚きすぎておかしくなりそうだ。
『ナツキ、ケーキでも食べるかい?』
美味しいケーキや美味しいコーヒーを出してもらって、至れり尽くせりされているとなんだか眠くなってきてしまう。
昨日、教授とその恋人さんたちとの旅行だってことで緊張してあまり眠れなかったせいだな、きっと。
『ふふっ。眠そうだな。まだ着陸するまでには時間があるから、ベッドで休むといい』
『でも、僕が寝たらヴィルが……』
『気を遣わないでいいと言ったろう?』
ヴィルの優しさに甘えて結局寝かせてもらうことになったけれど、相当眠かったのか一瞬で落ちてしまったみたいだ。
あったかくていい匂いがするし、こんなベッド初めてだ……。
『ああ。ごめん、ついナツキが可愛すぎて抱きしめてしまった。もうすぐ離陸だから仕方がない。少しの間だけ下ろすよ』
そう言って僕を膝から下ろして隣の席に座らせてくれた。
隣の席と言ってもシートベルトをしているだけで椅子と椅子の間は独立していないし、ソファーのようになっているからピッタリと腰に手を回されているし、正直膝に乗っている時とあんまり変わらない気がするんだけど……。
『あの、ヴィル……』
『んっ? どうした? 怖い? 大丈夫だよ、私がついてるから』
『あ、いや……そうじゃなくて、あの、プライベートジェットの中は恋人のふりをしなくても、いいのかなって……』
『えっ?』
『あの、だって……ヴィルも大変でしょう? 僕なんかにそんなに気を遣って……だから飛行機の中くらいゆっくりしてほしいなって……』
また現地に着いたら、僕なんかと恋人のふりなんて大変なのに……。
せめて人の目がないところくらい、自由に過ごしてくれていいのになって思ったんだけど、ヴィルは僕の話を黙って聞いてたかと思ったら、突然
『くっ、ははっ……っ』
と大声で笑い出した。
『えっ? ヴィル……どう、したんですか?』
『ああ、ごめん。ごめん。ナツキが真剣に私のことを考えてくれてるのが可愛くって、つい』
『あの、さっきから可愛いとか、その……て、天使とか……恥ずかしい、んですけど……』
『どうして? ナツキはこんなに可愛いのに』
『わっ!』
腰に回された腕でさらにギュッと抱きしめられる。
もう鼓動も伝わりそうなくらい近いんだけど……。
『もう離陸するからこのままでいて』
離れようと身動いだらそんなふうに言われて、結局安定飛行に入るまでずっと抱きしめられ続けてしまった。
『ほら、ナツキ。見てごらん。景色が綺麗に見えているよ』
そう言われて外に目を向ければ、雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。
『わぁー、本当だ。今日は旅行日和になりましたね』
あまりの綺麗な景色に感動して、ヴィルに笑顔を向けると、ヴィルは僕のベルトを外し、僕はさっと膝の上に乗せられてしまった。
『あ、あのちょっと……』
『さっきのナツキの質問だけど、誰の目が無くても、ちゃんと恋人として振る舞っておかないといざという時にボロが出るものだよ。だから、ナツキはこの旅行中、本当に私が恋人だと思って接してほしいんだ。ここでは恋人だとか、ここでは違うとか変えるよりずっと楽になると思わないか? 大体そういう雰囲気でバレるものだから、バレたらマーカスとサトルにも迷惑かけてしまうだろう?』
うーん、確かにそう言われればそうかも……だけど、ヴィルを本当の恋人だと思うなんて……僕にできるかな?
『あの……恋人として振る舞う、って……どうしたら、いいですか?』
『どうしたらって?』
『あの……お恥ずかしい話なんですけど……僕、今までに誰とも、その……お付き合いしたことがなくて……どういうふうにしたら恋人に見えるのかなって、あんまりわからなくて……』
『くっ――! ナツキ。それは本当かい?』
『えっ?』
『誰とも付き合ったことがないって……』
『あ、はい。そうです。だから何もわからなくて……』
そういうと、ヴィルはなぜか嬉しそうに笑って僕を強く抱きしめた。
『そうか、なら心配はいらないよ。全て私のする通りにしたらいい。それに、私たちの見本はマーカスとサトルだから、あの2人と同じことをしていたら、恋人に見えるよ』
『でも……ヴィルは嫌じゃないですか? 僕みたいな子どもと恋人のように振る舞うなんて……』
『ふふっ。愚問だな。嫌なら最初からマーカスについてきたりしないよ。ナツキと恋人になれるなんて嬉しいしかないな』
本当にフランス人ってお世辞が上手なんだな。
いや、ヴィルが優しいのか。
『ナツキ、せっかくの旅行だ。気を遣わずに楽しまないか? ナツキが恥ずかしがらずに楽しんでくれたら、自ずと恋人に見えると思うんだよ。ナツキはどう思う?』
確かに大分なんて、こんな機会でもないと僕みたいな貧乏学生には一生行けないだろうし。
就職したらしたでそんな時間も余裕もないだろうし、何もかも奢りで、しかもプライベートジェットで気も遣わずに旅行だなんて……考えてみれば、一生分使い果たしちゃったくらいの幸運だよね。
それなのにいちいち考えるなんて時間が勿体無いかも。
そっか、そうだよね。
『僕も……そう、思います』
『だろう? じゃあ、これからは気楽に旅を楽しもう!』
ヴィルは嬉しそうにそういうと、僕を抱き上げたまま立ち上がった。
『えっ? どこいくんですか?』
『部屋だよ。ずっと座っているのは疲れるだろう? 部屋の方がゆっくりできるからな。マーカスとサトルも部屋に行ってるし、私たちも行こう』
飛行機の中に部屋?
もう想像もつかないけど、今回の旅は全てイレギュラーというか、スペシャルだから、もう気にするのはやめよう。
そう思っていたけど、途轍もない大きな部屋にやっぱり僕は驚いてしまった。
てっきり教授とマーカスさんも一緒の部屋だと思ったけれど、2人は別の部屋があるらしい。
さすがプライベートジェット……。
驚きすぎておかしくなりそうだ。
『ナツキ、ケーキでも食べるかい?』
美味しいケーキや美味しいコーヒーを出してもらって、至れり尽くせりされているとなんだか眠くなってきてしまう。
昨日、教授とその恋人さんたちとの旅行だってことで緊張してあまり眠れなかったせいだな、きっと。
『ふふっ。眠そうだな。まだ着陸するまでには時間があるから、ベッドで休むといい』
『でも、僕が寝たらヴィルが……』
『気を遣わないでいいと言ったろう?』
ヴィルの優しさに甘えて結局寝かせてもらうことになったけれど、相当眠かったのか一瞬で落ちてしまったみたいだ。
あったかくていい匂いがするし、こんなベッド初めてだ……。
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