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番外編
この世の全ての幸せを
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「瑞季、今日は早く仕事が終わる予定だから、また二人で城下に行って甜品でも食べに行こうか?」
「あの……哉藍のお誘いは嬉しいのですが、先ほどからどうも体調が優れなくて……」
「なに? それならすぐに医師を呼ぼう」
「い、いえ。そんな大したことではないのです。ほんの少し気怠いだけで、お忙しいお医者さまのお手を煩わせるわけには参りません」
「なにを言っているのだ。この天翠帝国にとっても、この私にとっても瑞季が元気であることが何よりも重要なことなのだぞ。ほんの少しでも体調に異変があるのなら、診察を受けておくほうが安心だ。そうだろう?」
瑞季にそう話をしながら、少し前に瑞季が自分にヒートが来るかどうかを診てほしいと話していたことを思い出した。
それからすぐにヒートがやってきて、とりあえず懸念材料がなくなったことから、少し様子をみようということになっていたのだが、そういえば、以前医師が話していたことがあったな。
相性の良いαとΩなら、ヒートを過ごしてすぐに妊娠がわかると。
もしや、瑞季の体調不良は妊娠ではないか?
そんな考えが頭をよぎったが、ここで瑞季に妊娠の可能性があるかもしれないと伝えて、もし違うことになれば、きっと瑞季のことだ。
自分が欠陥品だから妊娠ができないと思い込んでしまうことだろう。
私と出会ってからずっと、瑞季は欠陥品なのではなく、私のためだけに存在してくれていたからこそ、私と出会うまで発情しなかったのだと言い続けてきた。
先日、無事に二度目のヒートが来たことでようやく瑞季の自信にも繋がっていたところだったのに、ここでそれが崩されてしまうのは本意ではない。
だから、あくまでも冷静に、妊娠の事など噯にも出さずに、医師の診察を受けさせるとしよう。
「診察を受けてなにもなければ私も安心だ。瑞季……私のために診察を受けてくれないか?」
「哉藍……わかりました。哉藍がそんなにも私のことを思ってくださるのでしたら、喜んで診察をお受けします。でも……」
「どうした?」
「あの、哉藍も一緒にいてくださいますか?」
「――っ、ああ。もちろんだとも。私と瑞季は一心同体。離れたりはしないよ」
「嬉しい……っ」
可愛い瑞季を抱きしめ、寝室ではなく広いソファーに休ませる。
そして、そのまま私の持つ铃を鳴らすと、滄波が部屋に飛んできた。
すぐに医師を呼ぶようにと指示を出し、あっという間に天宮専属医師の俊煕がやってきた。
「俊煕、私の愛しい瑞季が体調を崩したようだ、しっかりと診てやってくれ」
「は、はい。失礼致します」
頭を下げたまま、私たちの部屋に入ってきた俊煕は、ゆっくりと頭をあげ、瑞季の顔を見るや否や、ハッと表情を変えた。
しかしすぐに平常に戻り、そっと瑞季の元に近づくと、
「奥方さま、お手を失礼致します」
と言って、瑞季の左手首に静かに指を当てた。
目を瞑り、しばらくその状態を続けてから
「朱皇帝さま。発言をお許しいただけるでしょうか?」
と問うてくる。
「ああ、許す。述べよ」
「はい。奥方さまにおかれましては、ご懐妊の兆候が見られます」
「えっ?」
「――っ、まことか?」
「はい。後ほど詳しい検査が必要になりますが、間違いはないと存じます」
それだけいうと、俊煕はすぐに部屋を出て行った。
瑞季は俊煕が出て行ったことにも気づかず混乱に陥っていた。
「えっ、あの、えっ? ご、かいにんって……せ、いらん……っ、わたし……」
目を丸くしたまま私をみる瑞季の肩を優しく抱きながら、
「ああ、瑞季! よくやってくれた。瑞季のお腹に私と瑞季の子がいるのだぞ!」
と瑞季の小さな腹に手を当ててみせた。
「せい、らんと、わたしの……ほんとに……?」
「ああ、本当だとも。ありがとう、瑞季。私を父にしてくれるのだな」
「――っ!!! 哉藍っ! 嬉しいっ!!」
ずっとΩとして欠陥品だと言われ続けてきた瑞季にとっては妊娠を告げられたことは何にも変え難いほど嬉しいことだったに違いない。
「瑞季、これからは絶対に無理をしてはいけないぞ。私に瑞季とお腹の子を守らせてくれ」
「はい、哉藍……よろしくお願いします」
ああ、私はこの世の全ての幸せを手に入れたのだ。
「あの……哉藍のお誘いは嬉しいのですが、先ほどからどうも体調が優れなくて……」
「なに? それならすぐに医師を呼ぼう」
「い、いえ。そんな大したことではないのです。ほんの少し気怠いだけで、お忙しいお医者さまのお手を煩わせるわけには参りません」
「なにを言っているのだ。この天翠帝国にとっても、この私にとっても瑞季が元気であることが何よりも重要なことなのだぞ。ほんの少しでも体調に異変があるのなら、診察を受けておくほうが安心だ。そうだろう?」
瑞季にそう話をしながら、少し前に瑞季が自分にヒートが来るかどうかを診てほしいと話していたことを思い出した。
それからすぐにヒートがやってきて、とりあえず懸念材料がなくなったことから、少し様子をみようということになっていたのだが、そういえば、以前医師が話していたことがあったな。
相性の良いαとΩなら、ヒートを過ごしてすぐに妊娠がわかると。
もしや、瑞季の体調不良は妊娠ではないか?
そんな考えが頭をよぎったが、ここで瑞季に妊娠の可能性があるかもしれないと伝えて、もし違うことになれば、きっと瑞季のことだ。
自分が欠陥品だから妊娠ができないと思い込んでしまうことだろう。
私と出会ってからずっと、瑞季は欠陥品なのではなく、私のためだけに存在してくれていたからこそ、私と出会うまで発情しなかったのだと言い続けてきた。
先日、無事に二度目のヒートが来たことでようやく瑞季の自信にも繋がっていたところだったのに、ここでそれが崩されてしまうのは本意ではない。
だから、あくまでも冷静に、妊娠の事など噯にも出さずに、医師の診察を受けさせるとしよう。
「診察を受けてなにもなければ私も安心だ。瑞季……私のために診察を受けてくれないか?」
「哉藍……わかりました。哉藍がそんなにも私のことを思ってくださるのでしたら、喜んで診察をお受けします。でも……」
「どうした?」
「あの、哉藍も一緒にいてくださいますか?」
「――っ、ああ。もちろんだとも。私と瑞季は一心同体。離れたりはしないよ」
「嬉しい……っ」
可愛い瑞季を抱きしめ、寝室ではなく広いソファーに休ませる。
そして、そのまま私の持つ铃を鳴らすと、滄波が部屋に飛んできた。
すぐに医師を呼ぶようにと指示を出し、あっという間に天宮専属医師の俊煕がやってきた。
「俊煕、私の愛しい瑞季が体調を崩したようだ、しっかりと診てやってくれ」
「は、はい。失礼致します」
頭を下げたまま、私たちの部屋に入ってきた俊煕は、ゆっくりと頭をあげ、瑞季の顔を見るや否や、ハッと表情を変えた。
しかしすぐに平常に戻り、そっと瑞季の元に近づくと、
「奥方さま、お手を失礼致します」
と言って、瑞季の左手首に静かに指を当てた。
目を瞑り、しばらくその状態を続けてから
「朱皇帝さま。発言をお許しいただけるでしょうか?」
と問うてくる。
「ああ、許す。述べよ」
「はい。奥方さまにおかれましては、ご懐妊の兆候が見られます」
「えっ?」
「――っ、まことか?」
「はい。後ほど詳しい検査が必要になりますが、間違いはないと存じます」
それだけいうと、俊煕はすぐに部屋を出て行った。
瑞季は俊煕が出て行ったことにも気づかず混乱に陥っていた。
「えっ、あの、えっ? ご、かいにんって……せ、いらん……っ、わたし……」
目を丸くしたまま私をみる瑞季の肩を優しく抱きながら、
「ああ、瑞季! よくやってくれた。瑞季のお腹に私と瑞季の子がいるのだぞ!」
と瑞季の小さな腹に手を当ててみせた。
「せい、らんと、わたしの……ほんとに……?」
「ああ、本当だとも。ありがとう、瑞季。私を父にしてくれるのだな」
「――っ!!! 哉藍っ! 嬉しいっ!!」
ずっとΩとして欠陥品だと言われ続けてきた瑞季にとっては妊娠を告げられたことは何にも変え難いほど嬉しいことだったに違いない。
「瑞季、これからは絶対に無理をしてはいけないぞ。私に瑞季とお腹の子を守らせてくれ」
「はい、哉藍……よろしくお願いします」
ああ、私はこの世の全ての幸せを手に入れたのだ。
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