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番外編
瑞季の食べたいもの
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「うっ……」
「瑞季、無理をしないでいい。滄波、すぐにこれを下げろ!」
子ができたとわかってしばらくは落ち着いていた瑞季だったが、三日ほど前から全ての食事を受け付けられなくなってしまった。天宮専属医師の俊煕と天宮料理人が瑞季のために食べやすい食事を考えて出しているが、瑞季には匂いすら受け付けられないようだ。
「哉藍……申し訳ありません」
「何を言っている。瑞季が謝ることではないぞ」
「でも……」
「気にしなくていい。辛いのは瑞季の方なのだからな。それよりも何か欲しいものはないか? なんでもいい。私が必ず用意させる」
この天翠帝国の皇帝である私にできないことはない。瑞季のためならどのようなことでも絶対に叶えてみせる。だが、欲のない瑞季から私に願いをいうことはほとんどない。唯一私に望んだものが、私と過ごす時間だったくらいだ。本当に欲がなさすぎる。
だが、今回は違う。瑞季の食べたいものは腹の子の食べたいものでもあるのだ。
私は愛しい伴侶と愛する我が子のために望むものを用意してあげたい。
一縷の望みをかけて、瑞季に願いを言うように告げると、瑞季は少し言いづらそうにしながらも口を開いた。
「あの……哉藍。嫌なら、断ってください」
「なんだ? 何が欲しい?」
「あの、私……哉藍が口に入れたものなら、食べられそうな気がするんです」
「えっ?」
「申し訳ありません。でも、本当に美味しそうで……」
最初は理解が追いつかなかった。
瑞季が、私が口に入れたものなら食べられそうだと。しかも美味しそうだとまで言ってくれるなんて……。
「瑞季……それは、まことか?」
「はい。でも、そんなの嫌ですよね?」
「何を言うんだ! 愛しい伴侶からそのようなことを望まれて嫌だと思うわけがない」
「本当ですか?」
「ああ。本当だとも。瑞季が望むなら、喜んで食べてもらいたいくらいだ」
私の言葉に青白い顔にうっすらと赤みがさす。ああ、なんて可愛らしいのだろう。
「それなら、瑞季。何が食べたい?」
私の前にある皿を見ながら尋ねると、果物がいいと言ってくれる。私は瑞々しい梨を口に含み、少し噛み砕いてから瑞季に口付けた。そして、ゆっくりと食べさせると、瑞季はうっとりとした表情をみせ、口に入れた果物を美味しそうに味わってゴクリと飲み込んだ。
「瑞季、どうだ?」
「すごく美味しいです。これならなんでもいただけそうです」
「――っ、そうか! それなら、もう少し食べるとしよう」
「はい」
一口ごとに私の口に入れ、少し噛み砕いたものを口移しで瑞季に食べさせると、瑞季はここ最近とは比べ物にならないほどの量を食べることができた。
「いっぱい食べられたのは哉藍のおかげです。これなら私もこれからも食べられそうですが、毎食このような食事の仕方では、哉藍が疲れてしまうのではありませんか?」
「いや、瑞季がおいしく食べてくれたと言うことは腹の子も望んでくれたと言うことだ。私と瑞季と二人で腹の子を育てていると思えばこれほど嬉しいことはない。そうだろう?」
「哉藍……。はい、私も嬉しいです」
瑞季が嬉しそうに笑いながら私に抱きついてくる。
ああ、私にとっては幸せなことばかりだ。
なんせ、料理を食べるたびに瑞季と甘い口付けができるのだからな。
医師の俊煕は瑞季が突然食事ができたことに驚いていたが、私の口に入れたものなら食べられたと話をしたところ、どうやら私の唾液に効果があったのだろうということだった。
私たちは特に希少なαとΩ。体液も唾液も相性は最高だからこそ、瑞季の重い悪阻も和らげることができたのだろう。
そんな効果があったことに瑞季が気づいたわけではないだろうが、きっと本能で知ったのだろうな。
それからは、私は毎日瑞季に口移しで食事を与えた。そのおかげで瑞季の体調はすっかり良くなり、腹の子も順調に成長しているようだ。
そうして今日もまた、甘い口付けをしながらの食事が始まる。
「瑞季、無理をしないでいい。滄波、すぐにこれを下げろ!」
子ができたとわかってしばらくは落ち着いていた瑞季だったが、三日ほど前から全ての食事を受け付けられなくなってしまった。天宮専属医師の俊煕と天宮料理人が瑞季のために食べやすい食事を考えて出しているが、瑞季には匂いすら受け付けられないようだ。
「哉藍……申し訳ありません」
「何を言っている。瑞季が謝ることではないぞ」
「でも……」
「気にしなくていい。辛いのは瑞季の方なのだからな。それよりも何か欲しいものはないか? なんでもいい。私が必ず用意させる」
この天翠帝国の皇帝である私にできないことはない。瑞季のためならどのようなことでも絶対に叶えてみせる。だが、欲のない瑞季から私に願いをいうことはほとんどない。唯一私に望んだものが、私と過ごす時間だったくらいだ。本当に欲がなさすぎる。
だが、今回は違う。瑞季の食べたいものは腹の子の食べたいものでもあるのだ。
私は愛しい伴侶と愛する我が子のために望むものを用意してあげたい。
一縷の望みをかけて、瑞季に願いを言うように告げると、瑞季は少し言いづらそうにしながらも口を開いた。
「あの……哉藍。嫌なら、断ってください」
「なんだ? 何が欲しい?」
「あの、私……哉藍が口に入れたものなら、食べられそうな気がするんです」
「えっ?」
「申し訳ありません。でも、本当に美味しそうで……」
最初は理解が追いつかなかった。
瑞季が、私が口に入れたものなら食べられそうだと。しかも美味しそうだとまで言ってくれるなんて……。
「瑞季……それは、まことか?」
「はい。でも、そんなの嫌ですよね?」
「何を言うんだ! 愛しい伴侶からそのようなことを望まれて嫌だと思うわけがない」
「本当ですか?」
「ああ。本当だとも。瑞季が望むなら、喜んで食べてもらいたいくらいだ」
私の言葉に青白い顔にうっすらと赤みがさす。ああ、なんて可愛らしいのだろう。
「それなら、瑞季。何が食べたい?」
私の前にある皿を見ながら尋ねると、果物がいいと言ってくれる。私は瑞々しい梨を口に含み、少し噛み砕いてから瑞季に口付けた。そして、ゆっくりと食べさせると、瑞季はうっとりとした表情をみせ、口に入れた果物を美味しそうに味わってゴクリと飲み込んだ。
「瑞季、どうだ?」
「すごく美味しいです。これならなんでもいただけそうです」
「――っ、そうか! それなら、もう少し食べるとしよう」
「はい」
一口ごとに私の口に入れ、少し噛み砕いたものを口移しで瑞季に食べさせると、瑞季はここ最近とは比べ物にならないほどの量を食べることができた。
「いっぱい食べられたのは哉藍のおかげです。これなら私もこれからも食べられそうですが、毎食このような食事の仕方では、哉藍が疲れてしまうのではありませんか?」
「いや、瑞季がおいしく食べてくれたと言うことは腹の子も望んでくれたと言うことだ。私と瑞季と二人で腹の子を育てていると思えばこれほど嬉しいことはない。そうだろう?」
「哉藍……。はい、私も嬉しいです」
瑞季が嬉しそうに笑いながら私に抱きついてくる。
ああ、私にとっては幸せなことばかりだ。
なんせ、料理を食べるたびに瑞季と甘い口付けができるのだからな。
医師の俊煕は瑞季が突然食事ができたことに驚いていたが、私の口に入れたものなら食べられたと話をしたところ、どうやら私の唾液に効果があったのだろうということだった。
私たちは特に希少なαとΩ。体液も唾液も相性は最高だからこそ、瑞季の重い悪阻も和らげることができたのだろう。
そんな効果があったことに瑞季が気づいたわけではないだろうが、きっと本能で知ったのだろうな。
それからは、私は毎日瑞季に口移しで食事を与えた。そのおかげで瑞季の体調はすっかり良くなり、腹の子も順調に成長しているようだ。
そうして今日もまた、甘い口付けをしながらの食事が始まる。
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