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至福のひととき
『こ、これでいいのか?』
正面にファスナーがあるのはありがたい。
これが背中であれば、誰かに頼まなくてはいけなかったからな。
腹のもふもふとした毛がファスナーを綺麗に隠してくれているから助かる。
目の前にいたミヅキに声をかけると、灰色の狼がこちらを振り向く。
『ははっ。あまりにも美形な狼だな』
『ふふっ。それはロレーヌも同じでしょう。王者の風格が漂って、実に凛々しいですよ』
『そうか? こういったものを着るのは初めてだからな』
『なんだ、ロレーヌ。俺と佳都が贈った白い犬の着ぐるみパジャマは着なかったのか?』
「んっ? あ、ああ。いや……』
最初にもらった着ぐるみパジャマの存在をアヤシロに思い出されて、なんと言おうかと悩んでいると、
『ユヅルさまのために私が旦那さまの知らない場所に保管いたしましたので、まだお召しになっていないのです』
とジュールが説明してしまった。
『ユヅルさまのために、って……ははーん、ロレーヌ。そういうことか?』
全てわかったとでもいうようにニヤついた目を向けてくる。
本当にアヤシロはこういうことにも察しがいい。
『仕方がないだろう。日本と違ってこちらはそんな着ぐるみパジャマなど馴染みがないんだ。あれで初めて知ったのだぞ。それでユヅルがあんなに可愛い姿で、くるくると私の前で全身を見せたり、犬の鳴き声の真似をされたりしてみろ。我慢できるはずがないだろう』
そういうと、アヤシロとミヅキ、ユウキとスオウは納得の表情を浮かべ、セルジュとジョルジュは天を仰いだ。
『わかってくれるだろう?』
『はい。もしそんなことをミシェルがしたら、それこそ止められる自信はないですね』
『そうだな。リュカがそんな姿を見せてくれたら、一生寝室から出さない自信があるよ』
そう自信満々に言い切るセルジュとジョルジュに今度は私が納得する番だった。
『ミヅキたちは猫の姿になったと言っていたがその時は自制できたのか?』
私の言葉に三人が一斉に言葉につまり、顔を見合わせる。
『ははっ。どうやら愚問だったようだな。だからだろう、アヤシロが私の行動を察したのは』
『ああ、俺たちも通った道だからな』
『今度の赤ずきんはかなりの強敵じゃないか?』
『ああ、ミシェルが胸に当てていた時はそのまま押し倒したくなりましたよ』
セルジュの言葉に笑いつつも、みんな同じ気持ちのようだ。
ああ、可愛い姿を見たいが、みんなには見せたくはない。
そんな葛藤が皆の頭の中で蠢いているのだろうな。
『ユヅルたちが来たらそのままここにいるか、話の如何によってはパーティールームに移動するつもりだが、どちらも高性能のビデオカメラは数箇所に設置してある。今回のフランス旅での映像は帰国後に全て送るから楽しみにしていてくれ』
『全て、ですか?』
『ああ、全ての映像をAIに解析させて、指定した人物を主人公に映画のように繋げてもらうシステムを導入してるんだ。極力、他の者たちは映らないように設定もできるが、友人たちと楽しく過ごしているところも残してやりたいのでな、そういうふうに残すことにしたんだ。もちろん、伴侶と一緒に見る用のものと、別で専用のものを作るつもりだぞ』
『おお! それは素晴らしいですね!! それなら、理央と一緒に楽しんで観られそうだ』
『ああ、本当だな。空良も喜んでくれますよ。ありがとうございます、ロレーヌ』
『いや、私たちは同志だからな。持ちつ持たれつ、気にしないでいい。さて、そろそろ赤ずきんたちも着替えが済んだ頃じゃないか?』
『悠木、可愛い空良くんの赤ずきん姿にいきなり襲い掛かるなよ!』
『だから、俺はそんな鬼畜じゃないって』
『ははっ。隠してもみんなにはもうバレてるって』
『お前たちが鬼畜って言うからだろう!』
アヤシロとユウキの会話にみんなで笑い合う。
そんな時間がなんとも心地いい。
と同時にこの時間が長く続けばいいいと思ってしまう。
ああ、私も彼らの帰国を寂しいと感じているのだろうな。
「お待たせ~」
待ちに待った言葉が聞こえて、さっと振り向くと赤い衣装に身を包んだ子が五人ゾロゾロと入ってくる。
しかし、私の目は正確にコンサバトリーに入ってくるユヅルの姿を捉えていた。
悪いが他の子は一切目に入らない。
だが、おそらくみんな同じだろう。
私は可愛らしいユヅルの姿から目が離せないまま、自分がどんな格好をしているのかも忘れてユヅルに駆け寄った。
スラリとした美しい足が見える。
それを自分の姿で隠すように抱きしめながら、可愛いと言葉をかけるとユヅルは嬉しそうに私の狼の毛を優しく撫でながら、
「エヴァンさんもすっごくかっこいいですよ」
と言ってくれる。
ああ、なんて最高の時間なんだ!!
正面にファスナーがあるのはありがたい。
これが背中であれば、誰かに頼まなくてはいけなかったからな。
腹のもふもふとした毛がファスナーを綺麗に隠してくれているから助かる。
目の前にいたミヅキに声をかけると、灰色の狼がこちらを振り向く。
『ははっ。あまりにも美形な狼だな』
『ふふっ。それはロレーヌも同じでしょう。王者の風格が漂って、実に凛々しいですよ』
『そうか? こういったものを着るのは初めてだからな』
『なんだ、ロレーヌ。俺と佳都が贈った白い犬の着ぐるみパジャマは着なかったのか?』
「んっ? あ、ああ。いや……』
最初にもらった着ぐるみパジャマの存在をアヤシロに思い出されて、なんと言おうかと悩んでいると、
『ユヅルさまのために私が旦那さまの知らない場所に保管いたしましたので、まだお召しになっていないのです』
とジュールが説明してしまった。
『ユヅルさまのために、って……ははーん、ロレーヌ。そういうことか?』
全てわかったとでもいうようにニヤついた目を向けてくる。
本当にアヤシロはこういうことにも察しがいい。
『仕方がないだろう。日本と違ってこちらはそんな着ぐるみパジャマなど馴染みがないんだ。あれで初めて知ったのだぞ。それでユヅルがあんなに可愛い姿で、くるくると私の前で全身を見せたり、犬の鳴き声の真似をされたりしてみろ。我慢できるはずがないだろう』
そういうと、アヤシロとミヅキ、ユウキとスオウは納得の表情を浮かべ、セルジュとジョルジュは天を仰いだ。
『わかってくれるだろう?』
『はい。もしそんなことをミシェルがしたら、それこそ止められる自信はないですね』
『そうだな。リュカがそんな姿を見せてくれたら、一生寝室から出さない自信があるよ』
そう自信満々に言い切るセルジュとジョルジュに今度は私が納得する番だった。
『ミヅキたちは猫の姿になったと言っていたがその時は自制できたのか?』
私の言葉に三人が一斉に言葉につまり、顔を見合わせる。
『ははっ。どうやら愚問だったようだな。だからだろう、アヤシロが私の行動を察したのは』
『ああ、俺たちも通った道だからな』
『今度の赤ずきんはかなりの強敵じゃないか?』
『ああ、ミシェルが胸に当てていた時はそのまま押し倒したくなりましたよ』
セルジュの言葉に笑いつつも、みんな同じ気持ちのようだ。
ああ、可愛い姿を見たいが、みんなには見せたくはない。
そんな葛藤が皆の頭の中で蠢いているのだろうな。
『ユヅルたちが来たらそのままここにいるか、話の如何によってはパーティールームに移動するつもりだが、どちらも高性能のビデオカメラは数箇所に設置してある。今回のフランス旅での映像は帰国後に全て送るから楽しみにしていてくれ』
『全て、ですか?』
『ああ、全ての映像をAIに解析させて、指定した人物を主人公に映画のように繋げてもらうシステムを導入してるんだ。極力、他の者たちは映らないように設定もできるが、友人たちと楽しく過ごしているところも残してやりたいのでな、そういうふうに残すことにしたんだ。もちろん、伴侶と一緒に見る用のものと、別で専用のものを作るつもりだぞ』
『おお! それは素晴らしいですね!! それなら、理央と一緒に楽しんで観られそうだ』
『ああ、本当だな。空良も喜んでくれますよ。ありがとうございます、ロレーヌ』
『いや、私たちは同志だからな。持ちつ持たれつ、気にしないでいい。さて、そろそろ赤ずきんたちも着替えが済んだ頃じゃないか?』
『悠木、可愛い空良くんの赤ずきん姿にいきなり襲い掛かるなよ!』
『だから、俺はそんな鬼畜じゃないって』
『ははっ。隠してもみんなにはもうバレてるって』
『お前たちが鬼畜って言うからだろう!』
アヤシロとユウキの会話にみんなで笑い合う。
そんな時間がなんとも心地いい。
と同時にこの時間が長く続けばいいいと思ってしまう。
ああ、私も彼らの帰国を寂しいと感じているのだろうな。
「お待たせ~」
待ちに待った言葉が聞こえて、さっと振り向くと赤い衣装に身を包んだ子が五人ゾロゾロと入ってくる。
しかし、私の目は正確にコンサバトリーに入ってくるユヅルの姿を捉えていた。
悪いが他の子は一切目に入らない。
だが、おそらくみんな同じだろう。
私は可愛らしいユヅルの姿から目が離せないまま、自分がどんな格好をしているのかも忘れてユヅルに駆け寄った。
スラリとした美しい足が見える。
それを自分の姿で隠すように抱きしめながら、可愛いと言葉をかけるとユヅルは嬉しそうに私の狼の毛を優しく撫でながら、
「エヴァンさんもすっごくかっこいいですよ」
と言ってくれる。
ああ、なんて最高の時間なんだ!!
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