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覚悟を決めよう!
砂糖菓子のように甘いケーキを嬉しそうに食べるユヅルたちを眺めながら、紅茶を楽しんでいると、
「お待たせーっ!」
とケイトの声が響いた。
アヤシロとジョルジュが大きな箱を一つずつ持ち、一緒に入ってくる。
パジャマだからそこまで重さはないだろうが、やはり嵩張るのだろう。
ケイトとリュカに持たせないのは当然とでもいうところか。
テーブルの上に置かれた箱をケイトが嬉しそうに開いていく。
片方の箱にはユヅルたちのものが、もう片方には私たちのものが入っているようだ。
ラッピングされたものを一つずつ配っていくのを受け取ると、ユヅルの目は興奮を隠しきれない様だった。
「じゃあ、みんな袋を開けてくださーい!! まずは茶色の袋の方からね」
赤い袋のユヅルたちの方から開けると思いきや、そんな指示に少し狼狽える。
どんなものが入っているのだろう。
あの白犬の着ぐるみも結局着ていないから、私にとっては初めてのものだ。
早く開けてみて! と言わんばかりのユヅルの目に少し緊張しながら、袋を開けると中身は黒いものが見える。
ああ、これなら……とホッとしたのも束の間、取り出して広げてみると、
「わっ! かっこいいっ! 狼だ!!!」
というユヅルの声が聞こえる。
狼?
慌ててこちらに向ければ、腹の部分が白く、耳も尻尾も付いていてまさしく狼。
黒っぽい毛にグレーが混じったフランスの田舎でよく見る狼そのもの。
「これを、私が着るのか……?」
思わず心の声が漏れ出てしまうが、
「ええ……かっこいいのに、いや、ですか?」
と少し悲しげな顔で言われたら、着たくないなんて言えるわけがない。
慌てて着ると答えれば、ユヅルは嬉しそうに抱きついてきてくれた。
ロレーヌ家総帥ともあろうものがこの様な着ぐるみを……と言われてもいい。
ユヅルが喜ぶのなら、それを受け入れるのが旦那というものだ。
「じゃあ、次は赤い袋の方を開けてね」
ケイトの声に今度は私の心が高鳴る。
私たちが狼なのだ。
だとすれば、ユヅルはうさぎか、羊か……いずれにしても可愛いことは間違いない。
だが、ユヅルは袋を開けて一瞬、怪訝そうな顔をする。
一体何が入っていたのだろう?
そう思っていると、いち早く袋を開けたらしいリオの声が響いた。
「わっ! 可愛い!! 赤ずきんだ!!」
あかずきん?
あかずきんとは何だったか?
私が悩んでいる間に、リオとケイトの楽しい会話が聞こえる。
フランスだから。
絵本と同じ。
ずきんまである。
………………ああっ! わかった。
『Le Petit Chaperon Rouge』か。
頭の中で正解を導き出したと同時に、
「ねぇねぇ、エヴァンさん。どう?」
とユヅルが赤ずきんの衣装を広げて胸に当ててみせた。
ふわふわとした短いスカートが目立つ。
そのあまりの可愛さに頭の中でもうすでにユヅルがその衣装に身を包んでいた。
か、可愛いっ!
可愛すぎるっ!!
ああ、ケイトは何てものを用意したのだ!!!
天才的なチョイスじゃないか!
だが、これをアヤシロやセルジュたちも見る?
くぅ――!!!
見たいっ!
でも見せたくないっ!!
だが……。
そんな葛藤をしているというのに、ユヅルは気に留める様子もなく冗談だと思っているようだ。
だから、私は狼の衣装を胸に当てながら、
「ユヅルは私のこの姿をみんなに見せたいか?」
と尋ねると、ユヅルは一瞬止まって、独り占めしたいと言ってくれた。
そうだろう、そうだろう!
それならば!!
と思ったが続け様に
「でも、カッコ良いエヴァンさんを見せびらかしたい気持ちの方が強いですよ」
なんてことを言われてはぐうの音も出ない。
私も男だ!
与えられたものを着こなして見せよう!!
それにしてもケイトの選んだ赤ずきんの衣装は実に可愛らしい。
本当にこんなにも似合うものをよく見つけてくるものだと感心してしまう。
ユヅルの衣装に釘付けになっていると、
「じゃあ、別々に分かれてお着替えしようか」
とケイトから声がかかり、ユヅルはその誘いに簡単に乗ってしまった。
いやいや、流石に離れるのは……と思ったが、着替えた後で見せあった方が楽しいと言われればそれに従う他はない。
この数日間ですっかりサプライズ演出にハマってしまったようだ。
「わかった。行っておいで。ただし、ユヅルの裸を見せてはいけないぞ!」
とりあえず、この注意だけはしっかりとして見送ることにした。
リオたちもさっさと付いて行ってしまい、コンサバトリーには私たち、狼の衣装を持ったものだけが取り残された。
『皆さまはこちらでお召しになりますか? それともお部屋にご移動になりますか?』
一連の流れを見ていたジュールは言葉は分からずとも、私たちが置いていかれたことを理解している様でそう尋ねてきたが、わざわざ移動するまでもない。
『ここで構わんだろう?』
そういうと、みんなはすぐに頷いた。
『それにしても、空良たちのあの衣装は反則じゃないか? てっきり空良たちも動物だと思っていたぞ』
『そうそう、なんで赤ずきんなんだよ。可愛いが、可愛すぎだろ!』
『いや、俺も知らなかったんだって。まさか赤ずきんを用意しているとは思わなかったよ』
『でもフランスだから赤ずきんとは……ケイトさんもさすがですね』
セルジュの言葉にジョルジュも大きく頷く。
それくらいフランスではポピュラーな昔話だからな。
日本でも読まれていたことには驚いたが。
『とりあえず着替えましょうか』
スオウからそう言われて狼の衣装を手に取るが。なかなか一歩が出ない。
だが、ミヅキたちは何も躊躇うこともなく着替え始めた。
『流石だな、慣れてるのか?』
『まぁ一度みんなで猫の着ぐるみ着たのでもう怖いものはないですよ』
ミヅキに笑って返される。
そうか、そうだな。
これからもユヅルにいろいろと着てもらうには私も覚悟が必要だろう。
よし。
私は勢いつけながら、狼の衣装に袖を通した。
「お待たせーっ!」
とケイトの声が響いた。
アヤシロとジョルジュが大きな箱を一つずつ持ち、一緒に入ってくる。
パジャマだからそこまで重さはないだろうが、やはり嵩張るのだろう。
ケイトとリュカに持たせないのは当然とでもいうところか。
テーブルの上に置かれた箱をケイトが嬉しそうに開いていく。
片方の箱にはユヅルたちのものが、もう片方には私たちのものが入っているようだ。
ラッピングされたものを一つずつ配っていくのを受け取ると、ユヅルの目は興奮を隠しきれない様だった。
「じゃあ、みんな袋を開けてくださーい!! まずは茶色の袋の方からね」
赤い袋のユヅルたちの方から開けると思いきや、そんな指示に少し狼狽える。
どんなものが入っているのだろう。
あの白犬の着ぐるみも結局着ていないから、私にとっては初めてのものだ。
早く開けてみて! と言わんばかりのユヅルの目に少し緊張しながら、袋を開けると中身は黒いものが見える。
ああ、これなら……とホッとしたのも束の間、取り出して広げてみると、
「わっ! かっこいいっ! 狼だ!!!」
というユヅルの声が聞こえる。
狼?
慌ててこちらに向ければ、腹の部分が白く、耳も尻尾も付いていてまさしく狼。
黒っぽい毛にグレーが混じったフランスの田舎でよく見る狼そのもの。
「これを、私が着るのか……?」
思わず心の声が漏れ出てしまうが、
「ええ……かっこいいのに、いや、ですか?」
と少し悲しげな顔で言われたら、着たくないなんて言えるわけがない。
慌てて着ると答えれば、ユヅルは嬉しそうに抱きついてきてくれた。
ロレーヌ家総帥ともあろうものがこの様な着ぐるみを……と言われてもいい。
ユヅルが喜ぶのなら、それを受け入れるのが旦那というものだ。
「じゃあ、次は赤い袋の方を開けてね」
ケイトの声に今度は私の心が高鳴る。
私たちが狼なのだ。
だとすれば、ユヅルはうさぎか、羊か……いずれにしても可愛いことは間違いない。
だが、ユヅルは袋を開けて一瞬、怪訝そうな顔をする。
一体何が入っていたのだろう?
そう思っていると、いち早く袋を開けたらしいリオの声が響いた。
「わっ! 可愛い!! 赤ずきんだ!!」
あかずきん?
あかずきんとは何だったか?
私が悩んでいる間に、リオとケイトの楽しい会話が聞こえる。
フランスだから。
絵本と同じ。
ずきんまである。
………………ああっ! わかった。
『Le Petit Chaperon Rouge』か。
頭の中で正解を導き出したと同時に、
「ねぇねぇ、エヴァンさん。どう?」
とユヅルが赤ずきんの衣装を広げて胸に当ててみせた。
ふわふわとした短いスカートが目立つ。
そのあまりの可愛さに頭の中でもうすでにユヅルがその衣装に身を包んでいた。
か、可愛いっ!
可愛すぎるっ!!
ああ、ケイトは何てものを用意したのだ!!!
天才的なチョイスじゃないか!
だが、これをアヤシロやセルジュたちも見る?
くぅ――!!!
見たいっ!
でも見せたくないっ!!
だが……。
そんな葛藤をしているというのに、ユヅルは気に留める様子もなく冗談だと思っているようだ。
だから、私は狼の衣装を胸に当てながら、
「ユヅルは私のこの姿をみんなに見せたいか?」
と尋ねると、ユヅルは一瞬止まって、独り占めしたいと言ってくれた。
そうだろう、そうだろう!
それならば!!
と思ったが続け様に
「でも、カッコ良いエヴァンさんを見せびらかしたい気持ちの方が強いですよ」
なんてことを言われてはぐうの音も出ない。
私も男だ!
与えられたものを着こなして見せよう!!
それにしてもケイトの選んだ赤ずきんの衣装は実に可愛らしい。
本当にこんなにも似合うものをよく見つけてくるものだと感心してしまう。
ユヅルの衣装に釘付けになっていると、
「じゃあ、別々に分かれてお着替えしようか」
とケイトから声がかかり、ユヅルはその誘いに簡単に乗ってしまった。
いやいや、流石に離れるのは……と思ったが、着替えた後で見せあった方が楽しいと言われればそれに従う他はない。
この数日間ですっかりサプライズ演出にハマってしまったようだ。
「わかった。行っておいで。ただし、ユヅルの裸を見せてはいけないぞ!」
とりあえず、この注意だけはしっかりとして見送ることにした。
リオたちもさっさと付いて行ってしまい、コンサバトリーには私たち、狼の衣装を持ったものだけが取り残された。
『皆さまはこちらでお召しになりますか? それともお部屋にご移動になりますか?』
一連の流れを見ていたジュールは言葉は分からずとも、私たちが置いていかれたことを理解している様でそう尋ねてきたが、わざわざ移動するまでもない。
『ここで構わんだろう?』
そういうと、みんなはすぐに頷いた。
『それにしても、空良たちのあの衣装は反則じゃないか? てっきり空良たちも動物だと思っていたぞ』
『そうそう、なんで赤ずきんなんだよ。可愛いが、可愛すぎだろ!』
『いや、俺も知らなかったんだって。まさか赤ずきんを用意しているとは思わなかったよ』
『でもフランスだから赤ずきんとは……ケイトさんもさすがですね』
セルジュの言葉にジョルジュも大きく頷く。
それくらいフランスではポピュラーな昔話だからな。
日本でも読まれていたことには驚いたが。
『とりあえず着替えましょうか』
スオウからそう言われて狼の衣装を手に取るが。なかなか一歩が出ない。
だが、ミヅキたちは何も躊躇うこともなく着替え始めた。
『流石だな、慣れてるのか?』
『まぁ一度みんなで猫の着ぐるみ着たのでもう怖いものはないですよ』
ミヅキに笑って返される。
そうか、そうだな。
これからもユヅルにいろいろと着てもらうには私も覚悟が必要だろう。
よし。
私は勢いつけながら、狼の衣装に袖を通した。
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