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小鳥の囀り
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<side浅香知成>
ー知成。今、いいか?
午後一時のランチタイムになったのを見計らったように父から電話がかかってきた。
ー大丈夫です、ちょうどランチのサンドイッチを食べていたところでした。片手が使えますから電話はできますよ。
ーそうか、それならよかった。
ー学園で何かありましたか?
ーああ。知成がイギリスに行く前に話していただろう? 上条先生の後継のことだ。
ーいい先生が見つかったんですか?
長年我が校の公民の専門教師として働いてくださっていた上条先生が来年度で定年退職されることが決定しており、後継となる公民の教師を探してもらうように父に頼んでいた。
公民の専門教師としてかなりのベテランな上条先生の後継となりうる先生は、やはりどこかの学校で十数年教壇に立っている人でないと務まらない。だから探すのはかなり難しいと思っていたのだが、父はどこからか優秀な教師を探してきてくれたようだ。いい報告であることは声を聞けばわかる。
ーああ、敬介の恩師の鳴宮教授に協力をお願いしてね、いい人を紹介してもらったんだよ。
ーそれは……鳴宮教授のご紹介なら我が学園の教師として入っていただいても安心ですね。それで、どこの学校にいらした先生ですか?
ーそれがな、知成は驚くだろうが今回教員として働くのは初めての人なんだ。
ーえっ? 初めて? それはどういうことですか?
ー鳴宮教授のゼミに在籍していた大学院生を採用したんだ。
ーえっ? それじゃあその人は今いくつですか?
ー確か、二十五歳だと話していたかな。
ーに、じゅ……えっ? そんな若い子が上条先生の後継で大丈夫なんですか?
鳴宮教授の推薦に間違いはないと思いつつも、やはり年齢を聞けば心配になるのは仕方のないことだろう。
しかも教えること自体初めてだというのだから、それが上条先生が退職されるまでに授業を任せられるくらいの実力がつくのかどうか……
ー優秀な学生が優秀な教師になれるとは限らないですよね?
ー確かにそうだ。だがあの上条先生がたった一週間で完全な信頼をおいているんだぞ。彼は間違いなくいい教師になる。
ーえっ? 一週間で? それは……すごいですね。
ーああ。だから心配しないでいい。上条先生の後継は彼以外考えられないよ。お前もこちらに戻ってきて彼の授業を見ればわかるだろう。二週間後には予定通り帰ってくるんだろう?
ーはい。変更はありません。
ーじゃあ、その時実際に自分の目で見るといい。
父がそう言い切るということは動画などを送ってくれるつもりはないのだろう。
気になるが、仕方がない。
「わかりました」というと電話は切れた。
私は目の前の皿に残っていたサンドイッチを口に入れ、冷めてしまったミルクティーを飲み干した。
それにしても父どころか、あの上条先生が信頼を置くほどの人物か……
まだ二十五で大学院生だった子がそれほどの実力を持っているとはな。
正直まだ信じられないが、実際に会うのが楽しみだ。
どんな授業を見せてくれるだろうな。
それから帰国するまでずっと気になって仕方がなかった。
なぜだかずっとそのことが頭から離れず、帰国の日を迎えた。
ロンドン・ヒースロー空港を夕方出発し、羽田到着は午後三時。
そこから一度学園に行って、大事な書類だけ理事長室に保管して帰るとしよう。
食事の時間以外はほぼ寝ることだけに時間を使い、すっきりとした気分で羽田に降り立った。
二ヶ月半ぶりの日本。今年は日本で桜を見ることは叶わなかったな。
今日は『信桜』で日本蕎麦を食べるつもりで予約をしている。
なぜだか海外から帰ると無性に日本蕎麦が食べたくなる。
きっと日本人の性なのだろう。
空港から大きなキャリーケースだけ自宅に配送させ、必要な荷物だけを持ってタクシーで桜守学園に向かった。
高等部側の入り口でタクシーを降り、理事長室に向かっているとどこからか声が聞こえてくる。
その聞き覚えのない小鳥の囀りのような声に誘われるように声がする方に向かうと、空き教室に誰かがいた。
気になってそっと教室を覗き込み、話をしていた人の姿が見えた途端、私はその人から目が離せなくなっていた。
ー知成。今、いいか?
午後一時のランチタイムになったのを見計らったように父から電話がかかってきた。
ー大丈夫です、ちょうどランチのサンドイッチを食べていたところでした。片手が使えますから電話はできますよ。
ーそうか、それならよかった。
ー学園で何かありましたか?
ーああ。知成がイギリスに行く前に話していただろう? 上条先生の後継のことだ。
ーいい先生が見つかったんですか?
長年我が校の公民の専門教師として働いてくださっていた上条先生が来年度で定年退職されることが決定しており、後継となる公民の教師を探してもらうように父に頼んでいた。
公民の専門教師としてかなりのベテランな上条先生の後継となりうる先生は、やはりどこかの学校で十数年教壇に立っている人でないと務まらない。だから探すのはかなり難しいと思っていたのだが、父はどこからか優秀な教師を探してきてくれたようだ。いい報告であることは声を聞けばわかる。
ーああ、敬介の恩師の鳴宮教授に協力をお願いしてね、いい人を紹介してもらったんだよ。
ーそれは……鳴宮教授のご紹介なら我が学園の教師として入っていただいても安心ですね。それで、どこの学校にいらした先生ですか?
ーそれがな、知成は驚くだろうが今回教員として働くのは初めての人なんだ。
ーえっ? 初めて? それはどういうことですか?
ー鳴宮教授のゼミに在籍していた大学院生を採用したんだ。
ーえっ? それじゃあその人は今いくつですか?
ー確か、二十五歳だと話していたかな。
ーに、じゅ……えっ? そんな若い子が上条先生の後継で大丈夫なんですか?
鳴宮教授の推薦に間違いはないと思いつつも、やはり年齢を聞けば心配になるのは仕方のないことだろう。
しかも教えること自体初めてだというのだから、それが上条先生が退職されるまでに授業を任せられるくらいの実力がつくのかどうか……
ー優秀な学生が優秀な教師になれるとは限らないですよね?
ー確かにそうだ。だがあの上条先生がたった一週間で完全な信頼をおいているんだぞ。彼は間違いなくいい教師になる。
ーえっ? 一週間で? それは……すごいですね。
ーああ。だから心配しないでいい。上条先生の後継は彼以外考えられないよ。お前もこちらに戻ってきて彼の授業を見ればわかるだろう。二週間後には予定通り帰ってくるんだろう?
ーはい。変更はありません。
ーじゃあ、その時実際に自分の目で見るといい。
父がそう言い切るということは動画などを送ってくれるつもりはないのだろう。
気になるが、仕方がない。
「わかりました」というと電話は切れた。
私は目の前の皿に残っていたサンドイッチを口に入れ、冷めてしまったミルクティーを飲み干した。
それにしても父どころか、あの上条先生が信頼を置くほどの人物か……
まだ二十五で大学院生だった子がそれほどの実力を持っているとはな。
正直まだ信じられないが、実際に会うのが楽しみだ。
どんな授業を見せてくれるだろうな。
それから帰国するまでずっと気になって仕方がなかった。
なぜだかずっとそのことが頭から離れず、帰国の日を迎えた。
ロンドン・ヒースロー空港を夕方出発し、羽田到着は午後三時。
そこから一度学園に行って、大事な書類だけ理事長室に保管して帰るとしよう。
食事の時間以外はほぼ寝ることだけに時間を使い、すっきりとした気分で羽田に降り立った。
二ヶ月半ぶりの日本。今年は日本で桜を見ることは叶わなかったな。
今日は『信桜』で日本蕎麦を食べるつもりで予約をしている。
なぜだか海外から帰ると無性に日本蕎麦が食べたくなる。
きっと日本人の性なのだろう。
空港から大きなキャリーケースだけ自宅に配送させ、必要な荷物だけを持ってタクシーで桜守学園に向かった。
高等部側の入り口でタクシーを降り、理事長室に向かっているとどこからか声が聞こえてくる。
その聞き覚えのない小鳥の囀りのような声に誘われるように声がする方に向かうと、空き教室に誰かがいた。
気になってそっと教室を覗き込み、話をしていた人の姿が見えた途端、私はその人から目が離せなくなっていた。
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