ブラコン学園長が恋したのは真面目で可愛い新任教師でした

波木真帆

文字の大きさ
4 / 5

このまま終わらせたくない

しおりを挟む
彼から目を離せないまま一歩近づこうとして、教室の扉に肩が当たってしまった。
静かな教室にぶつかった音が響き、彼が驚いてこちらを振り向いた。

「っ!」

目が合った瞬間、全身を電流が駆け抜けるような不思議な感覚がした。
今まで感じたことのない衝撃だ。

彼もまた私をみてその場に佇んでいるが、その表情は驚きだけで恐怖や怯えがないことにホッとする。

「あ、あの……」

困惑気味に呼びかけられる声でハッと我に返った。

「邪魔をしてしまって申し訳ない。空き教室から声が聞こえたものだから気になって覗いてしまったんだ」

「すみません。明日高等部で授業を行うのでその予習をしておきたくて、空き教室を借りていました」

高等部での授業の予習、初めて見る教師。
それだけで、彼が上条先生の後継としてきた先生だということがすぐにわかった。

「もしかして新しい公民の先生、かな?」

確証していながらも、本人の口から聞きたくて尋ねた。

「あ、はい。そうです。斎川一実と申します。あの、高等部の先生ですか?」

少し強面な私を見れば、まだ幼い生徒が多い中等部の教師には思えなかったのかもしれない。

「挨拶が遅れて失礼してしまった。私は浅香知成。この桜守学園の学園長だ」

「えっ!」

私の言葉に彼は驚きの声をあげる。
そして慌てて教壇から下りてきて私のもとに駆け寄ってきた。

「学園長先生とも知らず、大変失礼いたしました」

ぺこりと頭を下げる彼がなんとも愛おしく思える。

「いやいや、私も知らなかったのだからお互い様だ。気にしないで欲しい」

そういうと、彼は少しホッとした表情を見せた。

「それより授業の予習なら生徒役がいたほうがいいだろう。私に授業を聞かせてもらえないだろうか」

「えっ、でも……」

「反応があったほうが斎川先生にとってもわかりやすいのではないかな?」

彼とこのまま終わりにしたくない一心で思いついたことだったが、彼は私の言葉を受け入れてくれた。

「わかりました。それじゃあ、何か分かりづらいところがあったら何でも仰ってください」

「わかった。遠慮なく言わせてもらうよ」

そう言って一緒に教室に入り、私は教室の中央の席に座った。
私の体格には決して合わない小さく低い椅子だが、彼の姿が見られるだけで、ファーストクラスの座席よりもずっと座り心地がよく感じられた。

彼は教卓に教科書を開いているものの、そちらには視線を向けることなく私に語りかける。
その声がなんとも聞き取りやすくてスッと頭に入ってくる。

「成年年齢が十八歳に引き下げられ――契約が――」

この授業は高校二年の授業。十七歳の彼らは来年成年となるわけだが、彼の話はかなり現実味を帯びた話でかなり興味を惹きつけられる。彼の話術はもちろんだが、授業の構成も実に面白い。

途中で質問を投げかけてみるが、かなり分かりやすく教えてくれる。
これなら高校生にもしっかりと理解できるだろう。

なるほど、父が上条先生の後継には彼しかいないと言ったのがよくわかる。
そう納得するほど、彼の授業はこの上なく楽しかった。
そして、私の反応を彼も楽しんでくれたのだろう。
気づけばフルに五十分授業をさせてしまっていたが、彼は笑顔で私にお礼を言ってくれた。

「学園長先生のおかげで、明日の授業の自信がつきました。ありがとうございます」

「いや、斎川先生の力だ。本当に惹きつけられるから、きっと生徒たちも楽しんで勉強して身につけるよ。本来、勉強というものはそうでなければいけないんだ。斎川先生のおかげで改めてそれに気付かされたよ」

そう告げると、恥じらいながら可愛い笑顔を見せてくれる。
ああ、本当に可愛い。

人を見て、可愛いなんて感情は弟の敬介にしか感じたことはなかったが、彼には敬介以上の愛おしさを覚える。
こんなことは初めてだ。

このまま離れたくない。
そんな感情が湧き上がってきた。

「もし、よか――」

彼を誘おうとしたそのタイミングで夕方六時のチャイムが鳴り響く。
それに身体を震わせた彼は、あわてて片付けを始めた。

「あの、そろそろ僕、失礼します。本当にありがとうございました」

急いで頭を下げて出て行こうとする彼を止めるべく立ち上がった

「ちょっと待って」

不躾にも彼の手を掴んでしまったがその華奢さに驚く。
敬介よりも細くないか?

敬介もあまり食事の量が多いとは言えないが、この細さをみると彼も心配になってくる。

「あの……」

彼の手を掴んだまま動かなかったからだろう、彼の困惑した声が聞こえる。

「ああ、申し訳ない。あの、よければ夕食でも一緒にどうだろう?」

「えっ? でも、僕は……」

「実は、今日イギリスから帰国したばかりで蕎麦が食べたくなってね。馴染みの店に無理を言って個室を開けてもらったんだ。だから一人で行くのは申し訳ないと思っていたところなんだよ」

「えっ、お蕎麦ですか?」

一瞬彼の目が輝いた気がした。

「ああ、もしかして苦手だったかな?」

「いえ、お蕎麦は大好きです」

その言葉に嘘はなさそうだ。
余程の蕎麦好きと見える。
『信桜』を予約しておいて良かった。

「それなら付き合ってくれたら助かる。どうだろう?」

「は、はい。僕でよければ喜んで……」

彼の返事に、心の中でガッツポーズしてしまったのはいうまでもない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...