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究極の二択
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名嘉村さんが部屋をノックして中に入ると、さっき俺に声をかけてきた砂川さんとは別人のような表情にドキッとした。
仕事モードの砂川さんって、やっぱりすごく綺麗だ。
プライベートの時も綺麗だけど、その時はなんだか少し柔らかくて可愛い感じがするんだよな。
初めて会った時は緊張しすぎてあまり覚えていないけれど、多分仕事モードの顔だった気がする。
初対面なんだから当然といえば当然なんだけど、今ではプライベートな表情を見られるようになったのが、仲間になれたようですごく嬉しいんだ。
「二人揃ってどうしたの?」
俺たちを見て一瞬にして柔らかな表情に変わる。
やっぱり綺麗な顔をしているな。
俺とはえらい違いだ。
「実はさっきのパンフレットのことで……」
俺がイラストを描くために観光したいと話したことを名嘉村さんが説明してくれる。
俺はそれに補足する様に砂川さんに話しかけた。
「まだ西表島のことを何も知らない僕がパンフレットのイラストを描いても誰の心にも伝わらないと思うんです。だから、一度島内を回ってきてから、イラストに取り掛かりたいんです。許可していただけませんか?」
「確かに資料だけであの心温まるような絵を描くのは難しいでしょうね。わかりました。それでは明日は仕事で島内を観光してきてください。そのために必要なカメラも持って行っていいですよ」
「――っ、カメラまでいいんですか? ありがとうございます!」
「ただ、島といっても西表島は大きいですから慣れない平松くんが一人で回るのは効率が悪いですね。平松くん、車の運転はできますか?」
「いえ、免許を持ってなくて……」
「それなら、平松くんにこの島内を案内してくれるガイドをつけます。その人と一緒に明日観光してきてください。その資料も新しい観光ツアーの参考になりますので、しっかりとメモを取ってきてくださいね」
「は、はい。あの、それでそのガイドさんは社員のどなたですか? もしかして砂川さんがガイドしてくださるんですか?」
「いいえ。八尋さんにお願いします」
「えっ? 八尋さん、ですか……?」
思いがけない人物の名前に思わず俺は聞き返してしまった。
どうしてここで八尋さんが?
「ええ、八尋さんは島民の方々からいろんな情報を耳にしていますので、私たちよりもずっとずっとこの島に詳しいのですよ。八尋さんのお店で出される食材は、ご自分で採りにいかれるものも多いですからその時に穴場も見つけられることもあるそうですし」
確かにあのお店にはここに古くから住んでいるような人たちがたくさんいた。
そんな人たちからの話をずっと聞いていた八尋さんはガイドには向いているかもしれない。
「それか、倉橋にガイドを頼みましょうか。倉橋なら、八尋さんと同じくらいこの島には詳しいですよ」
「えっ? 社長……」
「ええ。平松くんの仕事に必要だといえば、数日後にはなりますがこちらに戻ってきてくれるはずです」
「あっ、じゃあ藤乃くんも一緒に観光を?」
「うーん、藤乃くんは倉橋の専属秘書になりましたから一緒に来られると思いますが、島内で危険生物に出くわすこともありますから、倉橋は藤乃くんをそのような場所には連れて行かないでしょうね。なんせ溺愛していますから……」
「溺愛……」
わかる気がする。
あの時の社長の話しっぷりを見ていたら、自分の手元から離したくないと言わんばかりだったし、全力で守るってあれは絶対に口だけじゃないってわかるもんな。
「なので、倉橋にガイドをお願いするなら、平松くんと二人で行っていただくことになりますね。どちらでも構いませんよ、八尋さんも倉橋も島内に詳しいことに変わりはありませんから。どちらがいいですか?」
「どちらがいいって……」
そんなこと俺が決めるのか?
でも、社長と二人で何を話せばいいんだ?
少なからず俺が藤乃くんに好意を持っていたことはあの社長にはバレてそうだし……。
二人になるのはちょっと、いやかなり緊張する。とてもじゃないが観光どころじゃない。
そうしたら、八尋さん……?
でも、そんな迷惑かけていいんだろうか?
でも砂川さんがいうなら大丈夫なのかな?
社長との気まずさを考えたら、業務に支障のない八尋さんか?
にっこりと微笑みながら俺の言葉を待ってくれている砂川さんに、これ以上待たせることもできなくて俺の口は
「八尋さんで、お願いします」
と動いていた。
「わかりました。それでは八尋さんには後で連絡をしておきますね。ちょうど明日は定休日ですから、案内していただけると思いますよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ああ、それからこれ……」
そういって、砂川さんがデスクの横に置いていた円柱型の小さなバッグを俺に手渡してきた。
「これは?」
「先ほど、出勤前にお届け物があって八尋さんのお店に寄ったんです。そうしたらこれを平松くんに渡してほしいと頼まれました」
「えっ? 八尋さんが、俺に……?」
「はい。お弁当だそうです。自炊が苦手だと仰っていたからと気にしていらっしゃいましたよ」
「――っ!!」
まさか、昼食までご馳走になるなんて思いもしなかった。
「へぇ、いいですね。八尋さんの食事は栄養もバッチリだから、平松くんにはぴったりだよ」
「あ、あの……砂川さんと、名嘉村さんも一緒に召し上がりますか?」
「ああ、大丈夫。僕もお弁当持ってきてるから。ねぇ、砂川さん」
「はい。私もお弁当ありますよ」
「ふふっ。恋人さんのお手製ですよね」
「はい。今朝作って持たせてくれたんですよ。せっかくだから一緒に食べましょうか。ちょうどお昼ですし、ここで食べましょう」
「あっ、じゃあ僕お弁当持ってきます!」
そういって、名嘉村さんは急いで部屋を出て行った。
仕事モードの砂川さんって、やっぱりすごく綺麗だ。
プライベートの時も綺麗だけど、その時はなんだか少し柔らかくて可愛い感じがするんだよな。
初めて会った時は緊張しすぎてあまり覚えていないけれど、多分仕事モードの顔だった気がする。
初対面なんだから当然といえば当然なんだけど、今ではプライベートな表情を見られるようになったのが、仲間になれたようですごく嬉しいんだ。
「二人揃ってどうしたの?」
俺たちを見て一瞬にして柔らかな表情に変わる。
やっぱり綺麗な顔をしているな。
俺とはえらい違いだ。
「実はさっきのパンフレットのことで……」
俺がイラストを描くために観光したいと話したことを名嘉村さんが説明してくれる。
俺はそれに補足する様に砂川さんに話しかけた。
「まだ西表島のことを何も知らない僕がパンフレットのイラストを描いても誰の心にも伝わらないと思うんです。だから、一度島内を回ってきてから、イラストに取り掛かりたいんです。許可していただけませんか?」
「確かに資料だけであの心温まるような絵を描くのは難しいでしょうね。わかりました。それでは明日は仕事で島内を観光してきてください。そのために必要なカメラも持って行っていいですよ」
「――っ、カメラまでいいんですか? ありがとうございます!」
「ただ、島といっても西表島は大きいですから慣れない平松くんが一人で回るのは効率が悪いですね。平松くん、車の運転はできますか?」
「いえ、免許を持ってなくて……」
「それなら、平松くんにこの島内を案内してくれるガイドをつけます。その人と一緒に明日観光してきてください。その資料も新しい観光ツアーの参考になりますので、しっかりとメモを取ってきてくださいね」
「は、はい。あの、それでそのガイドさんは社員のどなたですか? もしかして砂川さんがガイドしてくださるんですか?」
「いいえ。八尋さんにお願いします」
「えっ? 八尋さん、ですか……?」
思いがけない人物の名前に思わず俺は聞き返してしまった。
どうしてここで八尋さんが?
「ええ、八尋さんは島民の方々からいろんな情報を耳にしていますので、私たちよりもずっとずっとこの島に詳しいのですよ。八尋さんのお店で出される食材は、ご自分で採りにいかれるものも多いですからその時に穴場も見つけられることもあるそうですし」
確かにあのお店にはここに古くから住んでいるような人たちがたくさんいた。
そんな人たちからの話をずっと聞いていた八尋さんはガイドには向いているかもしれない。
「それか、倉橋にガイドを頼みましょうか。倉橋なら、八尋さんと同じくらいこの島には詳しいですよ」
「えっ? 社長……」
「ええ。平松くんの仕事に必要だといえば、数日後にはなりますがこちらに戻ってきてくれるはずです」
「あっ、じゃあ藤乃くんも一緒に観光を?」
「うーん、藤乃くんは倉橋の専属秘書になりましたから一緒に来られると思いますが、島内で危険生物に出くわすこともありますから、倉橋は藤乃くんをそのような場所には連れて行かないでしょうね。なんせ溺愛していますから……」
「溺愛……」
わかる気がする。
あの時の社長の話しっぷりを見ていたら、自分の手元から離したくないと言わんばかりだったし、全力で守るってあれは絶対に口だけじゃないってわかるもんな。
「なので、倉橋にガイドをお願いするなら、平松くんと二人で行っていただくことになりますね。どちらでも構いませんよ、八尋さんも倉橋も島内に詳しいことに変わりはありませんから。どちらがいいですか?」
「どちらがいいって……」
そんなこと俺が決めるのか?
でも、社長と二人で何を話せばいいんだ?
少なからず俺が藤乃くんに好意を持っていたことはあの社長にはバレてそうだし……。
二人になるのはちょっと、いやかなり緊張する。とてもじゃないが観光どころじゃない。
そうしたら、八尋さん……?
でも、そんな迷惑かけていいんだろうか?
でも砂川さんがいうなら大丈夫なのかな?
社長との気まずさを考えたら、業務に支障のない八尋さんか?
にっこりと微笑みながら俺の言葉を待ってくれている砂川さんに、これ以上待たせることもできなくて俺の口は
「八尋さんで、お願いします」
と動いていた。
「わかりました。それでは八尋さんには後で連絡をしておきますね。ちょうど明日は定休日ですから、案内していただけると思いますよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ああ、それからこれ……」
そういって、砂川さんがデスクの横に置いていた円柱型の小さなバッグを俺に手渡してきた。
「これは?」
「先ほど、出勤前にお届け物があって八尋さんのお店に寄ったんです。そうしたらこれを平松くんに渡してほしいと頼まれました」
「えっ? 八尋さんが、俺に……?」
「はい。お弁当だそうです。自炊が苦手だと仰っていたからと気にしていらっしゃいましたよ」
「――っ!!」
まさか、昼食までご馳走になるなんて思いもしなかった。
「へぇ、いいですね。八尋さんの食事は栄養もバッチリだから、平松くんにはぴったりだよ」
「あ、あの……砂川さんと、名嘉村さんも一緒に召し上がりますか?」
「ああ、大丈夫。僕もお弁当持ってきてるから。ねぇ、砂川さん」
「はい。私もお弁当ありますよ」
「ふふっ。恋人さんのお手製ですよね」
「はい。今朝作って持たせてくれたんですよ。せっかくだから一緒に食べましょうか。ちょうどお昼ですし、ここで食べましょう」
「あっ、じゃあ僕お弁当持ってきます!」
そういって、名嘉村さんは急いで部屋を出て行った。
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