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番外編

小田切の大事な子  後編  <side誉>

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「改めてちゃんと挨拶がしたい。ここに座ってくれないか?」

そう声をかけると、二人はゆっくりと席についた。

小田切は隣にいる彼の頬を伝う涙をハンカチで優しく拭ってあげてから私に視線を向けた。

「彼は北原きたはらあきくん。25歳で、安慶名先生が顧問弁護士を務めていらっしゃる笹川コーポレーションに勤めています」

「ああ、だから安慶名先生に手伝いを頼んだのか?」

「はい。そうなんです。先生のおかげですぐに解決しました」

私たちの話に彼は少し顔を青褪めさせたが、

「暁、大丈夫だよ。依頼内容については上田先生は何も知らない」

と小田切が声をかけると、安堵の表情を見せた。

「北原くん、安心していいよ。私の恋人も依頼がらみで知り合ったが、その内容については小田切くんも知らないんだ。同じ事務所で仕事をしていても、依頼人が望まない限り他の弁護士に話すことはしないよ。そういう信頼の元に成り立っている仕事だからね」

小田切のフォローをするわけではないが、敦己も同じように不安に思っているのではないかと思うと見過ごせなかった。

ホッとしたように笑う北原くんを愛おしそうに見つめる小田切はとても幸せそうに見えた。





「ほら、暁。これ美味しいんだ。口を開けて」

「んふっ、おいひいれふ」

「だろう? あっ、ソースがついてるぞ」

「んっ、ありがとうございます。智さん、これも食べてみたいです」

「そうか、ほら。口を開けて」

「ふふっ。おいひいっ」



「…………」

私は何を見せられているんだ?

あ、いや。
小田切が、幸せそうでなによりだな。うん。


それからしばらく二人の甘々な食事風景を見守りながら、私はゆっくりと食事を進めた。
ふぅ……。
それにしても小田切が私の前でもこんなにいちゃつきを見せるとは思いもしなかったな。
本当に恋は盲目とはよく言ったものだ。




「そ、それはそうと、これから二人で住む家は考えてるのか?」

「家ならもう、彼は私の家で暮らしていますよ」

「そうなのか? それはまた、早いな……」

私がアメリカに行っている間にもう家まで引き払わせて一緒に暮らしているというのか?
私もかなり早いと思ったが小田切はさらに上を行っているな。

やはり今まで本気で好きになったことがないやつが本気を出すと行動力が半端ないな。

「少しの時間も離れたくないですからね。今は朝夕送迎して、お弁当も持たせてるんですよ」

これはかなり独占欲が強そうだが……北原くんは無理していないだろうかと心配になる。

「北原くんは小田切のやっていることについてどう思う?」

「はい。すごくありがたいですし、嬉しいです。最初は一緒に暮らしたりして、僕の嫌な面とか見えて嫌われないかなとか心配になってたんですけど、智さん……とっても優しくて……今は、もう一人暮らしに戻れないくらいいろいろしてもらってます」

「そ、そうか……なら、良かった」

なるほど。私がいないと何もできないようにしてやればいいのか。
敦己との生活の参考になったな。

「敦己……ああ、私の恋人だが、彼が来週末海外出張から帰国するんだ。君たちと紘には紹介しようと思っているからまたここで食事をしよう」

「紘、さん?」

「ああ、私の弟でね、敦己の会社の同期なんだよ。そして、小田切くんの大学時代の友人でもあるんだ」

「へぇ、すごい偶然なんですね」

「私が敦己と知り合えたのは紘に紹介してもらったからなんだよ。だから無事に恋人になったと報告したいからな」

「僕もご一緒してもいいんですか?」

「ああ、もちろんだ。北原くんなら、敦己と仲良くなれそうだ。敦己は28歳で北原くんより少し年上だが、童顔だからかな……北原くんと同じ年くらいに見えるよ」

そういうと、北原くんは嬉しそうに笑っていた。
彼は昔からゲイを自覚していたと話していたが、そのことについて話ができる友人がいなかったと言っていたからな。
敦己がそういう意味で初めての友人になれるかもしれない。



「北原くん、小田切のことをよろしく頼むよ。君の存在が何よりも重要らしい。一生そばにいてやってくれ」

「はい。僕も一生そばにいたいと思ってます」

「そうか、小田切……良かったな」

「はい。今度先生のお相手にお会いできるのを楽しみにしてます」

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

今日は自分が誘ったのだからと支払おうとした小田切に、恋人ができたお祝いだと言って支払ったが、あいつのことだ。
きっと次はお返しに払うといいそうだ。
まぁ、それはそれで受けるとしようか。
お互いに春が来た記念だ。

ああ、小田切と北原くんのラブラブを見ていたら寂しくなってきた。
今日は敦己の秘蔵の動画でもみながら寝るとしようか。

帰ってくる日が今から待ち遠しくて仕方がない。
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