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悩みもなくなる
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部長に今、メールしておけば、朝一でみてくれるだろう。
今回の大事なプロジェクトの成功のためには宇佐美くんの力が必要で、先方からの要望だと書いていればきっと宇佐美くんを寄越してくれるはずだ。
そんな期待を胸に、俺は部長へメールを送った。
それからしばらく他の業務をして、定時まであと30分を切ったころ、部長から直接電話がかかってきた。
てっきりメールで返信が来ると思っていたんだが、何か問題でもあったんだろうか。
ーはい。杉山です。
ーああ、杉山くん、そっちはどうだ?
ーはい。こちらの業務は滞りなく進んでいますが、部長がわざわざ電話をくださったのは先ほどのメールの件ですか?
ーああ。そうなんだよ。君からのメールを見て、すぐに宇佐美くんに打診したんだが……。
ー何か、困ったことでも?
ーいや、実は……宇佐美くん、婚約したばかりなんだそうだ。
ーえっ? 婚約、ですか?
確か宇佐美くんは俺より二つ下。
そうか……28ならそんな話が出てもおかしくないな。
ーああ。それで結婚式の準備を進めながら、新居への引っ越しなんかも立て込んでいるそうでね。すぐには即決できないから、とりあえず婚約者に相談してからそっちに行くかを決めたいと言ってるんだ。どうだ? もし、宇佐美くんがいけないようなら、そっちでなんとかできそうか?
ーうーん。こちらとしては先方の意向もありますので、もし宇佐美くんが来られないようなら、あのプロジェクトはかなり難航しそうだということしか今は言えません。
ーそうか……。できるだけ宇佐美くんにそっちに行ってもらえるように、もう一度話をしてみるつもりだが、このご時世、あまり強くも言えないから、そこはわかってくれ。
ーわかりました。もし、よければ私の方からもう一度概要を説明しがてら、宇佐美くんに直接コンタクトをとってもよろしいですか?
ーそうだな。宇佐美くんも仕事の話としてはかなり行きたそうにしていたんだ。婚約者のことだけがネックになっているみたいでな。
ーそうなんですね。わかりました。では宇佐美くんの方には私からも連絡を入れておきます。何かありましたらいつでも連絡ください。
ーああ、わかった。そっちは頼むよ。
部長がこんなにも早く宇佐美くんに話をしてくれたのは、このプロジェクトがどれだけ重要かをわかってくれているということだ。
それにしても婚約か……。
会社にもすでに報告しているということは相手は女性なんだろうな。
なんとなく、宇佐美くんは同類なのかもと思っていたんだけど、どうやら違ったようだ。
だが、婚約したてで今が一番気持ちが昂っている頃だろうし、この話は断られる確率の方が高いかもしれないな。
宇佐美くんが来られないことも考えて、先方を納得させられるだけの材料を用意しておかないといけないな。
とりあえず、最後の足掻きででもいい。
宇佐美くんにプロジェクトの進行状況と先方の意向も全て連絡しておくとしようか。
宇佐美くんにいろんな資料を添付してメールを送ると、もうすでに定時を回っていた。
あっ、透也がもう来ているかも。
慌ててスマホをみて、思わず笑ってしまった。
<お仕事お疲れさまです。ロビーで待っていますから、慌てずに来てくださいね。大智の忠犬ハチ公より愛を込めて>
ふふっ。
まさかこんなメッセージを送ってくるとは。
思わず顔がニヤける。
「支社長。嬉しそうですね。彼女さんから連絡ですか?」
「えっ? なんで?」
「えっ、だって愛が溢れ出てましたよ。いいですねぇ、ラブラブで。じゃあ、私、お先に失礼します」
ニマニマとしながら、立ち去っていく女性社員を見送りながら、俺は自分の顔を鏡で見てみた。
いつもと変わらないように見えるけど……。
もしかしたら、透也のことを思っている時はそんなにだらしない顔をしているんだろうか……。
恥ずかしいな。
透也には気づかれないようにしないと。
俺は必死に顔に力を入れながら、透也の待つロビーに向かった。
セキュリティーゲートを通るとすぐに透也が駆け寄ってくる。
「お疲れさまです」
「待たせて悪かったな」
「いいえ。待ってる間も大智のことを考えてましたから、楽しいですよ」
「――っ、そ、そうか。ならよかった」
必死で顔を整えようとしているのに、思いがけない言葉に思わず表情が崩れそうになる。
「どうかしましたか?」
「えっ? 何が?」
「なんだか、無理しているような気がするんですけど……」
「い、いや。そんなことはないよ! ほら、早く帰ろう」
透也は少し訝しみながらも、一緒に会社を出てキースの車に乗り込んだ。
そういえば、もし宇佐美くんが来てくれることになったら、彼の送迎はどうしようか。
キースに頼むのが一番だけど……まぁ、それなら俺は別の人を頼むか、この距離なら歩いてもいいか。
運動不足気味だし、ちょうどいいかもしれない。
あ、だけど……透也は、どうするかな?
「大智? どうかしました?」
「あ、いや。もし、この送迎がなくなったら透也はどうする? そっちの会社で送迎を頼むか?」
「無くなるんですか?」
「まだ決定ではないんだが、部下の子がしばらくこっちにくることが決まったら、キースの送迎は彼に代わろうかと思ってるんだ。だから、他の送迎を頼むか、この距離なら別に歩いてもいいかと思って……」
「歩く? ダメです! ここはアメリカですよ。絶対にダメです。それなら、俺がその間送迎しますよ。車もあの社宅で貸してもらえますし、ちゃんと申請すれば問題ないです」
「でも、毎日送迎は大変だろう?」
「何言ってるんですか。そんなのご褒美でしかないですよ。もし、その彼がくることが正式に決まったら教えてください。車の使用申請出しておきますから」
あっという間に送迎の件は透也の中で決まってしまったみたいだ。
透也に話すと次々に悩みが解決していく気がするな。
今回の大事なプロジェクトの成功のためには宇佐美くんの力が必要で、先方からの要望だと書いていればきっと宇佐美くんを寄越してくれるはずだ。
そんな期待を胸に、俺は部長へメールを送った。
それからしばらく他の業務をして、定時まであと30分を切ったころ、部長から直接電話がかかってきた。
てっきりメールで返信が来ると思っていたんだが、何か問題でもあったんだろうか。
ーはい。杉山です。
ーああ、杉山くん、そっちはどうだ?
ーはい。こちらの業務は滞りなく進んでいますが、部長がわざわざ電話をくださったのは先ほどのメールの件ですか?
ーああ。そうなんだよ。君からのメールを見て、すぐに宇佐美くんに打診したんだが……。
ー何か、困ったことでも?
ーいや、実は……宇佐美くん、婚約したばかりなんだそうだ。
ーえっ? 婚約、ですか?
確か宇佐美くんは俺より二つ下。
そうか……28ならそんな話が出てもおかしくないな。
ーああ。それで結婚式の準備を進めながら、新居への引っ越しなんかも立て込んでいるそうでね。すぐには即決できないから、とりあえず婚約者に相談してからそっちに行くかを決めたいと言ってるんだ。どうだ? もし、宇佐美くんがいけないようなら、そっちでなんとかできそうか?
ーうーん。こちらとしては先方の意向もありますので、もし宇佐美くんが来られないようなら、あのプロジェクトはかなり難航しそうだということしか今は言えません。
ーそうか……。できるだけ宇佐美くんにそっちに行ってもらえるように、もう一度話をしてみるつもりだが、このご時世、あまり強くも言えないから、そこはわかってくれ。
ーわかりました。もし、よければ私の方からもう一度概要を説明しがてら、宇佐美くんに直接コンタクトをとってもよろしいですか?
ーそうだな。宇佐美くんも仕事の話としてはかなり行きたそうにしていたんだ。婚約者のことだけがネックになっているみたいでな。
ーそうなんですね。わかりました。では宇佐美くんの方には私からも連絡を入れておきます。何かありましたらいつでも連絡ください。
ーああ、わかった。そっちは頼むよ。
部長がこんなにも早く宇佐美くんに話をしてくれたのは、このプロジェクトがどれだけ重要かをわかってくれているということだ。
それにしても婚約か……。
会社にもすでに報告しているということは相手は女性なんだろうな。
なんとなく、宇佐美くんは同類なのかもと思っていたんだけど、どうやら違ったようだ。
だが、婚約したてで今が一番気持ちが昂っている頃だろうし、この話は断られる確率の方が高いかもしれないな。
宇佐美くんが来られないことも考えて、先方を納得させられるだけの材料を用意しておかないといけないな。
とりあえず、最後の足掻きででもいい。
宇佐美くんにプロジェクトの進行状況と先方の意向も全て連絡しておくとしようか。
宇佐美くんにいろんな資料を添付してメールを送ると、もうすでに定時を回っていた。
あっ、透也がもう来ているかも。
慌ててスマホをみて、思わず笑ってしまった。
<お仕事お疲れさまです。ロビーで待っていますから、慌てずに来てくださいね。大智の忠犬ハチ公より愛を込めて>
ふふっ。
まさかこんなメッセージを送ってくるとは。
思わず顔がニヤける。
「支社長。嬉しそうですね。彼女さんから連絡ですか?」
「えっ? なんで?」
「えっ、だって愛が溢れ出てましたよ。いいですねぇ、ラブラブで。じゃあ、私、お先に失礼します」
ニマニマとしながら、立ち去っていく女性社員を見送りながら、俺は自分の顔を鏡で見てみた。
いつもと変わらないように見えるけど……。
もしかしたら、透也のことを思っている時はそんなにだらしない顔をしているんだろうか……。
恥ずかしいな。
透也には気づかれないようにしないと。
俺は必死に顔に力を入れながら、透也の待つロビーに向かった。
セキュリティーゲートを通るとすぐに透也が駆け寄ってくる。
「お疲れさまです」
「待たせて悪かったな」
「いいえ。待ってる間も大智のことを考えてましたから、楽しいですよ」
「――っ、そ、そうか。ならよかった」
必死で顔を整えようとしているのに、思いがけない言葉に思わず表情が崩れそうになる。
「どうかしましたか?」
「えっ? 何が?」
「なんだか、無理しているような気がするんですけど……」
「い、いや。そんなことはないよ! ほら、早く帰ろう」
透也は少し訝しみながらも、一緒に会社を出てキースの車に乗り込んだ。
そういえば、もし宇佐美くんが来てくれることになったら、彼の送迎はどうしようか。
キースに頼むのが一番だけど……まぁ、それなら俺は別の人を頼むか、この距離なら歩いてもいいか。
運動不足気味だし、ちょうどいいかもしれない。
あ、だけど……透也は、どうするかな?
「大智? どうかしました?」
「あ、いや。もし、この送迎がなくなったら透也はどうする? そっちの会社で送迎を頼むか?」
「無くなるんですか?」
「まだ決定ではないんだが、部下の子がしばらくこっちにくることが決まったら、キースの送迎は彼に代わろうかと思ってるんだ。だから、他の送迎を頼むか、この距離なら別に歩いてもいいかと思って……」
「歩く? ダメです! ここはアメリカですよ。絶対にダメです。それなら、俺がその間送迎しますよ。車もあの社宅で貸してもらえますし、ちゃんと申請すれば問題ないです」
「でも、毎日送迎は大変だろう?」
「何言ってるんですか。そんなのご褒美でしかないですよ。もし、その彼がくることが正式に決まったら教えてください。車の使用申請出しておきますから」
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透也に話すと次々に悩みが解決していく気がするな。
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