31 / 133
いい匂いに包まれて
しおりを挟む
前と同じ肌触りの良い下着を身につけると、一緒に置かれていた着替えに手を伸ばした。
「あれ?」
わざわざ用意してくれたらしい着替えは、俺のサイズにぴったりで上質で軽い着心地の、綺麗な紺色の部屋着だった。
濡れた髪をタオルで拭きながら、脱衣所を出ると美味しそうな匂いが漂ってくる。
昼間にあんなに美味しい鰻を食べたというのに、透也の料理の匂いを嗅ぐだけでお腹が一気に空いてくる。
俺の味覚はすっかり透也の料理に馴染んでしまっているのかもしれない。
「良い匂いだな」
「もうすぐできますよ、って、その着替えよく似合ってます。やっぱりその色にして正解でした。濃いグレーと悩んだんですよねー」
「そうか、ありがとう。すごく着心地いいよ。でも……」
「んっ? どこか気になるところありました?」
「いや、そうじゃなくて……これ、すっごくいいんだけど、俺は前みたいに透也の服の方がよかったなって」
せっかく用意してくれているのに、こんなこと言って申し訳ないけど……。
でも透也の服の方が安眠できそうなんだよな。
「えっ?」
「透也の服からいい匂いするし、なんかずっと包まれてる気がして幸せで――わっ!!」
「もう! わざとですか?」
「えっ? なにが?」
急に抱きしめられて、怒られて、本当に訳がわからない。
「はぁーっ。それって、俺の匂いが好きって言ってるんですよ? 知ってます? 他人の体臭が良い匂いだと感じたらそれは遺伝子レベルでその人を求めている証拠で運命の相手なんですって」
「えっ……遺伝子? 運命の、相手……?」
「そうです。ちなみに俺も、大智の匂いは好きですよ。大智の入った後のお風呂の匂いで余裕でヌケるくらいに」
「ぬけ、って――えっ?? う、うそだろう?」
「本当ですよ。だからいつも大智に先にお風呂に入ってもらうんです」
「――っ!!!」
紳士みたいな笑顔を浮かべながら言ってることがすごい変態チックなんだけど……。
でも、俺の匂いが好きで、しかも、ぬ、ヌケる……なんて……そんなこと言われて、俺も嬉しいって思っちゃってるんだけど……。
もしかしたら、俺も変態……なのかもしれないな。
「ふふっ。本当に大智は可愛いですね」
「可愛い、とか……そんなっ」
「ふふっ。さぁ、来て下さい。髪、乾かしましょう」
抱きしめられていた身体が軽々と抱き上げられ、ソファーに座らされる。
いつの間に用意してあったのか、ドライヤーで俺の髪を手際よく乾かしていく。
自分一人の時は面倒くさくていつも自然乾燥だったのに、透也に乾かされるのは気持ちよくて眠ってしまいそうになる。
ドライヤーってこんなに気持ちいいものだったんだな。
知らなかった。
「乾きましたよ」
カチッとドライヤーが止まって、一瞬本当に寝てしまっていたことに気づいた。
俺の髪が短いから乾くのもあっという間だな。
もっと長かったら、ずっとしてもらえたのに……。
透也に乾かしてもらいたいがために髪を伸ばそうかという考えが頭をよぎる。
バカだな、俺。
今日の夕食はきのことサーモンのホイル焼き。
こんな手の込んだものが作れるのかと思って驚いたけど、透也がいうにはこれはかなり簡単らしい。
「蒸すことで食材からの旨味が出るから、バターと塩、そして出来上がったらだし醤油を回しかけるだけで、美味しくなるんです」
って簡単そうに教えてくれたけど、多分俺にはできないだろうな。
あっという間にホイル焼きや土鍋ご飯を平らげた俺は、今度こそ食事の片付けをしようと声をかけた。
「じゃあ、机の上を拭いててもらっていいですか? あ、あと調味料をあそこの収納ケースに並べてもらえると助かります」
「わかった。任せてくれ!」
そう言ってせっせと机の上を拭き、調味料をケースに持っていった。
調味料の蓋に自作の名前のラベルが貼られていて、それが50音順に並べられているのがわかる。
すごいな。わかりやすいし、使いやすそう。
こんなところでも透也が仕事ができるのがわかる。
調味料の量も半端ないし、本当に料理が好きなんだな。
感心しながら、綺麗に並べ終えた時にはもう全ての食器が食洗機に入れられて片付けが終わってしまっていた。
「もう、終わったのか?」
「はい。大智に手伝ってもらいましたから、あっという間でしたよ」
あまり手伝った感じもないんだけど、そう言ってくれるならいいか。
「さっとお風呂に入ってきますから、テレビでも見て寛いでいて下さい」
そう言われて、さっきの言葉を思い出す。
――大智の匂いは好きですよ。大智の入った後のお風呂の匂いで余裕でヌケるくらいに。
もしかして、本当に今から?
そんなことを考えて思わず顔が赤くなってしまう。
「ふふっ。なにを想像したんですか?」
「えっ? いや……」
「ふふっ。でも今日はしませんよ。大智の話を聞きたいので、急いで出てきます」
そういうと、透也は俺の髪にチュッとキスを落としてバスルームに行った。
そうだ。
俺……透也に全てを打ち明けるんだった。
ああ……ドキドキする。
透也はどう思うだろう。
一気に不安になってきて、その場に立ち尽くしていると
「――ち? 大智、まさかずっとここにいたんですか?」
と透也の声が聞こえた。
「えっ?」
「あれから15分は経ってますよ。もしかして、俺が話のことを口にしたから不安になってたんですか?」
ああ、もう全部お見通しなんだな。
俺が小さく頷くと
「すみません。不安にさせるつもりじゃなかったんですよ」
と言って、俺を優しく抱き上げた。
そのままソファーに腰を下ろすと、
「大智が話したくない事はなにも言わなくていいですよ。俺は大智の言葉だけを信じますから」
と優しい言葉をかけてくれる。
こんなにも真っ直ぐに俺を見てくれるなんて……。
もう不安になるのはやめよう。
透也ならきっと俺の気持ちをわかってくれるはずだ。
「全部……聞いてほしい……」
そう言って俺はゆっくりと口を開いた。
「あれ?」
わざわざ用意してくれたらしい着替えは、俺のサイズにぴったりで上質で軽い着心地の、綺麗な紺色の部屋着だった。
濡れた髪をタオルで拭きながら、脱衣所を出ると美味しそうな匂いが漂ってくる。
昼間にあんなに美味しい鰻を食べたというのに、透也の料理の匂いを嗅ぐだけでお腹が一気に空いてくる。
俺の味覚はすっかり透也の料理に馴染んでしまっているのかもしれない。
「良い匂いだな」
「もうすぐできますよ、って、その着替えよく似合ってます。やっぱりその色にして正解でした。濃いグレーと悩んだんですよねー」
「そうか、ありがとう。すごく着心地いいよ。でも……」
「んっ? どこか気になるところありました?」
「いや、そうじゃなくて……これ、すっごくいいんだけど、俺は前みたいに透也の服の方がよかったなって」
せっかく用意してくれているのに、こんなこと言って申し訳ないけど……。
でも透也の服の方が安眠できそうなんだよな。
「えっ?」
「透也の服からいい匂いするし、なんかずっと包まれてる気がして幸せで――わっ!!」
「もう! わざとですか?」
「えっ? なにが?」
急に抱きしめられて、怒られて、本当に訳がわからない。
「はぁーっ。それって、俺の匂いが好きって言ってるんですよ? 知ってます? 他人の体臭が良い匂いだと感じたらそれは遺伝子レベルでその人を求めている証拠で運命の相手なんですって」
「えっ……遺伝子? 運命の、相手……?」
「そうです。ちなみに俺も、大智の匂いは好きですよ。大智の入った後のお風呂の匂いで余裕でヌケるくらいに」
「ぬけ、って――えっ?? う、うそだろう?」
「本当ですよ。だからいつも大智に先にお風呂に入ってもらうんです」
「――っ!!!」
紳士みたいな笑顔を浮かべながら言ってることがすごい変態チックなんだけど……。
でも、俺の匂いが好きで、しかも、ぬ、ヌケる……なんて……そんなこと言われて、俺も嬉しいって思っちゃってるんだけど……。
もしかしたら、俺も変態……なのかもしれないな。
「ふふっ。本当に大智は可愛いですね」
「可愛い、とか……そんなっ」
「ふふっ。さぁ、来て下さい。髪、乾かしましょう」
抱きしめられていた身体が軽々と抱き上げられ、ソファーに座らされる。
いつの間に用意してあったのか、ドライヤーで俺の髪を手際よく乾かしていく。
自分一人の時は面倒くさくていつも自然乾燥だったのに、透也に乾かされるのは気持ちよくて眠ってしまいそうになる。
ドライヤーってこんなに気持ちいいものだったんだな。
知らなかった。
「乾きましたよ」
カチッとドライヤーが止まって、一瞬本当に寝てしまっていたことに気づいた。
俺の髪が短いから乾くのもあっという間だな。
もっと長かったら、ずっとしてもらえたのに……。
透也に乾かしてもらいたいがために髪を伸ばそうかという考えが頭をよぎる。
バカだな、俺。
今日の夕食はきのことサーモンのホイル焼き。
こんな手の込んだものが作れるのかと思って驚いたけど、透也がいうにはこれはかなり簡単らしい。
「蒸すことで食材からの旨味が出るから、バターと塩、そして出来上がったらだし醤油を回しかけるだけで、美味しくなるんです」
って簡単そうに教えてくれたけど、多分俺にはできないだろうな。
あっという間にホイル焼きや土鍋ご飯を平らげた俺は、今度こそ食事の片付けをしようと声をかけた。
「じゃあ、机の上を拭いててもらっていいですか? あ、あと調味料をあそこの収納ケースに並べてもらえると助かります」
「わかった。任せてくれ!」
そう言ってせっせと机の上を拭き、調味料をケースに持っていった。
調味料の蓋に自作の名前のラベルが貼られていて、それが50音順に並べられているのがわかる。
すごいな。わかりやすいし、使いやすそう。
こんなところでも透也が仕事ができるのがわかる。
調味料の量も半端ないし、本当に料理が好きなんだな。
感心しながら、綺麗に並べ終えた時にはもう全ての食器が食洗機に入れられて片付けが終わってしまっていた。
「もう、終わったのか?」
「はい。大智に手伝ってもらいましたから、あっという間でしたよ」
あまり手伝った感じもないんだけど、そう言ってくれるならいいか。
「さっとお風呂に入ってきますから、テレビでも見て寛いでいて下さい」
そう言われて、さっきの言葉を思い出す。
――大智の匂いは好きですよ。大智の入った後のお風呂の匂いで余裕でヌケるくらいに。
もしかして、本当に今から?
そんなことを考えて思わず顔が赤くなってしまう。
「ふふっ。なにを想像したんですか?」
「えっ? いや……」
「ふふっ。でも今日はしませんよ。大智の話を聞きたいので、急いで出てきます」
そういうと、透也は俺の髪にチュッとキスを落としてバスルームに行った。
そうだ。
俺……透也に全てを打ち明けるんだった。
ああ……ドキドキする。
透也はどう思うだろう。
一気に不安になってきて、その場に立ち尽くしていると
「――ち? 大智、まさかずっとここにいたんですか?」
と透也の声が聞こえた。
「えっ?」
「あれから15分は経ってますよ。もしかして、俺が話のことを口にしたから不安になってたんですか?」
ああ、もう全部お見通しなんだな。
俺が小さく頷くと
「すみません。不安にさせるつもりじゃなかったんですよ」
と言って、俺を優しく抱き上げた。
そのままソファーに腰を下ろすと、
「大智が話したくない事はなにも言わなくていいですよ。俺は大智の言葉だけを信じますから」
と優しい言葉をかけてくれる。
こんなにも真っ直ぐに俺を見てくれるなんて……。
もう不安になるのはやめよう。
透也ならきっと俺の気持ちをわかってくれるはずだ。
「全部……聞いてほしい……」
そう言って俺はゆっくりと口を開いた。
420
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる