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第四章 (王城 過去編)

フレッド   26−3

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私は堂々とシュウを抱きかかえたまま、アンドリュー王の隣に立った。

同じように抱きかかえられているトーマ王妃と並ぶと、シュウは安心したのか大人しく抱きかかえられていた。

アンドリュー王がヨハネスに声をかけると、ヨハネスは少しびくついた様子ながらも、自分の店に立ち寄ってくれたことに対する礼を述べた。

「ああ。せっかく近くを通ったから、お前にも私の・・トーマを会わせてやろうと思ってな。
お前の想い人はどうだ、相変わらず美しいだろう?」

アンドリュー王はヨハネスに向けての牽制なのか、トーマ王妃に対する皮肉とも取れるような言い方で話しかけると、トーマ王妃は俯いたままヨハネスから顔を背けアンドリュー王に抱きついていた。
いつものトーマ王妃なら、間違いがあればすぐに訂正しそうなものだが、声を上げないのはそれが真実だからか……それともアンドリュー王の気持ちを慮っているのか……いずれにしても結論を出すにはもう少し様子を見た方がいいな。

ヨハネスはアンドリュー王の言葉に異議を唱えようと声を上げたが、

「別に隠すことはないだろう? それより、そろそろ中に入れてくれぬか?」

と制され、口を噤んだようだ。

アンドリュー王に言われるがままに案内してくれた広い部屋に大きなテーブルと椅子が並べられている。
椅子の大きさがまちまちなのを見ると、もしかしたら、我々の姿を見て慌てて用意した部屋なのかもしれない。

それでも全ての椅子に上質な背当てが置かれていて、ヨハネスの配慮に感心する。
きっと私たちが長旅で馬車の椅子に疲れているという判断なのだろう。

ヨハネスという男、意外とできる男なのかもしれない。

シュウを椅子に下ろし、私の椅子を寄り添わせて私も腰を下ろした。
前を見ると、アンドリュー王もトーマ王妃とピッタリと寄り添いながら座っている。

トーマ王妃はおそらくアンドリュー王の考えが読めなくて困っているのだろう。
なぜここに自分を連れて来たのか、どうするつもりなのかをアンドリュー王に尋ねたいけれど戸惑っている。
私にはそんなふうに見えた。

シュウもトーマ王妃のいつもとは違う様子に過敏に反応し、声をかけて見たものの大丈夫だと言われ、それ以上追及することはなかったが、あの表情を見る限り納得はしていなさそうだ。

トーマ王妃の様子を見なければと思いつつも、どうもシュウの様子が気になってしまうのはやはり伴侶としては仕方のないことだろう。

そんなことを思っていると、部屋の扉が叩かれヨハネスがメニュー表を持ってやってきた。
料理の説明でもしながらと思っていたようだが、アンドリュー王は

「ああ、メニューはいい。ヨハネス……お前、我々の好みはわかっているだろう。特に・・トーマのはな」

と皮肉混じりな言い方でヨハネスの行動を遮った。

ヨハネスは今度こそは異議を唱えようとしたようだが、流石に一国の王相手に強気には出られないようだ。

アンドリュー王は少しでもヨハネスの声をトーマ王妃に聞かせたくない様子でなんでもいいから早く料理を持って来てくれと私に話を振りながら、ヨハネスに声をかけた。

そんなヨハネスが少し可哀想に思えて、私はできるだけにこやかに

「陛下から其方の料理の腕前を聞いて朝から楽しみにしていたのだ。私の妻にも美味しい料理を頼む。期待しているぞ」

と声をかけると、ヨハネスはようやく安堵した表情で
『は、はい。畏まりました』と一礼をして慌てて部屋を出て行った。

ヨハネスが部屋を出ていった瞬間、さっきまで張り詰めていた空気が和らいだように思えたのは、アンドリュー王から放たれる威嚇のような感情がなくなったからだろうか。

『ふぅ』と小さく息を吐いていると、シュウが突然アンドリュー王の名を呼んだのだ。

シュウからの声かけに嬉しそうにいつもの笑顔を向け、『ここの料理は美味しいぞ』と声をかけたアンドリュー王だったが、その言葉を聞いたシュウが突然大粒の涙を流し始めたではないか。

シュウの悲しげな表情と涙にアンドリュー王はもちろん、トーマ王妃も慌てた様子でシュウの席に駆け寄ってきた。

私は泣いているシュウをすぐに抱き寄せ自分の腕の中に閉じ込めた。
肉親であるトーマ王妃や、シュウを実の子のように慈しんでいるアンドリュー王であっても、泣いているシュウを落ち着かせることができるのは自分しかないという自信があったからだ、

何が悲しいのか?

その問いかけにシュウは震える声で、

「アンドリュー、さま……お父さんのこと……嫌いになっちゃったの?」

そう尋ねた。

シュウの純粋で真っ直ぐなその瞳に問いかけられ、アンドリュー王は
『な――っ! そ、そんなことあるわけがないだろう!』と答えたが、畳み掛けるように

「……でも、さっきからずっと……お父さん泣きそうな顔してるよ……さっきの料理人さんに対する言葉もなんだか意地悪だったし……いつもの優しいアンドリューさまはどこに行っちゃったの?」

そう問いかけられ、アンドリュー王は何も言えずにただシュウの目を見続けていた。

トーマ王妃は貰い涙をしながら、シュウに心配をかけてしまったことを本当に申し訳なく思っているようだった。
アンドリュー王に対して何か後ろ暗いことがあるなら、これほど綺麗な涙を流すだろうか?
先程のヨハネスもアンドリュー王に必死に訴えようとしていた。
本当にヨハネスとトーマ王妃はお互いに慕いあっていたのだろうか?

2人の様子を見ている限り、どうもアンドリュー王から伝えきいた話とは違う印象を受ける。
アンドリュー王の話ではヨハネスよりもトーマ王妃の方がヨハネスの元へと足繁く通い、ご執心だったような印象を受けたのだが、ヨハネスはともかく、トーマ王妃にはそんな気はさらさら見えない。
大体、この数ヶ月トーマ王妃のアンドリュー王に対する態度を見ている限り、トーマ王妃が他の男に興味を持つような感じには見えないのだ。

やはり、今回の一件については何かお互いに齟齬があるように思う。

「陛下。さっきのヨハネスの態度を見ると、先ほど私が聞いた話とはどうも誤解があるように感じました。
せっかくここまできたのですから、ヨハネスも含めてちゃんと話し合われたらどうですか?」

私はシュウを抱きしめ背中をゆっくりとさすりながら、アンドリュー王に声をかけた。
アンドリュー王はそれでも、トーマ王妃の本心を聞くのが怖いのか答えを渋っていたが、トーマ王妃はシュウの涙に思うところがあったようで、意を結した表情でアンドリュー王の手を取り、

「……アンディー、そうしよう。僕、ちゃんとアンディーにわかって欲しい。
ヨハネスとのことは誤解なんだよ! 信じてくれるでしょう?」

と必死に訴えかけた。

シュウと同じ純粋で真っ直ぐなトーマ王妃の瞳に見つめられ、一度は目を背けたアンドリュー王だったが、

「アンディー、こっちを向いて! 僕のことが信じられないの?」

というトーマ王妃の必死の訴えにようやくトーマ王妃と目を合わせた。

――トーマ王妃が離れていくのではないかと思うと怖いのだ

アンドリュー王は馬車の中で私にそう訴えていた。
それを口にすることはアンドリュー王にとっても辛いことだっただろう。

それでもアンドリュー王はトーマ王妃の必死の訴えに自分の思いを吐露した。
トーマ王妃が離れていくのではないか……その恐怖がいつでもついて回るのだと。

「僕たち『神の泉』で誓い合ったでしょう! 神さまにも会って話したのになんで僕が離れるなんて思うの?」

自分以外の元へいくのではないかという恐怖心は『神の泉』で誓い合い、しかも神と直接話したことで薄らぎ、その自信だけでアンドリュー王はここまでやって来たのだ。
自分達の間には何人なんびとたりとも入る隙間などないことを証明するために。
それでも、実際に2人を出会わせてしまったことで恐怖心が甦ったのだろう。

しかし、トーマ王妃の言葉は頑ななアンドリュー王の心に突き刺さったように見えた。

正論を言われて何も言葉を発することもできないアンドリュー王の姿に、私はやはりあの者の話を聞かなければ解決にはならないと思った。

私はまだ涙の潤むシュウに
『少しここで待っていてくれ』と囁いて、そっと部屋を出ると部屋の前にはヒューバートとブルーノの姿があった。

「アルフレッドさま……」

心配そうなブルーノに
『大丈夫だ、心配するな。陛下とトーマ王妃を信じていろ』と声をかけると、
ブルーノは小さく頷いた。

「部屋には入らずに外で見張っていてくれ」

ヒューバートにそう告げて、私はひとり、ヨハネスの元へと向かった。

店には他の客の姿は見えない。
どうやら今日は貸切にしたようだ。
厨房はどこだろうかとしばし悩んで、音の聞こえる方へと足を進めた。

厨房ではたくさんの料理が所狭しと並べられていて、完成までもうすぐと言ったところか。

「ヨハネス」

声をかけると身体をビクリと震わせてこちらを振り向いた。

「あ、アルフレッド、さま……。どうしてこちらへ?」

「料理の準備で忙しいところ悪いが、其方の話が聞きたいのだ」

「私の話、でございますか?」

「ああ。其方とトーマ王妃との仲についてな」

その言葉にヨハネスはさっと顔色を変えたが、それはアンドリュー王への裏切りをしたようなそんな表情には感じられなかった。

「其方は何を隠しているのだ?」

そう問いかけると、一瞬どうしようかと悩んだ素振りを見せたが、部屋でアンドリュー王とトーマ王妃が其方のことについて話をしていると告げるとすぐに、

「陛下は勘違いをしておいでなのです」

と小さく震える声でそう話した。

「勘違い、とはどういうことなのだ?」

「実は、トーマ王妃にアンドリューさまのお身体が心配だから精のつくものや疲れを癒すような食材を使った料理を出して欲しいと頼まれまして……」

「料理で精がつく? 疲れを癒す食材? そんなものがあるのか?」

ハーブティーのように疲れを癒す効果があるのは知っていたが、そのような効果のある料理など聞いたことがない。
目から鱗が落ちたようなそんな話に私はただただ驚いてしまった。

「私も長年料理人として料理を作って参りましたが、そのような話は聞いたことがありませんでした。
ですから、最初トーマ王妃からそういう料理を作って欲しいとご依頼を受けた時に半信半疑でした。
しかし、トーマ王妃のおっしゃる食材で料理を作って陛下にお出しするうちに、陛下ご体調が目に見えて良くなっていかれて……正直驚きました。それで、トーマ王妃にお願いをして、お手隙の時間に料理をお教えいただいていたのです」

「ならば、2人で厨房で逢引を重ねていたというのは……」

「あ、逢引だなんて……そんな恐れ多いこと……そんなことは有り得ません」

「ではなぜ急に城を辞めたいと言い出したのだ?」

アンドリュー王が不信感を抱いたのは、ヨハネスが言い出した時機があまりにも悪すぎたからだろう。
今の話を聞く限り、ヨハネスがわざとその時期を狙ったとは考えにくいが……。

「トーマ王妃に料理をお教えいただいて、自分の作る料理にこんなにも人を癒す効果があることに驚いたのです。
私はトーマ王妃からお教えいただいたことをこの田舎町で活かしたいという思いが止められなくなったのです。
王都には私以外にも素晴らしい料理人はたくさんいます。ですが、トーマ王妃のお知恵をいただいた料理人は私だけ。
私はトーマ王妃の素晴らしい教えを皆に伝えるべく、城を出ることにしたのです。
あの日はトーマ王妃が陛下のご体調が良くなられたことのお礼をわざわざお話に来てくださって、その時の様子を陛下に見られてしまったようです……」

なるほど。そういうわけか。
なんとも時機が悪すぎたのだな……。

アンドリュー王はヨハネスの腕を買っていただけに裏切られたと思い込んで、話を碌に聞くこともなく城を出ることを許してしまったのだな。
トーマ王妃は自分のせいで城を辞めさせられたと思ったのだろう。
どちらも相手を思いやった上でのすれ違いか……。

「ヨハネス……悪いが一緒に部屋にきて、今の話を陛下にお伝えするのだ。
其方の話を聞けば、陛下もトーマ王妃もお互いが勘違いしていたことに気づくはずだ。
其方を悪いようにはしない。一緒に行ってくれるな?」

「はい。畏まりました」

緊張の色が隠せないヨハネスをアンドリュー王たちの待つ部屋へと連れ帰ると、部屋の前で立っていたブルーノとヒューバートが私の姿を見つけて、声をかけてきた。

「アルフレッドさま」

「どうだ、中の様子は?」

「大きな物音はございませんが、ずっと話し合っておられるようです」


「そうか。ヨハネス、行くぞ」

後ろに控えるヨハネスに声をかけ、ゆっくりと部屋の扉を開けるとアンドリュー王の声が聞こえてきた。

「私は本当にヨハネスの料理は気に入っていた。
アルフレッドやシュウにも食べてもらいたいと思って連れてきたのも本当の気持ちだ」

「――っ!」

思いがけないその言葉にヨハネスは一瞬息を呑んだが、『ふぅ』と一息深呼吸して、

「……それは誠でございますか? 陛下」

と小さな声をあげた。

突然のヨハネスの登場にアンドリュー王は驚きを隠せない様子だったが、ヨハネスが再度

「私の料理をお気に召して、わざわざこんな田舎町までお越しくださったのですか?」

と声をかけると、悲しげな表情でその通りだと述べた。
そして、『お前が城の料理人をやめ故郷で独立したいと言った時、お前の料理をもう食べられなくなることが嫌で本当は引き止めたいと思っていた。しかし……嫉妬に駆られてお前の願いを受け入れてしまったのだ』と後悔の言葉を口にしたのだ。

ヨハネスはアンドリュー王の言葉に涙を浮かべていた。
それはそうだろう、自分が作った料理をここまで愛してくれていたのだと知って、嬉しくない料理人などいるはずがない。
本心は引き留めたかったなど、陛下に仕える料理人としてこれほど嬉しいことはないだろう。

トーマ王妃は初めて聞くであろうアンドリュー王の本心に泣きながら駆け寄った。
私とシュウは3人の様子をただ見守ることしかできなかったが、私たちが口を出さずともお互いを曝け出すことできっとこの悲しいすれ違いは解消されるはずだ。

トーマ王妃はアンドリュー王に、自分が厨房に通いヨハネスと会っていたのはアンドリュー王のためなのだと話した。
先ほどヨハネスが話していた通りの内容に、やはりヨハネスに嘘偽りはなかったと思った。
口裏を合わせるにしても出来過ぎだから、どちらも真実を語っているとしか思えない。

トーマ王妃はやはりいつでもアンドリュー王のことしか頭にないのだ。

アンドリュー王のことを思いすぎて、自分が周りからどのように見られているかなどを考える余裕がなかったのだろう。
ヨハネスにお礼を伝えに行った時にアンドリュー王に見られるとは本当に時機が悪かったな。

アンドリュー王は自分の勘違いでトーマ王妃を傷つけてしまったことを詫び、そして、トーマ王妃もまたアンドリュー王に内緒にしていたことを詫び、ようやく2人にいつもの笑顔が戻ったのだ。



アンドリュー王はヨハネスに目をやり、自分の勘違いでトーマ王妃とヨハネスの仲を疑い引き裂こうとしていたこと、そのせいで城を出たいと言い出したヨハネスを引き止めることもしなかったことについて頭を下げながら深い詫びの言葉を述べた。

その行動に焦ったのはヨハネスだった。
それはそうだろう。
一国の王であるアンドリュー王が直々に頭を下げ、詫びの言葉まで述べているのだから。

ヨハネスは慌てふためきながら、アンドリュー王へ今までの感謝の意を述べ始めた。
そして、すっきりとした晴れやかな表情で

「私の料理を召し上がっていってください」

と嬉しそうに笑っていた。

ようやく誤解が解けたのだ。
今回この地に降り立った時にはどうなることかと心配したが、雨降って地固まるというように
お互いに言いたいことを言うことで齟齬を解消することができて本当によかった。

「ああ、料理を頼む」

アンドリュー王は久々に食べるヨハネスの料理を懐かしみながらも楽しく食することだろう。

嬉しそうに部屋を出るヨハネスを背に、アンドリュー王とトーマ王妃がお互いにもう一度謝りあったところで、
シュウが笑顔でアンドリュー王に声をかけた。

「アンドリューさま。心配しなくてもお父さんはアンドリューさましか見えてないんだよ。ぼくと2人でいる時だってずっとアンドリューさまのことしか話してないし……」

「ちょ……っ! 柊くん!」

トーマ王妃は顔を真っ赤にしてシュウの言葉を遮ろうとしたものの、結局はいつでもアンドリュー王のことしか見えていないのは本当のことだと自白させられ、

「愛してるよ、トーマ」

「うん。僕も愛し……」

我々の目の前でトーマ王妃の言葉を塞ぐようにアンドリュー王の唇が重なり合った。

シュウはアンドリュー王とトーマ王妃の口づけを顔を真っ赤にしながらもじっと見入っていた。
私以外のものをあんまに艶めかしい瞳で見るのは許せないという感情が湧き上がってきて、気づけばシュウの柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせていた。

シュウはてっきりすぐに離れていくかと思ったが、シュウの舌が積極的に私の舌に吸い付き絡みついてくる。
その甘やかな刺激にアンドリュー王とトーマ王妃に見られているのも厭わずに、ただシュウの唇の甘さに酔いしれていた。

満足するには程遠い時間ではあったが、シュウの唇を堪能しゆっくりと離すと、シュウはようやく2人に見られていることに気づいたようだ。
シュウもトーマ王妃もお互いに口づけを見たことで少し恥ずかしそうにしているが、私たちは共に唯一の存在で口づけをするのも交わるのも当然なのだから恥ずかしがることなどないと思うのだが……あちらの世界の人間は性的な接触に対して少し恥じらう傾向にあるようだ。
いや、もしかしたらシュウとトーマ王妃だけなのかもしれないが……。
あの2人の育った環境が特殊なのも関係しているのかもしれない。

そんなことを考えていると、ヨハネスが料理を運んできた。

広いテーブルに所狭しと並べられた大量の料理はヨハネスの気持ちの表れだろうか。

シュウもトーマ王妃も湯気の立つ美味しそうな料理の数々を前に
『わぁ、美味しそう』と可愛らしい声をあげた。

皆でヨハネスの料理に舌鼓を打ちながら、トーマ王妃やシュウの楽しそうな笑い声で部屋は柔らかな雰囲気を漂わせている。
部屋の外でブルーノもヒューバートも安堵している事だろう。

あっという間に食事を終え、食後の紅茶を飲んでいるとトーマ王妃が画帳を取り出した。
あれはシュウが私の絵を描いてくれた画帳か。

「ねぇ、アンディー、フレデリックさん見て。これ、柊くんが描いてくれたんだよ。
金剛石ダイヤモンドの方はこんな感じでみんなお揃いの指輪にしよう」

と広げて見せてくれたものは間違いなくシュウの筆触で、あまりにも美しいその図案に私は一瞬にして目を奪われた。
アンドリュー王もシュウの指輪の図案に『ほぉっ』と感嘆の声をあげ、

「城についたらすぐにレイモンドを呼び寄せることにしよう。
前もって早馬を出しておいた方がいいな」

とすっかり気に入った様子だ。
私たちのピアスを作ってもらった時のことを思い出し、登城させるより直接工房に行った方がいいと進言するとアンドリュー王はすぐに納得した。

私とシュウの耳で輝いているピアスを見つめながら、早くピアスもと溢していたから相当羨ましいのだろう。
トーマ王妃の耳にアンドリュー王の瞳色の藍玉アクアマリンが彩られる日が今から待ち遠しい。

ああ、今日はヒヤリとしたが結局は私たちもヨハネスも2人の痴話喧嘩に巻き込まれたと言うことなのだろう。
兎にも角にも仲直りしてくれて本当によかったと私は心の中で『ふう』と大きく息を吐いた。
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