異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

波木真帆

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執事からの手紙

フィオラード王国唯一の公爵家。
私はそのランチェスター公爵家の当主 エリアス・ランチェスター。三十歳。
今日もいつもと変わらず多忙な日々を過ごしていた。

「旦那様。お忙しいところ失礼致します」

執務室での仕事中に執事のクラウスが珍しく部屋の扉を叩いた。
火急の用でなければ休憩に入るまで待っているのだが、それをしなかったということはすぐに対処しなければいけないということなのだろう。厄介なことに巻き込まれなければいいのだが……

「入れ」

頭を下げながら入ってきたクラウスは、手紙を持っていた。

「用件はそれか?」

「はい。大奥様の遠縁にあたるエヴァンス子爵が危篤とのことで、その家の執事から旦那様へお手紙が参りました」

隣国で暮らすエヴァンス子爵は名前こそ知っているが、祖母の弟の配偶者の甥という、いわば私とは血の繋がりも何もない相手だ。その彼が余命幾許もないといってもさして私には何も関係がない。今まで付き合いすらしていないのだからわざわざ執事から手紙が来ることなどないはずだが、一体何の用だろう。

クラウスから渡された手紙を受け取り、中を見る。その内容に思わず眉を顰めた。

「旦那様、何事かございましたか?」

「エヴァンス子爵は親戚の全てと縁を切って生活をしていたようだ。そのため、このままエヴァンス子爵が命を終えるようなことになればその屋敷を引き継ぐものがおらず、屋敷はエヴァンス子爵が存命の頃と同じ状態で残されることになる。急な病で臥せったために、使用人たちとの契約も引き継いでくれるものがいない。このままでは給金も貰うことができず全員が路頭に迷うことになる。この手紙は、少しでも早く屋敷に来て形式だけでも後継となり、私にその屋敷の後始末をしてほしいという使用人たち全てからの嘆願書だ」

「なんと……っ」

クラウスは驚いているが、使用人たちの気持ちはわかる。
主人でなければ金のありかもわからず、給金をもらえない。このままでは次の仕事を探しに屋敷を出ていくこともできない。主人が危篤になり、後継となりうる人物がいないかどうか必死に探した末、隣国の私まで辿り着いたのだろう。それほどエヴァンス子爵は誰とも関わりを持たずに生活をしていたということだ。
屋敷内に金がなければ、屋敷を売り払いその金で使用人たちに支払うことになるが、平民である使用人たちが勝手に主人の屋敷を売り払うことはできない。私に形だけでも後継になって欲しいというのは、私に使用人たちの給金を立て替えてほしいということなのだろう。それほど彼らが切羽詰まっているというのが伝わってくる。

それにしても隣国か……。遠いな。
どれだけ馬を飛ばしても半日以上はかかる。
あちらで屋敷を売り払うまでの手続きも行わなければならないとなると、仕事も数日休まなくてはいけない。
通常、どこかに行かなければならないときは前もって調整を行い、それまでに仕事を進めて帰宅後にはつつがなく仕事を始められるようにするのだが、今回はそうはいかない。
このまま何もせずに行けば、帰ってきたら仕事が溜まって自分が大変になるのはわかっている。
だが、突然の主人の危篤にこれから先のことを不安に思いながらも屋敷に留まっている使用人たちを思えば、ここからあと数日待つのは辛いだろう。

「クラウス。すぐに隣国に向かう。旅の準備を整え、エヴァンス子爵家の執事に早馬を出しておくんだ」

「承知いたしました」

旅の準備が整うまで少しでも仕事を進めておくとしよう。

隣国までの馬車の旅。
使用人たちのことを思えばそう楽しんでもいられないが、あまり足を運ぶことのない地域だから少しは旅気分でもいいだろうか。

そんなことを考えながら、三時間後全ての準備が整い、私は屋敷を出発した。
急な出発であったため、同行者は執事のクラウス。そして御者のヨハンだけだが問題はない。
途中で休憩を挟み、日が落ちてからはランプの灯りを頼りに隣国への道を進んでいった。
今回持参した金は一千万ルスカ。
これだけあれば使用人の給金を支払ってあげることはできるだろう。
私が到着した時、彼がまだ存命で本人の承諾を得られれば手続きもまだ楽になるだろうが、持ち堪えてくれるかどうか……。それは神のみぞ知るというところか。

馬車の中で夜を明かし、出発してから十三時間余りでようやく隣国のエヴァン子爵邸に到着した。
晴れやかな朝日を迎えたばかりだったのだが……

「クラウス、こ、ここが……エヴァンス子爵邸、なのか?」

「はい。ここで……間違いないようです、ね……」

そう言いつつもクラウスもまた、目の前の惨状に驚きの表情を見せていた。
エヴァン子爵家の執事からの手紙には確かにここの住所が書かれていたから間違いはないようだが、目の前の屋敷は入り口もわからないほど蔦に覆われた今にも崩れ落ちそうなほど荒れ果てた屋敷だ。もう何年も全く手入れがなされていないことがわかる。

「こんな家に住んでいたのか。全員と言いつつも使用人の名前も数名しか書かれていなかったからおかしいと思っていたが、これを見ると当然だな」

旅行気分が一気に消え失せたのを感じながら、私たちは屋敷の扉を叩いた。
ドアノッカーで叩いただけで壊れてしまいそうな扉を叩くとゆっくりと扉が開いた。

ギィーーッ。

ここも手入れのされていない蝶番の錆びた音がしている。
今にも朽ち果てそうな扉から出てきたのは、窶れた男の姿。
服装から察するに執事だろう。

挨拶をする元気もないのか。
項垂れた様子で出迎える男に私から声をかけた。

「ランチェスターだ。其方が私に手紙を送ってきた執事か?」

その言葉に男は希望の光が見えたとばかりにその場に平伏した。

「ランチェスター公爵様! お待ち申し上げておりました。執事のコルトでございます。お越しくださりありがとうございます、ありがとうございます」

床に額を擦り付けんばかりに何度も頭を下げる。
それほど限界を迎えているのだろう。

「私への礼は良い。それよりも主人はどのような状態だ?」

「まだわずかに呼吸はなさっておられますが、医師の話では気力だけで生きながらえている状態のようです」

「すぐに主人の部屋に案内しろ」

まだ生きているなら少しでも早く本人に会わなければ!
執事は私の命令にフラフラと立ち上がると、部屋の奥に進んでいく。
家の中は朝だというのに薄暗い。おそらく屋敷を覆っていたあの蔦のせいだろう。

「こちらでございます」

一応ノックはするが、声を出せる状態ではないのはわかっている。
返事も聞かぬうちに執事の男は扉を開けた。
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