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閑話 俺の同期のスゴいやつ <side橘誠一郎>

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俺にはすごい同期がいる。

偏差値の高い高校でトップクラスの成績を3年間維持し続け、生徒会長までやっていた俺、
たちばな  誠一郎せいいちろうは、国立桜城大学も合格間違い無しと言われていたが、テストの日にインフルエンザに罹患し、残念ながら桜城大学を諦め、それでも同レベルの名門私大に首席で合格した。

大学でも成績はオール優、サークル活動やボランティア活動にも精を出し、老舗広告代理店【小蘭堂】に早々と内定を取り付けた。

新入社員研修日初日、全国から集まった新入社員は全部で123名。

自分の希望の職種に配属されるかどうかはこの研修で決定される。

俺の希望はもちろん、花形である営業部。
俺が今までに培ってきた話術はもちろん、一般的にイケメンと呼ばれるくらいの顔立ちも武器だ。

他にライバルになりそうなやつはいるか? とキョロキョロと新入社員たちを眺めてみると、

おお、いた、いた!

俺に負けず劣らずのイケメンが!
身長も高いし、体型もモデル並みだな。
マッチョまでいかないながらも、良い筋肉してる。
多分、シックスパック……いや、もしかしたらエイトパックかも……なんて思いながら、そいつをガン見してたら、視線に気づいたのか、あっちの方から俺に近づいてきた。

「俺、早瀬。お前は?」

「あ、ああ。俺は橘だ。よろしくな」

「ああ、よろしく。お前も営業か?」

ニヤリと笑う顔も、おい、イケメンだな。

「ああ、お互い頑張ろうぜ!」

俺がそう言って手を差し出すと、少し驚いた様子で俺を見た後で

「お前、気に入った! 頑張ろうぜ!」

そう言いながら、握手にしては痛いくらいの力でぎゅっと握って笑いながら去っていった。

研修初日を終え、部屋割りの発表となり俺たちは偶然にも同室となった。

夕食の後、夜の研修を終え俺たちは部屋に入った。

早瀬は俺が行きたかった桜城大学出身だった。
俺がテストの日にインフルに罹患したことを話したら、大笑いしていた。
普通のやつなら、嘘でも同情めいた言葉を言ってくるのに、早瀬やつの反応が新鮮で、俺は度肝を抜かれると共に、こいつならちゃんとした友達になれるかもしれない、そう思った。
まぁ、本人には絶対言わないけれど……。

研修を無事に終え、俺たちは揃って営業部へ配属になった。

先輩に付いて仕事を教わっていたのは一瞬で、あいつは一年目から契約をガンガン取ってきた。

俺も負けじと精を出したが、俺はいつもあいつに一歩リードされていた。

あいつは一年目に営業成績3位を取ったあとは、5年連続1位を取り続けるという怪物みたいなやつだ。

あいつは人当たりもいいし、男女問わず優しいフェミニストだ。
だが、裏を返せば誰にでも同じ対応で、特別なんて存在しない。

特定の彼女も俺の知る限り、入社してから居ないんじゃないか。

あいつが本気で好きになれるやつなんてできるんだろうか……。

そんなある日、早瀬が可愛い男の子を連れて出社してきた。

身長は175cmに届くかどうかといったところだろうか。少し華奢な体型だが、顔が小さく手足が長い。

長い睫毛に二重の目。
色白の肌。
綺麗な鼻筋。
艶のある唇。

中性的な顔立ちの美しい彼と、男が理想とするイケメンの早瀬。
2人が並んで立っている姿を一目見ただけで、釘付けになってしまう。

インターンにしてはカジュアルすぎる格好だし、早瀬がやたらと世話をやいている様子を見ると、クライアント関係か?

上層部の息子という場合もあるな。
ただ、そんな相手に早瀬が媚びをうるとは思えないし……。

やっぱりあの顔立ちからするとモデルか?
でも、わざわざ営業部に連れてくる意味がわからない。

どうしても気になって、早瀬に声をかけた。
でも、詳しいことは教えてくれないが、彼が桜城大学の学生だということはわかった。

準備している間、早瀬は彼を休憩室へと案内していたが、お菓子だ、コーヒーだとこれまた世話をやいている。

なんだ? どうしたんだ?
いつもの貼り付けたような笑顔の早瀬はどこに行ったんだ?

あれは早瀬の双子の兄弟とでも言われた方が納得してしまうほど、いつもの早瀬ではなかった。

休憩室で早瀬に好意を持っている新入社員の咲田に絡まれていた彼を助けようとしたけれど、彼は咲田に嫌味を言われているのも気づかない様子で、早瀬のことをどれだけ好きなのかを無自覚に惚気ながら話して聞かせていた。

あんな心の底から早瀬を好きだと訴えているような言葉をなんの衒いもなく言える彼は一体何者なんだろう……。

俺は彼が気になって仕方なくなった。

どうやら彼はうちの会社に内定しているらしい。
こんなに早く決まるはずがないと驚いてしまうほど、彼は異質だった。

なんせ、重役たちを全員虜にしたっていうんだから。
面接で一体どんなことをやればそんな状態になるんだろう。


彼が受付の女に怪我をさせられたらしいと噂が流れたのはその日の夕方だった。

早瀬は顔面蒼白で彼を自宅に連れ帰ったと部長から聞いた。

彼は大丈夫だろうか?
早瀬の家に連れて帰るほどの仲なのか?

今日彼を見てから、なぜだろう……一日中彼のことばかり考えていた気がする。

もしかして、俺は彼が好きなのか?
そう思った瞬間、胸にストンと落ちた気がした。

自分の心に気づいた途端、早瀬の顔が浮かんだ。

誰に対しても自分を出せずにきたあいつが、あの子のことには感情を剥き出しにしていた。

ああ、彼があいつにとって特別な存在だったんだ。

あいつがやっと見つけた相手を横から掻っ攫うなんてできないよな。

でも、あいつが少しでも彼を離そうとしたらその時は俺が奪いにいってやろう。
その時は営業成績もお前を抜いてやるからな。

彼を手放したとき、お前は負けるんだ。
その時まで俺は大人しく見守っていよう。
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