俺の天使に触れないで  〜隆之と晴の物語〜

波木真帆

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大人の余裕

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「お待たせ」

晴と理玖が揃ってキッチンから戻ってきた。
当然のようにアルの隣にちょこんと座る理玖を見ながら、晴も嬉しそうに俺の隣に腰を下ろした。

理玖がお茶を淹れている横で、晴が買ってきた和菓子をキッチンから持ってきた和皿に盛っていく。
こういうのはセンスが必要だが、晴の盛りかたは綺麗だ。
見ているだけでため息が出る。
それにしてもこの皿、あんまりこういうものに詳しくはないが良いものだというのはよくわかる。

「アル、こんな和皿よく持ってるな」

「ああ。和食を作るようになってから皿に興味を持ってね。やはり和食には洋皿よりも和皿がよく似合うからな」

「すごいな、俺はそんなことまで気を配ったことはないよ」

「まぁ、これでも飲食店を経営してるんでね。料理に合う皿は結構大事だよ。目で楽しむと料理のおいしさも増すからね」

「なるほど。さすがだな」

「いや、さすがなのはハルだよ。たくさんある皿の中で確実にこの和菓子に合う皿を探して持ってきてるんだからね」

アルが誉めると、晴は恥ずかしそうに照れた表情を見せ、理玖は自分のことのように嬉しそうに笑っていた。
普通、自分の恋人が他人を褒めれば嫉妬でもしそうなものだが、嫉妬しないくらい晴のことを信頼しているってことなんだろうか。

「アル、どれにする?」

理玖は丁寧に和菓子の中身について説明してあげると、アルは悩みながらも三色団子を選んだ。
やっぱり餡子の入っていないものを選んだか。ふふっ。

理玖はどれにしようかなと悩みに悩んで、結局一つに絞りきれず みたらし団子と豆大福を皿にとっていた。

「ここの豆大福が一番人気なんだよな」

ああ、久しぶりだぁと嬉しそうに頬張る理玖が微笑ましかったが、さすがにアルの視線が痛くて俺はあまり見ないでおいた。
理玖は嫉妬しないが、アルの嫉妬はやはり激しいようだ。
旅行中これには気をつけないといけないな。

そんな俺の焦りも気にせず、理玖は口の周りに白い粉をたくさんつけて、

「これ、おいしいよ」

とアルと話をしている。
そんな理玖を見てアルは蕩けるような笑顔を見せていた。

本当にこの2人は仲がいい。
自然に惚気てるんだから困るな。

隣を見ると、晴もみたらし団子を口に運んでいた。
晴の小さな口には一つ入れると大きすぎるだろうと思っていたが、晴はパクッと一つ口に入れた。
やはりというかなんというか少し苦しそうにしていたが、おいしそうに食べている。
その時唇の端からみたらしのタレがツーッと流れているのを見て、俺は思わずそれに唇を寄せた。

「「えっ?」」

アルと理玖の驚く声で我に返ったが時すでに遅し。

俺は晴の口から垂れる甘い甘いタレをすっかり舐め取ってしまっていた。


「甘いな」

自分から漏れたその言葉で我に返った。
そう、ここがアルの家だということに今気づいたんだ。

晴は顔を真っ赤にしていると、理玖は晴以上に真っ赤な顔で俺と晴を何度も見やり、アルは一瞬驚いた表情をしたのちに突然

「hahaha! ユキもやるな」

と大笑いしていた。

この家の心地よさにすっかりリラックスして、二人で家で過ごしている時のように感じてしまっていたのは確かだ。
それでも人がいるにも関わらず、素の自分を出したことなどなかったのに……。
自分で自分のやったことに驚いてしまった。

「いいじゃないか。ユキもハルも私たちの大切な親友だ。お互いカップル同士、気にすることないだろう?」

アルはさすがというかなんというかかなり大らかだが、理玖は俺たちの見てはいけないところを見てしまったとでもいうようにまだ晴の方を向くことができずにいる。

晴は突然の俺の行動にどうしていいかわからないみたいで、まだ顔を赤らめたまま固まってしまっている。

だが、アルのいうことも正しい。
確かに今の行動は激しかったことは認めるが、家にいればそれ以上のスキンシップは常に取っているのだ。
それが人前か二人きりかの違いだけで急によそよそしくなるのもおかしいというものだ。

この4人で旅行に行くわけだし、旅行に行っている間中ずっと晴とイチャイチャできないのは困る。
初めての旅行なのによそよそしいのはゴメンだからな。

「晴、さっきのは急にしてしまって俺が悪かった。ごめん。だが、アルのいうとおり、これから4人で過ごす時間が長ければ当然あんな場面にも遭遇するだろう。俺は晴と一緒にいれば、いつでもくっついていたいし、晴の唇に何かついてればさっきみたいに取ってやりたいとも思う。それが恋人ってものだろう?
それとも晴は理玖やアルがそばにいる間は俺には絶対にくっつかないのか? それでいいのか、本当に?」

かなり強気な態度で話をしているが、それもこれも全ては楽しい旅行にするためだ。
今、晴の口から言質をとっておかなければイチャイチャラブラブの旅行はやってこないんだ。

「……それ、いやだけど……でも、理玖やオーナーに見られるのは恥ずかしいよ……」

「じゃあ、旅行の間は別々に行動するか?」

「えっ? 別々?」

「ああ。だって、俺は晴がそばにいたらいつでも触って近くにいたいんだ。でもそれを晴が恥ずかしいっていうなら、近づかないようにするしかないだろう? なぁ、アル」

俺はそう言ってアルに話を振った。
アルならきっと俺の思いを読み取ってくれるはずだ。

「ああ。そうだな。リクも同じ気持ちなのか?」

「えっ? そりゃあ恥ずかしいけど……でも、」

「でも、なんだ?」

「せっかくの旅行なのに……アルと別行動なのは、ヤだ……」

「なら、いつものようにリクに触れてもいいんだろう?」

「う、うん。あ、あんまり激しいのはダメだけど……」

「ふふっ。わかっているさ。そんなことをして蕩けるような顔をしたリクを見るのは私だけでいいからな」

そういうとアルは理玖を抱きしめて頬に軽くキスをした。
晴はそれを見てまた少し顔を赤らめていたが、理玖の様子に自分も気持ちを決めたのか

「やっぱり僕も隆之さんと一緒がいい!!」

と言ってくれた。
やったっ! これで楽しい旅行になりそうだ。


「じゃあ、これで心置きなく旅行の計画を立てられるな」

アルと顔を見合わせてにっこり笑い合ってから、俺は持ってきた旅のパンフレットをテーブルに広げた。

「前にも見せたパンフレットだけど、一応それを参考に俺が旅の大まかな予定を組んでおいた。
気になるところがあったら遠慮なく言ってくれ」

そう言って、旅の栞を3人に配ると
『うわっ、すごい!』
『これでもう大丈夫じゃない?』
『さすがユキだな』
と3人とも食い入るように見つめては賛辞の言葉をかけてくれた。

「アルが車を用意してくれるって言ったから、その言葉に甘えてレンタカーは考えてないんだ。それでよかったよな?」

「ああ。車は任せてくれ! もう乗っていくつもりで整備してるんだ。なっ、リク」

「そうそう。車使うって話した時から、毎日楽しそうに車整備してて、この前試乗がてら箱根に行ったんだよね。すごく快適な旅だったよ。乗っていかないなんてなったら、アルが泣くかも。ねっ」

そう言い合う二人は本当に仲が良くて微笑ましい。
もちろん、俺と晴も負けないくらいラブラブだから問題ないが。

「そうだっ! ユキ、一度練習しておかないか? 交代で運転してもらうから私のあの車に慣れておいてもらった方がいい。あれはクラッシックカーだから機嫌を損ねるとなかなか動いてくれないんだ」

「それじゃあ、練習ついでに二人で買い物してきてよ。さっき、香月が夜ご飯作ってくれるって言ってくれたんだけど、材料が足りなくて後で買いに行こうと思ってたんだ」

「ハル、手料理を作ってくれるなんて! いいのか?」

「オーナーの料理にはまだまだ及びませんけど、食べてもらえたら嬉しいです」

「ああ、楽しみだよ。じゃあ、ユキ。行こうか」

あっという間に出かけることになってしまったが、アルの車も気になるしそれに何より……。

多分そうだろうから、ここは外に出ておいた方が良さそうだ。

「じゃあ、行ってくるよ。アルの車、壊さないように頑張ってくるからな」

「ふふっ。隆之さんなら大丈夫だよ。でも気をつけていってらっしゃい」

俺たちははると理玖に見送られて地下のガレージへと向かった。

ガレージの一番いい場所に置かれた車が今回の旅行で使う車のようだ。

「アル! 本当にすごい車じゃないかっ!! まさかこの車がこんなに綺麗な状態であるなんてな」

「そうだろう? 私も日本で見つけて驚いたよ。最初は精巧なレプリカだと思ったくらいだ」

アルがそう思ってしまうのも無理はない。
この車は世界でも300台ほどしか生産されていない希少な車だ。
しかもこんな綺麗な姿で残っているのはほぼないと言っていい。
こんな車を俺が運転してもいいのか??
旅行以上に緊張してしまいそうだ。


慣れない車で焦る姿など晴に見せるわけにもいかない。
今回アルに試運転させてもらえることになったのは俺にとって良かったと言えよう。

晴と理玖を家に残し、俺とアルの二人で試運転がてら少し離れたスーパーへと買い物に向かった。
スーパーといっても目的のスーパーはこの高級住宅街に住む人たち御用達の高級スーパー。
品揃えがよくアルのような日本に住む外国人が本国の調味料や食材などを探しても大体のものが見つかるという素晴らしいスーパーなのだ。

今日晴が作ってくれるのは材料を見る限り、和食のようだ。
まさかそんな高級スーパーで食材を買ってくると思っていないだろうから、値段を知ったら驚くだろうな。
まぁ、晴には何も言わなくても食材を見ればすぐに気づくかもしれないが。

アルの愛車の運転席に座らせてもらい、エンジンをかけただけで『おおっ』と胸が高鳴った。

かなり気まぐれ屋のこの車は気に入らないやつだとエンジンをかけるにも苦労するとこの車を買った販売店員が言っていたらしいが、今のところは俺は好かれているのかもしれない。

かなり乗り心地の良いこの車は快適でスイスイ走り、あっという間にスーパーへと着いた。

それからすぐに二人でスーパーへと入ったが入った瞬間、中にいる客や店員から一斉に視線を浴びたのはよほど目立っていたとみえる。

まぁあまりスーパーに似つかわしくない大柄の男が二人、しかも自分で言うのもなんだが俺たち二人ともかなり顔がいい。
そりゃあ目立つに決まってる。

なんとか話しかけに来ようとする女性陣たちを遠ざけるために、アルが一貫してドイツ語しか喋らず俺もそれに乗っかると日本語が通じないのかとスゴスゴと諦めて俺たちの側から立ち去っていくのが面白かった。

英語ならともかく、日本人でドイツ語がネイティブにはなかなか出会うことがないからアルの機転で助かったな。

晴と理玖のわかりやすいリストのおかげで迷うことなく買い物を合わらせた俺たちは楽勝で買い物を終え、車に戻った。

「ユキ、ちょっとコーヒーでも飲んで帰らないか?」

冷蔵品はスーパーからの配達に任せたから少しくらい遅くなっても構わないだろう。
いや、アルの目的はきっとそれだろう。

アルのおすすめだというカフェにナビをしてもらい、駐車場に車を止めて店へと向かう。

駐車場まで漂ってくるコーヒーの香りがなんとも言えない味わいがある。

「あの家に住み始めてしばらくしてこの店を見つけた時、あの家に住んだのは大正解だったと思ったよ。
リクもよく連れていくんだが、リクにもお気に入りの場所になったみたいでね、気に入ってるんだ」

そうやって自分のお気に入りの場所を恋人と分かち合えるのは幸せなことだな。
アルの柔らかい表情がそれをよく物語っている。

中に入ると、アルがいつも座るという奥の席へとスタスタと歩いていく。
席に座るとすぐに注文を取りに来てくれた店員に『いつものものを二つ』とあっという間に注文してしまった。

「ユキには私の気に入っているコーヒーを飲んでもらいたかったんだ」

そう話していたが、それ以外にも理由はありそうだ。

「理玖は何か晴と大事な話があるのか?」

俺の言葉にアルは驚くでもなく、柔らかい笑顔を向けた。

「さすがだな、わかってたのか?」

「ああ。理玖が買い物に行ってきて欲しいってアルに頼んだところからかな。多分、晴と二人で話したいことでもあるんだろうって思ったんだ」

「二人が内緒の話なんて気にするかと思ったが……」

「ああ。いつもならまぁ気にしたかもしれないが……旅行前だからいろいろ考えるところもあるんだろう。
そんな野暮は言わないさ、俺だって」

「ふふっ。そうか。さすが、ユキだな」

嬉しそうに笑うアルの姿に大人の余裕が見えた。
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