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番外編
好きな匂いと運命の人
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<sideヒジリ>
「んっ……喉、乾いたな……」
少し眠っていたけれど、喉の渇きを感じて僕は目覚めた。
妊娠中はやけに喉が渇く。それは今回も同じみたいだ。
きっとお腹の赤ちゃんが欲しがっているんだろう。
僕は手に届くところに置いていたベルを鳴らしてグレイグさんを呼んだ。
「ヒジリさま。お目覚めになりましたか?」
「うん。ちょっと喉が渇いちゃって……」
「そうだと思いまして、ハーブティーをお持ちしましたよ」
「わぁー、さすがグレイグさん! ありがとう!」
いつでもどんな時でも欲しいと思ったものを何も言わなくても用意してくれるグレイグさん。
本当にすごいよね。
起き上がるのを手伝ってもらって、ベッドのヘッドボードを背もたれにして座ると、程よい温度のハーブティーを手渡してくれる。
「んー、すごくいい香り。ちょっと気分悪いのもこの香りを嗅いだら落ち着くね」
「それはようございました。いつでもご用意できますので遠慮なくお申し付けくださいね」
「うん。ありがとう。あ、そういえば今何時くらい? ランハートとテオはもう戻ってくるかな?」
「はい。先ほど訓練場をお出になったと連絡が来ておりましたが、少し買い物をなさってお帰りになるそうです。ヒジリさまへのお土産を買われるそうですよ」
「わぁー、お土産。楽しみ! 甘い果物なら食べられそうだな」
「ええ。きっとお二人で選んでくださいますよ」
「そうだね。楽しみにしておこうっと」
テオの時もあまり食欲はなかったけれど、果物はよく食べられたんだよね。
ランハートがきっとその時のことを覚えてるかな。
ハーブティーを飲みながら、しばらくの間グレイグさんにおしゃべりに付き合ってもらっていると、
「おや、そろそろお帰りになるようです。少し失礼いたしますね」
グレイグさんは笑顔を浮かべて立ち上がり部屋を出ていった。
なんでそろそろ帰るってわかったんだろう?
でも、グレイグさんには不思議な力があるからな。
帰宅時間がわかるのも不思議はないかも。
グレイグさんのその能力のおかげで、初めて会った時どう見ても胡散臭かった僕を信じてもらえたんだよね。なんだか懐かしい……。
グレイグさんと会ったあの日のことを思い出していると、
「お母さまーっ! テオだよ!」
と寝室の扉が少し開いて声が聞こえた。
「どうぞ入って」
「はーい!」
「おかえり。騎士団の訓練の見学はどうだった?」
「うん、それがねー」
「ほら、テオ。ヒジリの部屋に入る前に手洗いするんだろう?」
「あっ、そうだった! お母さま、すぐに戻ってくるから待っててね! お父さまは何も言っちゃダメだよ!」
「ははっ。待っているから安心しなさい。グレイグにちゃんと確認してもらうんだぞ」
元気な返事が遠ざかっていくのを聞きながら、僕は思わず笑ってしまった。
「よっぽど楽しかったんだね」
「ああ。とびきりのことがあったんだよ」
「へぇ、それは楽しみ! あれ? なんか甘い匂いがする」
ランハートからふわっと甘い香りが漂っているのに気づいた。
「さすがだな。妊娠中は嗅覚が優れるの以前と変わらないようだ。お土産にフルーツを選んできたんだよ。食べられそうなら剥いてもらうが」
「さっきお茶を飲んだばかりだからもう少し経ったら貰おうかな。美味しそうな匂いがしてる」
「ああ。今の時期は食べたいものを食べられるだけ食べておかないとな」
「ランハートは僕より詳しくなってるね」
「もちろんだ。ヒジリのことは私が一番よくわかっているのだからな」
「そうだね」
ランハートはベッドに腰を下ろして座っている僕を優しく抱きしめてくれた。
「ちょっと汗の匂いがする」
「悪い、臭かったか?」
「ううん。僕の好きな匂いだから大丈夫」
ランハートに抱きついて匂いを嗅いでいると、気分の悪さもどこかに行ってしまうような気がした。
「お母さまー! お父さまー! 手を洗ってきましたー!」
元気いっぱいに戻ってきたテオは、嬉しそうに僕たちの元に駆け寄ってきた。
ピカピカになった手のひらを見せるテオは本当に可愛い。
「えらいね。それで、今日は何があったの? お母さまに教えて!」
「えへへー。あのね、お母さま。僕……運命の人に、出会ったんだ!」
「えっ? 運命の、人……?」
想像していなかったテオの言葉に僕は驚きでいっぱいになっていた。
「んっ……喉、乾いたな……」
少し眠っていたけれど、喉の渇きを感じて僕は目覚めた。
妊娠中はやけに喉が渇く。それは今回も同じみたいだ。
きっとお腹の赤ちゃんが欲しがっているんだろう。
僕は手に届くところに置いていたベルを鳴らしてグレイグさんを呼んだ。
「ヒジリさま。お目覚めになりましたか?」
「うん。ちょっと喉が渇いちゃって……」
「そうだと思いまして、ハーブティーをお持ちしましたよ」
「わぁー、さすがグレイグさん! ありがとう!」
いつでもどんな時でも欲しいと思ったものを何も言わなくても用意してくれるグレイグさん。
本当にすごいよね。
起き上がるのを手伝ってもらって、ベッドのヘッドボードを背もたれにして座ると、程よい温度のハーブティーを手渡してくれる。
「んー、すごくいい香り。ちょっと気分悪いのもこの香りを嗅いだら落ち着くね」
「それはようございました。いつでもご用意できますので遠慮なくお申し付けくださいね」
「うん。ありがとう。あ、そういえば今何時くらい? ランハートとテオはもう戻ってくるかな?」
「はい。先ほど訓練場をお出になったと連絡が来ておりましたが、少し買い物をなさってお帰りになるそうです。ヒジリさまへのお土産を買われるそうですよ」
「わぁー、お土産。楽しみ! 甘い果物なら食べられそうだな」
「ええ。きっとお二人で選んでくださいますよ」
「そうだね。楽しみにしておこうっと」
テオの時もあまり食欲はなかったけれど、果物はよく食べられたんだよね。
ランハートがきっとその時のことを覚えてるかな。
ハーブティーを飲みながら、しばらくの間グレイグさんにおしゃべりに付き合ってもらっていると、
「おや、そろそろお帰りになるようです。少し失礼いたしますね」
グレイグさんは笑顔を浮かべて立ち上がり部屋を出ていった。
なんでそろそろ帰るってわかったんだろう?
でも、グレイグさんには不思議な力があるからな。
帰宅時間がわかるのも不思議はないかも。
グレイグさんのその能力のおかげで、初めて会った時どう見ても胡散臭かった僕を信じてもらえたんだよね。なんだか懐かしい……。
グレイグさんと会ったあの日のことを思い出していると、
「お母さまーっ! テオだよ!」
と寝室の扉が少し開いて声が聞こえた。
「どうぞ入って」
「はーい!」
「おかえり。騎士団の訓練の見学はどうだった?」
「うん、それがねー」
「ほら、テオ。ヒジリの部屋に入る前に手洗いするんだろう?」
「あっ、そうだった! お母さま、すぐに戻ってくるから待っててね! お父さまは何も言っちゃダメだよ!」
「ははっ。待っているから安心しなさい。グレイグにちゃんと確認してもらうんだぞ」
元気な返事が遠ざかっていくのを聞きながら、僕は思わず笑ってしまった。
「よっぽど楽しかったんだね」
「ああ。とびきりのことがあったんだよ」
「へぇ、それは楽しみ! あれ? なんか甘い匂いがする」
ランハートからふわっと甘い香りが漂っているのに気づいた。
「さすがだな。妊娠中は嗅覚が優れるの以前と変わらないようだ。お土産にフルーツを選んできたんだよ。食べられそうなら剥いてもらうが」
「さっきお茶を飲んだばかりだからもう少し経ったら貰おうかな。美味しそうな匂いがしてる」
「ああ。今の時期は食べたいものを食べられるだけ食べておかないとな」
「ランハートは僕より詳しくなってるね」
「もちろんだ。ヒジリのことは私が一番よくわかっているのだからな」
「そうだね」
ランハートはベッドに腰を下ろして座っている僕を優しく抱きしめてくれた。
「ちょっと汗の匂いがする」
「悪い、臭かったか?」
「ううん。僕の好きな匂いだから大丈夫」
ランハートに抱きついて匂いを嗅いでいると、気分の悪さもどこかに行ってしまうような気がした。
「お母さまー! お父さまー! 手を洗ってきましたー!」
元気いっぱいに戻ってきたテオは、嬉しそうに僕たちの元に駆け寄ってきた。
ピカピカになった手のひらを見せるテオは本当に可愛い。
「えらいね。それで、今日は何があったの? お母さまに教えて!」
「えへへー。あのね、お母さま。僕……運命の人に、出会ったんだ!」
「えっ? 運命の、人……?」
想像していなかったテオの言葉に僕は驚きでいっぱいになっていた。
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