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特別室
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車を昇降口の前につけると、昇たちと一緒に浅香くんと周平くん、それに知成くんの姿も見える。
知成くんまでわざわざ見送りに来てくれたのか。
だからか、昇が直くんにピッタリと寄り添っているのは。
この姿を見て、知成くんも自分の牽制に意味がなかったことに気がついただろうな。
昇が飛んだとばっちりを喰らっただけだが、次に会う時は牽制されることもないだろう。
直くんと昇が彼らに挨拶をして車に乗り込んでくる。
私も窓を開けて彼らに声をかけた。
そうして彼らに見送られながら桜守学園の門を潜った。
「ここに、通えたらいいな……」
ポツリと呟いた直くんの言葉に、私は隣に座る絢斗と目を合わせて笑った。
実際に試験を受けた直くんの様子を聞いただけで合格はほぼ間違いないと思っているが、直くん自身がこの学校に通いたいと希望を持ったことが何よりも嬉しい。
「大丈夫、通えるよ。さぁ、試験も終わったし美味しいものを食べに行こう!」
絢斗の声に車内は一気に明るくなった。
そうして一路イリゼホテル銀座に向けて車を走らせた。
駐車場に車を止め、そのままロビーに入るとスイーツビュッフェ会場となっているレストランは目と鼻の先だ。
「いろんないちごの種類があってね、それぞれ食べ比べもできるんだよ」
「わぁー! 楽しそう!!」
すっかりいちごに夢中になっている絢斗と直くんを私と昇で守るように脇を固めてレストランに向かう。
入り口で予約の名前を告げると、すぐに黒服のスタッフがやってきた。
「特別室にご案内いたします」
特別室?
席の予約だけかと思っていたが、もしかしたら浅香くんが何か言ってくれたのだろうか。
絢斗はともかく、直くんはまだ大勢に晒したくないと思っていたからこの配慮はありがたい。
スタッフに案内され、レストランの奥にあるアーチ型の扉を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
部屋の中はまるでメルヘンの世界。
全面ピンク色の壁には披露宴で見るような豪華な三段ケーキの絵や、ウサギや子猫がメリーゴーラウンドに乗った可愛らしい絵が描かれている。さらに部屋中に可愛いバルーンやぬいぐるみで溢れていて、部屋の奥には真っ白なグランドピアノも置かれているのが見える。
またスイーツビュッフェの名にふさわしく、デザート島のようなテーブルもいくつかあり、そこには美味しそうなケーキで溢れている。まさに夢の世界とでもいうのだろうか。そのあまりにもすごい部屋に私も昇も茫然とするしかなかった。
嬉しそうに部屋に入っていった絢斗と直くんを見送りながら、スタッフにこの部屋のことを尋ねると、どうやら誕生日などのイベントで使う貸切部屋なのだそうだ。
ここ一年ほどの間に、浅香くんの発案でこの部屋を新たに作ったそうだが、かなり好評らしい。
確かに貸切なら安全だし、こんなに可愛くて広い部屋なら大勢で入っても問題ない。
それこそ、絢斗や直くん、一花くんや理央くんたちだけでも楽しんで過ごせることだろう。
さすが浅香くん。商売上手だな。
いや、もしかしたら倉橋くんたちが伴侶を溺愛する姿を見て思いついたのかもしれない。
彼らなら金に糸目はつけないだろうからな。
かくいう私も、絢斗と直くんが楽しめるなら金はどれだけかかってもいいと思えるのだから、商売としては最高の客だろう。
「卓さん! 早くー!」
「昇さんも、早く来てください!」
すっかりはしゃいでいる二人に呼ばれて、私たちも部屋に入る。
全面ピンクでメルヘンな部屋は私と昇にはいささか居心地が悪いが、楽しそうな絢斗と直くんの姿を見られるだけで帳消しだろう。
ステーキなどの食事メニューは全てオーダー制のためスタッフが運んでくれるシステムだそうだが、スイーツはあちらのレストランに置かれているものと同じものが全て並べられているようだ。その上、この特別室限定のスイーツメニューもあるらしい。
それも全て一口、または二口で食べられるサイズになっているから食の細い直くんでもいろんな種類を味わうことができるだろう。
席につきながら、絢斗と直くんがお皿を持って自分で盛り付けているのを見守る。
何か手助けすることがあればすぐに駆け寄るつもりでいる。
その間に、私たちの食事と全員分の飲み物は注文しておいた。
「いただきまーす!!」
たくさんのいちごを小鉢に盛り付けて、嬉しそうに口に運ぶ可愛い二人の姿を愛でながら、楽しい時間が過ぎていった。
昇は自分が頼んだローストビーフサンドを直くんの口に運ぶ。
小さな口がそれを美味しそうに食べるのを幸せな気分で眺めた。
そうして直くんが最初に持ってきたお皿が空になった時、部屋の奥を見つめてポツリと呟いた。
「あのピアノ……弾けるのかな?」
真っ白なグランドピアノは、多分飾りではないだろう。
ここに置いてあるということは弾いても構わないと思う。
「直くん、弾いてみたい?」
「うーん、まだ弾けるかわからないですけど……久しぶりに見たら、ちょっと弾きたくなりました」
直くんはあの母親にピアノを習わされていた。
だが、我が家で暮らし始めてからはピアノのことを話題にもしようとしなかったからてっきりこれにもトラウマを持っているのだと思っていた。嫌なことを思い出すくらいなら、話題にしないほうがいいと思っていたが、直くんが弾きたいというのなら弾かせてあげたいと思う。
「<ご自由にご利用下さい>って書いてあるよ! 直くん、弾いてみたら?」
いち早くピアノまで見にいっていた昇が声をかけると、直くんはすっと立ち上がった。
知成くんまでわざわざ見送りに来てくれたのか。
だからか、昇が直くんにピッタリと寄り添っているのは。
この姿を見て、知成くんも自分の牽制に意味がなかったことに気がついただろうな。
昇が飛んだとばっちりを喰らっただけだが、次に会う時は牽制されることもないだろう。
直くんと昇が彼らに挨拶をして車に乗り込んでくる。
私も窓を開けて彼らに声をかけた。
そうして彼らに見送られながら桜守学園の門を潜った。
「ここに、通えたらいいな……」
ポツリと呟いた直くんの言葉に、私は隣に座る絢斗と目を合わせて笑った。
実際に試験を受けた直くんの様子を聞いただけで合格はほぼ間違いないと思っているが、直くん自身がこの学校に通いたいと希望を持ったことが何よりも嬉しい。
「大丈夫、通えるよ。さぁ、試験も終わったし美味しいものを食べに行こう!」
絢斗の声に車内は一気に明るくなった。
そうして一路イリゼホテル銀座に向けて車を走らせた。
駐車場に車を止め、そのままロビーに入るとスイーツビュッフェ会場となっているレストランは目と鼻の先だ。
「いろんないちごの種類があってね、それぞれ食べ比べもできるんだよ」
「わぁー! 楽しそう!!」
すっかりいちごに夢中になっている絢斗と直くんを私と昇で守るように脇を固めてレストランに向かう。
入り口で予約の名前を告げると、すぐに黒服のスタッフがやってきた。
「特別室にご案内いたします」
特別室?
席の予約だけかと思っていたが、もしかしたら浅香くんが何か言ってくれたのだろうか。
絢斗はともかく、直くんはまだ大勢に晒したくないと思っていたからこの配慮はありがたい。
スタッフに案内され、レストランの奥にあるアーチ型の扉を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「わぁー! 可愛いっ!!」
部屋の中はまるでメルヘンの世界。
全面ピンク色の壁には披露宴で見るような豪華な三段ケーキの絵や、ウサギや子猫がメリーゴーラウンドに乗った可愛らしい絵が描かれている。さらに部屋中に可愛いバルーンやぬいぐるみで溢れていて、部屋の奥には真っ白なグランドピアノも置かれているのが見える。
またスイーツビュッフェの名にふさわしく、デザート島のようなテーブルもいくつかあり、そこには美味しそうなケーキで溢れている。まさに夢の世界とでもいうのだろうか。そのあまりにもすごい部屋に私も昇も茫然とするしかなかった。
嬉しそうに部屋に入っていった絢斗と直くんを見送りながら、スタッフにこの部屋のことを尋ねると、どうやら誕生日などのイベントで使う貸切部屋なのだそうだ。
ここ一年ほどの間に、浅香くんの発案でこの部屋を新たに作ったそうだが、かなり好評らしい。
確かに貸切なら安全だし、こんなに可愛くて広い部屋なら大勢で入っても問題ない。
それこそ、絢斗や直くん、一花くんや理央くんたちだけでも楽しんで過ごせることだろう。
さすが浅香くん。商売上手だな。
いや、もしかしたら倉橋くんたちが伴侶を溺愛する姿を見て思いついたのかもしれない。
彼らなら金に糸目はつけないだろうからな。
かくいう私も、絢斗と直くんが楽しめるなら金はどれだけかかってもいいと思えるのだから、商売としては最高の客だろう。
「卓さん! 早くー!」
「昇さんも、早く来てください!」
すっかりはしゃいでいる二人に呼ばれて、私たちも部屋に入る。
全面ピンクでメルヘンな部屋は私と昇にはいささか居心地が悪いが、楽しそうな絢斗と直くんの姿を見られるだけで帳消しだろう。
ステーキなどの食事メニューは全てオーダー制のためスタッフが運んでくれるシステムだそうだが、スイーツはあちらのレストランに置かれているものと同じものが全て並べられているようだ。その上、この特別室限定のスイーツメニューもあるらしい。
それも全て一口、または二口で食べられるサイズになっているから食の細い直くんでもいろんな種類を味わうことができるだろう。
席につきながら、絢斗と直くんがお皿を持って自分で盛り付けているのを見守る。
何か手助けすることがあればすぐに駆け寄るつもりでいる。
その間に、私たちの食事と全員分の飲み物は注文しておいた。
「いただきまーす!!」
たくさんのいちごを小鉢に盛り付けて、嬉しそうに口に運ぶ可愛い二人の姿を愛でながら、楽しい時間が過ぎていった。
昇は自分が頼んだローストビーフサンドを直くんの口に運ぶ。
小さな口がそれを美味しそうに食べるのを幸せな気分で眺めた。
そうして直くんが最初に持ってきたお皿が空になった時、部屋の奥を見つめてポツリと呟いた。
「あのピアノ……弾けるのかな?」
真っ白なグランドピアノは、多分飾りではないだろう。
ここに置いてあるということは弾いても構わないと思う。
「直くん、弾いてみたい?」
「うーん、まだ弾けるかわからないですけど……久しぶりに見たら、ちょっと弾きたくなりました」
直くんはあの母親にピアノを習わされていた。
だが、我が家で暮らし始めてからはピアノのことを話題にもしようとしなかったからてっきりこれにもトラウマを持っているのだと思っていた。嫌なことを思い出すくらいなら、話題にしないほうがいいと思っていたが、直くんが弾きたいというのなら弾かせてあげたいと思う。
「<ご自由にご利用下さい>って書いてあるよ! 直くん、弾いてみたら?」
いち早くピアノまで見にいっていた昇が声をかけると、直くんはすっと立ち上がった。
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