エリート警察官僚はようやく見つけた運命の相手を甘やかしたくてたまらない!

波木真帆

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部下からの相談

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「警視正」

午前の仕事を終え、昼食に出かけようかと思っていると、新海から声をかけられた。

「なんだ? 何かあったか?」

「あ、いえ。昼食をご一緒してもよろしいですか?」

「珍しいな。何か話でもあるのか?」

「実は、そうなんです……すみません」

その表情を見るに、きっと愛しい相手のことなのだろうと思った。うまくいっているのならそれに越したことはないが、何か問題でもあったのだろうか? それは少し気になるところだ。

「いや、謝ることはない。それなら食事をしながら話を聞くとしよう」

「ありがとうございます」

先ほどの申し訳なさ顔から一転、弾けるような笑顔を見せる。本当に現金なヤツだ。

新海を連れて行きつけの店に向かう。
ここは警視庁から程近い場所にあるが、隠れ家的な店だから新海はまだ知らないだろう。
ここなら周りを気にせずに話ができる上に、美味しいランチを食べられる。まさにうってつけの店だ。
早々に注文を済ませると、すぐに料理が運ばれてきた。

「こんな場所にこんな雰囲気のいい店があったなんて知りませんでした。料理もすごく美味しいですね」

「ああ、私も最初は榊長官に連れてきていただいたんだ」

「えっ? 榊警察庁長官ですか? 警視正はそんなすごい人ともお知り合いなんですか?」

「まぁ、いろんな繋がりがあってね。それはそうと、話とはなんだ?」

半分ほど食事を終えたところでようやく本題に入った。

「あの、実は歩夢あゆむ、いえ舞川まいかわさんのことなんです」

舞川歩夢はあの時の被害者であり、今は新海とともに暮らしている。
やはり、彼のことだったか。当たっていたな。

「お前たち、もう恋人になっているんだろう? 苗字ではなくて普通に名前で呼んで構わないぞ。それで彼に何かあったのか?」

「それが……歩夢が職場から圧力をかけられているようなんです」

「圧力?」

「はい。あれから歩夢が精神的に不安定になっていて病院で診察してPTSDだと診断を受けたんです。それですぐに会社にしばらく病気休暇を申請したんですが、このまま辞めるかすぐに復職するかの決断を迫られているようで……本当はすぐにでも辞めさせたいんですが、辞めたらもう二度と同じ業界で働けないように圧力をかけると上司に言われているようです」

「そんな脅しなら警察官のお前がすぐに手を貸してやればいいじゃないか。証拠さえあればすぐに逮捕もできるだろう」

「そうなんですが、歩夢が大事にはしたくないと言っていて……。元々、やりたくて入った仕事なので辞めたくない気持ちが強いんです。それでも今は外に出ると怖いみたいで一人では外に出られない状況です。そんな状態で仕事には行かせられませんし、どうしたらいいのか警視正にお知恵を拝借できればと思いまして相談させていただいた次第です」

騒ぎになって同じ業界で働けなくなることをが彼のネックになっているということか……。
だが話を聞く限り、すぐに復職するのは無理だろう。そもそもそんな上司のもとで働いたら病状は悪化するのが目に見えている。

「私がお前なら、その会社に戻すことは絶対にしない。お前はそんな上司がいる会社で愛しい人を働かせたいか?」

「いえ、それは嫌です。ですが……歩夢の気持ちも汲んでやりたい。それでどうしたらいいかわからなくて……」

「彼の仕事はなんだ?」

「企業所属のジュエリーデザイナーです。なので他の会社に就職できなくてもフリーになって独立することも可能ですが、今の企業がそこそこ大手なのでそこが手を回せば他の会社からも仕事が回ってくることはほぼないようです。それだけ狭い業界だそうです」

「なるほど。ジュエリーデザイナー、か……。彼のセンスがどれほどのものかにもよるが、上司がそれほど彼を縛り付けたいのならかなりのセンスの持ち主なんだろう」

「はい。それは私も見せてもらいましたが、素人目に見ても素晴らしいものでした。大きなコンペに出す作品を描いている途中だったようで、上司はそれも早く手に入れたいといった様子でした」

それほど彼を逃したくないのだな。
だからこそ躍起になっているのだろうが、それなら彼の精神が安定するまで待ってやった方が会社としては良かっただろうに。それほど彼がいなくて切羽詰まった状況なのかもしれない。あれほどの大手がたった一人のデザイナーに執着するとは……それはそれでかなりのブラック案件も出てきそうな状況だな。

「それほどの実力の持ち主なら何の心配もいらない。すぐに辞めさせた方がいい」

「ですが……」

「ジュエリーデザイナーとしての就職先なら私が紹介しよう」

「警視正が? 本当ですか?」

「ああ。それくらいの伝手はあるよ。それに仕事を辞めるのに弁護士が必要なら優秀な弁護士を知っているからそれも紹介しよう。あとで連絡先を教えるよ」

新海は文学部で教師を目指していたが、進路変更で警察官僚になったため法律系にあまり友人がいない。だからこそ、直属の上司だということもあるが、法学部出身の私に相談したのだろう。
成瀬にも安慶名にもいろいろと頼んでいるから、新海のことは氷室に頼むとしようか。

「ありがとうございます!」

新海はようやく笑顔を見せ、残っていた食事を美味しそうに頬張っていた。
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