時の家

早川 詩乃

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過去

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あの時の私はなんていう名前だったのか今はもう覚えていない。

別に自分の名前が嫌いだった訳じゃない。
だが、好きだった訳でも無い。

つまり私は名前というものに関心が無かったのだ。



「ねぇ、×××。」

私を呼んでいるこの子は一体誰だっけ。
若い少年の声。

「ねぇ、×××。そこの商店街にさ、新しいお店が出来たんだって。」

よく私と一緒に遊んでて、、、

「一緒に行こうよ」





私が住んでいた町。
地名や住所はもう言えない。
ただ、ド田舎とはいえないが、そこそこの田舎だったのを覚えていて、潮の香りがしていたから海の近くだったと思われる。

あの時、私は確か少年と共に出来たての店に行ったんだ。


あまり他の物事に関心のない私だが、その時の出来事だけは詳しく覚えている。

いや、正確にいうと、その時の店の雰囲気だけは。

その店の雰囲気は、優しくてあたたかくてとても心地がよかった。

新しく出来た店だったからすっかり最新式のデザインなのかと思っていたのだが、そんなこともなく木造建築。

でもコンクリート多めの店よりは何十倍もおしゃれに見えたんだ。

「この店さ聞いた話によるとちょっと変わった噂があってさ。」

少年の声。


この少年が言うようにこの店は変わった噂があった。今の私ならなぜこんな噂が流れたのか分かってる。

まあ、噂ではなく事実なのだが



この店は一括りにすると雑貨屋さん。
木造のデザインにあった、アナログな商品ばかりが売られている。

一見変わったことのないお店だ。
だがそこに流れた噂は不思議なものだった。



「この店で買ったものってさ、不思議な力が宿ってるんだってさ。」

ー不思議な力??ー






「うん。俺が聞いた話によるとここで買った人形が夜一人で踊り出すとか、ここで買った鳩笛を鳴らすと、鳩が周りに寄ってくるとか、」


ー不思議だね。ー


「本当、不思議な話だよな、、、。ま、所詮噂だけどな。」



私と少年はそんな会話をしながら、店の前へ。


そこに長身の人影が近づいてきた。


「おっと、ごめんよ。少年少女。今日はもう閉店時間なんだ。」


背の高いお兄さん。優しそうな顔をしていて品が良い。

「え、、、そうなのか、、」

「うん。ごめんね。」

ー仕方ないよ。帰ろう。ー

「そうだな。」


そしてその日は帰った。
だが、それっきり二人で行こうなんて話題は出なかった。子供の興味と言う奴は適当だ。

そもそも、私たちのお小遣いは小学生だったこともありそんな雑貨を買うのに使うなら、和菓子を買う方がよかった。


また誘われる事はなかった。











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