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第1章 幼年期
7.心の傷
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ある晴れた日の正午過ぎ、ノエルはまだお昼寝の気分ではなかったため、いつもの如く乳母を部屋に置き去りに、とてとてと逃げ出し、家の中を歩き回っていた。
いくらか歩いているうちに、エルメンガルドの自室へと続く廊下にたどり着いた。いつも「そちらに行ってはいけません。」と止められるが、ダメだと止められるほどやりたくなるのが人間の性だろう。もとろんノエルも例外では無い。
扉にぴたりと小さな手のひらをあてた。
ここがお母様のお部屋……僕もお母様とお話したいし、すこしだけお部屋に入ってもいいかな…?うん、すこしだけ…ならだいじょうぶ!
思い立ったが吉日、ノエルは開いた手のひらをギュッと閉じ、その扉をコンコンコン、とノックする。
「……おかあさま。僕ノエルです!はいってもいいですか?」
できるだけ噛まないように、5歳児が出来うる最大限の力で、ゆっくり、はっきりと発音した。
すると中から目的の彼女の声が聞こえてきた。
「………入って来なさい。」
ノエルは今まで食事や、廊下ですれ違う際にしかエルメンガルドと会うことがなく、まともに会話などした事が無かった。これが、自分の母親と初めて面と向かって話す機会だった。ノエルは、お母様とお話が出来る!と単純にワクワクし、心がどきどきと踊っていた。無垢な天使はエルメンガルドの本意などつゆも知らずに。
「しつれいします!」
そう元気に言い放ち、扉を静かにぱたりと閉めた。
ノエルはなかなか話す機会がなかった母と何を話そうかと、思考を巡らせ最初の一言をなんと切り出そうか固まっていると、エルメンガルドが先に口を割った。
「アイリス。少し席を外してもらってもいいかしら?」
アイリスとは、彼女付きの侍女の事である。アイリスはエルメンガルドが実家から連れて来た侍女達の内の1人のである。
「了解致しました。」
そして颯爽と侍女は部屋を去っていった。
バタン。
あの侍女はあいりす、って言うんだ。今度会ったら名前を呼んで話しかけてみようかな。なんて考えながらその光景をポーっとみていると、エルメンガルドがこちらを一瞥した。
「……ねぇノエル?私はあなたが大嫌いなの。あなたを私の視界に入れるのも嫌なの。分かるかしら?」
本当に突然の事でノエルは頭がついていかなかった。
「え、えっと…お母様は僕のことが好きではないってこと…ですか?」
「えぇ。そうよ。」
「なんで、ですか?僕ね、僕、お母様が嫌なこと、なんにもしてないよ?だって、だって…」
僕はお母様に嫌われている、そう思ったら胸がきゅうってなってぽろぽろ涙が出てきた。もの凄くかなしい。
「はぁ、これだから……泣けばなんでも解決するとでも?本当に能天気な子ね。お前をみているとアイツの憎たらしい顔を思い出して虫唾が走るのよ。」
のうてんき、むしず…?分からない、どういう意味かは分からないけれど、なにか怒られていることだけは分かる。
ノエルは目を涙でいっぱいにし、声にならないような掠れた声でごめんなさい、ごめんなさい、と呟き続けた。
続けざまに彼女が言う。
「いいかしら?私はあなたの事が大嫌いなの。」
ノエルはその言葉にぎゅっと顔を歪め、押し黙ってしまった。
「返事くらいしなさいよこの出来損ないが!!」
彼女はベッドから立ち上がりこちらへドタドタと大きな足音を立てながら寄って来ると、ノエルの右肩を力のままに思い切り突き飛ばした。
ドン_____
ノエルは地面に倒れ込み、思い切り後頭部を地面に打ち付けた。
「うっ…っ、いた、いうぅ…っあ、は、いっ…」
ノエルはぼろぼろと泣きながら必死に肯定の返事を返す。
「分かればいいのよ。もう無駄に私に話しかけてこないで。それと、ここでの出来事を他の人に言わないでね。理解できるわよね?もし言ったらその時はそれ相応の償いを受けてもらうわ。分かったなら早く泣き止んでこの部屋を出ていきなさい。」
そう言い放ち、エルメンガルドは部屋の奥にある扉から、別室へと消えていった。
残されたノエルは唇を噛み締め、とめどなく溢れてくる涙を堪えようと、必死に目元を手で覆っていた。
僕がお母さまになにかいけないことをしてしまったんだ。ぼくは、わるい子、なんだ。
いくらか歩いているうちに、エルメンガルドの自室へと続く廊下にたどり着いた。いつも「そちらに行ってはいけません。」と止められるが、ダメだと止められるほどやりたくなるのが人間の性だろう。もとろんノエルも例外では無い。
扉にぴたりと小さな手のひらをあてた。
ここがお母様のお部屋……僕もお母様とお話したいし、すこしだけお部屋に入ってもいいかな…?うん、すこしだけ…ならだいじょうぶ!
思い立ったが吉日、ノエルは開いた手のひらをギュッと閉じ、その扉をコンコンコン、とノックする。
「……おかあさま。僕ノエルです!はいってもいいですか?」
できるだけ噛まないように、5歳児が出来うる最大限の力で、ゆっくり、はっきりと発音した。
すると中から目的の彼女の声が聞こえてきた。
「………入って来なさい。」
ノエルは今まで食事や、廊下ですれ違う際にしかエルメンガルドと会うことがなく、まともに会話などした事が無かった。これが、自分の母親と初めて面と向かって話す機会だった。ノエルは、お母様とお話が出来る!と単純にワクワクし、心がどきどきと踊っていた。無垢な天使はエルメンガルドの本意などつゆも知らずに。
「しつれいします!」
そう元気に言い放ち、扉を静かにぱたりと閉めた。
ノエルはなかなか話す機会がなかった母と何を話そうかと、思考を巡らせ最初の一言をなんと切り出そうか固まっていると、エルメンガルドが先に口を割った。
「アイリス。少し席を外してもらってもいいかしら?」
アイリスとは、彼女付きの侍女の事である。アイリスはエルメンガルドが実家から連れて来た侍女達の内の1人のである。
「了解致しました。」
そして颯爽と侍女は部屋を去っていった。
バタン。
あの侍女はあいりす、って言うんだ。今度会ったら名前を呼んで話しかけてみようかな。なんて考えながらその光景をポーっとみていると、エルメンガルドがこちらを一瞥した。
「……ねぇノエル?私はあなたが大嫌いなの。あなたを私の視界に入れるのも嫌なの。分かるかしら?」
本当に突然の事でノエルは頭がついていかなかった。
「え、えっと…お母様は僕のことが好きではないってこと…ですか?」
「えぇ。そうよ。」
「なんで、ですか?僕ね、僕、お母様が嫌なこと、なんにもしてないよ?だって、だって…」
僕はお母様に嫌われている、そう思ったら胸がきゅうってなってぽろぽろ涙が出てきた。もの凄くかなしい。
「はぁ、これだから……泣けばなんでも解決するとでも?本当に能天気な子ね。お前をみているとアイツの憎たらしい顔を思い出して虫唾が走るのよ。」
のうてんき、むしず…?分からない、どういう意味かは分からないけれど、なにか怒られていることだけは分かる。
ノエルは目を涙でいっぱいにし、声にならないような掠れた声でごめんなさい、ごめんなさい、と呟き続けた。
続けざまに彼女が言う。
「いいかしら?私はあなたの事が大嫌いなの。」
ノエルはその言葉にぎゅっと顔を歪め、押し黙ってしまった。
「返事くらいしなさいよこの出来損ないが!!」
彼女はベッドから立ち上がりこちらへドタドタと大きな足音を立てながら寄って来ると、ノエルの右肩を力のままに思い切り突き飛ばした。
ドン_____
ノエルは地面に倒れ込み、思い切り後頭部を地面に打ち付けた。
「うっ…っ、いた、いうぅ…っあ、は、いっ…」
ノエルはぼろぼろと泣きながら必死に肯定の返事を返す。
「分かればいいのよ。もう無駄に私に話しかけてこないで。それと、ここでの出来事を他の人に言わないでね。理解できるわよね?もし言ったらその時はそれ相応の償いを受けてもらうわ。分かったなら早く泣き止んでこの部屋を出ていきなさい。」
そう言い放ち、エルメンガルドは部屋の奥にある扉から、別室へと消えていった。
残されたノエルは唇を噛み締め、とめどなく溢れてくる涙を堪えようと、必死に目元を手で覆っていた。
僕がお母さまになにかいけないことをしてしまったんだ。ぼくは、わるい子、なんだ。
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