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「どう話しかけていいか困ってるね」
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「にんにんにほん……ほん……」
メリルは短い足でせっせと歩いている。
とにかく早く進むことに必死で、あまり足が上がっていない。時々コツンとつま先が地面に当たる。
「ああああもう……っ、危なっかしいったりゃありゃしないよ!」
そんなメリルを建物の影から見つめるものがいる。
母ジョアンナである。
「ちゃんと足を上げて、ゆっくり歩きなって言って……なかったねえ……」
ジョアンナは切なく思う。
そう、メリルは姉のユーミルと違い、ほとんど生まれてすぐ聖女に認定されてしまった。それからはほとんど教会に取られてしまい、三日に一度しか帰ってこない。
帰ってきても終始見張られていて、親子でのんびり散歩した記憶さえないのだ。
(三日に一度の帰宅も温情だって? もともとうちの子だよ!)
補償金は払うので良いだろうとも言われたが、金で子供が売れるものか。もっともそれはそれできっちり貯めて、今回のようにメリルのためのものに使うつもりだ。
(何が聖女だよ。あちこち顔を出すだけの仕事なんてのがあるもんか)
きっと騙されている。
教会の神輿にしておいて、都合が悪くなったら聖女の力が消えた、とか言って放り出すに違いない。
国が背後にいるだけに逆らうことはできないが、何があっても大丈夫なようにメリルを教育しなければ。
(ただでさえ、とろくさい子なんだから……)
心配でならない。
「あっ」
メリルが躓いてころんだ。
だから言ったのに! 言ってないけど!
ジョアンナは思わず飛び出すところだったが、なんとかこらえた。大したことではない。転んでも立ち上がれ。立ち上がれ。
(がんばれ、がんばれ!)
心の応援が通じたのかどうか、メリルはとりあえず体を起こした。座り込んだ姿勢で、驚いたように膝を見ている。
怪我したのだろうか。
教会で真綿に包まれるように育ってきた子だ。怪我をすることもめったになく、どうしていいかわからないのかもしれない。
(ひどいことだよ。誰だって何度も転んで強くなるってのに)
教会はあの小さな子を囲い込んで、すっかり駄目にしてしまうつもりなのだ。
ジョアンナは怒りをこらえつつ見守る。メリルは膝を気にしながら立ち上がった。
(よかった、大した怪我じゃなさそうだね)
無意識にかばんの中に手を突っ込み、回復薬を確認したが、まだ出番はなさそうだ。
ほっと息をつき、メリルを追って建物の影から出ようとした。
「ジョアンナ」
「ひゃあっ!?」
肩を掴まれて驚いた。
「なっ……あんた、なにしてんだい!」
なんということか、王都で仕事をしているはずの夫であった。
「しっ! メリルに聞こえてしまうぞ」
「あ、ああ」
「話は後だ。あのあたりに行こう」
「わかってるよ!」
てけてけと短い足のメリルを追うのは簡単だが、万が一にも見失うわけにはいかない。ジョアンナもあまり土地勘のない隣国なのだ。ふらふらした子供がどこに行くやらわからない。
それにしても。
「ああもう! 左に寄りなよ、危ない……」
市場に近づくにつれ人が増えている。なのにメリルは人の流れに逆行するように歩いてしまっているのだ。
「大丈夫、ゆっくりだが進んでいるじゃないか。メリルは冷静だよ。マイペースなのがあの子のいいところだ」
「マイペースにもほどがあるよ! 他人は待ってくれないんだからね!」
「いやいや、人に合わせる人生というのも虚しいものさ。そのうちなんとかなるだろう」
ジョアンナはため息をついて夫を見た。
どうもメリルのマイペースさは、この夫に似たように思えてならない。
「……仕事はどうしたのさ。忙しい時期だって言ってたじゃないか」
「今だけ交代してもらったよ。メリルがひとりでお使いに行くというのだから! 僕も見たい!」
どこに行くか、夫にはすっかり話していたことをジョアンナは後悔した。目的地さえわかっていれば、王都の転移魔法陣からでもひとっ飛びだ。
「じゃあ、買い物するところ見たら帰りなよ……」
「そんな。帰ってきたのを迎えて褒めてやりたいじゃないか」
「あんたねえ……メリルに何て言うのさ。仕事を放り出して来たって?」
「ちょうどここに出張していたことにしよう」
「メリルも7つだよ? そんな言い訳……、待って、メリルは」
「ああ、向こうだ」
うっかり見失ったかと慌てたが、道の端にしゃがみ込んでいただけだ。
「一体どうし……うん?」
「これは……困ったね。迷子かな?」
メリルがしゃがむ目の前に、わんわん泣いている子供がいる。
「あら本当だ、メリルより小さい子だね。親は……」
「そばにはいないようだ。……メリルは優しいからね、これは……」
「……でも人見知りだから、どう話しかけていいか困ってるね」
メリルは短い足でせっせと歩いている。
とにかく早く進むことに必死で、あまり足が上がっていない。時々コツンとつま先が地面に当たる。
「ああああもう……っ、危なっかしいったりゃありゃしないよ!」
そんなメリルを建物の影から見つめるものがいる。
母ジョアンナである。
「ちゃんと足を上げて、ゆっくり歩きなって言って……なかったねえ……」
ジョアンナは切なく思う。
そう、メリルは姉のユーミルと違い、ほとんど生まれてすぐ聖女に認定されてしまった。それからはほとんど教会に取られてしまい、三日に一度しか帰ってこない。
帰ってきても終始見張られていて、親子でのんびり散歩した記憶さえないのだ。
(三日に一度の帰宅も温情だって? もともとうちの子だよ!)
補償金は払うので良いだろうとも言われたが、金で子供が売れるものか。もっともそれはそれできっちり貯めて、今回のようにメリルのためのものに使うつもりだ。
(何が聖女だよ。あちこち顔を出すだけの仕事なんてのがあるもんか)
きっと騙されている。
教会の神輿にしておいて、都合が悪くなったら聖女の力が消えた、とか言って放り出すに違いない。
国が背後にいるだけに逆らうことはできないが、何があっても大丈夫なようにメリルを教育しなければ。
(ただでさえ、とろくさい子なんだから……)
心配でならない。
「あっ」
メリルが躓いてころんだ。
だから言ったのに! 言ってないけど!
ジョアンナは思わず飛び出すところだったが、なんとかこらえた。大したことではない。転んでも立ち上がれ。立ち上がれ。
(がんばれ、がんばれ!)
心の応援が通じたのかどうか、メリルはとりあえず体を起こした。座り込んだ姿勢で、驚いたように膝を見ている。
怪我したのだろうか。
教会で真綿に包まれるように育ってきた子だ。怪我をすることもめったになく、どうしていいかわからないのかもしれない。
(ひどいことだよ。誰だって何度も転んで強くなるってのに)
教会はあの小さな子を囲い込んで、すっかり駄目にしてしまうつもりなのだ。
ジョアンナは怒りをこらえつつ見守る。メリルは膝を気にしながら立ち上がった。
(よかった、大した怪我じゃなさそうだね)
無意識にかばんの中に手を突っ込み、回復薬を確認したが、まだ出番はなさそうだ。
ほっと息をつき、メリルを追って建物の影から出ようとした。
「ジョアンナ」
「ひゃあっ!?」
肩を掴まれて驚いた。
「なっ……あんた、なにしてんだい!」
なんということか、王都で仕事をしているはずの夫であった。
「しっ! メリルに聞こえてしまうぞ」
「あ、ああ」
「話は後だ。あのあたりに行こう」
「わかってるよ!」
てけてけと短い足のメリルを追うのは簡単だが、万が一にも見失うわけにはいかない。ジョアンナもあまり土地勘のない隣国なのだ。ふらふらした子供がどこに行くやらわからない。
それにしても。
「ああもう! 左に寄りなよ、危ない……」
市場に近づくにつれ人が増えている。なのにメリルは人の流れに逆行するように歩いてしまっているのだ。
「大丈夫、ゆっくりだが進んでいるじゃないか。メリルは冷静だよ。マイペースなのがあの子のいいところだ」
「マイペースにもほどがあるよ! 他人は待ってくれないんだからね!」
「いやいや、人に合わせる人生というのも虚しいものさ。そのうちなんとかなるだろう」
ジョアンナはため息をついて夫を見た。
どうもメリルのマイペースさは、この夫に似たように思えてならない。
「……仕事はどうしたのさ。忙しい時期だって言ってたじゃないか」
「今だけ交代してもらったよ。メリルがひとりでお使いに行くというのだから! 僕も見たい!」
どこに行くか、夫にはすっかり話していたことをジョアンナは後悔した。目的地さえわかっていれば、王都の転移魔法陣からでもひとっ飛びだ。
「じゃあ、買い物するところ見たら帰りなよ……」
「そんな。帰ってきたのを迎えて褒めてやりたいじゃないか」
「あんたねえ……メリルに何て言うのさ。仕事を放り出して来たって?」
「ちょうどここに出張していたことにしよう」
「メリルも7つだよ? そんな言い訳……、待って、メリルは」
「ああ、向こうだ」
うっかり見失ったかと慌てたが、道の端にしゃがみ込んでいただけだ。
「一体どうし……うん?」
「これは……困ったね。迷子かな?」
メリルがしゃがむ目の前に、わんわん泣いている子供がいる。
「あら本当だ、メリルより小さい子だね。親は……」
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