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「……倉庫にあるものが、全て?」
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「回復薬をあげた……? 優しいのはいいことだけど、ねえ……」
ジョアンナはため息をついた。
「放っておけなかったのだろうね」
夫はそう言うが、なかなかに非常識な行動なのだ。
まず回復薬は高価なものだ。普通はちょっとした怪我などに使ったりはしない。もしもの時のために、期限間近になるまでは大事にしまっておくものである。
「うちは安く買えてるんだし、いいじゃないか?」
「だめだよ。従業員割引みたいなもんなんだ。聖女をやめたら元の値段で買わなきゃならないんだよ?」
回復薬は教会が作っており、この国にも輸入はされているはずだ。
この国で作られている回復薬はというと、気休めか、かなり遅効のものだ。輸入してもいいというくらい、母国の回復薬は優秀なのだ。当然、高価になる。
そんなものを他人に配っていたら、おかしな人間に目をつけられかねない。
「そのあたりもちゃんと話しとかないと……教会でもそのくらい教えろって話だよ。無理やり奪っていって、いったい何をしてるのさ」
「まあまあ。教会の言い分もわかるよ。聖女を囲っておかないと、それこそ悪い人間に目をつけられる」
「あの子にそんな大層な力なんてないよ」
ジョアンナが知っている限り、メリルの力は「痛みを和らげる」くらいだ。腰痛肩こりを癒してもらった記憶がある。子供の気持ちは嬉しかったが、正直、マッサージくらいの効果だ。
しかもそれだって近頃は見ていない。
教会に止められたと言っていたが、あの程度の力を隠すというのは、やはり聖女の名だけ求めた動きのように見えてくる。
「そうかもしれないけどね、聖女を崇めている人も多いから、普通に生活するのはやっぱり危ないんじゃないかなあ」
「……なんだい、じゃあメリルはどうなるっていうのさ。崇められるだけの商売をしてろって?」
「そうは言わないよ。まあ、ほどほどのところで引退はするだろうね」
ジョアンナはほっとした。夫と教育方針が違うのは大問題だ。
「だったら最初から構うなって思うけど……まあいいよ。こうしておつかいも順調だ」
「順調……まだ辿り着いてないけど」
「順調だろ?」
「ああ。歩いている……」
「そうだろう。ちゃんと歩いてる……」
二人は目を細めて、てけてけと歩くメリルを見た。
短い足だ。
その足をせっせと動かしているので、あまりにたまらない。
「また転びそうだね……回復薬を補充したいところだよ……」
ジョアンナはかばんから回復薬を取り出した。初めてのおつかいなのだから、もちろん予備も用意してある。
「あれ?」
しかしなんだか、色が悪い。
「期限切れかねえ?」
「ローレラ様!」
「メリル様の行き先がわかったのですか!?」
「い、いえ、大司教様のお耳に入れたいことが……」
「今は……」
教会の誰もがメリルの行き先探しを最優先している。他は後回しでいい。
そう告げようとしてふと、そんなことはわかっていて、報告をあげようとしているのだと気づく。
「何か大事ですか?」
「それが……まだわからないのですが、回復薬が、倉庫にあるものが全て劣化していると」
「は? ……倉庫にあるものが、全て?」
「はい。全てです。使用不可能なほどではありませんが、売出しは難しいでしょう」
「そんな……そこまで、加護が……?」
回復薬という名で売られているが、他国の、薬草や魔法を使ったそれと、この国のものはわけが違う。ベースが聖水であり、魔法のかわりに加護を溶かしてある。
聞き流せない話だった。
加護が失われれば、この国にどれだけあるかわからない回復薬の全てが使えなくなる。とんでもないことだ。
そして、聖女の存在によって回復薬の効果が倍増していることが知られてしまう。
他国が聖女を攫う理由が増えるということだ。
暗い空気になった部屋に、待ちに待っていた報告が届いた。
「メリル様の行き先がわかりました!」
「……すぐに行きます! 転移の用意を!」
すでに向かう者の人選は済ませている。
多くの者、それも神に仕える立場のものが転移すると、あまりにも目立つ。入国を拒否される可能性まである。
少数で向かうしかない。
ジョアンナはため息をついた。
「放っておけなかったのだろうね」
夫はそう言うが、なかなかに非常識な行動なのだ。
まず回復薬は高価なものだ。普通はちょっとした怪我などに使ったりはしない。もしもの時のために、期限間近になるまでは大事にしまっておくものである。
「うちは安く買えてるんだし、いいじゃないか?」
「だめだよ。従業員割引みたいなもんなんだ。聖女をやめたら元の値段で買わなきゃならないんだよ?」
回復薬は教会が作っており、この国にも輸入はされているはずだ。
この国で作られている回復薬はというと、気休めか、かなり遅効のものだ。輸入してもいいというくらい、母国の回復薬は優秀なのだ。当然、高価になる。
そんなものを他人に配っていたら、おかしな人間に目をつけられかねない。
「そのあたりもちゃんと話しとかないと……教会でもそのくらい教えろって話だよ。無理やり奪っていって、いったい何をしてるのさ」
「まあまあ。教会の言い分もわかるよ。聖女を囲っておかないと、それこそ悪い人間に目をつけられる」
「あの子にそんな大層な力なんてないよ」
ジョアンナが知っている限り、メリルの力は「痛みを和らげる」くらいだ。腰痛肩こりを癒してもらった記憶がある。子供の気持ちは嬉しかったが、正直、マッサージくらいの効果だ。
しかもそれだって近頃は見ていない。
教会に止められたと言っていたが、あの程度の力を隠すというのは、やはり聖女の名だけ求めた動きのように見えてくる。
「そうかもしれないけどね、聖女を崇めている人も多いから、普通に生活するのはやっぱり危ないんじゃないかなあ」
「……なんだい、じゃあメリルはどうなるっていうのさ。崇められるだけの商売をしてろって?」
「そうは言わないよ。まあ、ほどほどのところで引退はするだろうね」
ジョアンナはほっとした。夫と教育方針が違うのは大問題だ。
「だったら最初から構うなって思うけど……まあいいよ。こうしておつかいも順調だ」
「順調……まだ辿り着いてないけど」
「順調だろ?」
「ああ。歩いている……」
「そうだろう。ちゃんと歩いてる……」
二人は目を細めて、てけてけと歩くメリルを見た。
短い足だ。
その足をせっせと動かしているので、あまりにたまらない。
「また転びそうだね……回復薬を補充したいところだよ……」
ジョアンナはかばんから回復薬を取り出した。初めてのおつかいなのだから、もちろん予備も用意してある。
「あれ?」
しかしなんだか、色が悪い。
「期限切れかねえ?」
「ローレラ様!」
「メリル様の行き先がわかったのですか!?」
「い、いえ、大司教様のお耳に入れたいことが……」
「今は……」
教会の誰もがメリルの行き先探しを最優先している。他は後回しでいい。
そう告げようとしてふと、そんなことはわかっていて、報告をあげようとしているのだと気づく。
「何か大事ですか?」
「それが……まだわからないのですが、回復薬が、倉庫にあるものが全て劣化していると」
「は? ……倉庫にあるものが、全て?」
「はい。全てです。使用不可能なほどではありませんが、売出しは難しいでしょう」
「そんな……そこまで、加護が……?」
回復薬という名で売られているが、他国の、薬草や魔法を使ったそれと、この国のものはわけが違う。ベースが聖水であり、魔法のかわりに加護を溶かしてある。
聞き流せない話だった。
加護が失われれば、この国にどれだけあるかわからない回復薬の全てが使えなくなる。とんでもないことだ。
そして、聖女の存在によって回復薬の効果が倍増していることが知られてしまう。
他国が聖女を攫う理由が増えるということだ。
暗い空気になった部屋に、待ちに待っていた報告が届いた。
「メリル様の行き先がわかりました!」
「……すぐに行きます! 転移の用意を!」
すでに向かう者の人選は済ませている。
多くの者、それも神に仕える立場のものが転移すると、あまりにも目立つ。入国を拒否される可能性まである。
少数で向かうしかない。
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