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「ひとりでお使いかな? えらいね」
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「ついたあ……」
メリルはよろけて、道の脇で少し休んだ。
「ふう」
市場だ。
あまりにいつまでも着かないので、もう駄目かと思っていたところだ。
「にんじん、ムニどり、2本」
メリルは賑わう露店を見た。
人々は店に近づいて買い物をし、離れていく。その流れはあたりまえのようにスムーズで、遠い世界のことのようだ。
(はやくしなきゃ)
にんじんがそこにあるのが見える。
しかし店に近づくタイミングがよくわからない。次々やってくる人たちは、まるで魔法のように当たり前の動きをしている。
しばらく呆然と立って見ていたが、後ろから押された。
「あっ」
「あら、ごめんなさいね」
女性は謝ってくれたが、そのまま去っていき、メリルは何度か他の人にぶつかる。
「あ、あ、」
「気をつけろ!」
「ごめんなさい……」
なんとか店にたどり着き、意を決して声をあげた。
「あのう」
しかし気づいてもらえなかった。
ざわざわとした人の中で、メリルの声はあまり通らないようだ。
「すみません!」
「なんだい?」
腹に力を入れて声をあげると、ようやく気づいてくれた。メリルは急いで言う。
「にんじんとムニどり、2本」
「鳥? お嬢ちゃん、うちは野菜しか置いてないよ!」
彼の言葉に、店の中にいた他の男も「ははは」と声をあげて笑った。
「そ、そうなんですか……すみません」
何か間違ってしまったらしい。
メリルはすごすごと人の流れに沿って、他の店に向かった。「お嬢ちゃん、」と声をかけられた気がしたが、すでに距離があって、戻れそうにもない。
「にんじんと、ムニどり……」
両方ある店を探すのだ。
「……」
この人、人、人の中をすり抜けて、そんなことができるのだろうか。
「そこのお嬢さん」
「え?」
メリルが絶望に打ちひしがれていると、若い男が声をかけてきた。
「どうかしたのかい?」
「あ、あの……」
「手伝いが必要かな?」
メリルには救いの神に思えた。
知らない人についていってはいけない、などという言葉は思い出さない。だってすごく困っているのだ。
「わたし、にんじんと、ムニどりがいるの……」
「ああ、それならこっちだよ」
男はにこりと上品に笑って、メリルに手を差し出した。即座にメリルはその救いの手に飛びつく。
「ひとりでお使いかな? えらいね」
褒められてメリルは一瞬笑ったが、すぐにうつむいた。
「……そんなことないの。わたし、もう7つになるのに、おつかいもできないって、」
「そう? 厳しい家なんだね」
「そう……かな……」
メリルには他の家がどうかわからないので、なんとも言えない。
ただ教会で優しくしてもらえるのは、聖女だからだと知っていた。
「そうだよ。子供は遊んでるのが仕事だよ」
メリルはやはり何も言えない。
家にいても教会にいても、他の子と遊んだりはできないのだ。
「僕は、君みたいな子はえらいと思うな。……あ、こっちだよ」
「えらくなんて」
ないのだけれど、メリルは少し嬉しかった。
いるだけで褒められたり大事にされたりすることはあるが、行動を褒められることはあまりなかったのだ。
「少し歩くけど、大丈夫?」
メリルは頷いた。急いで帰らなければならないので、疲れたなどと言っていられない。
「ほんとにえらいなあ。……あの回復薬って、まだ持ってるの?」
「え?」
「あの男の子にあげてたじゃない」
「あ、いえ……もう、なくて」
誰かが舌打ちした。
「……?」
「ないのにあげちゃったんだ」
顔を上げると、男が微笑みを浮かべている。しかしわずかにその眉間が、苛立ちを示しているような気がした。
「あの」
「こっちだよ」
メリルはよろけて、道の脇で少し休んだ。
「ふう」
市場だ。
あまりにいつまでも着かないので、もう駄目かと思っていたところだ。
「にんじん、ムニどり、2本」
メリルは賑わう露店を見た。
人々は店に近づいて買い物をし、離れていく。その流れはあたりまえのようにスムーズで、遠い世界のことのようだ。
(はやくしなきゃ)
にんじんがそこにあるのが見える。
しかし店に近づくタイミングがよくわからない。次々やってくる人たちは、まるで魔法のように当たり前の動きをしている。
しばらく呆然と立って見ていたが、後ろから押された。
「あっ」
「あら、ごめんなさいね」
女性は謝ってくれたが、そのまま去っていき、メリルは何度か他の人にぶつかる。
「あ、あ、」
「気をつけろ!」
「ごめんなさい……」
なんとか店にたどり着き、意を決して声をあげた。
「あのう」
しかし気づいてもらえなかった。
ざわざわとした人の中で、メリルの声はあまり通らないようだ。
「すみません!」
「なんだい?」
腹に力を入れて声をあげると、ようやく気づいてくれた。メリルは急いで言う。
「にんじんとムニどり、2本」
「鳥? お嬢ちゃん、うちは野菜しか置いてないよ!」
彼の言葉に、店の中にいた他の男も「ははは」と声をあげて笑った。
「そ、そうなんですか……すみません」
何か間違ってしまったらしい。
メリルはすごすごと人の流れに沿って、他の店に向かった。「お嬢ちゃん、」と声をかけられた気がしたが、すでに距離があって、戻れそうにもない。
「にんじんと、ムニどり……」
両方ある店を探すのだ。
「……」
この人、人、人の中をすり抜けて、そんなことができるのだろうか。
「そこのお嬢さん」
「え?」
メリルが絶望に打ちひしがれていると、若い男が声をかけてきた。
「どうかしたのかい?」
「あ、あの……」
「手伝いが必要かな?」
メリルには救いの神に思えた。
知らない人についていってはいけない、などという言葉は思い出さない。だってすごく困っているのだ。
「わたし、にんじんと、ムニどりがいるの……」
「ああ、それならこっちだよ」
男はにこりと上品に笑って、メリルに手を差し出した。即座にメリルはその救いの手に飛びつく。
「ひとりでお使いかな? えらいね」
褒められてメリルは一瞬笑ったが、すぐにうつむいた。
「……そんなことないの。わたし、もう7つになるのに、おつかいもできないって、」
「そう? 厳しい家なんだね」
「そう……かな……」
メリルには他の家がどうかわからないので、なんとも言えない。
ただ教会で優しくしてもらえるのは、聖女だからだと知っていた。
「そうだよ。子供は遊んでるのが仕事だよ」
メリルはやはり何も言えない。
家にいても教会にいても、他の子と遊んだりはできないのだ。
「僕は、君みたいな子はえらいと思うな。……あ、こっちだよ」
「えらくなんて」
ないのだけれど、メリルは少し嬉しかった。
いるだけで褒められたり大事にされたりすることはあるが、行動を褒められることはあまりなかったのだ。
「少し歩くけど、大丈夫?」
メリルは頷いた。急いで帰らなければならないので、疲れたなどと言っていられない。
「ほんとにえらいなあ。……あの回復薬って、まだ持ってるの?」
「え?」
「あの男の子にあげてたじゃない」
「あ、いえ……もう、なくて」
誰かが舌打ちした。
「……?」
「ないのにあげちゃったんだ」
顔を上げると、男が微笑みを浮かべている。しかしわずかにその眉間が、苛立ちを示しているような気がした。
「あの」
「こっちだよ」
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