「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ

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「まもって……!」

「そっちの嬢ちゃんを置いていきな。悪いが、仕事ならこっちで紹介してやるよ」
「な……っ、横取りするつもりか!?」
「人聞きの悪いことを言うなぁ? 条件のいい方を選ぶのはあたりまえだろ。な、嬢ちゃん」
「え……あの……」

 聞かれてもミュゼにはわからない。
 わからないのだから、ミュゼは親切にしてくれた相手についていくつもりだった。

「うん? 選べねえのか。だったら選べるようにしてやるよ!」
「うぐっ!?」
「……あっ、えっ!?」

 ミュゼの目の前で親切な彼は殴られた。
 いきなりのことにミュゼは理解もできない。どうして彼が打たれているのだろう。打たれるのはいつもミュゼの役目だった。

 打たれれば痛いのは知っている。
 それどころではない、拳で殴られた彼は唇から血を流し、路上に倒れ伏せたのだ。

 倒れた背中を男たちが蹴る。

「ほらほら、こっちの兄ちゃんにはやる気がなさそうだろう?」
「や、やめてください……!」
「嬢ちゃ……に、逃げ……っ」
「ははっ! 逃がすわけねえだろが? ほらお嬢ちゃん、この頼りない紹介人のだめなところ、じっく見ていきな?」
「だめ……!」

 腕を掴まれながらミュゼは、これ以上、彼が傷つくのを見ていられなかった。自分のことならいい。けれど、こんなのはだめだ。見ていたくない。許容できない。

 彼を守らなければ。

「おかっ……さ、まもって……!」

 ミュゼは必死で結界を広げた。自分だけではない、彼に届くまで。

 渾身の集中をこめた成果か、輝く結界は彼までを包み込んだ。

「なんだこ……ギャアアッ!?」

 男たちが弾き飛ばされて悲鳴をあげた。
 しかしミュゼは力を使い切り、意識が遠のいていた。




「……?」
「お。良かった、目を覚ましたな」
「ここ……」
「俺の家だ。さすがに恩人を放っておくほど終わってないからな」
「終わる……」

 どういう意味だろう。ぼんやり考えていると、男は軽く肩をすくめて笑った。

「けどなあ、嬢ちゃん、あんな力があるなら先に教えてほしかったぜ。ありゃ邪悪を弾く結界だろ? 大結界と同じで、魔物も寄せ付けないってやつ」
「……」

 魔道具から広がった結界は、魔物から国を守っているとは聞いていた。
 しかし実際にミュゼは自分で見たわけではないし、魔道具なしにつくる結界については聞いたこともない。大聖女は結界を自力で生み出していた、それしかわからない。

「そりゃ貴族に売られるわけだ。そんな力があって、放り出されたのはわけがわからないが」
「私、なにもできない……お城を出て、結界、できるようになったの……」

 すると男は目を丸くして「なるほどな」とうなずいた。

「危機で力が目覚めたのか。捨てた貴族はもったいないことをしたなあ。お嬢ちゃんにとっちゃ幸運だが」
「幸運……」
「ああ、身売りなんかする必要はない。冒険者ギルドに紹介してやるから、そこで仕事を受けな」
「……」

 ミュゼは首をかしげた。
 身売りもよくわからないし、冒険者ギルドも全くわからない。

「何もわかってない顔だなぁ……わかったわかった、面倒見てやるから、儲けたらいくらかよこせよ。あいつらに目をつけられて、どうせしばらく勧誘は難しそうだからな」

 それもよくわからない。
 だがわからないので、ミュゼはうなずいた。最初の考えと同じ、親切な人を頼りにするだけだ。





 そうしてミュゼは男に逐一教えを受けながら、冒険者ギルドで仕事を受けた。
 ミュゼの結界は小さなものだが、やはり魔物を近づけなかった。そのため、魔物の多い場所での採取の仕事が安全にできる。

 体を使ったことのないミュゼは、薬草を採取する仕事に戸惑ったが、魔道具に力をこめて疲労困憊になるより、ずっと晴れやかな気持ちになれた。
 何度も仕事を引き受けるうちに、人と話すことも少し慣れた。

 城から離れるように言われたのを覚えているミュゼは、できるだけ遠くの仕事を受けるようになった。そもそも国の大結界の中には魔物が入ってこないので、ミュゼの受ける仕事はたいてい僻地である。
 いずれ故郷を見つけ出せればという気持ちもあった。

 国を覆う大結界が消滅したのは、そんなある日のことだった。

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