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この国を守っていこう。
「あ……、うあああ……っ」
「殿下!?」
「いったい!?」
「ミュゼ……ミュゼ!」
駆けつけた兵士たちになど構わず、王子は王の死体の転がる部屋から逃げ出した。
ともかくミュゼだ。あの女を確保しなければならない。
止める衛兵を蹴り、殴り、かき分けるようにして城の外に出た。結界のある場所がミュゼのいる場所だ。馬にまたがり、ひたすらに駆けた。
「お、俺だ、俺が王なのだ。聖女も俺に従うべきなのだ! ははっ、そうだ、この俺の妻にしてやる。それでいいだろう?」
結界が、輝きが近づいてくる。
誇らしい大結界と同じ輝きだ。国を守る輝きだ。
「この俺が来てやっ……………」
結界に侵入しようとした王子の体が、吹き飛んだ。
(ぐ、あぁあああああああああ!)
悲鳴をあげることはできなかった。すでに喉がまともな機能をしていなかったのだ。
(助け……っ許してくれ! ああああああ!)
王子の思考はそこで消えた。
結界に突入しようとした王子の体は、そのまま消えた。
どこかに飛ばされたのか、蒸発してしまったのか、誰にもわからない。聖女としてまだ未熟なミュゼは、気づいてさえいなかった。
ミュゼの結界には人々が集まり続けた。
頼られれば頼られるほど、ミュゼは力が満ちてくるのを感じた。目の前の人を、そして見たこともない人たちを守りたいと思う。
顔もわからない母親も同じだ。きっとどこかにいる。だから、この国を守りたい。
結界は日に日に大きくなり、その境界はゆっくりと城に近づいていく。ミュゼは叱られるのではないかと少し不安に思ったが、結界が城にたどり着いたとき、城には誰もいなかったという。
「王様たち、どこに……?」
「さあ。わかりませんが、王家は役目を終えたということでしょう」
側付きの者に言われて、そういうものかとミュゼは首をかしげた。
ミュゼが国を守り、そして周囲の者たちがミュゼを守る。その形は上手くいっていたが、ミュゼは今だにいろいろなことがわからない。
「お母さんの居場所、わからなくなっちゃった……」
ミュゼがどこから連れてこられたのか、誰も知らない。王家のものなら知っている可能性があったのだが、もう会うこともない気がした。
「ミュゼ様……」
「でも、大丈夫、きっとどこかにいるから」
だからこの国を守っていこう。
ミュゼはそう思った。
けれどある日、人々が「ミュゼ様への害意があれば、結界には入れない」と話しているのを聞いて、少し不安になった。
(お母さんが、私に害意があったら?)
あるかもしれない。
もしかしたらミュゼのことを嫌っているのかもしれない。
会ったこともないのでわからない。
もし母が自分を嫌っているとしたら、悲しいけれど、それでもミュゼは母を守りたい。
それからミュゼは結界がどのように排除する相手を決めているのかを調べた。多くの人々がミュゼについているので、お願いすれば調査してくれる。ミュゼほどの力はないが、結界を張れる者は他にもいるのだ。
そしてミュゼは理解した。
「だから、魔道具……」
ミュゼではなく、魔道具が結界を発動する形にすればいいのだ。使用者は魔道具に力を注ぐだけで、その術式には関わらない。
これなら、使用者に対する害意ではなく、魔道具に対する害意を判別することになる。
しかし魔道具はもうない。
誰もいない城は荒れ果て、ほとんどのものが持ち去られていた。魔道具が今どこにあるのか、誰にもわからない。
魔道具の存在は秘されていた。ただのガラクタとして処分された可能性もあるだろう。
「わたし、魔道具を……つくれるような、気がする……」
どこか遠く、とても遠くに、そんな記憶があるような気がした。
いずれミュゼは魔道具をつくるだろう。
そして代替わりするたび聖女は燃料に成り下がり、聖女の周囲を固める者たちのなかから、国の指導者が生まれるだろう。
けれどまだずっと先のことだ。
ミュゼは会うこともない母を思い、国を守り、人に守られ、孤独な日々を忘れるほどの幸福を感じていた。
「殿下!?」
「いったい!?」
「ミュゼ……ミュゼ!」
駆けつけた兵士たちになど構わず、王子は王の死体の転がる部屋から逃げ出した。
ともかくミュゼだ。あの女を確保しなければならない。
止める衛兵を蹴り、殴り、かき分けるようにして城の外に出た。結界のある場所がミュゼのいる場所だ。馬にまたがり、ひたすらに駆けた。
「お、俺だ、俺が王なのだ。聖女も俺に従うべきなのだ! ははっ、そうだ、この俺の妻にしてやる。それでいいだろう?」
結界が、輝きが近づいてくる。
誇らしい大結界と同じ輝きだ。国を守る輝きだ。
「この俺が来てやっ……………」
結界に侵入しようとした王子の体が、吹き飛んだ。
(ぐ、あぁあああああああああ!)
悲鳴をあげることはできなかった。すでに喉がまともな機能をしていなかったのだ。
(助け……っ許してくれ! ああああああ!)
王子の思考はそこで消えた。
結界に突入しようとした王子の体は、そのまま消えた。
どこかに飛ばされたのか、蒸発してしまったのか、誰にもわからない。聖女としてまだ未熟なミュゼは、気づいてさえいなかった。
ミュゼの結界には人々が集まり続けた。
頼られれば頼られるほど、ミュゼは力が満ちてくるのを感じた。目の前の人を、そして見たこともない人たちを守りたいと思う。
顔もわからない母親も同じだ。きっとどこかにいる。だから、この国を守りたい。
結界は日に日に大きくなり、その境界はゆっくりと城に近づいていく。ミュゼは叱られるのではないかと少し不安に思ったが、結界が城にたどり着いたとき、城には誰もいなかったという。
「王様たち、どこに……?」
「さあ。わかりませんが、王家は役目を終えたということでしょう」
側付きの者に言われて、そういうものかとミュゼは首をかしげた。
ミュゼが国を守り、そして周囲の者たちがミュゼを守る。その形は上手くいっていたが、ミュゼは今だにいろいろなことがわからない。
「お母さんの居場所、わからなくなっちゃった……」
ミュゼがどこから連れてこられたのか、誰も知らない。王家のものなら知っている可能性があったのだが、もう会うこともない気がした。
「ミュゼ様……」
「でも、大丈夫、きっとどこかにいるから」
だからこの国を守っていこう。
ミュゼはそう思った。
けれどある日、人々が「ミュゼ様への害意があれば、結界には入れない」と話しているのを聞いて、少し不安になった。
(お母さんが、私に害意があったら?)
あるかもしれない。
もしかしたらミュゼのことを嫌っているのかもしれない。
会ったこともないのでわからない。
もし母が自分を嫌っているとしたら、悲しいけれど、それでもミュゼは母を守りたい。
それからミュゼは結界がどのように排除する相手を決めているのかを調べた。多くの人々がミュゼについているので、お願いすれば調査してくれる。ミュゼほどの力はないが、結界を張れる者は他にもいるのだ。
そしてミュゼは理解した。
「だから、魔道具……」
ミュゼではなく、魔道具が結界を発動する形にすればいいのだ。使用者は魔道具に力を注ぐだけで、その術式には関わらない。
これなら、使用者に対する害意ではなく、魔道具に対する害意を判別することになる。
しかし魔道具はもうない。
誰もいない城は荒れ果て、ほとんどのものが持ち去られていた。魔道具が今どこにあるのか、誰にもわからない。
魔道具の存在は秘されていた。ただのガラクタとして処分された可能性もあるだろう。
「わたし、魔道具を……つくれるような、気がする……」
どこか遠く、とても遠くに、そんな記憶があるような気がした。
いずれミュゼは魔道具をつくるだろう。
そして代替わりするたび聖女は燃料に成り下がり、聖女の周囲を固める者たちのなかから、国の指導者が生まれるだろう。
けれどまだずっと先のことだ。
ミュゼは会うこともない母を思い、国を守り、人に守られ、孤独な日々を忘れるほどの幸福を感じていた。
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