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後編
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「まったく好きではありません」
はっきりと告げたのにラルゴは納得していないようでした。まだ何か言おうとしているのがわかります。
このままラルゴの話を聞いていても、時間がすぎるだけでしょう。それだけの間、多くの人に醜聞を振りまくようなものです。
徹底的に、徹底的に。
「顔が好きではありませんし、性格も好きではありません。思いつきで行動するところも、派手好きなところも私とは合いません。それでも何事もなければお約束どおり結婚していたでしょうが、そうでなくなった今、わざわざ選びたい方ではありません」
思っていたままをつらつらと告げ、ひとつため息をついてまた口を開きました。
「だいたい婚約関係さえ維持できない、見せつけるように浮気していた人と、どうやって上手くやっていけると思うんですか。言い訳だってひどいです。誘われて応じたから自分は悪くないって、子供じゃないんですから」
「だっ、だって、誘われて断ったら、女性に恥をかかせることになるだろう!」
「唯一あなたと参加した夜会で、ダンスの誘いをとても嫌そうな顔で断っていたでしょう。そのあと散々、その方の悪口を聞かされましたが?」
君はあんなふうになるな、などと言われて嬉しい人もいるのかもしれませんが、私はただただ不快でした。
それも胸が小さいだとか、口元が下品だとか、見た目の話ばかり。それ以降はもう無理だと思ったので、夜会に招待されてもエスコートはお兄様にお願いしていました。
「それは……相手が図々しかったから」
「ダンスに誘われるだけで図々しいと思っているのに、どうして浮気を誘われて受けたのか不思議です」
「うっ」
「そもそもあなたって……、」
言いかけて私は口をつぐみました。
私があの時、悪口を聞かされて萎えたように、今、この場で私の悪口も皆を萎えさせてしまうかもしれません。いくら事実でも、悪口ばかりの人とは付き合いたくないものです。
私は婚活中。よいご縁を得るためのアピールしておかなければ。
とはいえ間違ってもラルゴを褒めているとは思われないようにしましょう。
「わ、わかっているよ! それでも、それでも僕のことが好きなんだろう!? これまで傷つけたことは謝る。これからは決して……」
「私は誠実な方を素敵だと思いますから、あなたは好きではないです」
どうでしょうか。誠実でない人はムッとしたかもしれませんが、現実問題、誠実でない人とはお付き合いしたくないので大丈夫でしょう。
「今から誠実になる!」
「では、誠実になってから出直してくださいますか? このような場で、とにかく復縁を迫ってくるようなことは、とても誠実とは思えません」
「い、いや、それは君を愛しているから。この思いは押さえられなくて……」
「恋や愛は素晴らしいものですが、それを理由に人に迷惑をかけていいと思っている方は、誠実ではないでしょう」
「それだけ強い思いなんだ!」
「だとすると私は無理です。重いです」
「な……」
うーん、ここまで言ってしまうと、恋愛を否定しているように思われてしまうでしょうか。そうではないのです。
うんざりはしていますが、まだ恋愛したいという気持ちは残っています。
「私の求める愛は、もっと穏やかで、一緒にいて幸せな気分になるものです」
「それなら! 俺と一緒にいることで幸せになれるはずだ!」
「いえ、あなたといても不快しかありません。イライラとささくれた気分で、とにかく早く目の前からいなくなってほしいです。婚約者だった頃からそうですよ。たった一時間の面会さえも態度の悪さがストレスで、やっと帰ってくれたあとはぐったり疲れたものです」
「……」
「触れ合うなんて考えるとぞっとしますし、会話はそもそも成り立ちませんよね。あなたが気まぐれにつまらない話をするだけです。私が何を言っても聞く気がないとわかりましたから、ただただ相槌をうって、このときが早く終わるように願っていました」
「……」
「あなたと婚約が解消になってとても嬉しかったです。あれほど無意味な時間はないと思っていましたから。息のかかる距離にいるだけで吐き気がしたのに、あなたは全く気づかずに、よくあんなに堂々としていられましたよね。遠回しにお伝えしていたはずですが」
言いすぎてしまったでしょうか。
見る間にラルゴの生気が失われていくようです。
「……すみません。言い過ぎました。あなたがあなたでしかないのは仕方のないことですね。それについて何を言う気もありません。ただ、私があなたを好きだと誤解されたくなかったんです」
「あ、あああ……ああ」
「わかっていただけましたか? 私があなたを好きじゃない、嫌いだって」
「あああああ!」
「これからは、とさきほど言っていましたけれど、それも無理だと思います。これだけの年数一緒にいて、好ましいと思うことが一度もなかったのですから、あなたと恋愛することはもう一生ありえないでしょう」
「うああああああ!」
ラルゴは叫び声をあげると、転びそうな勢いで会場から走り去っていきました。
「えっ」
さすがにその勢いに呆然とします。ようやく恥を晒していることに気づいたのでしょうか?
あのくらいで気づくなら、最初から別の場所でやってほしかったです。
それとも言い過ぎたのでしょうか。
でも、あれくらい言わなきゃわからないですよね……。
私はともかく周囲に騒がせたことを謝罪して、今日は帰ることにしました。この状況から婚活ってさすがに無理でしょう。
「もうお帰りになるんですか?」
と、ひとりの殿方が話しかけてきました。
「え? あ、はい。大変お恥ずかしいところをお見せして……」
「とんでもない! あまりに容赦がなくて見惚れましたよ!」
「は、はあ」
ちょっと微妙な気分になりましたが。
数年後、この彼と結婚することになりましたので、何がご縁になるかわからないものですね。
はっきりと告げたのにラルゴは納得していないようでした。まだ何か言おうとしているのがわかります。
このままラルゴの話を聞いていても、時間がすぎるだけでしょう。それだけの間、多くの人に醜聞を振りまくようなものです。
徹底的に、徹底的に。
「顔が好きではありませんし、性格も好きではありません。思いつきで行動するところも、派手好きなところも私とは合いません。それでも何事もなければお約束どおり結婚していたでしょうが、そうでなくなった今、わざわざ選びたい方ではありません」
思っていたままをつらつらと告げ、ひとつため息をついてまた口を開きました。
「だいたい婚約関係さえ維持できない、見せつけるように浮気していた人と、どうやって上手くやっていけると思うんですか。言い訳だってひどいです。誘われて応じたから自分は悪くないって、子供じゃないんですから」
「だっ、だって、誘われて断ったら、女性に恥をかかせることになるだろう!」
「唯一あなたと参加した夜会で、ダンスの誘いをとても嫌そうな顔で断っていたでしょう。そのあと散々、その方の悪口を聞かされましたが?」
君はあんなふうになるな、などと言われて嬉しい人もいるのかもしれませんが、私はただただ不快でした。
それも胸が小さいだとか、口元が下品だとか、見た目の話ばかり。それ以降はもう無理だと思ったので、夜会に招待されてもエスコートはお兄様にお願いしていました。
「それは……相手が図々しかったから」
「ダンスに誘われるだけで図々しいと思っているのに、どうして浮気を誘われて受けたのか不思議です」
「うっ」
「そもそもあなたって……、」
言いかけて私は口をつぐみました。
私があの時、悪口を聞かされて萎えたように、今、この場で私の悪口も皆を萎えさせてしまうかもしれません。いくら事実でも、悪口ばかりの人とは付き合いたくないものです。
私は婚活中。よいご縁を得るためのアピールしておかなければ。
とはいえ間違ってもラルゴを褒めているとは思われないようにしましょう。
「わ、わかっているよ! それでも、それでも僕のことが好きなんだろう!? これまで傷つけたことは謝る。これからは決して……」
「私は誠実な方を素敵だと思いますから、あなたは好きではないです」
どうでしょうか。誠実でない人はムッとしたかもしれませんが、現実問題、誠実でない人とはお付き合いしたくないので大丈夫でしょう。
「今から誠実になる!」
「では、誠実になってから出直してくださいますか? このような場で、とにかく復縁を迫ってくるようなことは、とても誠実とは思えません」
「い、いや、それは君を愛しているから。この思いは押さえられなくて……」
「恋や愛は素晴らしいものですが、それを理由に人に迷惑をかけていいと思っている方は、誠実ではないでしょう」
「それだけ強い思いなんだ!」
「だとすると私は無理です。重いです」
「な……」
うーん、ここまで言ってしまうと、恋愛を否定しているように思われてしまうでしょうか。そうではないのです。
うんざりはしていますが、まだ恋愛したいという気持ちは残っています。
「私の求める愛は、もっと穏やかで、一緒にいて幸せな気分になるものです」
「それなら! 俺と一緒にいることで幸せになれるはずだ!」
「いえ、あなたといても不快しかありません。イライラとささくれた気分で、とにかく早く目の前からいなくなってほしいです。婚約者だった頃からそうですよ。たった一時間の面会さえも態度の悪さがストレスで、やっと帰ってくれたあとはぐったり疲れたものです」
「……」
「触れ合うなんて考えるとぞっとしますし、会話はそもそも成り立ちませんよね。あなたが気まぐれにつまらない話をするだけです。私が何を言っても聞く気がないとわかりましたから、ただただ相槌をうって、このときが早く終わるように願っていました」
「……」
「あなたと婚約が解消になってとても嬉しかったです。あれほど無意味な時間はないと思っていましたから。息のかかる距離にいるだけで吐き気がしたのに、あなたは全く気づかずに、よくあんなに堂々としていられましたよね。遠回しにお伝えしていたはずですが」
言いすぎてしまったでしょうか。
見る間にラルゴの生気が失われていくようです。
「……すみません。言い過ぎました。あなたがあなたでしかないのは仕方のないことですね。それについて何を言う気もありません。ただ、私があなたを好きだと誤解されたくなかったんです」
「あ、あああ……ああ」
「わかっていただけましたか? 私があなたを好きじゃない、嫌いだって」
「あああああ!」
「これからは、とさきほど言っていましたけれど、それも無理だと思います。これだけの年数一緒にいて、好ましいと思うことが一度もなかったのですから、あなたと恋愛することはもう一生ありえないでしょう」
「うああああああ!」
ラルゴは叫び声をあげると、転びそうな勢いで会場から走り去っていきました。
「えっ」
さすがにその勢いに呆然とします。ようやく恥を晒していることに気づいたのでしょうか?
あのくらいで気づくなら、最初から別の場所でやってほしかったです。
それとも言い過ぎたのでしょうか。
でも、あれくらい言わなきゃわからないですよね……。
私はともかく周囲に騒がせたことを謝罪して、今日は帰ることにしました。この状況から婚活ってさすがに無理でしょう。
「もうお帰りになるんですか?」
と、ひとりの殿方が話しかけてきました。
「え? あ、はい。大変お恥ずかしいところをお見せして……」
「とんでもない! あまりに容赦がなくて見惚れましたよ!」
「は、はあ」
ちょっと微妙な気分になりましたが。
数年後、この彼と結婚することになりましたので、何がご縁になるかわからないものですね。
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