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中編
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「ちょ……ちょっと、なんなの!? エドワルド殿下は私を愛しているの。あなた達の出る幕なんて……」
「殿下はサーシャ様をお選びになり、ルミナ様、エルミア様、モニカ様、それからわたくしの存じ上げない方々へのお約束は破棄なさるのですね?」
「そ……それは……」
「エドワルド様!」
「そ、そうだ! 皆にはすまないが私はサーシャを選んだのだ!」
「……っ、そうですよね!」
サーシャ様は喜ばれましたが、どことなく引きつった笑顔です。まあ、そうですわね。
この殿下が一途だなんて思っていたのはどうかと思いますけれど、知らない愛人がぞろぞろ出てきて君を選ぶと言われても、複雑ですわね。
「そうですの。殿下はサーシャ様をお選びになりますのね」
「……うむっ! これそが真実の愛なのだ。これこそが……サーシャは素直で可愛いし、そこそこ胸もある、馬鹿に元気で、他の貴族令嬢とは全く違う……」
殿下は自分に言い聞かせるようにサーシャさんの良い点を呟いておられます。
なるほど、さまざまなタイプを取り揃えたと思いましたが、そういえば平民の方はいらっしゃいませんでした。
わたくしの落ち度ですわね。殿下をきっちり囲い込むならば、わたくしの基準からは下品すぎる方も必要だったのでしょう。
「では、サーシャさんは、殿下でよろしいのですか?」
「いいに……決まって…………………待って」
「サーシャ!?」
そりゃそうですわ殿下。そこそこ胸がある馬鹿に元気と言われて、喜ぶ恋愛脳はおりませんわ。
「……エドワルド様、もう浮気……しませんよね……?」
ああサーシャさん、その言い方はたぶんダメですわ。
「浮気ではないぞ! 私は多くの民と関わり、学ぶ必要があるのだ!」
こういう方ですもの。自分の非を認めたりなどしません。
「は? 何言ってんの?」
あ、サーシャさん、最後の品性が消えましたわね。逆に清々しい気分になりました。
「ですがサーシャさん、このようなことになりました以上、殿下以外の方にとは難しいのではないかしら。みなさま殿下より身分が下なのですから、ご遠慮なさると思いますわ」
「そのとおりだ! サーシャ、私が最も君にふさわしい。共に国を守っていこう」
「……」
サーシャさんの目は冷たいですが、殿下は気にしておられないようです。まあ気にするようなら、近づいてくる女性に片っ端から愛人の約束なんてしませんわね。
かわいそうなサーシャさん。惚れた方が負けなのです。
とはいえ、わたくしにもわたくしの都合がございます。それに嫌がらせなんてしておりませんしね。学業をおろそかにせず、多くの縁をつくり、殿下の愛人候補を取りまとめるのはそれは大変でしたのよ。
それだけの苦労をしたのですから、得るものは得させていただきます。
……まあ何もしなくても、落ち着くところに落ち着きそうではありますけれども。
「では殿下、サーシャさんだけになさいますのね?」
お伺いしますと殿下は頷きかけ、三人の愛人候補に挙動不審に視線を向けました。
「エドワルド様!」
サーシャさんが急かします。
「う、うむ! もちろんだ。私はサーシャ一筋だ。昔も、今も……」
「まあ、素晴らしいですわ。十年、二十年経とうとも、そうなのですわね?」
「ああ! どれだけ時が経とうとも……」
「エドワルド様……嬉しい……」
サーシャさんはもうこれでいいとお思いになったようです。恋は盲目ですわね。
いえ、いささか冷たい目をしておられますけれど、もはややけっぱちなのかもしれません。ここまで来てしまえば、そうするしかないでしょうね。
「結婚二十年というと、今の両殿下と同じくらいですわね。素敵ですわ。きっと、仲睦まじいご関係ですのね」
「……」
殿下が黙ってサーシャさんを見ました。
王妃殿下は素晴らしい方です。でも陛下は、殿下と変わらない年齢の愛人を何人も抱えておられます。
そのうちのお一方に殿下が恋慕なさったことも、もちろん知っております。
殿下の頭の中には、若く美しい女に囲まれた陛下が思い浮かんでいるのでしょうねえ。
それから殿下はルミナ様、エルミア様、モニカ様を見ました。そうです、サーシャさんを諦めれば、みな、あなたさまのものですわ。これから出会う若い女性もそう。
いえ、本当はちっともあなたのものではないのですけれど、そういう夢が見られますわ。大事ですわよね、夢って。
誰も殿下を愛してなどいませんけれど、貴族の女に生まれてしまった以上、権力を得ようと思ったら男に侍るしかありません。殿下は大人気ですのよ。地位が高くて、馬鹿ですもの。
おまけに高貴な男の悪いところを煮詰めたような性格をしていらっしゃいますから、まったく罪悪感を持たずにすみます。本当、殿下の婚約者に選ばれたわたくしは幸運でした。
その幸運を捨てるわけには参りません。
「しかし……しかしだ、ルミナ達を助けると約束をしてしまった。見捨てるわけには……」
「殿下、申し上げにくいのですけれど……平民であるサーシャさんを正妃とし、ルミナ様、エルミア様、モニカ様を側妃となさるのは、さすがに難しいですわ……。ご実家が黙っていないでしょう」
「私が選んだ女だ! 誰にも文句を言わせるものか」
「それにサーシャさんも、殿下に唯一愛されることをお望みですわ」
「む……」
殿下が嫌そうにサーシャさんを見ました。
サーシャさんも、ひどい嫌悪の顔で見返しました。あいかわらず仲がよろしいですわね。
「殿下はサーシャ様をお選びになり、ルミナ様、エルミア様、モニカ様、それからわたくしの存じ上げない方々へのお約束は破棄なさるのですね?」
「そ……それは……」
「エドワルド様!」
「そ、そうだ! 皆にはすまないが私はサーシャを選んだのだ!」
「……っ、そうですよね!」
サーシャ様は喜ばれましたが、どことなく引きつった笑顔です。まあ、そうですわね。
この殿下が一途だなんて思っていたのはどうかと思いますけれど、知らない愛人がぞろぞろ出てきて君を選ぶと言われても、複雑ですわね。
「そうですの。殿下はサーシャ様をお選びになりますのね」
「……うむっ! これそが真実の愛なのだ。これこそが……サーシャは素直で可愛いし、そこそこ胸もある、馬鹿に元気で、他の貴族令嬢とは全く違う……」
殿下は自分に言い聞かせるようにサーシャさんの良い点を呟いておられます。
なるほど、さまざまなタイプを取り揃えたと思いましたが、そういえば平民の方はいらっしゃいませんでした。
わたくしの落ち度ですわね。殿下をきっちり囲い込むならば、わたくしの基準からは下品すぎる方も必要だったのでしょう。
「では、サーシャさんは、殿下でよろしいのですか?」
「いいに……決まって…………………待って」
「サーシャ!?」
そりゃそうですわ殿下。そこそこ胸がある馬鹿に元気と言われて、喜ぶ恋愛脳はおりませんわ。
「……エドワルド様、もう浮気……しませんよね……?」
ああサーシャさん、その言い方はたぶんダメですわ。
「浮気ではないぞ! 私は多くの民と関わり、学ぶ必要があるのだ!」
こういう方ですもの。自分の非を認めたりなどしません。
「は? 何言ってんの?」
あ、サーシャさん、最後の品性が消えましたわね。逆に清々しい気分になりました。
「ですがサーシャさん、このようなことになりました以上、殿下以外の方にとは難しいのではないかしら。みなさま殿下より身分が下なのですから、ご遠慮なさると思いますわ」
「そのとおりだ! サーシャ、私が最も君にふさわしい。共に国を守っていこう」
「……」
サーシャさんの目は冷たいですが、殿下は気にしておられないようです。まあ気にするようなら、近づいてくる女性に片っ端から愛人の約束なんてしませんわね。
かわいそうなサーシャさん。惚れた方が負けなのです。
とはいえ、わたくしにもわたくしの都合がございます。それに嫌がらせなんてしておりませんしね。学業をおろそかにせず、多くの縁をつくり、殿下の愛人候補を取りまとめるのはそれは大変でしたのよ。
それだけの苦労をしたのですから、得るものは得させていただきます。
……まあ何もしなくても、落ち着くところに落ち着きそうではありますけれども。
「では殿下、サーシャさんだけになさいますのね?」
お伺いしますと殿下は頷きかけ、三人の愛人候補に挙動不審に視線を向けました。
「エドワルド様!」
サーシャさんが急かします。
「う、うむ! もちろんだ。私はサーシャ一筋だ。昔も、今も……」
「まあ、素晴らしいですわ。十年、二十年経とうとも、そうなのですわね?」
「ああ! どれだけ時が経とうとも……」
「エドワルド様……嬉しい……」
サーシャさんはもうこれでいいとお思いになったようです。恋は盲目ですわね。
いえ、いささか冷たい目をしておられますけれど、もはややけっぱちなのかもしれません。ここまで来てしまえば、そうするしかないでしょうね。
「結婚二十年というと、今の両殿下と同じくらいですわね。素敵ですわ。きっと、仲睦まじいご関係ですのね」
「……」
殿下が黙ってサーシャさんを見ました。
王妃殿下は素晴らしい方です。でも陛下は、殿下と変わらない年齢の愛人を何人も抱えておられます。
そのうちのお一方に殿下が恋慕なさったことも、もちろん知っております。
殿下の頭の中には、若く美しい女に囲まれた陛下が思い浮かんでいるのでしょうねえ。
それから殿下はルミナ様、エルミア様、モニカ様を見ました。そうです、サーシャさんを諦めれば、みな、あなたさまのものですわ。これから出会う若い女性もそう。
いえ、本当はちっともあなたのものではないのですけれど、そういう夢が見られますわ。大事ですわよね、夢って。
誰も殿下を愛してなどいませんけれど、貴族の女に生まれてしまった以上、権力を得ようと思ったら男に侍るしかありません。殿下は大人気ですのよ。地位が高くて、馬鹿ですもの。
おまけに高貴な男の悪いところを煮詰めたような性格をしていらっしゃいますから、まったく罪悪感を持たずにすみます。本当、殿下の婚約者に選ばれたわたくしは幸運でした。
その幸運を捨てるわけには参りません。
「しかし……しかしだ、ルミナ達を助けると約束をしてしまった。見捨てるわけには……」
「殿下、申し上げにくいのですけれど……平民であるサーシャさんを正妃とし、ルミナ様、エルミア様、モニカ様を側妃となさるのは、さすがに難しいですわ……。ご実家が黙っていないでしょう」
「私が選んだ女だ! 誰にも文句を言わせるものか」
「それにサーシャさんも、殿下に唯一愛されることをお望みですわ」
「む……」
殿下が嫌そうにサーシャさんを見ました。
サーシャさんも、ひどい嫌悪の顔で見返しました。あいかわらず仲がよろしいですわね。
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