他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

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11(自覚する国王ルガー、激怒するオレーリア)

「ふっ……いやいや、顔が緩んでいかんな」

 ルガーは自分の頬を叩きながら、商人の姿のままこそこそと執務室に戻った。

「リアと話をしていると楽しくて、どうも。……うむ、しかし、この変装はあまり効果がないようだな……どうしたものか……」

 王がひとりの下女と何度も会っているなど、知られるべきではない。
 彼女を自分付きにできればなあ、と思うが、彼女はあまりに若すぎる。下々ではどうとでもなる年齢制限も、王である自分のそばに置くとなると問題だろう。

「リアンナ姫も嫌がるだろうしな」

 あれだけ愛らしく明るい彼女だ。
 姫とも気安い仲であることが、話の中から察せられた。ただでさえ不遇な立場を押し付けているのに、身近にいる少女を引き抜きたくはない。

「ううむ……」

 しかし、彼女と話すのを諦めるという選択肢も、なぜか浮かばない。考えたくもないのだ。

「……そばにいて欲しい。い、いや、これは下心などはなく……純粋な……癒やしを……」

 そこまで自分に言い訳して、ルガーはため息をついた。
 彼女に「逢引」などと言われて動揺してしまった、それが答えなのかもしれない。

(だいたい、二人で何度も会っているのだ。それは……逢引……だろう……)

 ルガーはうめいて頭を抱えた。
 王として教育を受けてこなかった自分が、王になってしまった。そのときから、国のために身を尽くそうと考えてきた。生半可な努力では愚王となり、民を苦しませることが間違いないからだ。

 私情、まして色恋などは捨てたはずだった。
 優秀な女性を王妃とし、公人として生きる覚悟をしたはずだ。

「だが……」

 彼女を思うと心が踊る。彼女のためなら何でもしてやりたくなる。
 ああ、想像するだけで楽しいのだ。いったい自分が王だと知れば、どれほど驚くだろう。どれほどかわいい反応をしてくれるだろう。

「怒るかもしれないな。だがそんな顔も見てみたい。困らされたい。いくらでも優しく宥めてやりたい……」

 いけないと思いながら、もはやルガーは彼女を諦める選択肢を持たなかった。





 オレーリアは怒りのあまり拳を震わせていた。

「どうしてなの!?」

 おかしい。間違っている。
 彼女の中にはその言葉がぐるぐると回る。最高の女たる自分がこれだけ献身しているというのに、王が他の女と会っているのだ。

 なぜ、ありえない。意味がわからない。

「リアンナですらない、汚らしい下女ですって……!?」

 報告によるとルガーは、何度も何度もオレーリアを裏切って、後宮の下女と楽しく会話していたそうだ。
 リアンナであれば、オレーリアはまだいくらか自分を抑えられた。馬鹿みたいに真面目な王のことだ。
 だが、現実は下女である。なんの身分も優れたところもなさそうな下女である。見目も平凡、若いだけが取り柄の女だという。

 到底受け入れられないことだった。
 そんな事実があるというだけで虫唾が走る。

「始末して」

 オレーリアは即座に配下にそう命じた。
 彼女が最も信頼している、常にそばに置いている男だ。元は父より譲り受けた手勢だったが、今ではオレーリアに心酔し、どのようなことでも速やかに行ってくれる。

 もちろんオレーリアは馬鹿ではないので、普段、露見したら自分の身が危なくなるような悪事は命じない。だが、相手が下女なら問題ないだろう。

「とびきり無惨なのがいいわ。陛下が二度と思い出したくなくなるような。……そうだ、獣にでも食わせてちょうだい。それでいて、誰かはわかるくらいにね」
「望みのままに」
「期待してるわ」

 配下の気配が消えて、オレーリアはゆっくりとお茶を飲んだ。落ち着かないといけない。冷静さえを失えば、どんなたくらみも露見してしまう。
 下女を殺したところで問題になどならないが、他でもない王に知られてはいけない。自分は愛される女なのだから。

「優雅に微笑んで言ってさしあげてよ? ……まあ、お気の毒ね。陛下、知っている方でしたの?」

 彼はどんな顔をするだろう。
 疑われるはずだ。たかが下女が殺される理由なんて、王と関わったからに決まっているからだ。けれどオレーリアがやったのか、他の者がオレーリアの意を察したのか、それとも別の派閥か、それとも誰かが利用しようとしたのか、それはわからない。

「きっと信じてくれるわ」

 オレーリアには自信がある。
 下女を好むなどほんの気の迷いで、本当は彼は自分を愛しているはずだ。こんなにも美しく、優秀で、けなげな自分を愛さないわけがない。

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