他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

文字の大きさ
12 / 14

12

「今日も洗濯だー!」

 いい天気です。洗濯物はたくさんあります。後宮にはたくさんの布が置きっぱなしになっていて、洗えばまだ使えそうなのです。古布として消費するにしても、きれいにするに越したことはありません。

 それにカーテン。
 たくさんのカーテンを洗えば、それだけ後宮内の空気がよくなっていきます。古いカーテンって、よく見るとすごく変な色になっちゃってるんですよね。匂いもちょっとするし。

 下女さん達には他にやることがたくさんあるので、少しずつでも私がやっていきましょう。自分の住処、自分できれいに。じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶ。

「せっせ、はい、はい」

 大きなカーテンは手で擦ってもきりがないので、足で踏んで全体の汚れを出してしまいます。手を動かすだけより、体を動かしていると大変だけど楽しいです。

「あおーい!」

 ぎゅっぎゅっしながら見上げると空がとてもきれいでした。それにずっと浴びていたい気持ちのいい風。うっかりすると倒れそうなので注意が必要です。何回かやってしまった実績があります。
 足元を見て、空を見て、ときどき水を取り替えます。そういえばどうして下女の皆さんは外で洗濯しないのでしょうか。外のほうが気持ちいいのに。

「……お嬢さん」
「あ、ルーさん……じゃない! どうかしましたか?」

 てっきりいつものルーさんかと思ったら、知らないおじいさんでした。見たことのない人ですが、とても困った顔をしています。

「すまないね、書類が風に飛ばされて、向こうの森の中に入ってしまったんだ。お礼はするから、一緒に探してくれないかね」
「えっ、書類が? それは大変ですね、早くしないと!」

 強風というほどではないですが、今日は少しの風があります。早く探さないとどこに飛んでいくかわかりません。
 私は急いでおじいさんと一緒に、指さされた森の方に向かいました。

「って、あれ森なんですね。木がたくさんあるとは思ってたんですけど」
「ああ、ああ。若い人は知らんかね、昔はこの後宮は、姫たちが逃げ出さないように森の中にあってねえ。今じゃあの部分だけ残ってるのさ」
「森があると逃げられないんですか?」
「そりゃあ、そうさ。森には凶暴な獣達が飼われていた」
「わあ、それは怖いですね。今もいるんでしょうか?」
「うふふっ、そういう話は聞かないねえ」

 それはそうでしょうね。全体像は見えませんが、こじんまりとした森に見えます。凶暴な獣が住むには小さそうです。
 それに近づいてみると、母国の城の裏手にあった森より、適度に間引かれていて光が通っています。
 これなら書類も見つけやすそうです。とりあえず見当たりませんが、どのへんなんでしょうか。

「でも事実はわかりゃしない。だから気をつけないと……ねぇっ!」
「えっ……!?」

 振り向いた瞬間に、おじいさんがナイフを持っているのが見えました。私は避けたというよりびっくりして、座り込むように姿勢を落としました。

 ナイフが頭の上を通り過ぎるのを他人事みたいに見ていると、衝撃に襲われました。

「ぐっ……ごほ……っ」

 お腹に重い痛み。蹴られた? おじいさんに?

 ……なんで?

「いい子なんだねえ、残念だねえ、お嬢ちゃん。どんないい子でも、オレーリア様を悲しませちゃあ、いけない。いけない子だ」
「オレー……リア、さ、ま……?」
「そうさ、ルガー陛下の隣にいることがオレーリア様の幸せだ。それを邪魔したんだから、命で償ってもらわなきゃな」
「邪魔……」
「あんたさえ来なきゃ、オレーリア様が王妃になるはずだったんだ! ああ、可哀想なオレーリア様。俺が幸せにしてやらなきゃあ……あの男の妻にさせるなど嫌だが、オレーリア様には一番いい椅子をご用意しなきゃ……」

 そんな……知りませんでした。
 オレーリア様が王妃に?
 私が来なければ?

 それじゃあ、オレーリア様は私を恨んでいるの?
 あんなによくしてくれたのに。私、私は……。
 言ってくれたら、私は……。

「まっ、そういうわけだ。あんたにはとびきり惨たらしく死んで、罪を償ってもらわなきゃなあ!」

 動けない。
 ナイフが、美しい太陽を反射して輝きました。私は痛みを予想して身を縮めました。どうして、こんな、知らない国で、私、
 こんなところで、

「ギャッ!?」

「リア、無事か!?」
「あっ……あ、あ、ルー、さん……!」
「無事だな!? 良かった……!」

 気づけばおじいさんは倒れていて、私はルーさんに抱きしめられていました。頼りになる体に触れて、私は体の力が抜け、今更のようにぶるぶると震えてきました。

 怖かった。
 助かった……?

「すまない、すまない、俺のせいだ」
「……ルーさんのせい、なんて……」
「話は聞こえた。オレーリアが、こんな……いや、彼女の指示があったかは、わからないが……」
「それなら……私が悪いんです」
「君は何も悪くない! ただ俺が、君を……」
「私が、王妃になんてなってしまったから」
「え…………?」

あなたにおすすめの小説

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

愛で癒やす聖女「殿下の愛すべきところを教えてください。早く、教えてくれないと死んじゃいますよ!」

七辻ゆゆ
ファンタジー
「おまえのような醜い女との婚約は破棄だ」 ロッダン王子が婚約者にそう言ったとき、巨大なシャンデリアが落下、彼はその下敷きになった。 たまたま聖女テアがその場にいたものの、聖女とは愛で癒やすものだ。ことの成り行きを見てしまっていたテアは、ロッダンを愛すのが難しい。 「どなたか、殿下をご存知な方、お話をお伺いできませんか? ロッダン殿下の素晴らしいところを、どうか教えていただきたいのです」

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。 この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に 昇進した。 でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から 告げられて……! どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に 入団した。 そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを 我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。 彼はわたしの婚約者なんですけどね! いつもながらの完全ご都合主義、 ノーリアリティのお話です。 少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。