他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

文字の大きさ
13 / 14

13(真実を知る国王ルガー)

「私が、王妃になんてなってしまったから」

 ルガーは最初、聞き間違いだと思った。そのあとで、言い間違いだろうと思った。
 あまりに動揺して、言葉がおかしくなってしまったのだ。正しくはせめて「王妃になろうと思ってしまったから」でなければならない。

(いや……それは違う。リアは俺が王だなどと知らないはずだ)

 そのはずだ。
 知っていたのだろうか?

「あっ、でも、それは私にもどうしようもなかったんですけど! 急に嫁入りだって言われて連れて来られて……でも、ここに来てからすぐ出て行けばよかったです。オレーリア様はあんなに良くしてくれたのに、私の気が利かなくて」
「な、に、を言って……」
「だからオレーリア様の部下の人?が怒ったのは、ルーさんは関係ないと思いますよ? そういえば、ルーさんはオレーリア様とどういう関係なんですか?」
「俺は……」
「あっ! そんなことよりですね、助けてくれてありがとうございました! 怖かった!」
「そ、うだな。大丈夫だ、もう……」

 ルガーは動揺しながらも、震える彼女をもう一度抱きしめようとした。
 しかし、するりと逃げていく。

「急いで出ていかなきゃ!」
「な……待ってくれ、リア、君は……」
「オレーリア様に恩はありますけど、さすがに殺されたくないですもん! どうせ三年後には城から出る予定だったので、今から出ていこうと思います。ごめんなさい、何のお礼もできなくて。もし出世したら返しに来ますね!」
「リア! 君は、君は……リアンナ姫、なのか……?」

 するとにこりと笑って答えた。

「そうなんです」

 たったそれだけの一言に、がくりとルガーは地面に膝をついた。
 なんということだろう。とんでもない答え合わせに、彼女との今までの会話が一気に蘇り、ルガーを混乱させる。

(下女じゃない、姫だと? オレーリアはよくやっていた? 美味しい料理を? 服を? こんな様子で? 洗濯をして……どうして、どうして)

 結論としてただ、ひたすらに思う。

(どうして俺は、一度たりともリアンナ姫に会いに来なかったのだ?)

 一度でも顔を合わせていれば。
 そのせいでリアンナは不遇に耐えることになった。他でもないルガーが信頼して任せたオレーリアの手によって。最後には命さえ奪われるところだった。

(俺は……)

 名乗れなかった。
 ルガーは、とうてい名乗ることができなかった。

「待って、くれ……それならば、君がいなくなれば王が困るだろう……」
「そんなことないですよ? 一度も顔も見てませんし」
「……」
「全然どんな人かも知りません。三年後までずっとそのつもりだと思います。うちの国の王様もそうだったもの。だから」
「……」
「私がいなくても、上手くやってくれると思います!」

 そうだ。
 実際にリアンナ姫がいなくても何の問題もない。義務を果たしたとばかりにロキスタ国は何も言ってこない。リアンナ姫の行動は制限されてすらいない、放ったらかしだ。

 三年後に出て行ったと言えばいい。それですんでしまうのだ。

「なのでルーさん、お城の出口を教えてくれませんか?」
「危険だ。一人で出ていくなど……」
「でも、ここにいるほうが危険ですよね?」

 確かにそうだった。このような状況のリアンナを、即座に安全な状況に置くことなどできない。
 正式な王妃にしようとすればなおさら、彼女の周りに危険を呼び込むことになる。王になる予定でなかった王は、強い実権など持たない。

「すまなかった、リアンナ姫、君が冷遇されていたのは、他でもないこの俺の……」
 せめて謝罪をしなければと、ルガーが告げようとすると、リアンナは不思議そうにまばたきした。

「え? 冷遇されてたんですか? 私にとっては厚遇でしたよ!」

 それがあまりに心からの言葉で、そして屈託のない笑顔を浮かべるのだ。
 ルガーは彼女の強さを前に、何を告げることもできなかった。複雑な表情を心配していると受け取ったのか、リアンナは自信ありげに言う。

「大丈夫ですよ! レニさんて人がいるんですけど、いずれ町に出ることを相談したら、すごく親身になってくれて、頼れるところを紹介してくれたんです。あと、パンも乾かして保存してますし! ……ああ、急がないと、日が暮れる前に!」
「リア……!」

 さきほど殺されかけたというのに、少女は羽のように走り出した。ルガーは彼女の名を呼ぶことしかできない。

 引き止められなかった。

 町に出たほうが確かに彼女は安全ではないかと、そして幸せになれるのではないかと、思ってしまったからだ。
 どうにかルガーにできたのは、わずかな金銭を持たせることだけだった。無力のまま、新雪を見るような気分で、跳ねる少女の背を見送ったのだ。

あなたにおすすめの小説

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

愛で癒やす聖女「殿下の愛すべきところを教えてください。早く、教えてくれないと死んじゃいますよ!」

七辻ゆゆ
ファンタジー
「おまえのような醜い女との婚約は破棄だ」 ロッダン王子が婚約者にそう言ったとき、巨大なシャンデリアが落下、彼はその下敷きになった。 たまたま聖女テアがその場にいたものの、聖女とは愛で癒やすものだ。ことの成り行きを見てしまっていたテアは、ロッダンを愛すのが難しい。 「どなたか、殿下をご存知な方、お話をお伺いできませんか? ロッダン殿下の素晴らしいところを、どうか教えていただきたいのです」

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。 この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に 昇進した。 でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から 告げられて……! どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に 入団した。 そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを 我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。 彼はわたしの婚約者なんですけどね! いつもながらの完全ご都合主義、 ノーリアリティのお話です。 少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。