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試合の応援⑤
しおりを挟む「お口開けて一狼。はい、あーん♪」
「ん。唐揚げも美味しい。流石だね華。」
「じゃあ、私にもあーんして。」
「いいよ。口開けてーーー」
箸で掴んだ唐揚げを、可愛く口を開けている華の口元に近付けると、それを見切ったかのようにお姉ちゃんが横から奪い取る。奪い取った後、よく味わうように食べているお姉ちゃんは可愛いらしいが、後のことを考えていない。華を見てみると、拳を握り締めている。
「もぐもぐ……一狼から貰った唐揚げは上手いな。そのままでも上手いが、やっぱり一狼からあーんをされると、何百倍にも美味しく感じる。」
「一狼のあーんを横取りするなって、何回も言ったでしょ!? 次奪ってきたら、近くにある木に縛りつけるよ?」
「だって、二人だけでイチャイチャしてるのずるいだろ!! それに、今日は私が頑張ったんだから、一狼からあーんされても問題はない。……ていうか、お母さんは一狼に付いてきただけで、何もしてなくない? なら、今のあーんは私が貰うのは当然。」
「………少し黙ろうか桜。」
「何で花恋が邪魔をするんだよ!!?お前も、どちらかと言えばこちら側だろ!!」
うん。何この空気。
折角の食事中だというのに、まったく気が抜けない。
女三人よれば姦しいと言うが、その比では無いと思う。
お姉ちゃんはともかく、花恋さんと華は笑っているように見えるのに、目が笑っていない。二人とも笑っていればとても可憐で美しいなと思うのに、今の二人はお互いがお互いを睨みつけていて、可憐や美しいと思うより先に威圧を感じて、この空気から逃れたいと思ってしまう。その構図は、俺が獲物だとして鷹と鷹が俺を巡って争っているようだ。獲物となっている俺は、そんな二人にびくびくとしている。
二人の圧に挟まれる俺。流石に食事中でこの圧を感じるのはキツいので、その圧から逃れるように、俺は除け者となっているお姉ちゃんと話すことにした。
「ねぇねぇお姉ちゃん。後で一緒にサッカーしない?お姉ちゃん強かったし、勝負してみたいと思って。」
「お姉ちゃんとサッカーするのか一狼。いいぞ。お姉ちゃんと勝負をしよう。……ふへへ、サッカーでの激しいぶつかり合いは仕方ないよな。」
何処か興奮した様子でこっちを見ると、頬を赤らめながら意地悪い顔で笑ってくるお姉ちゃん。
やべ、滅茶苦茶やる気が失せた。
この様子だと、絶対何かしてくるだろ。
行動不能が一人と、修羅場を繰り広げる二人。
そんな中で食べるご飯は、どうにも美味しいとは言えなかった。
■■■■■
「一狼君。パス。」
「うん。おっけー。」
「ちょっ!? 三人して私苛めるとか酷くないか。三対一で勝てる訳ないだろ。」
「いいじゃない。ゴールキーパーなんだから。三人くらい守ってみなさいよ。」
「無理に決まってるだろ!!ーーーー」
お姉ちゃんの守るサッカーゴールに、俺は力を出来るだけ足に込めて思いっきりシュートをサッカーゴール目指してスピードが出るように蹴る。三対一でやっているので、サッカーゴールの周りにはお姉ちゃんしか居らず、一人だけ居るお姉ちゃんも華や花恋さんがサッカーゴールから少し離れた場所に引き付けているので、サッカーゴールは実質空だ。
そんな俺の蹴ったボールは、ボールに込める力を誤ってサッカーゴールからボールが外れない限りシュートが決まらない訳ないので、俺の絶妙な力の込め方もあり、ネズミ花火が地面を動き回るように速いスピードで、サッカーゴールのネットがボールの勢いで跳ねた。
サッカーゴールにボールが入ったのを見て、ボールを拾いに行っているお姉ちゃんを見て軽い優越感に浸っていると、尻に手のような感触を感じた後、何度か不馴れな手つきで何度か揉まれる。
「ご、ご、ごめんなさい!! ボールに夢中で、あまり周りが見えてなくて……」
「う、うん。ダイジョウブダヨ。」
「……」
後ろからそう言われ、突然のことに言葉が片言になるが、大丈夫でないことは分かる。
花恋さんはボールに夢中と言っているが、そのボールは俺が思い切り蹴飛ばした為にお姉ちゃんが拾いに行っている。花恋さんの言うボールというのは、一体何処にあるというのだろうか。今まで尻なんて触られたことが無い為、触られたことに驚いて言葉が片言になってしまったが、男の尻というのはこの世界では、前の世界でいう女性の胸と同じような物で触ってみたいと思うものなのだろうか。……解せぬ。
後ろを振り向くと、鋭く目を細めながら花恋さんの手を睨み付ける華に、俺の尻を触った感触をもう一度味わうように、恍惚な表情で何も無い空中で嫌らしい手つきで手首を動かしながら指を曲げる花恋さん。この様子を見ると、先ほどの認識は合っていそうだ。……花恋さんと呼ぶのはやめて、変態と呼んだ方が正しくないかこれ?
これ以上サッカーを続けると花恋さんに何かされると嫌な予感が脳裏をよぎった為、俺はサッカーを中止にすることにした。理由は、『食事の後の運動はあまり良くないからこれくらいで終わりにしよう』ということにしたが、主な理由は直感的な何かを感じたからだ。そう言うと、やはり狙っていたのか「もう少し触っておけばよかった……」とボソボソと悔やむように拳を作ってぶるぶると震わせながら呟く花恋さんと、三対一の構図の為思ったように悪意のある激しいぶつかりが出来ずに、俺にセクハラをすることが出来た花恋さんを恨めしそうに見つめるお姉ちゃん。
子供が撫でてというように、シャンプーのほんのり甘い匂いが漂う繊細で滑らかな頭を、俺の胸にグリグリと押し付けてくる華の髪を形を崩さないように撫でながら、サッカーを中止した自分の判断に心の中で盛大な拍手を送った。
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