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日常
婚約者からの贈り物①
しおりを挟む先程のランチからの帰り道。
レインと手を繋ぎながら屋敷までの帰り道を歩いていると、レインがこちらを向きながら口を開いた。
「ねぇねぇ。そういえば、レイナって何が好きなの?」
「私の好きなもの?」
「そうそう。レイナの好きなものって何?」
私の好きなものはレインです!!
……なんてのは答えられる訳ないし、真面目にレインからの質問に頭を回らせる。
う~ん?
私の好きな物を聞いてくるということは、私に何か贈り物をしようとしているのだろうか。私としては、今のようにレインと一緒に居られればいいので、特にこれといって欲しい物は無いが、レインが私への贈り物を考えてくれているのは素直に嬉しい。 ………どうしよう。こういう時は、何を好きと言うのが正解なのだろう?
レインの手の温もりを感じながら、私は裁縫セットを浮かべてみる。
貴族の嗜みとして裁縫を無理矢理習わされたが、レインから貰った裁縫道具で何か作ってみるのはどうだろうか?マフラーや手袋は寒い時にしか使えないが、膝掛けにハートや名前などを入れて、私達だけのオリジナリティのある膝掛けを作れば、一年中いつでも寒い時に使える愛の込もった膝掛けが出来る。それに、無理矢理習わされた裁縫だが、自分で言うのも何だけれど結構上手に出来る。たまに、自分のマフラーや手袋を自分で作るほどくらいには。
そんな私は、少し顔の紅いレインの耳元で、 レインに届くか分からないくらい小さな声量で呟いた。
「……裁縫セットかなぁ…」
「さ、裁縫セット?」
どうやら彼は私の声が聞こえた用で、合っているかを聞くように私の言葉を繰り返した。そんなレインの顔を振り返ると、気付けば何処か顔が更に紅くなっている。……もしかして、私が作ったマフラーなどを想像しているのだろうか。耳なんて特に真っ赤で、腫れているのか疑うくらいには赤くなっている。……マフラーも作ってあげなきゃ、これは駄目かな?
「ちょっ!?急に耳を触らないでよ!!」
「ごめん。ごめん。柔らかそうでさ。つい………ね?」
赤くなっているレインの耳たぶを触ってみると、レインに怒られてしまった。レインの耳たぶは、熱があるのか疑うくらい熱くて、モチモチとしていた。自分の耳たぶを触ってみても……レインのように熱くも、レインのようにモチモチもしていない。すべすべはしているが、弾力がないのだ。
私はレインと手を繋ぐと、隙を突いて耳たぶを触ろうとするが、うまく避けられてしまった。頬を膨らませても、慰めるように私の髪を撫でるだけで、触らせてはくれない。耳を触らせた時に見せた反応は完全に子供そのものだったのに、今では優しく何もかも包み込むような大人の雰囲気をレインは纏っていた。
そんなレインの耳たぶをもう一度触ろうと、何度も何度もレインの耳たぶに手を伸ばすが、その度にレインは足をずらしたり顔を動かしたりして、私の手を躱す。私と手を繋ぎながらやっているのだから、凄いものだ。毎度躱す度に見せるレインの自慢気な顔には、少し腹が立つが。
そんなことをレインと繰り広げていると、レインはこっちを見て振り返る。
レインの耳たぶに夢中で周りを見ていなかったが、見慣れた花園に見慣れた噴水。見慣れた屋敷が周りにはあった。
……もっと一緒に居たかったな。
そんなことを思いながら振り返ったレインに目を向けると、私の視界は真っ黒になる。何事かと思うと、直ぐにどういう状況か私は理解して、私の鼓動は急激に速度を速める。
「……レイナと離れるのが寂しくて、抱き締めちゃった。……もっとこうしていてもいい?」
若干目を濡らしながらそう口にした婚約者に、私は身を委ねる。
上目遣いを使ってきた可愛い婚約者に、そうする選択肢しか私の頭には無かった。
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