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第3章 領地開拓

第45話 ルクセン村とサツマイモ

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 次の村はルクセンという名の村だった。村は畜産で収入を得ているのか、豚や牛のような動物があちこちを歩いていた。

目が覚めたハイネさんと共に挨拶を終えた俺は、初めて見る動物にテンションを上げながら、村の中を見て回る。

「おい、見てみろよシズクちゃん!豚の頭に角が生えてるぞ!!」
「あれはホーンピッグと呼ばれる豚です。温厚で人懐っこい性格をしております」
「へぇー!じゃああっちの牛は何です!?背中に羽が生えてる牛なんて見た事ないですよ!」
「あれは翼牛ですね。背中に生えてる羽からは上質な布団を作ることが出来ます」

 案内をしてくれる村の青年が、俺達の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれる。ルキアス村とは違い、村人達は俺達を温かく歓迎してくれた。その後も俺とシズクちゃんは村中を散策して回り、牛のミルクを飲ませて貰ったりと楽しんだ。

 それから半日程が経過し、俺とシズクちゃんは数人の村人達と共に村の隣にある畑に立っていた。

何か困っている事はあるかとルクセンの村人達に聞いた結果、手入れの行き届いてない畑を手入れして欲しいとお願いされたのだ。農業の為では無く、あくまでも村の人間が自給自足で生きていける分を育てたいということで、俺は二つ返事で了承した。

「よーし!では皆やりますか!」
「はい!よろしくお願いします!」

 俺はその場でしゃがみ込むと、伸び放題になっている草をむしり取っていく。『土地改善』はその土地の地質を変えることは出来るが、そこに生えている植物をどうにかすることは出来ない。

 だからこうして草を抜いたり、大きな石を取り除いたりしなければならないのだ。珍しく、シズクちゃん俺の隣で黙々と作業をこなしている。

「よいかー!草を抜くときはしっかりと根元を握られねばダメなのじゃぞ!でないと根が土の中に残ってしまうからな!」
「はい!こうですか?」
「うむ、そうじゃ!その調子でぐいぐい抜いていくのじゃ!」

 こんな感じで俺達はみんなで協力して畑の草刈りを行った。その後は鍬を使って、畑全体を耕していく。それが終わるころには、もう陽が沈みかかっていた。

「この位で大丈夫でしょう!皆さんお疲れさまでした!俺達はまだ少しやる事があるので皆さんはゆっくり休んでいてください!」
「そうですか?じゃあ皆、後はナオキ様達にお任せしよう!お二人共、それが終わったら声をかけてください!今日は村長が夕食を用意してるとの事なので、私が案内いたします!」
「本当ですか!?ありがとうございます!それじゃあこれが終わったら伺いますね!」

 俺が村人に感謝の言葉を告げると、村人達は村の中へと戻っていった。話を聞いたシズクちゃんが、ニヤニヤと笑い始め汚らしい声を漏らす。

「グフフフ……今日は一体どんな酒が飲めるのかのう!」
「まーた酒かよ!今日はあんまり飲み過ぎないようにしろよ?昨日みたいに背負ってくの俺は嫌だからな!」
「良いではないか!お主からしたらワシなんてカボチャよりも軽いであろうに!」
「そんなわけあるかよ!今日も酔い潰れたらマジでそのまま放置してくからな!」

 吐き捨てるようにシズクちゃんへとそう告げると、俺は畑の中央まで歩いていき地面へと手を触れた。

「『土地改善』発動!」

 このスキルが発動するか否かで、この周辺の土地が俺の管理地になっているか否かの確認が出来る。もしかしたらまだ発動できないのではないかと不安に思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。スキルの発動と共に地面が光る様子を見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。

「さてと、何を植えようかなー。村の畑には動物の餌用に人参とか植えてあったし、やっぱり他の野菜が良いよな」
「リンゴはどうじゃ!?リンゴならお主が手を加えずとも、収穫していけるじゃろ!?」
「リンゴは別の場所に植えればいいよ。折角手入れをしたんだし……そうだ!あれにしよう!」

 リンゴコールをするシズクちゃんをあしらいながら、俺はとある野菜のイメージを浮かばせながらスキルを発動させた。

「『種生成』発動!」

 発動が終わると、手の平に黒い粒のような種が出来上がる。

「これを等間隔に埋めてっと……よし、『成長促進』発動!!」

 畑がキラキラと光った後、地面から芽が飛び出し、見る見るうちに立派な葉をつけた野菜が出来上がった。

「おおー!立派な葉野菜じゃのう!!これはなんという野菜じゃ!?」
「チッチッチ!違うんですなぁシズクちゃん!これは葉野菜何かじゃありません!」
「葉野菜じゃないじゃと?こんなに立派な葉をつけておるのにか?」
「まぁ見てなって!こうして根っこをもって引っ張ると──」

 土の中から次々と紫色の野菜が飛び出してきた。不揃いな形だが十分な大きさに育ったその野菜は、この季節にぴったりなあの野菜。

「じゃじゃーん!サツマイモでしたー!」

 久々の芋ほりにテンション爆上げな俺に対し、がっくりと肩を落として萎えているシズクちゃん。

「……なんじゃ芋か。期待させおって」
「いやいや!ただの芋じゃないんだってば!こいつは焼くとめちゃくちゃ甘くなって、これからの寒い季節にジャストフィットな食べ物になるの!!」
「ほーう。なら一つワシに作るのじゃ!それが美味ければ、収穫を手伝ってやる!!」
「言ったな!?絶対に手伝わせてやる!」

 シズクちゃんはこのサツマイモが美味いという事を分かっているだろう。俺が作ってきた野菜がどれも全部美味しかったと、彼女は知っているのだから。恐らく、この提案はただ単純にシズクちゃんがサツマイモを食べたいがためのもの。だけど俺もその提案に乗ってやることにした。

 だって俺もサツマイモが食いたいから。

 こうして俺達がサツマイモを調理しようと村へ歩き始めた矢先、村から飛び出してくるガストンさんの姿が見えた。今まで見た事の無い程焦った様子のガストンさんを見て、ただ事ではないと直感する。

「ナオキ様!ナオキ様はおられますか!!」
「ガストンさん、どうしたんですか!?」
「お嬢様が……ハイネお嬢様のお姿が何処にも見つからないのです!」

 ガストンさんが告げた言葉に、俺とシズクちゃんは直ぐに顔を見合わせた。昼間の馬車での出来事が脳裏に蘇る。彼女は向かってしまったのだ。

 純血の吸血鬼が住む場所へ。
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